作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと演劇
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-05-25 (金) 22:10:41

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

暦の上ではまだ春だというのに、
天気予報では夏日となったある休日。
団長の勅命により本日は迷惑な探索がなくなったので、
俺は朝から惰眠をむさぼるつもりだった。

 

しかし、そんな俺の目論見は、
安眠している人間を永眠させんばかりの、
妹スペシャル大車輪山嵐フライングボディープレスによって、
あっさりと諦めざるを得なかった……

 
 
 

「ふぇ、ひょんふん〜ひょおふぁふぉふぉふぁひふぁふぁふぃふぉ?」

 

ジャムをふんだんに塗りたくったトーストを食べながら、
妹が何事かを聞いてきた。

 

「口に物が入ってるのに喋っちゃいけません」

 

「ふぁ〜い。んぐんぐ……んっくん。
これでいい〜?」

 

「あぁ、いいぞ。で、なんだ?」

 

赤いジャムで口の周りを化粧したまま、
妹はおそらく先ほどと同じ質問をする。

 

「ねぇ、きょんくん〜きょうはどこかいかないの?」

 

「ん?今日か?別にどこに行くあてもないが……」

 

「じゃあ、ひきこもりだね」

 

「ぶッ!?」

 

おい、それは言いすぎじゃないか?
というか『引き篭もり』なんて言葉どこで……

 

「きのうミヨキチがいってたよ。
『一日中お家の中にいるのは引き篭もりさんよ』だって」

 

おそらく妹は親友の口調を真似たつもりだろうが、
雰囲気がまったく違うのでイマイチ光景は浮かばない。
それにしても、小学生がする会話なのか?

 

「え〜とだな、『引き篭もり』は毎日家の中にいる人のことだ。
お兄ちゃんは普段は学校に行ってるだろ?だから違うぞ。
でも休みの日くらいはだな〜家で1日……」

 

「うだうだうるさいぞ〜、このひきこもりやろう」

 

「!?」

 

「ん?な〜に、きょんくん?
あたしのかおになんかついてる?」

 

あれ?今のは空耳か?
物凄く妹によく似た声で、
思いっきり罵られたような気がするんだが……

 

「きょんくんつかれてるんだよ」

 

「そ、そうか?」

 

「うん。きばらしにさんぽでもいってきたら、ヒッk……きょんくん♪」

 

あれ!?名前を呼ばれる前に何か聞こえたぞ?
というか『ヒッキー』って言おうとしなかったか?

 

「しゃっくりだよ〜、ひっく、ひっく……」

 

「そそ、そうだよな……
うん、なんか疲れてるみたいだな。
ちょっと散歩行ってくるわ……」

 

「いってらっさ〜い」

 

このまま家にいると、
さらにとんでもない空耳が聞こえそうだった俺は、
逃げるように我が家を後にした……

 
 
 
 

さて、散歩というものは着の身着のままで出来るという点から、
非常にやりやすい運動といえる。
しかも今日の様な太陽が輝き、気温も高い日には、
程よく汗もかくし、帰ってシャワーを浴びれば気持ちよく昼寝が出来るとあって、
中々の時間つぶしといえるだろう。

 

というわけで、俺は近所の公園をぶらついていた。
親子連れや、犬の散歩など、休日だけあって多種多様な……

 
 

「こんにちは……」

 
 

「うわ!?」

 

背後から声をかけられて俺は一気に背筋が冷えた。

 

「こんなところで奇遇ね……」

 

「な、長門?」

 

俺の背後にいたのは、
紛れもなく我らが万能宇宙人だった。
珍しく涼しげなワンピースを着て、
小さな鞄を持っている……のだが、どうにも様子がおかしい。

 

「今日はいい天気……ね……」

 

そう言ってぎこちなく空を見上げるポーズをする長門。
何だろう……違和感は感じるのだが、
前にもこんな長門を一度ならず見たような……

 

「お日様ぽっかぽかで、気持ちいい、なー……」

 

この棒読みっぷりや、ぎくしゃくっぷりは、
映画撮影や阪中家のルソーを治してやったときに見たような……

 

その時、ふと長門の鞄に目をやった俺は、
異様なものを目撃した。

 

「……」

 

これは俺の3点リーダだ。
ちなみに長門は今も何やら棒読みで喋っている。

 

「なぁ、長門……」

 

「何だか歌いだしt……なに?」

 

「それ、なんだ?」

 

俺が指差す方……空いた鞄からはみ出ている丸められた薄緑色の冊子を見て、
長門は小さくこぼした。

 
 

「……あ」

 
 

一部隠れていたが、その冊子にははっきりと、
『台本』と書かれていた……

 
 
 
 

「これは……」

 

俺に分かる程度に慌てる長門。
どうやら本人は今まで演技をしていたようだ。
だが、誰がこの大こn……ちょっと演技が苦手な女の子を
主演女優にしたのだろう。

 

「また、ハルヒの悪巧みか?」

 

「違う……」

 

「じゃあ、一体だr……」

 

その時、背後から別の声が聞こえてきた……

 
 
 

「あら、長門さんじゃないですか」

 
 
 

「!?」

 

その声に今度こそ危機感を感じた俺は、
勢いよく振り返る。

 
 

「喜緑さん!?」

 
 

突如現れた先輩に思わず驚きの声をあげる俺。
というかなんだかこの人も様子が……

 

「あらあら、横にいるのは長門有希ちゃんの憧れの男性、
キョン君じゃありませんか?」

 

