作品

概要

作者江戸小僧
作品名星に願いを
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-07-07 (土) 18:16:16

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「おはようございまーす」
 元気な声が揃って俺達を迎える。
 うむ。みんな元気が良くていいぞ! って、俺はデパート屋上に出没するお姉さんかよ、などと自分に突っ込んでる場合ではない。
 幼児――幼稚園児だから正に幼児だ――に、俺と長門は早くも包囲されてしまった。
 なぜ、そんな事になってるかって? それを説明するには、昨日の事を振り返る必要がある。

 

「興味がある」
 長門は、そう呟いた。
 まだ、部室には俺達しかいない。
 長門の右手には、チラシが握られている。
「協力してほしい」
 勿論、お前を助けられるなら何でもするさ。しかし……
 俺は続く言葉を見つけることができなかった。
「お待たせ!」
 派手な効果音と共に、絶対無敵の女子高生が出現したからだ。
「みくるちゃん、今日は来れないんだって」
 もうすぐ最後の夏休みを迎える3年生はいろいろ忙しいんだな。お前もちょっとは見習って静かにしたらどうだ。
「何言ってんのよ。見習うべきはあんたでしょ、ロクな点数取れないんだから。言っとくけど、夏休みの活動を補習やら塾やらで休むなんて許されないから」
 そういうことを上から目線で言わんでいい。どうせ俺の成績はロクなもんじゃねえさ。いざとなったら昔から優秀だった友人に教えを――な、なんだ長門。
「大丈夫。私がさせない」
 ああ。補習から救ってくれるのか? そりゃ助かる。
「ちょっと! 個人授業なんて危ないことしたら駄目よ、有希。こういうヤツはいつ獣になるかわかりゃしないんだから」
 バカ言え。今日欠席されている方を除いて俺の理性を簡単に吹っ飛ばせるような相手はそうそういるもんじゃない。
 なぜか今4つの熱線に体を貫かれた気がしたが、きっと疲れてるせいだろう。蒸し暑くて午後の授業は良く眠れなかったからな。
「おや、朝比奈さんはまだですか」
 今日はいらっしゃらないそうだ。それだけを心待ちにしてた俺の心はもはや回復不能だ。後はお前に任せたぞ。
「それはそれは、ご愁傷様です」
 相変わらずの魂なき笑顔が暑苦しい。お前、こんな暑い日位もっと涼しげな仮面つけれねえのか?
「申し訳ありません。なかなか路線変更は難しくて」
「みんな、重大発表よ」
 何だ、また訳のわからん計略があんのか。七夕の飾りつけならすっかり終わってるし、今度は何だ。まさか、謎の人物を探すとか今更言ったり――
「明日は休みにするわ。土曜日だし、各自の判断でそれぞれ不思議を捜すこと」
 それだけ言うと、団長様はバッグを手に出て行ってしまった。
 後には宇宙人と超能力者と俺が残される。
 そんな顔して俺を見るな。俺だってわからん。お前こそ何も掴んでないのか。
「やはり、この日だけは特別なのでしょう」
 ああ。そりゃそうかも知れない。って、顔が近いぞ。
「あなたなら、懐まで入っていけるのではないですか?」
 そんなことしたら、気がつかねえ内に切り札を晒すことになりかねん。とりあえず様子見たほうがいいんじゃねえか。
「あなたがそうおっしゃるなら。僕はこれから待機に入ります」
 そう言うと、限定版超能力者も部室から消えた。
 残るは無口を貫く宇宙人と俺の2人きり。俺の心のフリスク様は今日は降臨されないし、そろそろ帰るとしようか。
 そんな事を考え始めた俺の目の前に、紙が現れた。
「協力。だめ?」
 長門よ、そんな顔されたら例え本当は駄目でもそんな事言えないじゃないか。
 俺は改めて長門が差し出すチラシに目を通した。
 そこには、「一日保育士さん募集」と書いてある。
 明日、七夕に限り保育実務を体験してみたい若者向けにボランティアを募集する、てな事が書いてある。きっと、幼稚園も人手不足なんだろう。体験して、興味を持って欲しいってところか。場所は長門のマンションから随分近いようだ。
 推薦人が2人必要とあるから、確かに長門がこれをやりたいと思ったら誰かに協力してもらう必要がある。
 しかし、この無口宇宙人が保育実習? まさか、自律進化の鍵は幼児教育にあったなんて言わないよな。俺自身の経験を言わせて貰うなら、スカートめくりをされないようにするので精一杯かも知れんぞ。
 な、なんだ。なんで俺を絶対零度の目で睨むんだ?
「あなたが幼少時にそのような性癖を有していた事は予想外。あなたの過去を――」
 待て。俺がやったんじゃない、そういう不埒なガキがいたってことだ。俺はむしろ保育士の皆さんの心の裡を想像して同情していたんだ。子供好きなんて属性だけでどこまで過酷な労働環境に耐えうるものか。
「この施設はヒトの幼生体を保護及び養育するために存在している」
 俺なら幼児って呼ぶけどな。まあ、そうだ。
「私には養育のシミュレーションが必要」
 なんでそんなもの必要なんだ。
 こら、目を逸らすんじゃありません。ん? なんか知らんが少し赤くなってないか。
「私の表皮組織に血流の異常は認められない」
 そうか。ならいい。自律進化のヒントを広範囲に探すのは結構だが、もう少し違うアプローチをした方がいいと思うぞ。
 という訳で華麗にスルーしたつもりだったのだが、長門は特有の粘り強さと無言のプレッシャーでその後も必要性を訴え続け、結局俺は頷くしかなかった。
 俺は家で2通分の推薦状を両親に頼むことになった。誰のだって? 1枚は長門のためだ、決まってる。で、俺も体験すべきという長門の主張を俺は論破できなかった。
 情けないだと? だったら長門を説得してみろ。

