作品

概要

作者109
作品名リクSS その3
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-08-26 (日) 23:52:26

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

《リクエスト スレ85冊目》


26 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 投稿日: 2007/04/08(日) 11:06:02 ID:wQEXKnk0
風邪を引いた時の効果的な対処方を教えてくれ。


   
   
 昔から『風邪は万病の元』と言うが、喩えるなら今の俺は、病気のバーゲンセールをやっているデパートみたいなものだろう。
 最近の春めいたぽかぽか陽気にすっかり油断していたら昨日は真冬並みに冷え込んだうえ、下校途中に突如降り出したみぞれ交じりの雨でずぶ濡れになっちまった。
 天気予報をアテにしてなかった俺は傘なぞ持っているはずもなく、ノアの予言を頭から信じずに鼻で笑っていた愚かものように手痛いしっぺ返しを喰らったわけだ。
もちろんまだ死んじゃいないが、今朝はまだなんとなくだるいだけだった体調は確実に悪化していってるらしく、下校時にはもう熱で頭がガンガン痛み始めた。
 朝比奈さん手ずから淹れて下さったお茶を味わう余裕もなく早退を申し出ると、SOS団団長は口をへの字に曲げながらも、本日の解散を命ぜられた。
帰るのは俺一人でいいんだがハルヒ曰く「アホが撒き散らした病原菌が大事な他の団員に感染すると迷惑」だからだそうだ。
アホが誰を指すのかは今更だが、つまり俺は『大事な団員』にカウントされてないらしい。いくらなんでも病人に対し、あんまりな仕打ちじゃないか?
「るっさい!グダグダぼやく体力があるうちにとっとと帰れ!」
 俺だって早く治したいぜ。何かオススメの治療法があったら教えてくれ。
「そんなの気合いで十分よ!『病は気から』って昔からいうじゃない」
 まったく参考にならない精神論をありがとう。ま、明日あさっては休みだし、家でゆっくり寝ることにするわ。
「来週の月曜までには治すのよ。団長命令だからね」
「俺ではなく風邪のウィルスに指示してくれ。じゃ、お先に」
 ひと足早く部室を出てだらだら坂を下っていると、いつの間にやら背後から長門が追いつき、くいっと袖を引っぱった。
「風邪に有効な対処療法を知っている」
「お、ありがたい。教えてくれないか」
「なら家へ」
 なぜ長門の家まで行かなきゃならんのかと思ったが、本当に有効な療法があるなら今の俺は古泉の家だって押しかけたい気分だ。もっとも、あいつの自宅がどこかいまだ謎のままだが。
 二つ返事で肯いた俺を先導するように、長門は前に出て歩き出した。
   
******
   
 長門の部屋へと案内された俺は、まだ仕舞われてないコタツに入るよう勧められた。コタツに足をつっ込むと、冷えたタオルとミカンを長門が持ってきてくれた。
「楽にして」
 そう言い残して台所へ消える。俺はミカンをひとつ平らげたあと、冷えたタオルを枕にしてコタツ机の上に突っ伏した。
心地よい冷たさと、つま先がじんわり温まる程度の温もりに浸りながらうつらうつらしていると、耳元でコトリと何かを置く音がした。
「飲んで」
 湯気の立ち昇る湯呑みを一口啜る。仄かな甘みと共に柑橘系の酸味と爽やかな香りが口いっぱいに広がった。
「檸檬の実を絞り、蜂蜜を加えた。少しお酒も入っている」
「うん、さっぱりしてて、うまい」
「もっとある」
「ああ、頼む」
 飲み干した湯呑みを差し出すと、長門の手が湯呑みではなく、俺の額に触れた。ひんやりと冷たい感触が心地よい。
「…38度7分」
 便利だな。体温計も形無しだ。
「お腹、空いてる?」
「いや。正直、あんま食欲無えな」
「そう」
 湯呑みを手にした長門はまた台所へ消えていった。しばらくして戻ってくると、レモン酒のおかわりと他にガラスの器を持ってきた。
ヨーグルトにすり下ろしりんごを加えシュガーパウダーを振り掛けたもので、苺の果肉も混じっていた。
「すまないな、長門」
「いい」
 長門お手製のデザートを平らげると、長門は俺に一旦コタツから出るよう命じた。言われるがままに部屋の隅でもたれていると、コタツを脇へやり、布団を敷き始めた。
「…長門、ひょっとして俺、ここで寝るのか?」
「そう。ビタミンを摂取し、温かくして十分な睡眠を取るのが、風邪に有効な手段」
 いや、いくらなんでもそりゃまずいだろ。俺は親に外泊するとは言ってないんだぜ。
「いまのあなたの体調を考慮すると、帰宅中に病状が悪化する恐れがある。あなたの自宅にはわたしから連絡しておく」
 そうは言ってもだなあ……だいたい、一緒にいたらそれこそ風邪がうつっちまう。これ以上お前に迷惑は掛けられん。
「わたしに風邪のウィルスの影響はない。それに、わたしは迷惑とは感じていない」
 長門の揺るがない瞳が俺を見つめる。こうなった以上、アルキメデスがてこを持ち出しても長門を動かすのは至難の業だろう。
「……わかった、お言葉に甘えるよ」
 白旗を揚げた俺はワイシャツを脱ごうとしてはっとなった。上着の下はTシャツだから良いが、制服のズボンの下はパンツ一丁である。さすがに目の前で脱ぐわけにはいかん。
「…悪い、ちょっと後ろを向いといてくれ」
「これ」
 そう言って長門が差し出したのは、ビニール袋に包まれた真新しい男物のパジャマだった。…はて、なんでこんな物を持っている?
「……備えあれば憂いなし」
 ぼそっと長門が呟いた言葉が非常に気になったが、考え出すとまた頭が痛くなりそうだ。気にしないでおこう。
   
