作品

概要

作者赤縁眼鏡
作品名『長門有希のわがまま』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-08-19 (日) 19:11:30

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

『長門有希のわがまま』

 

消失事件後のある冬の日

 

「本日のSOS団の活動は、臨時休業にするわ!あたしは今日は忙しいから先に帰るわね!」
爛々と目を輝かせ、部室の扉を開けるなり、ハルヒが本日の活動終了をつげる。
その無駄に余っているエネルギーの1割でいいから、全国の鬱病患者に分けてあげられないものか。
手始めに、俺のこの倦怠感を何とかして欲しいものだ、そしたらあと半年は戦えるようになるだろうに。
「どうやら涼宮さんは、何か面白いものを見つけたようですね。僕としては彼女が何かに熱中してくれるのはとても喜ばしいことです」
「俺はいい迷惑だがな」
毎回毎回ハルヒの世迷言につき合わされる方はたまったものではない。
それはこいつも同じはずなのだが、何で笑っていられるんだ?ひょっとしてMなのか?
「んっふっ、それでは僕も先にお暇させていただきます。こう見えても結構忙しい身でして、では」
俺の考えを見透かしたかのような気持ちの悪い笑みを残して、我らが副団長殿は重役退社なさりやがった。
「じゃあ、俺たちも帰りますか」
「そうですねぇ」
「……」
各々立ち上がり、部室を後にする
校門に差し掛かったところで、ふと朝比奈さんが何かを思い出したのか、あっと可愛らしい声を上げる。
何事かと思い尋ねてみると、どうやらお茶の葉のストックが切れ掛かっているとのことだった。
ハルヒに無理矢理任命されたにも関わらず、健気に使命をまっとうしようとする姿に癒されるね。
ハルヒも少しは見習えばモテるようになる……んだろうか?
「ゴメンね、キョン君。私商店街に寄って帰ります」
朝比奈さんが商店街の方向に行こうとするので、お供しようかと思い言葉を発しようとしたとき、ふと何かに袖を掴まれ思わず振り返った
「…………」
長門が、上目遣いでこちらを見上げていた。
「えっ?何か言いましたか?キョン君」
「あっ、いっいえ何でもないですよ。じゃ、気をつけて下さい」
朝比奈さんには悪いが、長門のすがるような表情を見せられては、放って置けるはずがない。
と言うか、長門・・・・・・それは反則技だ。
「さようなら、またね」
朝比奈さんは心なしか少し寂しそうな笑顔で、丁寧にお辞儀して商店街の方向へ背を向けた。
その姿が見えなくなるまで見送って、改めて長門に向き合い口を開く。
「……長門、どうしてこんなことしたんだ?」
「・・・・・・・あなたにいて欲しかったから」
「っんな!!?」
告白とも取れる長門の言葉に慌てふためく俺、そんな俺を無視して長門はボソリと付け加える。
「…………図書館」
「……………は?」
まてまて、これはどういうことだ?落ち着いて考えてみよう。
しばらく黙考して、思い至った結論を口に出してみる。
「えと、つまり、図書館に行くから付いてきて欲しいってことか?」
「…………」コクッ
「でも、図書館ならこの前カードを作ってやっただろ?なら、俺はいらないんじゃないのか?」
ふっと顔をあげ、気のせいかいつもより鋭い視線で見つめてくる長門。
コレはもしかして、長門サン・・・・・・お、怒っていらっしゃる?Why?何故?
「…………」ジ〜
「……分かったよ、行けばいいんだな」
責めるような視線に音を上げ、長門の要求を承諾する。
まぁ、こいつと一緒に出かけるのは嫌いじゃないんだが、どうも釈然としない…う〜む。
俺が歩き出すと、長門が俺の制服の袖を掴んだまま少し後ろを付いて歩く。
こうしていると子犬の散歩をしているような気分になってくる。
