作品

概要

作者富士恵那
作品名長門の恋人!?
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-07-15 (日) 14:10:13

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

佐々木団との遭遇と、それに端を発する一連のゴタゴタが解決して約一ヶ月が経ち、俺は平穏な日々を送っていた。
思えばSOS団などという迷惑千万、奇妙奇天烈極まりない団体が勃発的に設立され、俺が問答無用で引き擦り込まれてから、早くも一年が過ぎようとしてる。
この一年に俺の周りに起きた出来事を振り返るには、やっぱり一年ぐらい掛かるんじゃないかと思い、面倒なので振り返るのは止めておこうなどと思っていたある日の昼休みのことだ。

 

「ねえ、キョン……キョン!」
食後に襲い来る睡魔に白旗を揚げつつ五限目の始まりを待っていた俺の耳に、団長様のお声が轟いた。
何だよ一体。
「有希の様子がおかしいのよ」
…ほう。こいつも気付いたか。
確かにここ最近、長門の行動に変化が見られる。…といっても、今までは下校時刻ギリギリまで読書していたのが、ほんの僅かに早く部室を出て行くようになったというくらいだが。
「それだけじゃないのよ。さっきあたしが部室に行ったら有希が先に来てたんだけど、何してたと思う?」
何って…長門が部室で読書以外にすることがあるのか?
「あたしがドアを開けたときね、有希、ケータイをいじってたのよ。あたしが入っていったらすぐ閉じて仕舞っちゃったんだけど、間違いないわ、あの子、メールしてたのよ!」
それが本当だとしたら驚天動地だ。俺は長門と電話で話したことはあるが、メールをもらったことなどない。
いや、問題はそんなことじゃない。
SOS団の誰かに用事があれば、ここは学校だ、長門なら相手の教室にフラリと現れるか、相手が部室に来るまで待っていることだろう。
「でしょ?でしょ!? わざわざメールするくらいだもん。これはもう間違いないわ! 彼氏よ彼氏! 有希に彼氏ができたのよ!」
長門に彼氏。そんなことが起こりうるのだろうか。と思った俺の頭を忘れもしない去年の冬休みの情景がよぎる。
血迷って長門に――正確に言えば情報統合思念体に――、一目惚れした男がいた。中河だ。
しかし、あの時は長門が中河の「統合思念体にアクセスする能力」を消し去り、中河の勘違いってことで一件落着したはずだ。
っていうか、彼氏と決め付けるのは早すぎだろう。校外の人間って可能性は高そうだが。
「いーや! 彼氏よ! 彼氏! 絶対彼氏! これは要観察ね!」
何だこのハルヒのはしゃぎようは。恋愛話には全く興味を示さないこいつが、長門にだけは彼氏がいてほしいのか? なんだってんだ。
しかしまあ、もし本当に長門に彼氏ができたとなると、ちょっと不愉快な気もする。

 

妙なモヤモヤを胸に抱えたまま、その日の授業が終わった。

 

放課後。
「キョン! 行くわよ!」
分かったからネクタイを放せ。
ハルヒと俺が部室の前までやって来たちょうどその時、部室のドアが開き、小柄なショートカットが姿を現した。
長門だ。
「…今日は、用事があるから」
「えっ?」
唖然とする俺とハルヒを置きざりに、長門は階段の下へ消えていく。
長門の姿が見えなくなった途端、ネクタイに凄まじい力が加わり、俺の体は部室に引き擦り込まれた。
「聞いた? 有希が「用事があるから」だって。 デートよ! これは間違いなくデートよ!」
一大事だ。
デートかどうかは知らんが、長門に放課後部室で読書する以上の用事があるとは。
これは気にな…おわっ!
「みくるちゃん達を待ってなんかいらんないわ! 今すぐ尾行開始よ!」
俺のネクタイを握り締め、ハルヒは部室を跳び出した。
当然、俺の体も容赦なく引き摺られていく。
…やれやれ。

 

尾行対象との距離を保ち、俺とハルヒは後を追う。
っつーか、何たって尾行対象があの長門だからな。きっとバレバレだ。
「だいじょうぶ。気付いてないみたいよ」
気付いてないフリだと思うが。
やがて長門と後を追う俺たちは光陽園駅にやってきた。
「電車に乗るのかしら」
…ではなさそうだ。
長門は駅の改札口にぽつんと立ったまま動かない。
俺とハルヒは物陰に隠れて長門の様子を窺う。
「待ち合わせね」
そのようだな。
「彼氏?」
まだ分からん。
「遅いわね」
いーから黙ってろ。
「何よ!アンタだって…って、動いたわよ!」