 

 という訳で、今俺と長門は幼稚園にいる。俺の主張を理解してくれた長門は制服ではなくキュロットスカート姿だ。うーん、こういうのも似合うのは俺だけの秘密にしておこう。
「ゆきせんせーい。てつだって!」
「せんせい、すきなおとこいるの?」
 なんだ長門。俺の顔見たって代わりに答えるのは無理だぜ。
 それしてもすっかり人気者だな。子供は本能的に味方を見抜くものなんだろうか。もしかしたら子供たちがせがむありとあらゆる歌を完璧にオルガンで弾いてみせたせいかも知れない。ただ、本職の保育士さんが嫉妬半分の微妙な顔をしているのがなんとも言いがたいんだが。
「ノッポせんせい、これかざってー」
「だめー、あたしがさきだもん」
 わかったわかった。しかしノッポ先生って、ここでも俺は本名じゃ呼ばれないのかよ。大体、言うほど背高くないぞ? まあ、キョン君とか呼ばれなくて良かったが。それにしても、俺は何故男のガキに人気ないんだ? おかしいな、親戚の奴らは男女隔たりないのに。
「はーい、みんな。七夕の短冊は飾れたかなー?」
 本職の保育士さんが子供達に声を掛けると、一斉に元気な声が返ってくる。
 その時、一人の子供が窓を見ながら保育士さんに尋ねた。
「ねえねえ、あめはだいじょうぶなの?」
 そう。天気予報でも今夜は雨になりそうだ。今は降ってないが、夜はかなり危ない。
 保育士さんも嘘を言う訳にもいかず、困った顔だ。
「うん。お天気になるよう、みんなで歌おうか!」
 そして、オルガンの演奏が始まり、園児達は声を揃えて歌いだす。
 俺の袖が引っ張られる感触。
 いつの間にか、長門が隣に来ていた。
「対処したい」
 対処って、どうするんだ。
「天候を――」
 それって、地球に影響を及ぼすんじゃなかったか?
 指摘すると、長門は黙ったまま顔を数ミリ下に向けた。
 長門がこんな事を言い出すなんて。
 どうにかしてやりたいが、さて、どうしたもんかね。
 天の川を見る方法。そりゃ、この幼稚園ごと成層圏まで飛び出せば見れるだろうが、そんなもん、最低でも数世紀分のオーバーテクノロジーを使うことにありそうだ。
 そんなことになったらあのニヤケ野郎が喜んで飛んで来る……
 そうだ! 古泉なら。
 長門。もしかしたら、どうにかなるかも知れないぜ。
 長門はそれを聞くと、俺には疑いようのないほど暖かい表情になった。

 