本人に言うと怒るだろうから言わないが…
図書館への道を二人で下り平坦な道に出た頃、先程の疑問の答えを聞きそびれていたことを思い出し、再度質問を試みた。
「しかし長門、俺が作ってやったカードはどうしたんだ?」
すると、長門が急に立ち止まりどうしたのかと振り返る。
「どうした長門、何かあるのか?」
「……あの…カードは……」
うつむいたままの状態で、長門は両手を体の前で所在なさげにもてあそぶ。
「ん?」
「あのカードは…………その……なくした」
 へぇ、長門でもものをなくしたりすることがあるもんなんだな。
「………………………ごめんなさい」
いやでも、おかしい・・・・・・長門なら一度なくしたものでもすぐに探し当てることができそうなんだが・・・んー。
長門の言葉に引っかかりを覚え思考に没頭する。
そんな俺の無言を長門は恐る恐るといった感じで伺ってくる。
「…………怒ってる?」
「へ?あっいや別に怒ってるわけじゃないぞ。ただ……長門でもものをなくしたりすることが意外だったというか。しかし、珍しいこともあるんだな…………何か、あったのか?」
消失事件のことを思い出して、わずかばかり声のトーンが低くなる。
長門のなにかあるなら力になってやりたい・・・・・・いかんせん、俺では何ができるのかは、はなはだ疑問だが。
「…………分からない」
そんな俺の意図には気付いてないのか、長門はどう言っていいのか分からないような表情でそう言った
(どうして私はあんな嘘をついたんだろう。これはエラーではない。過去に私が暴走したときとは明らかに異なっている。なら、彼と一緒に居るときのこの気持ちは一体)
「…………そうか……まぁ、そんなに気にするな、長門。なくしたものはどうしようもないし、案外忘れた頃にひょっこり出て来るもんだ。それより早く行かないと、図書館が閉まっちまうぞ?」
「……」コクッ
あまり深刻そうにしていては、消失事件の時みたいに長門の負担になると思い、あえて軽い口調で長門を促す。
しかし、心中ではやはり長門の曖昧な返答に対する、違和感が募っていた。
長門は本当にカードをなくしてしまったんだろうか?いや、普段の長門ならこんなことするはずがない。
もしかして、またあの時みたいに長門に何かが起こってるのか?
考え事に意識を割いていたためか、俺の体感的には正にあっという間に図書館に着いた。
図書館に来るまでは俺の袖にしがみついていた長門だが、図書館に入るなり袖をくいくいと引っ張るようにする。
ホントに散歩に連れてきた子犬みたいだなと、自分がさっき思った言葉に苦笑する。
「行ってきていいぞ」
が、俺と本の棚を交互に見て、長門はしばし逡巡する仕草を見せる・・・・・・ああクソ、可愛いなあ、もう。
「俺はこの辺にいてやるから、な?」
「……」コクッ
とことこと本棚の中に消えていく小さな背中を送りながら、俺は先程の長門の原因不明の不調の件について考えていた。
やっぱり長門がカードをなくしたなんてあり得ない。もしかしたら、長門はまた一人だけで抱え込んで参っているのかも知れん・・・・・・・・・んー、ここは一つ、長門に何か俺からしてやれる事はないだろうか?
俺は思考の底なし沼にはまりかけて、ふとあるコーナーに目をやったところ前回ここに来たことを思い出し、長門への恩返しを思いついた。
「そうと決まれば善は急げだな」
本棚の影から長門の様子を伺うと机の上に本を積み、その本の山の中に埋もれて読書に没頭する長門の姿を発見し。た
長門には内緒で準備を進めたいから、長門が本に熱中している今のうちに必要なものを買いに行ってしまうことにした俺はできる限り気配を消し、何とか長門に気付かれることなく図書館を出ることに成功した。
幸いなことに目的の店はすぐそばにあるし、長門は本に集中しているようだ。
ちゃっちゃと行って帰ってくれば問題ないだろ。
そう気楽に考えて、俺はやや小走りに目的地へと急いだ。