長門がフラリと歩き出した。
まだ誰も来ていないが…?
と思った瞬間、長門の後ろに付く影を見つけて、俺は驚愕した。
―――周防九曜だ。
いつのまに現れやがった。
100m離れていても目に付くはずなのに、目の前にいても存在を感じさせない、異様としか言えない雰囲気を漂わせる、長門とはメーカーも規格も違う宇宙人端末。
「あら…あの子…確かアンタの…と、友達の…佐々木さんと一緒にいた子よね。九曜さんだっけ?いつのまに仲良くなったのかしら」
そういえば長門が言っていた。
情報統合思念体と天蓋領域との間に友好関係が成立したと。
ってことは、これは端末同士の情報交換か何かなのだろうか。
いや、そうとも限らない。
朝倉のように、トチ狂った九曜が長門に決闘を申し込んだのかもしれない。
だとしたら、かつてない恐怖だ。
宇宙人同士が地球上で天下分け目の超決戦などしたら、それこそ元気玉やらギャリック砲やらで地球が吹っ飛ぶかもしれない。
そうなる前に封印を解くべきか!?
―――ジョン・スミスの名を!
「ハルヒ、追うぞ」
「え? う、うん。そうね、彼氏じゃなかったのはガッカリだけど、有希に友達ができたってのも、ちょっと気になるわね」
暢気なことを。
ちょっとどころの騒ぎじゃねーぞ。

 

…と、長門と九曜の後をつけ始めた俺とハルヒであったが、よくよく考えたらそんな緊迫した事態ではなさそうだ。
なぜなら、長門にはもうとっくの昔に尾行はバレているはずだ。
もし九曜と一騎打ちするのであれば、長門のことだ、俺たちをまき込まないよう配慮するに違いない。
しかし、今の長門は俺たちを撒くようなこともせず、尾行に気付かないフリを続けているようだ。
やはり宇宙人同士の情報交換だろう。
などと考えているうちにやってきた建物を見て、俺は呆気に取られた。
図書館だ。
SOS団週末恒例不思議探索ツアーの際、俺が幾度か長門と訪れた…。
「へえーっ。あの九曜って子も有希と一緒で読書が好きなのかしらねー。そういえばあの二人、どことなく雰囲気が似てるもんね。微妙にタイプが違う感じもするけど。喩えて言うなら、WindowsとMacって感じかしら」
…言い得て妙だ。絶妙だ。相変わらずおかしなところで勘が鋭い。
しかしまあ、規格の違うヒューマノイド・インターフェイスが仲良く読書している風景ってのも、そうそう見られるもんじゃない。一見の価値があろう。
俺とハルヒは長門と九曜の後を追って図書館に入った。

 

そこで見た光景は、実に感慨深いものだった。

 

図書館の中を、長門は自分の庭のように歩き回る。
その後ろにぴったり付いて行く九曜。
小難しそうな本の並ぶ、誰も近寄らないような棚の前に立ち止まっては、見た目も中身も重そうな本を取り出し、九曜に差し出す長門。
九曜はそれを黙って両手で受け取る。
時折何ごとかを呟いては、九曜の反応を窺う長門。
一応、九曜の好みを聞いているのであろうか。
九曜の両手には、長門のオススメであろう分厚い直方体が、次々と積まれていく。
相変わらずの無表情のままだが、自分と同レベルで文学を語り合える相手を初めて見つけた喜びだろうか、九曜のために本を選ぶ長門の姿は、かつてないほど活き活きして見えた。
「有希…楽しそう」
ふと隣にいるハルヒに目をやって、俺は不覚にもドキッとした。
何か良からぬことを思いついたときの不敵な笑みでもなく、新しいものを発見したときのキラキラ輝く笑顔でもなく、長門を見つめるハルヒの笑顔は、かつて俺が目にしたことのない、穏やかな優しさに満ちた母性の象徴のような微笑みだった。
俺は慌てて視線を長門に戻した。
…なるほど。
ハルヒが母親のような笑顔になるわけだ。
繰り返すが、長門には既に尾行はバレているはずだ。
そう思ってみると、長門の姿は、まるで小学校に入学した娘が、新しくできた友達を自分の親に自慢げに見せ付けているようにも見える。
微笑ましいことこの上ない。
って、ちょっと待った。別にハルヒが母親で俺が父親ってわけじゃないぞ。間違ってもな。
「ん? 何、急にムスッとした顔になってんのよ。何か面白くないの?」
「な…何でもねーよ」

 

ひと通りオススメの本を選び出したのか、長門と九曜は貸し出し受付に向かった。
ってか、あんなに借りるのか。メチャクチャ重そうだぞ。
その後の光景を目にして、俺は絶句した。
ちょうど一年前、記念すべき第一回SOS団市内探索ツアー。俺が初めて長門をここに連れて来た日。
俺は長門のために貸し出しカードを作ってやった。
まさしく、あのときの再現だ。
ただし、あのときの長門の役は九曜。そしてあのときの俺の役は……長門だ。
長門が、右も左も分からぬ九曜のために、貸し出しカードを作ってやっている。
文芸部の部室で当時まだ眼鏡っ娘だった長門と出会ってから、僅か一年の間に起きた数々の出来事が、特に、あの消失事件の情景が、走馬灯のように流れた。
俺は正直、胸が熱くなるのを感じていた。
「ふふ…有希ったら」
ハルヒは相変わらず、娘の成長を喜ぶ母親のような微笑を浮かべている。

