作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんの晩餐
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-06-16 (土) 23:12:42

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

※SS集/553『長門さんの親子丼』の続きです
※猟奇ヤンデレ注意

 
 
 
 
 
 

ハルヒが姿を消してから3日が経過した。

 
 

失踪した日はSOS団のメンバーは学校を欠席していたため、
俺がハルヒに校内で最後に出会った人間となる。

 

そのため岡部や『機関』の連中にいろいろ聞かれたが、
俺の目から見てもあの時は変わったことなど何一つなく、
あいつも普段どおりに過ごしていたと思う。

 

その話を今度は中庭でしている。

 

「……本当に何もなかったのですか?」

 

「あぁ、何もなかった」

 

いつものニヤケ顔をどこに忘れてきたのかといった感じの真剣な顔で、
古泉はもう両手では数え切れないほど聞いた質問をしてきた。

 

「朝比奈さんも長門もお前もいなかったから、
パソコンとにらめっこのハルヒといただけだ」

 

「そう……ですか」

 

「なぁ、古泉……」

 

「なんでしょう?」

 

「本当にハルヒは『消え』ちまったのか?」

 

これも何回目か数えるのも面倒な俺の質問に、
目の前のエスパーは律儀に答えた。

 

「えぇ……」

 

「ちょっと遠くまで家出をしたとか、
どこかで迷子になってるってことは……」

 

「……有り得ません」

 

きっぱりとそう答える古泉。
なんでそんなことが断言できる?
奴だって思春期真っ盛りの高校生だぞ。
家出のひとつくらい……

 

「単なる家出なら僕らで把握できないはずがありません」

 

「だが……」

 

「それに……」

 

反論を述べようとする俺を遮って、
古泉は沈痛な面持ちで話を続けた。

 
 
 

「僕らの能力でも涼宮さんのことが感知できないんです……」

 
 
 

ハルヒが失踪したのは3日前の夕方。
俺たちが帰り道でお互いの家のほうへ向ったすぐのことらしい。

 

「あなたと涼宮さんが別れたあと、突然彼女が消失したのです」

 

古泉いわく、機関の連中が監視をしていたにもかかわらず、
曲がり角の死角に入った時点で忽然と姿を消したらしい。

 

「まさか、ハルヒに害を与えるような連中が?」

 

「可能性が無いとはいえませんが、考えにくいですね」

 

どうしてだ。
お前らから見れば神様なんだから、
敵対する奴は多いんじゃないのか?

 

「確かに僕らの『組織』に敵意を持つものは少なくありませんが、
それでも彼らが涼宮さんに手出しすることにメリットは無いはずです」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。それにどのような存在にしろ、
欲するとすれば彼女ではなく彼女の能力のはずです。
もちろんあなたはそんなことはないでしょうが……」

 

最後の一言は聞き流すとして、
確かにハルヒのトンデモパワーを頂くだけならば、
こんな騒ぎになるような真似はしないだろうし、
もし仮にあいつの能力が奪われたとしても、
古泉たちが感知できないとも思えない。

 

「とにかく涼宮さんが何らかのトラブルに巻き込まれたのは間違いないでしょう。
万が一ということもあるのであなたの身の安全については『機関』が……」

 
 
 
 
 
 
 

「必要ない……」

 
 
 
 
 
 
 

「な、長門!?」

 

俺たちしかいなかったはずの中庭に、
いつの間にか万能宇宙人が姿を現していた。

 

「彼の護衛は私が行う」

 

「長門さん……?」

 

「聞こえなかったのならもう一度言う……あなた達は必要ない」

 

まるで初めて会ったときの様な表情で、
長門は古泉に宣告する。

 

「ですが、万が一ということもありますし……」

 

「必要ない」

 

「おい、長門……せっかくこう言ってるんだから、
そう無碍に扱うのもどうかと思うぞ?」

 

「あなたは私が守る」

 

だめだ……
これは梃子どころかバールの様なものでも動きそうにない。

 

「古泉……俺はいいから守るなら朝比奈さんや鶴屋さんを守ってくれないか?
俺のほうは長門が頼りにして欲しそうだしな」

 

古泉も俺と同じことを感じたらしく、
諦めた様子でこう言った。

 

「そうですね……では他の方々の身の安全を保障します」

 

そして古泉は中庭を去ろうとして……
突然振り向いてこう聞いてきた。

 
 

「本当に……その日は何もなかったのですね?」

 
 

「あぁ、だからなにm……」

 
 

古泉の質問に対する俺の答えを、
別の声が遮った。

 
 