 

「………………」
最近自分自身のことがよく分からない
行動している時間に彼のことに思考を割く割合が、以前と比較すると飛躍的に上昇している。
何度再考してみても、この感覚は過去の暴走への引き金となったものとは違うという結論に至る。
ならば、彼と一緒に居るときの言語化できないこの感情は一体…
ふと思考の海から浮上し顔を上げると、長門は偶然目の前の棚にあった一冊本の背表紙が目に留まる。
その本は一緒に並ぶ他の大多数と何ら変わりのない外観だったが、吸い寄せられるように席を立ち、その本を手に取り読み始めた。
内容はどうやら男女の恋愛に関するもののようだった。
ページをめくるうちに、今までに感じていた不思議な感覚を唐突に思い出した。
膨大な情報を有する情報統合思念体を通じて、全ての真理を導き出せるはずの自分が数ヶ月間考え続けても分からなかった答えに一番近いものを、目の前のたった一冊の本の中に見たような気がした。
そして同時に、今まで胸の中で燻っていた感情を言い表す言葉を見つけた。

――――――彼に・・・会いたい

突発的な感情に突き動かされ、本を持ったまま、彼が先程待っているといた場所に向かった。
しかし、到着してみると彼の姿は約束の場所になく、体の奥が不自然なほどの不安に駆られざわざわと騒ぐ。
『彼はトイレに行ったのかもしれない』、『ただ暇だった本を探しに行ったのかも知れない』、・・・・・・・・・・・・・
様々な可能性が数瞬のうちに挙がったが、ある可能性の存在に気が付いたとき、思考がとたんに鈍くなった。
『退屈だったので先に帰ってしまったのかも知れない』
そんな考えが挙がった途端、それは可能性の一つに過ぎないことを理解しつつも、思考が止まり呆然と立ちつくした。
胸中に渦巻く行き場のない感情の奔流に、長門は左腕で自分の身体を抱きしめ、垂れ下がった右手の甲でポケットの中にある、薄く硬い感触を感じた。
スカートの中にあるものの感触を確かめるように、無意識にスカートの上から指を這わせていた。
しかし、その無機質な感触は前回二人でここに来た幸せな思い出をフラッシュバックさせ、より一層今の惨めな気持ちに拍車がかかるだけだった。
どれほどの間そうしていたの分からなくなる程に立ちつくし途方に暮れていると、よく知った声とともにふと肩を叩かれた。
「よっ、長門。どうしたんだ?こんなとこで突っ立って・・・借りる本決まったのか?」
場違いなほどにいつも通りで、それでいて優しい彼の声を聞いた途端、いつの間にか彼の胸元に抱きついていた。

「おっおい長門!?どうしたんだ?な、何かあったのか?」
長門は突如俺の胸に抱きついて、それ以来何のアクションも起こさない、電波状況でも悪いのだろうか?
「…・・・・・・・・・・・・・・・・・帰ったのかと・・・・・・思った」
長門から発せられた言葉を聞いてなお、そんなふざけた事を抜かせるほど俺は長門のことを軽く扱っち
ゃいなかった。むしろハルヒよりずっと大切にすべき存在であることは確かだ……あいつは殺したって死にそうにないしな。
そう言った長門の声は心なしか頼りなく思えて、顔はYシャツに押し付けられていて見えなかったが、華奢な身体は小さく震えているのが分かった。
どうやら、俺が約束した場所にいなかったことが悪かったようだ。
謝罪の意味もこめて長門の頭をゆっくり撫でてやる。
「悪かったな……でも、俺がお前を置いて帰るわけないだろ?」
「・・・・・・・」コクッ
しばらくそうして役得を満喫していたが、ふと辺りが妙に静かなことに気が付いた、いや図書館だから静かなのはあたりまえなのだが・・・
その静けさの原因は正面の壁にかけてあった、円形の金属板の上についていた短長2本の針が指し示す角度を見ることで思い出した・・・・・まぁ、ただの時計なんだがな。
「やばっ、もう閉館時間だ!ほら、急ぐぞ長門」
この状況を終えることに断腸の思いを抱きつつも、閉じ込められる事態だけは避けたかったので、長門の手を掴み出口に向かった。
「あ・・・・・・・」

当然手を握られたことに驚くが、同時に自分の頭に血が上るのを感じて、彼に手を引かれるまま走った。
何とか鍵をかけられる前に図書館を出て、多少落ち着いたところで、彼は手を握っていたことに初めて気が付いた。
「あ・・・・・・・」
彼も同じように耳まで真っ赤になった。

