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作者 | 書き込めない人 |
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作品名 | 長門さんと九十九神 |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2007-08-18 (土) 20:51:21 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 不登場 |
みくる | 不登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
九十九神(付喪神)
……長年の使用などにより、物や生物に魂が宿り妖怪となったもの。
恩返しをしてくれるときもあれば、お礼参りされることもある。
アニミズムとか何かそんな感じ。
とある駅前マンションの一室。
一人の少女が、とある目的の為に出かけようとしていた。
外出のための準備、と言ってもめかし込むわけでもなく、
ただ所持品を準備するだけではあるのだが、そこで彼女は異変に気付いた。
「……?」
数mmほど首をかしげながら辺りを見回す少女。
「……ない」
ポツリとそう呟いた彼女は徐々に慌て始めた。
この場に彼女の表情の微妙な変化を知る人物がいれば、
その焦り具合から世界の終焉を思い浮かべるかもしれない。
とにもかくにも、彼女の目的遂行及び、
精神の安定のために必要なものが見当たらない今、
ある意味では世界の終焉とも言えるほどの窮地とも言えなくもない。
それほど大切なものを見つけるために、
彼女は家捜しを始めることにした……
「……な、い」
1時間ほど部屋中をひっくり返していた彼女は、
不愉快な結果に対し失望していた。
それでも諦めずに彼女は静かに目を閉じて意識を集中する。
「……」
これで何度目になるか分からない、
人間が持っているはずのない力を使った探索。
部屋中の物体を原子どころかニュートリノ単位で分析できる彼女の能力を持ってしても、
目的の物は見つからなかった。
「どうして、ないの?」
絶望的な状況に思わずしゃがみこむ少女。
昨夜いつもの場所において寝たのは確かなこと。
今朝起きたときにいつもの場所で見かけたのも、
朝食後に眺めたときも確かに変わらず存在した。
それが……今は、ない。
「……ッ」
そこまで考えた彼女は、
唇を噛んでもう一度探すことにした。
失くしたはずが無い。
失くすはずが無い。
失くす訳が無い。
『それ』をくれた相手への想いもあってか、
彼女は消して諦めようとはしなかった……
「……」
更に1時間ほど経過した少女の部屋では、
常の無表情に悲壮さを混ぜた様子の彼女が、
自身の持つありとあらゆる手段で目的のものを探していた。
「どこ……どこに……ある、の?」
まるで幽鬼のように室内を徘徊する少女。
今朝見た時はここにあった。
それが、今はない。どうして?
どこに?あれは大切なもの。失くすなんて考えられない。
それならどうして?どこ?いつ?どこにあr……
カサッ……
まともな思考力を失いつつあった彼女の足元で、
かすかな音がした。
「……!?」
その音に反応して下を向いた少女は、
自分が目にした光景に更に驚いた。
そして驚きの表情を隠さずに、彼女は足元にあったそれを拾って、
いつもより少し大き目の静かな声でこう呟いた。
「……あった」
……少女の手には一枚の市立図書館のカードがあった……
必要なものをそろえた少女は、
当初の目的どおり図書館に向かうことにした。
予定より2時間近く遅れてはいるが、
閉館時間にはまだかなりの時間がある。
目的である図書の返却を果たすには充分であろう。
それにしても何故自分の能力で見つけられなかったのだろう?
もしや、自分の性能に欠陥でもあるということか?
またエラーが蓄積しているのだろうか?