 俺が着替える間、気を利かせたのか長門は別の部屋へ引っ込んでいた。脱いだ制服を適当に畳んで布団に潜り込む。まだ冷たい肌触りの布団に耐えていると、長門が戻ってきた。
――パジャマ姿で。
「……長門……なんだ、その格好?」
「おそろい」
 いや、そうじゃなくてだな。よく見ると確かに俺が着てるのと色違いだが、そういう意味じゃなくてだなぁー。
 絶句してる俺の布団の中に、長門がごく自然な動作で潜り込んで…って、おいっ!!
「ちょっとまて!何やってんだ!?」
「温かくしないと効果的ではない」
「と言ってもこれは……いやっ!やっぱまずいだろ、色々と!」
 だいたい長門の体温は低いから逆効果じゃないか?さっき触れたときもいまも、本当に雪の精かと思うほどひんやりしている。
「このまま…すぐ温かくなる」
 布団の中で長門が俺のパジャマの裾を掴み、身を寄せてきた。するとどんどん長門の体温が上昇し、冷えた布団が電気毛布のように温かくなった。
「すごいな、体温も変えられるのか?」
「何も……してない。こうしていると……」
 気のせいか長門の口調がおかしい。体温がどんどん上がっていく。
「心拍数が増加し…血液の循環が活発になる……脈拍が正常な状態ではない…でも平気」
 平気じゃないだろ。そりゃお前、明らかに風邪の症状じゃないか?
「風邪……違う。地球産のウィルスは影響……しない。少し、ぼぅっとするけど……」
 いやヤバいって!
 布団から出ようとした俺を止めるように、長門は頬を俺の胸に押し付けた。
「お願い……このままで……大丈夫…だから……」
 首すじに触れた長門の額は、ひょっとしたら俺より熱いんじゃないだろうか?いや正直、俺もさっきから汗が出っぱなしで、もはや自分の熱なのか長門の熱なのか判らない状態にある。
 ぴったりくっ付いた俺と長門の身体は薄手のパジャマ二枚分しかすき間がなくバクバク鳴ってる俺の心音が長門に聞かれたら恥ずかしいがまてこの状態で落ち着くなんて無理だろ常識的に言ってなどと只でさえ正常に回ってない俺の頭が脱輪寸前の車輪のように落ち着きなくぐるぐる螺旋を描く。
 忙しない脳の回転運動で疲れが出たのか、急速に睡魔が襲ってきた。眠りに落ちる直前に「…しあわせ」という呟きをどこからか耳にしたような気がするのは、熱で朦朧とした俺の幻聴だろう。
 長門はそんなこと口にする筈ない…よな?
   
******
   
 翌日、朝日が正午の位置まで昇る頃には、熱はすっかり下がっていた。食欲の戻ってきた俺に長門は卵粥を作ってくれたので、遠慮なく平らげた。
「おかげですっかり治ったよ。有難うな」
「よかったら、お風呂沸いたから」
 長門も汗を掻いてるだろうに、病人特権で先に入れてもらえた。風邪が癒えて入る風呂はまさに極上だ。昨晩たっぷり出した汗を洗い流し、爽快な気分で風呂を済ませた。
「長門、お前も入れ」
「…そうする」
 昨夜あまり寝れなかったのか、どことなくぼぅっとした雰囲気のまま、長門は風呂場へ向かった。食べ終えた食器を流し場へ移そうとしたとき、自分の分の器しかないことに気付いた。
いかん、ずっと世話になりっぱなしであいつ、碌に食ってないじゃないか。長門が風呂から出たらどこか飯に連れて行こう、勿論、俺のおごりで…。
 やけに長い時間が経って少し心配になってきたころ、ブラウスをひっかけた長門が戻ってきた。俺の方を向いた目は心なしか緩み、歩く姿はいつか図書館で見た夢遊病患者のステップのようだ。