俺はここでいきなり手を離すのは変だとは思いつつも、どうしようかと悩んでいると長門が繋いだ手にわずかに力を込めてきた。
「・・・・・・・帰らないの?」
長門のこちらを見上げる瞳を見てなお、俺は繋がれている手を振りほどくことがでできるはずもなく、長門の手を少しだけ握り返して帰るか、と告げた。
いつもとは違った少しこそばゆい静けさが、無言で帰途につく俺たちを包んでいた。
そんな背中がむずむずするような空気に耐えられず、ふと頭の中に浮かんだ話を振る。
「そういや長門、失くしたカードのことなんだがな・・・・・・・その・・・・もっと頻繁に行きたいだろ?俺が毎回ついて行ってやれるとも限らないし、俺のでよければ貸しといてやるぞ?どうせ使わないだろうしな」
「あのカードは本人以外に使用不可能なもの、貴方が直接借りる必要がある」
なんとなく言った俺の話題に、長門は間髪置かずに即答する。
「なら、再発行してもらうしかな「あのカードは紛失届けを提出して3ヶ月たっても見つからなかったときにのみ再発行が可能。私はその間あの施設を利用することができなくなる」
「そ、そうか・・・・・・・なら、俺が暇なときに合わせてくれるんだったら、一緒について行ってやるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」
握る手に少しだけ力を込めて礼を言う長門の横顔が、少し微笑んだように見えたのは俺の気のせいだろうか。
「しかし、よく知ってるな?」
「・・・・・それは・・・・・・・・・・・聞いたから」
「だったら、もう紛失届けは出したのか?」
「・・・・・申請は・・・・・・・・・・・まだ・・・していない」
先程のような普段の滑らかな口調とは異なり、長門は言葉が引っかかっているかのように呟いた。
「そうなのか?なら、早いとこ一人でも来れるように、今日にでも申請しといたほうがよかったんじゃないのか?」
「・・・・・・・・・・・・」ジ〜
な、何だ長門?その責めるような目は?俺は何か悪いことを言ったか?
「・・・・・・・・・・・・」ハァ
長門は返答に詰まる俺に心底呆れたかのように、小さな溜息とともに視線を正面に戻す。
このままではいかんと思い、何とか長門の機嫌を取り戻そうと自分の言動を振り返っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・ばか」
長門がボソリと何かを言ったような気がしなくもなかったが、尋ねてみても別にと、言うだけなので、原因追求に没頭していた俺の気のせいだったのだろう。
その後もしばらく考えてみたが、一向に答えが出せずうんうん唸っている俺に少し向き合った後、長門は繋いだ手に力を入れてきた……あのー、長門サン?すごく…痛いです。
何故か期限の悪い長門をなだめ、そうこうしているうちに長門のマンションの前までやって来た。

 
 

