作品

概要

作者93-355
作品名ユダはここにいる
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-08-24 (金) 09:28:21

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

93-350に捧ぐ、ローテンションユッキー。

 

微鬱ネタ注意

 
 
 
 
 
 

ユダはここにいる

 
 
 
 
 
 

熱で霞んだ視界の中から彼が現れる。
しかめっ面で、怒っているような困惑しているような顔で、彼は大丈夫かと囁く。
彼が私の身を案じてくれている。そんな彼の優しさにまどろむ一方、私は自分の醜さに脅えていた。

 

思わず長袖のパジャマの上から手首を押さえる。
大丈夫、なわけないじゃん。もう大分前から有希は壊れちゃってるんだよ?

 
 

―大丈夫、平気、問題ない。

 
 

私の本心とは無関係に紡ぎ出される言葉。淡白で簡潔で明瞭な、まやかしの私の言葉。
ほっと息を吐き出す彼。安堵して生まれる、泣きそうな弱々しい笑顔。
ま抜け面。騙されちゃ駄目だよ、キョン君。
有希は、地球をのっとりに宇宙からやってきた、魔法を使う悪い宇宙人何だから。

 
 

制服の裾で涙を拭いながら、良かった、良かったと繰り返して呟く。
涙が止まらない自分に少し照れながら、おかゆか何か作りましょうか、と朝比奈みくる。
あなたはとてもやさしい。
でもそのやさしさは、あなたの未来に深い傷を負わせることになる。私のせいで。

 
 

口をぎゅっ、と結んで少し考え込んだ顔をしているのは古泉一樹。
ふとした瞬間に眼が合うと、少し心配そうな、ぎこちない笑みを向ける。
最も冷静に真実を見通す眼を持つ者は、常に彼らの軌道を的確な方向に導いてくれる。
その方向が情報統合思念体にとって都合の良いものであることも、いい加減見抜いて欲しいんだけどな。

 
 

涼宮ハルヒ。心配そうな顔から一転して、今日は皆で有希の看病をするわよ、と張り切っている。
ころころと表情を変えながらも、本当に一途に私の心配をしてくれている。
なんだかんだ言って、仲間を第一に考えてくれる団長さん。
でもあなたが懸命に看病しているのは、果たして本当の仲間なんでしょうか?

 
 
 

ぼんやりとした視界で彼らを見つめながら、咽ぶような罪悪感が心臓の辺りを締め付けてゆく。
裏切り者、と内なる声が耳元で囁く。

 
 
 

そう、私は裏切り者。
神の愛娘を、いずれは磔刑に送り込む者。
後に罵倒され、蔑まれ、生まれなかった方が、その者のためによかった、と涙と憎悪の篭った目で睨められる者。

 
 
 
 
 
 
 

貴方たちはフラスコの中の小人。

 

私は触媒。

 
 

全ては涼宮ハルヒとその周辺人物を効率良く観察して刺激して実験するために用意された舞台装置。
知ってた?今までに起こった出来事は、全て情報統合思念体の掌の上でのことなんだよ?
朝倉涼子の襲撃、終わらない夏休み、さ迷う影。
シナリオは常に想定の範囲を逸脱しない程度に設定されてる。
おかしいとは思わなかったの?現実的に、事態がこんなにも好転する現状に、どうして疑問を持たないの?
気が付いてよ。有希はずっと、ずっとずっとずっと前から皆を騙してる悪い宇宙人なんだよ?

 

なのにどうしてそんなに優しい眼で有希を見るの?どうしてそんなに優しく声をかけるの?
どうして有希を―――仲間、と呼ぶの?

 
 
 
 
 

私は心の中で、自虐的な笑みを浮かべる。

 
 

そうだよね、仕方がないよね。だって皆は、有希が本当はどんな子か知らないもんね。

 

皆を守るために何時も帆走してる無口で純粋な長門有希。何時も即決で事件を解決しちゃうスーパーヒーロー。

 
 
 
 

わかってるって。
私はそれをずっと演じてなきゃいけないんだ。
だってあなたはそういう世界を望んだんでしょ?キョン君。

 
 
 
 
 
 
 

夕焼けが夕闇に変わる頃、たくさんの暖かい言葉と励ましとともに、彼らは揃って帰っていった。
ベランダから駅へ向かって歩いていく彼らを見下ろしながら、私はそっとパジャマの裾をめくった。

 
 

カッターで切り裂き、風呂に沈めたはずの左手首には、傷跡ひとつ付いていなかった。

 
 
 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:55 (2003d)