「一緒に御飯を食べた……」

 
 

「ご飯?」

 

「あぁ、そういえば長門の家で晩飯を食ったな」

 

古泉が意外そうな顔をする。
そういえば、長門に『大切な用がある』とか言われて部屋に行った覚えがある。
どんなトラブルかと思って緊張して向ったら、
いきなり『料理を作ってみたから食べてほしい』と言われたんだった。

 

「そうですか……」

 

「長門の手料理は旨かったぜ」

 

もちろんこんな我が娘のような文学少女の成長の軌跡を、
酷評するような精神は持ち合わせてはいないが、
そんなことは関係無しに旨かったぞ。

 

「それは素晴らしいですね……」

 

少しだけ表情に笑みが戻った古泉。
やはりこいつもこの無口娘の成長を嬉しく思ってるらしい。

 

「ところで……」

 

「ん?」

 

「何を召し上がったんですか?」

 
 
 

「あぁ……親子丼だ」

 
 
 
 
 
 
 

  長門の部屋に入ってすぐ、
  俺は異変に気付いた。

 

  「入って……」

 

  「あ、あぁ……」

 

  促されるままに室内に入った俺の鼻腔に、
  筆舌に尽くしがたい異臭が飛び込んできた。

 

  「長門……ここで何かしてたのか?」

 

  思わず長門の方を向き質問した。
  そんな俺に表情一つ変えずに長門は答えた。

 
 

  「料理」

 
 

  料理?
  何をどう料理すればこんな臭いがするんだ?

 

  「今用意する……待ってて」

 

  それだけ言うと台所に入っていく長門。
  正直言って不安極まりないが、
  長門の頼みを断るわけにも行かない。

 

  ただどうしてもハルヒのことが気に……

 
 
 

  「どうぞ……」

 
 
 

  考え事をしている俺の思考を遮るように、
  長門はお盆に乗せた『それ』をテーブルに乗せた。

 
 

  「な、んだ……これ……?」

 
 

  「親子丼……」

 
 

  俺の目には何かの肉しか見えないんだが……
  確かに肉の切り方の豪快さからも、スタミナのありそうな料理ではあるが、
  親子丼らしさは微塵も感じない。

 

  「食べて……」

 

  「いや、だが……」

 

  「タベテ……」

 

  「タベテ」

 

  「食べて」

 

  「食べて」

 

  「食ベテ」

 

  「わ、わかった……いただきます……」

 

  せっかくの長門の手料理だ。
  ここはお言葉に甘えていただこう。
  多少見た目や香りがひどいが、
  男なら気にしてはならない。

 

  そうして俺は長門の目を見ながら、
  俺はその『親子丼』という新種の食べ物を口にした。

 
 
 
 
 
 
 

「親子丼、ですか……」

 

「あぁ、そうだ。
卵のトロみ具合や、味付けの仕方を見ても、
高級料亭に引けを取らない出来だったぜ」

 

まぁそんなところで飯を食うなんて、
せいぜい年1回の法事の席くらいなものだが。

 

「それはそれは……是非僕も味わってみたいものです」

 

「ならさっさとハルヒを見つけて、
皆で長門の部屋でご馳走になろうぜ。
その時が来れば作ってやってくれるか、長門?」

 

「……わかった」

 

「ありがとうございます……その機会を楽しみにしていますよ」

 

そして、そのために一刻も早くハルヒを見つけると誓った古泉は、
颯爽と中庭を立ち去っていった。

 
 
 

「ところで、長門にもハルヒの居場所は分からないのか?」

 

「……」

 

俺の質問に無言で返事をする長門。
この万能アンドロイドでさえ消息がつかめないってことは、
またハルヒのとんでもパワーか、それとも宇宙的な……

 

「心配しなくても」

 

「へ?」

 

考え中の俺に長門が先ほどとは打って変わった穏やかな声で言った。

 
 
 

「あなたはこれ以上不快な思いをしなくてもいい……」

 
 
 
 
 
 

  文学宇宙人特製の少々得体の知れない丼物を目の前にした俺は、
  意を決して食することにした。
  女の子の手作り料理を食べないのは、
  男として禁断の果実を丸呑みするより罪深いことだからな。

 

  「い、いただきます」

 

  「どうぞ」

 

  心なしかさっきから嬉しそうな長門の視線を受けながら、
  俺は日本人の魂といえる箸を使って、『それ』を自分の口に入れた。

 
 

  「!!?」

 
 