マンションの入り口に差し掛かる前に、長門は急に立ち止まって機能停止してしまったかのように、うつむいたままの状態で動かなくしてしまった。
一向に再起動する気配のない長門に、どうしたのかと尋ねてみる。
「・・・・・もう少しだけ・・・・・・・・・・傍にいて」
そう言って、ぎゅっと俺の手を握ってくる長門を可愛く思いつつも、俺はどうやら肝心なことを伝え忘れていたことを思い出し、長門に図書館でいなくなったことの理由を話した。
「あー・・・・・・・・実はな、お前に料理を作ってやろうと思ってたんだ」
長門は例の合宿でもよく食べていたし、食べること自体は嫌いじゃなさそうなんだが、どうも一人でいるときはレトルト以外のものを食べてないんじゃないのか、と言う俺の独断と偏見により手料理を作ってやることで長門び恩返しをしてやろうと思ったわけだ。
ちなみに、俺は料理をしたことなんて家庭科の調理実習以外ではしたことはなかったが、前回長門と図書館に行ったとき暇に飽かして、クッキ○グ○パや美味○んぼなどの比較的多くの図書館にも置いてありそうな漫画を読んでいて、少しだけ料理というものに興味を持った・・・・・・・・・・・・・・いや、ホントは単に翌日両親が不在になるから、何か簡単に作れるものはないかと探してただけなんだがな?
余談だが、前述した二冊からはまともな・・・・・・・少なくとも俺の役に立ちそうな情報は得られず、別の料理雑誌を借りて帰り、レシピを見ながら悪戦苦闘しつつも完成させた料理は、妹にもそこそこ好評のようだった。
「・・・・・・・・・・・そう・・・・・・だったの?」
「・・・・まぁ、な」
こんなことを言うのは初めてなので、妙な恥ずかしさと昂ぶりを感じ、頬を掻いて目線を逸らしながら告白する。
「・・・・・・・・・・・嬉しい」
ぎゅっと手を握って、そんなことを言ってくれる長門を、いますぐ抱きしめてやりたい衝動に駆られたが、仮にも公共の場なので自重することにした…帰ってきた住人の通行の邪魔になってもいかんしな。
俺の理性が本能を力技でねじ伏せることに成功した後(『理性』なのに『力技』とはこれ如何に)、長門の手を引いてマンションの中に入っていった。
以前ハルヒが朝倉の件について質問をしていた耳の遠い管理人さんが、何やら妙に生暖かい視線を向けていたような気がしなくもなかったが、気のせいだと思い込むことにした。
そんなこんなで、長門の部屋の前に到着すると、長門は鍵も開けずにドアノブを捻った。
カチャッと音がして開くドア、俺は長門に率直な疑問をぶつけてみた。
「長門・・・・・・鍵、掛けてなかったのか?」
「・・・・・・・・そう」
どうやら長門は部屋に鍵をかける習慣を持ち合わせていないようだ。これは大変なことを知ってしまった。
「長門、鍵はちゃんとかけよう。いや、かけなきゃダメだ。むしろかけなさい!」
長門の肩を掴んで力説するが、長門にはいまいち施錠の重要性が分かっていない様子。
「・・・・・・・なんで?」
至近距離で不思議そうにこちらを見上げる瞳にドキッとしつつも、長門に鍵をかけないことの危険性を説く。
「いいか?長門・・・もし泥棒が入ったらどうするんだ?そんなことになったら、お前も嫌だろう?」
「私の部屋には金銭的な価値のあるものは置いていない。また、私に恨みを持って部屋の中に何らかの殺傷装置を仕掛ける人間にも心当たりはない。危険性は皆無、施錠の重要性は低いと思われる」
長門よ、確かに一般的には金銭的な価値は少ないだろうが、狙われる可能性があるものはあったりもするんだぞ?
俺の頭の中では何故か、風呂敷を顔に巻いた谷口がタンスの中身を物色して、ニヤニヤと笑みを浮かべている光景が繰り広げられていた・・・・・・・・・・すまん谷口、ごゆっくり。
「・・・・・・・・・・・変なこと考えてる」
「なっ!?ばばば馬鹿なことを言うんじゃありません!俺はたたただ長門の身をしっ心配してだな・・・・・・・ゴホンとにかく、鍵はちゃんと閉めること。俺との約束だ、いいな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
いつもより若干黙考する時間が長かったような気がしたが、一応同意してくれた・・・・疑われてたのか俺?

――――そのころのパパス
主「よくやった、小僧・・・・・・これでやっと安心だ」
急「お前が言っても聞かなかったのにな…」
穏「…泣くなよ、主流派」

何かとてつもない大いなる意思みたいなものから、寒気がするパルスを送られたような気がしたが・・・・・気のせい・・・・だったのか?
俺がキョロキョロと辺りを見回し、挙動不審者になっている最中、長門がふと鞄を開けて中から何かを取り出した。
「・・・・・・・・・これ」
「・・・・・・・・ん?これは?」
長門が差し出してきたのは、紛れもない鍵だった。
どういうことかと首を捻っていると長門が口を開いた。
「あなたに言われたようにこれからは扉に鍵をかけるようにする。でも、そうすると貴方が私を訪ねてきたときに、中に入れない事態が起きるかも知れない。だから……持っていて」
「でも、いつでもいるんだろ?」
「・・・・・多分・・・・・・・・でも、持っていて欲しい」

――――そのころの(ry
主「メー!有希ちゃん!そんな小僧に鍵なんて渡しちゃメーなの!」
急「お落ち着け主流派!取り敢えず穏健派のとこの江美里を待機させるから!」
穏「何か余計に悪化してないか?」