 

図書館を出た長門と九曜が向かったのは、長門がよく行くという近所のスーパーだった。
っつーか、まだ尾行を続けるのかよ。
「あったりまえでしょ! 有希にSOS団員以外の友達ができたのよ! 一大事じゃない!」
まあ、正直言うと俺もノリノリなんだが。
長門と九曜がどんな友好関係を築いているのか、気になって仕方がない。
店内では、長門がショッピング・カートを押し、その後ろに九曜が続く。
「一緒にご飯作るのかしら」
…そうみたいだな。
豚肉やら白菜やら、次々と食材を手に取り、カートに入れていく長門。
さらには、「キムチ鍋の元」と書かれたパックを取り、カートに放り込む。
この季節にキムチ鍋か?
いつぞやはカレーだったし、あいつは意外とスパイシーな料理が好きなのだろうか。
それも鍋か。微妙な豪快さがいかにも長門らしい。

 

あらかた食材を拾ったのち、長門が何ごとか九曜に言葉を投げかけ、九曜が滑るように動き出した。
カートを寄せたまま、立ち尽くす長門。
どうした?
宇宙人二人で万引きでもする気か?
やがて滑るように戻ってきた九曜が差し出した両手には、メロンとショートケーキが乗っていた。
こいつはこいつで甘党なのだろうか。
メロンとショートケーキを突き付ける九曜に対し、長門は首を振る。
依然両手を突き出したまま、長門をじっと見つめる九曜。
やがて何ごとかを呟くと、長門は九曜が持ってきたメロンとケーキをカートに入れた。
その瞬間、長門が見せた表情に、俺は呆然とした。
いや、表情といっても恐らく俺にしか、或いはSOS団のメンツにしか読み取れないほどの微かな変化であったが、その表情は、まるで今や俺の口癖となった「あの言葉」を放っているように見えたのだ。
……やれやれ、と。
「くくっ」
「ぷ…うふふっ」
どうやらハルヒも気付いたらしい。
つまりこういうことだ。
恐らく長門は、「鍋の食材として」他に食べたいものはないかと聞いたのだろう。
しかし九曜は長門の意図などお構いなしに、好みのメロンとケーキを持ってきた。
当然拒否する長門。
九曜は無言で駄々をこねる。
しかたなく「デザートに」と、長門は渋々メロンとケーキをカートに入れたのだ。
ふとハルヒを見ると、さっきまでにも増して、母性的な慈愛に満ちた優しい笑みを満面に浮かべていた。
ハルヒのその笑顔を見て、俺は「こいつは意外と良い母親になるんじゃないか」などと妙なことを考えてしまった。
これ以上ハルヒのこの笑顔を見ていると、何かとんでもない妄想が浮かびそうなので、俺は長門たちに視線を戻した。
しかしまあ、さっきの図書館では「娘と友達」だったが、ここでの光景はまるで娘二人「姉妹の初めてのおつかい」を見ているようだ。
しかもその姉の方――つまり長門――が、普段両親の前では決して見せない姉らしさを、存分に発揮しているではないか。
余りの微笑ましさに、自然と笑みがこぼれる。
言っておくが、ハルヒが母で俺が父ってわけでは……って、そんなことはどーでもいーか。
ふとハルヒが、優しい笑みを満面に浮かべたまま呟いた。
「有希……変わったね」
「ああ」
…お前もな。

 

スーパーを出た二人は、仲良く荷物を分け、長門のマンションに向かった。
そういえば、九曜もここに引っ越してきたって長門が言ってたっけ。ハルヒは知らないが。
二人がマンションに入るのを見届けた後、ハルヒは長門のところに押し掛けて行くか二人にしておくべきか、葛藤しているようだったが、ここは先に釘を刺しておいた方が良いだろう。
「なあ…俺らも何か食いに行かないか? あいつら見てたら腹減っちまった」
「…そうね。それもいいわね。…ただし、アンタのおごりよ!」
へいへい。
ま、夕飯ぐらいおごってやってもいいかな。
今の俺は気分がいい。
なんせ今日は、滅多に見ることができない貴重な、それも飛びっきり気持ちの良いものを二つも見せてもらったからな。
九曜にせっせと世話を焼く、長門の微笑ましい姿と―――。
―――ハルヒの、特別な笑顔と。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:51 (3088d)