「おい長門、どうかしたか?」
「……風邪」
「は?」
「風邪をひいた……らしい」
 おぼつかない口調で呟く宇宙人を、俺は呆れた目で見た。
「だってお前……地球製のウィルスなんて、何ともないんじゃなかったのか…?」
「いままで、感染した実例が無かったから……」
 迂闊、と呟いた高性能インタフェースに、馬鹿みたいに開いた自分の口が塞がらない。どうやら情報統合思念体とその端末は、古典とはいえ火星人を殲滅した究極の細菌兵器を甘く見積もり過ぎていたようだ。
 とにかく、いつまでも呆けてられない。事の発端は俺だしな。長門が普段使っている布団を敷いてやり、湯冷めしないうちに寝かせた。
 残っていたお粥を温めなおしたが、あまり食欲が無いという。いよいよこれは本物か。お前から食欲無いなんて台詞を聞くと、なおさら心配になってくる。
 横になった長門に昨日の檸檬酒の作り方を教わり、台所を貸してもらった。幸い、材料はまだ残っている。長門の作ったものには遠く及ばないだろうが、耳で聞いたレシピ通りに作ってみた。
「…おいしい」
「まだ飲みたければ言ってくれ。また作るから」
 俺の言葉に無言でコクッと頷く。昨日と完全に立場が逆転したようだ。布団から身体を半分起こして二杯ほど飲むと、満足したのかコテッと横になった。

「しばらくゆっくり寝とけ。心配するな。まだ居るから」
「…一緒に…」
「うん?」
「昨夜のように、一緒に寝たい」
「……いや……いくらなんでもそれは……」
 昨晩の長門の身を挺した看病には感謝し切れないほどだが、さすがに出来る事と出来ない事がある。免疫が出来てるだろうからまた風邪がうつるなどと心配はしてないが、男女六歳にして席を同じゅうせずとまでいかなくとも守らなければならぬ倫理というものがあることを、懇々と説いた。
「………」
 長門は布団で巣を作った蓑虫のように顔だけ出してじっと見つめる。頼むから、気の荒い主人に怒鳴られた子犬のような目で見ないでくれ。今にも名犬ラッシーと忠犬ハチ公の合唱で『ドナドナ』が聴こえてきそうな錯覚に陥る。
「……やれやれ、わかったよ」
 仕方ない…悪いのは俺だしいくら長門とはいえ、初めて経験した風邪に心細さというものを感じても不思議ではない。このままだと俺は恩知らずの薄情者でそれ以前に長門を放っておけない。
仕方ない、仕方ないんだ……と心の中で無理やり納得させる。

 昨日借りたパジャマにまた着替え、夜這いを仕掛けるような背徳感を全力で無視しながら恐る恐る長門の布団に忍び込む。俺の腕の中へすっぽり収まるように、長門が身体を寄せてきた。昨日よりも体温が高いのは風邪のせいだろうか?
「…大丈夫か、辛くないか?」
「へいき」
 そう呟きながらも、ぎゅっと身体を押し付けてきた。昨晩は熱で朦朧としていたおかげで感じなくても良かった箇所に、今は意識が集中する。風呂上りの長門の髪が俺の鼻腔をくすぐる。風邪がぶり返したように、俺の熱まで上がってきた。

『いいか…よく聞けよ、長門がこうしているのは風邪で不安になって誰かにそばに
 居て欲しいからで他意は無いんだからな。それを勘違いしたり、ましてや風邪で
 弱っている女の子をドサクサ紛れになんとかしようなんて奴は最低の人間、いや
 畜生だ。それを肝に命じとけよ、俺。いまこうして身を委ねている長門の信頼を
 裏切りたいか?そもそも誰のせいで今、長門が苦しんでると思ってるんだ――』

 そんなことを呪文のように念じながら必死で自分を抑えた。これで効果が無きゃ今すぐ布団から飛び出してこの部屋を退散しなければならない。
 幸い、そうならずに済んだようだ。しばらくしてこの至近距離でないと聞き取れないほど、微かな寝息が聞こえてきた。
先刻まで格闘していたのとは別の愛おしさを感じ、さらさらの髪の毛を軽く撫でた。
   
******
   
 結局、長門の熱が下がるまでそうしてたわけだが、長門の寝言を聞くことになったのは100カラットを超えるダイヤの原石を発見するより貴重な経験だったかもしれない。内容については公表を控える。
当人の許可なしに言いふらすなんざマナー違反だし、直に聞いた俺ですら、あれは熱にうかされた長門がへんな夢を見ていたんじゃないかと疑ったくらいだからな。
 ただ、結果的に二日目もここに泊まることになってしまった事実を後でハルヒに知られてしまい、週明けの部室で執拗な追求を受ける羽目になった俺だが、あのときの長門の寝言を思いだして、A10神経を刺激されたようにヘラヘラしていたことを付け加えておく。
   
 それともまだ、熱病が完治していないのかね。
   
   

END

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:56 (1921d)