途方もなく巨大な存在のようなものから、殺気を漂わせる電波を受信したような気がしたが・・・・・・気のせい・・・・・だったのか?
「分かった、取り敢えず貰っとくよ・・・ありがとうな、長門」
「・・・・・・・・いい」
そんなやり取りを終え、部屋の中に入ると前回と同じ無味乾燥な風景が広がっていた。
今度ゲーセンで見つけたぬいぐるみでもプレゼントしてやるかなと考えていたところで、俺は少し不安になった。
調理器具くらいは・・・・・・あるよな?
「じゃ、キッチン借りるな?」
「・・・・・・・・(コクッ)」
ものが少ないせいもあって、すでに勝手知ったるといった感じで、キッチンにたどり着く。
調理器具を探してみると、どうやら最低限は揃っているようだったので、調理を開始しようとしたところ、俺は意外なものを発見した。
へぇ、長門も一応持ってたんだな・・・・・・・ひょっとして自分で作ったりする時とかに使ったりするんだろうか?
俺は長門の脳内イメージを修正しつつ、長門に問いかける。
「長門、これ借りるぞ?」
「……あ」
多分了解してくれると思ったので、返事を待たずに流し台の側にかけてあった長門らしい飾りっ気のないエプロンを手に取り、装着する。
まぁ予想はしていたが、やっぱり小さいな…
しかし、他人のものを身につけるってのは妙な感覚がするな…癖になりそうだ。
その後、無事エプロンを着け終えた俺は、少し違和感を感じていた。
先程言ったように確かにサイズは小さかったが、思ったほどではなく、むしろ俺と長門の身長差からすると、長門には少し大きいのかもしれない。
ぶかぶかのエプロンに身を包む長門も決して悪くはない、逆に不慣れな感じがして味があるというものだが、やはり衣服というのは自らの体格に合ったものを選んだほうがよいのだろう・・・・・よし、今度俺から長門にプレゼントしてやろう。
渡したときの長門の反応を思い浮かべつつ、にやけそうになる顔を隠すように早速準備に取り掛かった。
いかんせん不慣れな分、ちゃっちゃと始めなければできる頃には夜が更けてしまう。
そうなってしまうと、俺は長門のような美少女と家で二人きりという状況に耐えられると断言できるほど、自分の理性を過信していない。
まぁ、長門に早いとこ手料理を食べさせてやりたいってものもあるしな。
「少し待っててくれよな?すぐできるからさ」

肩越しにそう告げていそいそと調理を始める彼の後姿に、しばしの間目を奪われた。
冬服の上からでは分からなかった男特有の広い肩幅や、引き締まった腕を見て、キョンが男であり自分が女であることを改めて意識させられる。
彼は不慣れな調理に集中しているため、視線には全く気が付かない…少し複雑。
そしてもうすぐ完成するというとき、少し気が緩んだ隙に彼の指が包丁の刃を不用意に触ってしまう。
「いっ痛ぅ!」
指先に赤い線が走り、その内側から湧き出してくるように、血が零れだす。