 あっという間にお昼だ。
 俺達もみんなと一緒に食べる。
「これたべてー」
「あ、ずるいぞー。ゆきせんせい、これもたべてね」
 長門は幼稚園が用意した食事に自分で持ってきたコンビニのおにぎりを追加し、それを完食した上で子供達が苦手としているらしいものを請われるままに食べていた。
 長門。その量にはさすがに子供達がちょっと引いてるみたいだぞ。限度は考えてくれよ。
 食事が終わると、お昼寝の時間。
 俺はこの時間を利用して保育士さんに話をし、了承を取って携帯を手にした。
「おや、あなたからの連絡とは珍しい」
 やかましい。それより、お前なら持ってるんじゃないか。
 飲み込みが早いのか、俺達が何してるのか知ってたのか。古泉はすぐに持ってくると約束してくれた。後は、子供達が起きる前に準備を終わらせればOKだ。
 おい、長門。
 しかし、長門は数人の子供達に服の裾やら何やらを掴まれた状態でみんなと一緒にシエスタの最中であった。
 そう言えば、長門の寝顔って見たことなかったな。こうして見ると、すごい無防備だ。
 子供達と一緒にいるから安心してるのか。とても、スーパーパワーを発揮する宇宙人には見えない。
 そんなところに、古泉を乗せたタクシーが幼稚園に着く。運転席に白髭の紳士がいるから間違いない。
「こんな趣味があるとは知りませんでしたよ」
 何言ってる。俺自身は妹の世話で十分すぎるほどだ。
「いえ。こっちの事です。何なら今度流星群を見に二人で徹夜なぞ……」
 いらん。これは純真な子供達のためにやるだけだ。俺の趣味じゃねえ。
「そういう事にしておきましょうか」
 古泉と俺で、音をたてないように準備をする。うまくいくといいんだが。

 

 お昼寝タイムが終わる。
 カーテンのせいで暗いままの部屋で、子供達と長門をそっと起こした。
 長門。そんな不満そうな顔をするなよ。お前の望み、叶えてやるぜ。
 俺が頷くと古泉がそれを操作する。
「あー、おほしさまだ!」
「あれ、ここってうちゅうなの?」
 部屋一杯に、星が輝いていた。
 そう、古泉なら持っているんじゃないかと思ったんだ。室内用のプラネタリウム。
 普通の奴なら買うまではしないだろうが、実は常識外れの値段ではない。
 それが今、この部屋一面に星を散りばめていた。
 右手に、小さな手が滑り込む。
 長門が隣で微かに頷いた。
 保育士さんも子供達も、恐らくは気が付かなかっただろう。
 だが、俺はそれがわかった。恐らくは古泉も。
 徐々に、星が鮮やかになっていく。
 この部屋は闇のように暗く、そして天井はまさに天球になっていたのだ。
 今や、周りは夜空そのものだった。
「ほらみんな、天の川。綺麗ね」
「あ、ながれぼし!」
「おねがいしなくちゃ」
 流れ星なんて、小さいのに大した性能だ。古泉を見ると、肩を竦めやがった。
 なるほどな。
 右手が包んでいる小さな手に、僅かに力を入れてやった。
 同じように、返事がある。
 また1つ、流れ星が天空を切り裂いた。

 

「今日は本当にありがとう」
 いえいえ、こちらこそ楽しかったです。な、長門?
 長門の頷きは恐らく通じてないだろうから、俺がまとめて挨拶をしておいた。
 三人で幼稚園を退出する。
 そういや、この面子って珍しいよな。
「その事を認識いただけて光栄です」
 言ってろ。どうせ俺だけ何もできない只の人だよ。
「とんでもない。それはあなたの――」
「あなたは間違っている」
 いやにキッパリ言う長門に、古泉も黙った。
「今日もあなたが解決した。私は今日の事を記憶する。そして……今夜、祈る。星が見えても見えなくても」
 そこで長門は俺を見つめる。
 うーん。何が言いたいんだ? さすがにそれだけじゃわからないんだがな。
 長門は俺から視線を外すと、俺と古泉両方に感謝の意を表するように僅かに首を傾げてから速足でマンションの方へと去っていった。
「全く。あなたも人が悪いですね」
 なんだそりゃ。もうちょっと分かり易く言え。
「一段と人間らしくなったじゃないですか。一体誰の影響なんでしょう」
 誰? そりゃ、俺達全員だろうよ。お前まさか、ハルヒに全て押し付ける気か?
 プライスレスのスマイル野郎はいつものように肩を竦めやがった。
「ま、いいでしょう。涼宮さんも自覚していないからこそ今の涼宮さんですから。もしかしたら、無自覚であることが重要なのかも知れません」
 お前、そうやって誰にも理解できん事言って楽しいか? 俺なら最初の3秒で飽きちまうぜ。
「そうですか。では、僕からの今日最後のなぞなぞです」
 なんだ。聞いてやるから言ってみろ。
「これを明日までお貸しします。どう使うかはあなた次第ですが」
 そう言うと、プラネタリウムの入ったバッグを俺に押し付けてこいつもまた足早に去っていった。
 やれやれ。こんな重いもの担いでどうしろってんだよ。大体、俺の家じゃ電灯が邪魔になってとてもじゃないが綺麗に映せないぜ。
 ……そうか。
 暫しの黙考の後、俺は目的地に向かって歩き始めた。

 
 

        了

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:51 (2713d)