そんなことを考えながら、
目的地へ向う道を歩いていた彼女の背後から、
よく知った声がかけられた。
「あれ?長門じゃないか?」
そして驚いて振り返った少女の背後には、
予想外の人物が立っていた……
「こんな所で出会うなんて奇遇だな」
そう言って俺は目の前の無口な宇宙人に話しかけた。
「そう」
相変わらず淡白な返事に聞こえるが、
別に嫌われているようでもないし、
むしろいつも通りの長門で安心した。
そんな俺に今度は長門の方から声をかけてきた。
「あなたは何故ここに?」
「ん?あぁ、俺か」
長門の問いに対し、
俺は持っていた手提げ袋を軽く挙げて答えた。
「見ての通り図書館に本を返しに行くんだ」
ちなみに俺の本だけでなく、
妹の課題図書や、母親のダイエットに関する本も入っているので、
重量的にはかなりのもんだ。
「もしかしてお前も図書館か?」
「そう」
「そうか……それにしても、たまたま本を返しに来たら、
お前にばったり出くわすなんて珍しいこともあるもんだな」
「……」
そんな俺の在り来たりな感想に、
長門は急に不思議なものを見たような顔をした。
「ど、どうした?何かおかしなこと言ったか?」
「……」
一瞬言おうかどうか逡巡するような表情をした後、
意を決したように目の前の物静かな少女は静かに語りだした。
「珍しいことなら先ほどもあった……」
いつも通り坦々とした長門の話を聞いてみると、
どうやらこの無口少女は中々に奇怪なことに出くわしたようだ。
「無くなった図書カードが突然出てきたのか……」
物が突然どこかに行ってしまう事はよくあるが……
我が家にも妖怪リモコン隠しを筆頭に、
色んなものが必要な時に無くなってくれる。
「探し忘れ……ってことはないな」
「……」
俺の言葉に無言で頷く長門。
大した物じゃないならともかく、
活字中毒のこの文学宇宙人が図書館カードを粗末に扱うわけはないので、
きっと無くなったと知った時に、隅々に探したに違いない。
もしかしたら宇宙的なパワーを使ったかもしれない。
だが、部屋の中にあるものが見つからないなんてことが、
この万能少女にありえるのだろうか?
そのように考え込む俺に対し、
長門はいつもの様な声でこう言った。
「まるで意思を持って隠れていたような感じだった」
意思?あぁ、確かにそんな感じだな。
どうやらお前は大切にしていたみたいだしありえるかもな。
この国にも『付喪神』って物があるし……
「つくもがみ?」
「ん?あぁ、日本の妖怪みたいなもんだ。
妖怪、って知ってるか?」
「知っている」
何だ、前に読んだ本に書いてあったのか?
「涼宮ハルヒが教えてくれた。
見つけたら提出するように言われている」
あの野郎、何てことを吹き込んでやがる。
そもそも妖怪なんてどこに転がってるんだよ。
「まぁ、いい。とりあえず付喪神ってのは、
長い間使った物や大事にしていた物に魂が宿って、
妖怪みたいになった物のことだ」
そして、持ち主に恩返ししたり、
逆に襲い掛かったりするらしい。
「そう……」
「もしかしたら、そのカードもお前の恩返ししようとしたのかもしれんぞ?」
「……?」
何気なく言った俺の一言に、
小首を傾げながらクエスチョンマークを頭の上に浮かべる長門。
「あぁ〜例えばだな……
お前が好きそうな本が図書館に入荷されることを予感したその図書館カードが、
その入荷時間より早く出かけそうなお前を引きとめるために隠れていたとかだな……」
「……」
言ってるこっちも恥ずかしいんだから、
お前もそんな目で見るんじゃない。
「ま、まぁ、そいつが隠れていてくれたおかげで、
何かお前に良いことがあるかも知れないだろ?」
「良いこと……あった」
いつもより大きく頷く長門。
何があったのかは分からないが、こいつが良いことって言ってるんだから問題はないだろう。
「なら、探し物をした時間は、その『良いこと』のために費やしたと思えばいい」
そんな風にポジティブに考えた方が人生も楽しいだろう。
そんな俺の考えに賛同するかのように、目の前の少女は頷いて言った
「わかった……そうする」
P.S.
「ところで『いいこと』ってなんだったんだ?」
「あなたに会うことがでk……」
ワンワンワン!
「あ、キョン君に長門さん、こんな所で奇遇なのね」
「よぉ、阪中……こんな遠いところまで散歩か?」
「ちょっと車でこの近くまで来たのね。
たまにはルソーも他のところで散歩したいのね」
「あぁ、そうだろうな」
「じゃあ、また学校で会うのね」
「できればそう願いたいな。
またお前の家で弱ったルソーとご対面てのは困るからな」
「心配しないでなのね。じゃあまたなのね〜」
「……ほんとにあいつは犬好きだな。
で、長門さっき何て言おうとしt……あれ?長門お前何でそんな黒いオーラを出しt」
並の人間よりはるかに鈍感な少年に対し、
少女が説教をしたおかげで二人とも図書館の閉館時間に間に合わなくなったのはまた別の話。