「…いたたたた」
深い傷ではないようだがこのままではいかんと思い、長門に絆創膏を貰おうとダイニングの方へ振り返る。
「ってうぉお!」
「…………」
自分の背後に長門が立っていた。
気づかずに素っ頓狂な声を上げてしまい、長門が少し心外そうな顔をする。
「す、すまん長門。気が付かなかったんだ」
長門は弁解の言葉が聞こえていないかのように近付いてきた。
おもむろに俺の手を取って、長門は血の雫が伝う指をその小さな口に咥えた。
「え?ってお、おい!?長門なんでそんな…」
ことをしてるんだと、言う前に長門が頬を染めた顔でこちらを見上げ、丹念に舌を指先に這わせ始める。
「・・・・・・ちゅ・・・くちゅ・・・・・・あっ・・・・・・ちゅ・・・・・・はぁ・・・・」
「な・・・・・・長門・・・流石にこれ以上はマズイ……だろ・・・・・・・・・」
時々吹きかかる息が熱く、ゆっくりとだが確実に俺の理性を溶かす。
俺の理性が半ば限界を迎え、空いた右手で長門の身体を抱きすくめようとしたとき、長門が唐突に顔を上げた。
「いっいやそのこれはだな・・・・・・これには深い訳があって・・・」
抱きすくめようとしていたのを咎められたような気がして、言い訳を並べるが、そこへ長門が思わぬ言葉を発した。
「……治療完了」
「へ?」
思わず間の抜けた声を漏らす。
今のが・・・・・・治療?
しかも、そう告げた長門はすでにダイニングのテーブルのほうに戻っている。
……なんてこった、そう言えば前にもあったことじゃないか。長門は怪我を治してくれただけだと言うのに・・・・・・なのに、俺という奴は・・・・・
自らの短絡的な思考回路を呪いつつ、先程切ったはずの指先を見ると、何事も無かったかのように元通りだった。
ただ一つ、指先に長門の唾液が付いていることを除けば・・・
この指はどうすればいいんだろうか?いや待て、ここは冷静に考えて手を荒い何事もなかったかのように振舞うべ
きだろう・・・・・・しかし、さっきの長門の治療の所為で俺の理性が不埒な欲望に負けかかっているのも事実な訳で・・・・・・
どうしようかと悩みながらなんとなしにダイニングの方を振り返ってみると、長門が拗ねたような顔をしながらこちらを見ていた。
「…………」ジ〜
長門の治療行為(…だよな?)にK.O.寸前まで追い込まれていた理性が奮い立ち、後ろ髪を引き千切られる様な思いをしつつ手を洗い、中断していた料理を再開することにした。
いや、あんな目で見られて、他にどうしようがあったと言うんだ?
俺が選ばなかった行動を選択することのでいる勇者はその勇気を半分でいいから俺に分けてもらいたいものだ。
不幸中の幸いと言うか、怪我をしたのはいよいよ終盤だったため、内心動揺しつつもすぐに長門に料理を振舞うことが叶った。
「できたぞ」
そういって、皿に盛り付け料理を、テーブルに座る長門の前に置いてやる。
餌付けでもしているみたいだなと思う一方で、今までに感じたことのないくすぐったさとある種の高揚感を感じた。
そんな俺の失礼極まりない感想を知る由もなく、長門は料理を口に運ぶ。
……いただきますが言えるように教えとかないといけないようだが、また今度にしておこう。
何も知らない無垢な少女を俺色に染め上げるのは後のお楽しみっと……ん?何だ?別にやましい意味じゃないぞ。
「どうだ?うまいか?」
俺が一人で色々やってる間に長門も一口目を食べ終わったようだ。
失敗も無かったし味見もしたし、初めて自力で作ったにしては中々だとは思ったが、やはり長門の感想が気になるものだ。
「……おいしい」
「……そうか」
長門も普段と違い、ゆっくり味わって食べてくれている。
俺は手料理を食べてもらうという初めての感覚に、奇妙な気恥ずかしさとともに心地よさを感じた……新妻の気持ちが少し分かった気がする。
「……おかわり」
キョンがその光景に見とれている間に、長門は食べ終わった皿をこっちに突き出す。
「そんなにうまかったか?」
「 …………」コクッ
長門はうつむいた状態から、小さく頷く。
「よし、まだまだあるからな。あぁでも、余るようなら持ってかえ「いい」
るがどうする?と、言おうとしたところを長門に遮られた。
「・・・・そうか」
「…………そう」
俺が満足そうに笑う、長門は自分の言動に少し恥じ入ったように少し赤くなった。
長門に二杯目を渡したところで時計を見ると、もうすでに我が家の夕食の時間は過ぎていた。
「おっと、もうこんな時間か……じゃ、俺はそろそろ帰るな」
鞄を拾い上げて玄関に向かおうとすると、制服の袖をきゅっと掴まれた。
「ん?どうした?長門」
「…………また……来て」
振り返った俺に、長門がうつむきながら呟いた。
「わかった、約束な」
「…………約束」