  始めに味覚ではなく嗅覚がその違和感に気付いた。
  普通の料理ではありえない生臭さと血生臭さを混ぜた臭い。
  焦げた訳でも調理の手順や材料の配分を間違えたわけでもない。
  そんな単純なものでは絶対にありえない強烈な臭い。

 

  更に口に含んだ途端に広がる鉄の味。
  鍋の成分が溶け出したのかと疑いたくなるような重い感触が、
  口の中だけでなく、喉や鼻腔を侵食していく。

 
 

  「うっぐ……」

 
 

  気付けば俺は右手に持った箸を落とし、
  そのまま口を塞いでいた。

 

  「どうしたの?」

 

  長門が不安げな目で俺の顔を覗き込んできた。
  そうだ……いくら違和感があるとはいえ、
  コレは長門の手作り料理なんだ。
  それを否定するわけにはいかない。

 

  そう思った俺は口から出たがる『それ』を無理やり喉から胃に押し込み、
  テーブルの上のコップに入った水で流し込んで、
  少し……以上に色のついた感想を述べようとした。

 

  「いや、意外にうまかt……」

 
 

  「口に合わない?」

 
 

  「え、いや、そんなことは……」

 

  「やはり質の悪い肉を使ったから……あなたの口には合わない。
  ごめんなさい」

 

  質の悪い肉、ってのが気になるが、
  ここで長門の意見に賛同するというのは男としてというより人としてダメだろう。
  ちゃんと感謝の気持ちを……

 
 
 

  「今すぐ吐き出さないと」

 
 
 

  その言葉と共に口の中に何か異物が押し込められた。

 

  「!!!?」

 

  それが長門の白く細い2本の指だと気付いた時には、
  既に俺の胃の中のものが全て口から出て行った後だった。

 
 
 
 
 
 
 

「ところで長門」

 

「なに」

 

俺の呼びかけに、
横を歩いていたもの静かな少女は素直に返事をした。

 

「俺の護衛、って言ってたが、
やはり何かしら害意をもつ奴がいるのか?」

 

「いる」

 

「具体的には?」

 

「実例を挙げればキリがない。
あなたに害がある存在は多い」

 

何てこった。
いつの間に俺はそんな恨まれるような人間になったんだ?

 

「大丈夫。全て身の程を過ぎた連中。
私が駆逐する」

 

「それはありがたいな」

 

『駆逐』は言いすぎだと思うが、
頼もしいのは確かだ。
ハルヒの不在に対する不安が無いといえば嘘になるが、
とりあえず我が身の安全は確実だろう。

 

「ところで、その護衛はどうやってやるんだ?」

 

まさか四六時中守ってもらうわけにも……

 

「私があなたの家であなたと寝食を共にする」

 

「ぶっ!?」

 

しれっと凄いことを言う長門。

 

「あなたをあらゆる害虫から守るために、
お互い3メートル以内に……」

 

「いや、ありがたい申し出だとは思うんだが、
それはマズイだろ」

 

「なぜ?」

 

1+1が2になることが分からないような顔で尋ねる長門。
上目遣いが大変心地いいのだが、
言うべきことは言わねばなるまい。

 

「いくらお前が宇宙にいる情報何とか体に作られた……」

 

「情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス」

 

「そう、そのインターフェイスだとしてもだ……
今のお前は誰がどう見ても世間一般で言うところの女子高生だろ?」

 

何だったら『物静か』とか『可愛らしい』とか形容詞をつけてやってもいいぞ。

 

「そんな女子高生と健全な男子が一つ屋根の下で、
生活を共にするのは非常にまずいだろ」

 

本当に『健全』なだけならそんな心配はないのだが、
『健全な男子』となると話は別だ。

 

「問題ない」

 

「俺があるんだよ。
そもそも家族にどうやって説明……」

 

「大丈夫。私とあなたは一緒にご飯を食べた仲」

 

本当に何でもないように答える長門。

 

「あなたを守るために必要」

 

「いや、しかし……」

 

「二人の感覚が1メートル開くごとにつれ、
危険性が……」

 
 
 

マシンガンよりも早く言葉をつむぐ長門を、
何とか説得した俺は、一人我が家に帰った頃には、
1日のエネルギーをほとんど使い果たしていた……

 
 
 
 
 
 

  「げぇ……うっく、げほ……」

 

  焼き尽くさんばかりの酸味を喉に感じながら、
  俺は突然の長門の行動に頭が回らず、ただ混乱するばかりだった。

 

  「ごめんなさい」

 

  「な、なが……と?」

 
 

  「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 
 

  まるでうわ言の様に繰り返す長門は、
  先ほどまで俺の目の前においてあった食器を持つと、
  まるで親の仇の様に中身ごとゴミ箱に投げつけた。

 
 

  「やはりこのメス豚、メス豚ではあなたの口に、彼に、かれ、
  どこまで、ぶた、迷惑かけるつもり豚、ブタ、メス豚が、
  口にあわ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 
 

  何事かをつぶやきながら、台所に向かっていく長門。

 

  豚?豚肉だったか?
  あんな奇妙な味の?
  いや、それより豚肉で親子丼?
  卵は?