彼が部屋を出て、閉まる扉がその姿を隠しても、しばらくその扉を見つめていた。
唐突に、図書館で彼がいなかったときに感じた、言い表しようのないざわざわとした感覚が蘇った。
あの気持ちが何かは今でもよく分からないが、ただ彼に側にいて欲しいと、強く想った。
彼がせっかく作ってくれた料理の存在を思い出すと、冷めてしまうといけないと思いふと部屋の中に視線を戻す。
そこには、いつもの殺風景な部屋の中に、彼の作った料理と畳んであるエプロンがあった。
ふらふらとした足取りで先程まで彼の座っていた場所まで歩き、そこにへたり込むように座る。
大雑把にたたんであるエプロンを手に取ると、まだ微かに暖かかった。
そのエプロンを自分の胸に抱き、顔をうずめてそのまま深呼吸するように彼の残り香を貪った。
我に返ったときにはすでに料理は冷めていて、抱きしめていたエプロンには彼のものではないぬくもりしか残っていなかった・・・・・・・・

 
 

後日談、部室にて

SOS団のメンバーが集まる放課後、俺は掃除当番だったため少し遅れて部室へと向かった。
「おっそいわよ!キョン!?あんた一体な…に…やって……」
声を張り上げ叱責しようと喚くハルヒの前を長門が通り過ぎると、ハルヒは何事かと言葉を途切れさせた。
「よ、長門。昨日の(料理)はどうだった?」
「……とても…よかった…………初めてとは思えなかった」
「そうか、喜んでもらえたなら何よりだ」
「今夜も………部屋に……来て」
「こっ今夜もか!?いや、流石に慣れないこと(台所での立ち仕事)したから、今日は腰が痛くてな・・・・悪いがまた今度にしてくれるか?」
「…………そう」
長門は残念そうな顔で視線を落とす……くぅう、そんな顔してくれるとは作った甲斐があるぜ。
「今度はもっとゆっくりできるときに行くよ」
空いた手で頭を撫でてやると、長門は気持ちよさそうに目を細めた。
「…………待ってる」
恥ずかしそうにはにかむ長門に、俺はあの世界で見て以来の微笑みに少しの間魅入ってしまった。
と、そこに今までの雰囲気を無に帰す、ムードブレーカーなハルヒの絶叫が響いた。
「キョーーン!!!あんた有希に一体ナニしたのよ!?この変態!あぁ、情けないわ。団員の中に公共の場でセクハラ発言を堂々と言うようなバカがでちゃうなんて、もう!!引退辞職モノよ。半分くらい飲んじゃったトマトジュースの中に蛆の湧いた蝿が混ざってたくらいの気持ち悪さだわ!!」
「ふぇっ?ふえぇえええええ不潔ですぅ、キョン君のばかぁ〜!」
「おやおや、これはおめでたいですね。多少…心中複雑ではありますが、僕としてはお二人のことを祝福いたしますよ」
会話の中身を誤解して三者三様の反応を示す三人である。
勝手なことを抜かすな、約二名。
「有希、こいつに何されたの?私に教えてくれたら、絶対に裁判で勝たせてあげるわ。賠償金も一生遊んで暮らせる額をふんだくってやるんだから。さあ言いなさい、有希」
唇の端が釣り上がりそうになっているのを抑えながら、心行くまで俺に罵声を浴びせた後、長門に詳細を聞こうとハルヒが詰め寄る。
その様子に複雑な心境で事態を見守る朝比奈さんと、椅子に座ったまま高みの見物を決め込んでいる古泉、俺に至っては何がなにやらだ。
「……秘密」
「んなっ」
「んっふっ、おやおやこれはこれは面白いことになりましたね」
「そっそれて、もしかして………きゅ、きゅぅ〜(バタン)」
絶句するハルヒに、茶化す古泉、朝比奈さんはここでドロップアウトのようだ。
「言えないようなことをされたのね!?キョン、あんたって奴は!今までバカでアホで救いようの無いマヌケだとは思ってたけど、まさかこんな純粋な有希に非人道的なことをするような奴だとは思わなかったわ!こうなったら、あたしが直々にこの世から追放してやるから!覚悟しなさい!!!」
「うわやめろハルヒなにをする誤解だ」
嬉々とした表情にも関わらず、鬼気迫る勢いで追いかけてくるハルヒから必死に逃げる。そんな光景を静観する長門は心なしか楽しそうに見えた。

 

END

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:54 (3084d)