 

  もはや正常に働かない頭と、
  影を縫われたように動かない体を奮い立たせ、
  俺は長門のあとを追って台所であろう場所に向った。

 
 

  そして……

 
 
 

  「なんだ……これ……」

 
 
 

  「あなたの口に合わない料理を提供してしまった。
  この質の悪い『豚肉』は今から全て廃棄するから許して欲しい」

 
 
 

  そう言って赤く染まったエプロンをかけた長門が持っていたポリバケツから、
  黄色いリボンがはみ出ていた……

 
 
 
 
 

「ふぅ……」

 

風呂から上がり、
自室のベッドに腰掛けた俺は、
訳も無くため息をついた。

 

どうやら突然のハルヒの失踪に対し、
我ながら思った以上に心配になっているらしい。

 

「ハルヒの奴、どこに行っちまったんだ?」

 

最後にハルヒと話した時のことを思い出しながら、
俺は一人考えていた。

 

何の変哲も無い会話。
珍しく他の面子がいないから、
静かに過ごしてたら、ハルヒが突然お茶を入れてあげる、とか言い出して……

 

「あれ?」

 

そこで俺は奇妙なことに気付く。

 

ハルヒがいつもの朝比奈さんの仕事をしだした後の記憶が無い。
確かあの日のことは岡部や古泉に話したはずだが……

 

いや、そもそもお茶が云々といった話はしただろうか?
何か別のことを……

 

「とりあえず、古泉に聞いてみるか」

 

そう結論付けた俺は、
机に置きっぱなしにしていたケータイを手に取り……

 
 

「〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜♪」

 
 

まるで俺の行動を先読みしたかのように、
その電子機器は着信音を鳴らし始めた。

 

驚きながらもディスプレイを見ると、
そこには頼れる文学少女の名前が表示されていた。

 

「もしもし?」

 

『どうしたの?』

 

「どうしたの、って……お前が電話をかけてきたんだろ?」

 

それとも宇宙的な力を使って、
俺の行動を監視してるのか?
もしそうならいろいろと自粛せねばならんのだが……

 

『そう』

 

「で、何の用なんだ?」

 

『……』

 

電話口から3点リーダが流れてくる。
正確には、長門が受話音量を大きくしているせいか、
俺の声が反射でもして聞こえているのだが。

 

「……長門?」

 

余りに沈黙が長いので、
不安になった俺は名前を読んでみた。

 

『なに?』

 

「いや、だから一体何かあったのか?
電話してくるなんて……」

 

『私はあなたの護衛をしている。
離れているとはいえ、あなたの身の安全を確認する必要がある』

 

要するに無事かどうかの確認ってことか。
声だけでも分かるのだろうか。

 

「そうか、それはありがたい。
俺ならこの通り何の問題もないぞ」

 

『そう……』

 

電話口から分かるのかは疑わしいが、
とりあえず俺はそう答え、長門もそう答えた。

 

『もう夜遅い。あなたは寝るべき』

 

「そうだな。
じゃあ、俺はこの後古泉に電話してから寝るよ」

 

『わかった。おやすみ……』

 

「あぁ、お休み」

 

まるで恋人の様な会話で締めくくり、
俺は電話を切った。

 
 

そしてすぐさま古泉にケータイに電話をかける。
充電はまだまだ持ちそうだ。

 

「……」

 

呼び出し音はなるが、
一向に出る気配がない。
なんだ、風呂でも入ってんのか?

 

『……もしもし?』

 

「古泉か?」

 

『その声は……』

 

何を驚いてるんだ?
お前のケータイは相手の電話番号も表示されないような、
旧式なのか?

 

『いえ、今あなたの携帯に連絡をしていたところなのですが……』

 

「そうなのか?
長門と話してたから気付かなかった」

 

『今どちらに?』

 

「もちろん我が家の自室のベッドの上だ」

 

俺の至極簡単な答えに、
何やら電話の向こうで考え込んでいる古泉。

 

『すみませんが……今僕の携帯にはどちらからおかけになっていますか?』

 

「は?」

 

一体何を言い出すかと思えば……
自分のケータイに決まってるだろう。

 
 

そう答えた俺に、
電話の向こうのエスパー少年はありえないことを言ってきた。

 
 
 

『残念ながら、僕の携帯には見たこともない番号が表示されてるんですよ』

 
 
 

「何だと?」

 

『何なら今表示されている番号を言ってみましょうか?』

 

そうして古泉が口にした電話番号は、
確かに俺のものとは大きくかけ離れていた。

 

「どういうことだ?」

 

『僕にも分かりません。
何者かが入れ替えたとしか……
こちらもあなたに直接連絡がつかなくて困っていたところですよ』

 

「だが、長門はさっき電話をかけてきたぞ?」

 

『その長門さんですが、先ほど機関が調べたとこr……』

 
 
 

グシャッ

 
 
 

不意に古泉の声が、
何かを粉砕する音でかき消されたかと思うと、
俺が持っていたはずのケータイの上半分が、
背後から伸びてきた細い腕に握りつぶされたいた。

 
 
 

「もう寝る時間」

 
 
 

その声が聞こえると同時に、
俺の視界は闇色に染められていた。

 
 
 
 
 

彼とこの二人の愛の巣に引っ越してから1週間が経過した。
愛する人と過ごす時間は短く感じるというが、
どうやら本当のようだ。

 

それにしてもせっかく用意した二人だけの携帯電話の番号を、
古泉一樹に教えてしまうなんて……
彼の部屋の物置に私が控えていたから良かったものの、
やはり彼は少し危機管理能力に難がある。

 
 

でもこの情報空間なら誰にも邪魔されることはない。
二人だけの秘密の部屋。

 
 
 

「今日の晩御飯」

 

私はそう言って彼に手作り料理を差し出す。
今日のメニューは雌牛の炒め物。
材料の調達に手間が掛かったけど、
その分いろんな『食材』が手に入った。

 

「……ここから出してくれ」

 

「充分な量があるから、おかわりもできる」

 

彼は自分で食器を使って食事をするよりも、
私の手で食べさせてもらう方が良いらしい。
意外と子供っぽいが、それもまた彼の魅力。

 

「充分な、量?ま、さか……また……」

 

だから、私はいつものように彼にご飯を食べさせる。
ほら、あーん……

 

「やめ゛……」

 

私の手ごと料理を口にする彼は、
両腕で私の腕を掴み感謝の気持ちを表してくれる。
今日の料理を気に入ってくれたのか、
彼はいつもより力強く握っていた。
あまり強く引かれると手が口の外に出てしまうけれど、
彼はもっと食べたいからそうしているのだろう。
うれしい……明日もこの材料を使ってあげよう。

 

そんなことを考えながら、手についた彼の唾液と歯型をキレイに舐め取った私は、
彼の胃を満たすために新たな肉片を掴んでいた。

 
 

それにしてもホームシックなのか、
彼は最近ここから出たがっている。
私の美味しい手料理を毎日5回も食べられるのに、
何がそんなに不満なのだろうか……

 

あぁ、そうか……
きっと彼は私と食材の調達に行きたがっているのだ。
だから外に出たがっているに違いない。
私としたことが、そんな二人の共同作業の計画を見落としていたなんて……うかつ。

 

次からは彼にもいろいろ手伝ってもらおう。
そうしよう、それがいい。そうだ。

 

「……ッ!?」

 

不意に手に刺激を感じる。
どうやら掴んだ肉片が大きすぎて、
彼の歯が私の手の甲に触れているようだ。

 

「ごめんなさい」

 

そう言って私は彼の食事の邪魔になっているものを取り除く。

 

「―――!!?」

 

そんな私の厚意に感動したのか、
彼が涙を流しながら顔を揺らす。
嬉しいのだけれど、そのたびに手のひらや甲に彼の歯が当たる。

 

仕方ない。
邪魔になるから全部取ってあげよう。
もちろん1本ずつ丁寧に……

 
 
 

作業を終えた私は、更に彼の食事のお手伝いをする。
彼の口に手づかみで料理を入れ、
喉に流し込んだ後、手についた唾液や血液を舐めとり、
また料理を掴み……

 

でもここまで涙を流して感動されると、
作り甲斐があるし、大変喜ばしい。
私を喜ばせようとしてくれるなんて本当に彼は優しい人間だ。

 
 

だから、これからも私は永遠に彼の世話をしてあげよう。

 
 

きっと彼もそう望んでいる。

 
 

私はそう思いながら私の作った料理を涙を流しながら美味しそうに食べる彼を見て、
次の献立を考えることにした……

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:47 (2705d)