「はぁ!?」

 

いきなりの謎の言葉に、
思考がストライキを決めこもうとする。

 

そんな俺の横で、更に慌てた様子の長門が、
目の前のおかしなワカメさんに口出しする。

 

「そんなセリフは無かt」

 

「あら?長門さん、なんですか?
なんだかいつもよりおめかししてるようですけど……」

 

「ち、違う。これはあなたが無理やり……」

 

あくまで学芸会の様な芝居を続ける謎の上級生は、
更に意味の分からないことを言い出した。

 
 

「えぇ!?今からキョン君と二人でデートですか!?」

 
 

「へ!?ちょ、喜緑さん、何を……」

 

「そうですか、今日は夜まで帰らないから、
部屋の留守番お願いします、ということですね?」

 

「そ、そんなこと言ってn」

 

完全に動揺を隠せない長門。
そんな無口少女の反応を楽しむように、
にこやかな生徒会役員は言葉を続けた。

 
 
 

「わかりました、どうぞ楽しんできてくださいね……」

 
 
 

そう言って、呆然とする俺たちをよそに、
悠然と喜緑さんは帰っていった……

 
 
 
 
 

「……で、今のは何だったんだ?長門」

 

「……」

 

俺の質問に困ったように顔を伏せる長門。
しかし、諦めたように鞄から例の薄緑色の冊子を取り出して、
俺に差し出し、こう言った。

 

「わからない。ただ、昨日喜緑江美里が……」

 
 

少し泣きそうな様子で長門が白状したところによると、
昨夜部屋で一人で晩御飯を食べていると、
喜緑さんから連絡があったらしい。

 

何でも、『明日演劇をしませんか』という内容で、
何のことか分からないうちに、台本と衣装を渡され、
先ほど連絡があったとおりに、ここで待っていたそうだ。

 

「彼女は、あなたも演じてくれる、と言った……」

 

上目遣いでそう呟かれても、
俺としては見に覚えが無いのだが……

 

「でも、ここに……」

 

そう言って、手元の台本を見せる長門。
その『喜緑江美里プロデュース 楽しい演劇 台本』には、
何故かしっかりと俺の名前が主演男優の欄に刻印されていた。

 

「……なんで俺が?」

 

「彼女は『泣いて私に出演させてくださいと請いに来ましたよ』と言っていた」

 

何故俺がそんなことをせねばならんのだ。
というか言いたい放題だな、あの人……

 

「でも、何故か途中から台本にない事を……」

 

「ちょっとその台本見せてくれないか?」

 

小さく頷いて俺に小冊子を渡す長門。
それを受け取ってページをめくってみると、
そこにはごく平凡な日常会話が並んでいるだけだった。
少なくとも先ほどのおかしなセリフはどこにも無い。

 
 

そこで俺はようやく確信を持って、
ある結論に至った。

 
 

「なぁ、長門……」

 

「なに?」

 

「お前もしかして……」

 

「?」

 

怪訝な顔つきで俺のほうを見る長門。
そんな文学少女に、俺は思い至ったことをそのまま口に出してみた。

 
 
 

「喜緑さんに謀られたんじゃないのか?」

 
 
 

「!!?」

 

俺の一言に分かりやすくショックを受ける長門。
というかなんだ?
お前はその可能性に気付かなかったのか?

 

「まさか……」

 

いや、まさかでなくて。

 

「そんな……」

 

そんなでもない。

 
 

そんな感じで丸々10分ほど、
長門は呆然としていた……

 
 
 
 

「まぁ、その、なんだ……」

 

「……?」

 

ようやくショックから立ち直った長門に、
俺は自分が悪いわけでもないのに、
罪滅ぼしのようにこう言った。

 

「騙されたとはいえ、せっかくこんな下手な寸劇したんだ。
どうせなら最後までやらないか?」

 

「最後、まで?」

 

きょとんとする少女に、
先ほどの上級生の『セリフ』を思い出しながら、
俺は提案を述べた……

 
 
 

「ほら、デート……とまではいかんだろうが、
一緒に歩くくらいはしないか?
飯くらいなら奢ってやるし……」

 
 

「!!」

 
 
 

俺の提案に明らかな喜色の色を見せる長門。
どうやら『奢り』という言葉に反応したらしい。
いや、それともまさか……

 

いやいや、そんな自意識過剰はよくないぞ、俺。

 

「イヤならいいんだが……」

 

「行く」

 

「そ、そうか?じゃあ、どこに食いに……」

 

さっそく希望を聞こうとする俺の言葉を遮って、
長門はこう答えた。

 
 

「食事はいい……」

 
 

「へ?じゃあ、一体……」

 
 

疑問詞を頭に浮かべる俺に、
小柄で物静かな少女は少し笑いながら口を開いた。

 
 
 

「あなたとデートがしたい……」

 
 
 

先ほどのぎこちなさも無く、
長門ははっきりとそう言った……

 
 
 

結局、その日は二人とも夜遅くに帰ることとなったのはまた別の話。

 
 
 
 

P.S.

 

後日、部室で長門と二人と、
不意に扉がノックされた。

 

「?開いてますよ?」

 

その俺の答えに呼応するように、
ドアがゆっくり開くと……

 

「こんにちは」

 

「!?喜緑さん!?一体何の用で……」

 

「実はこの間の『演劇』の続きの台本が出来まして……」

 

視界の隅であの日のことを思い出して、
長門が恥ずかしそうに少しだけ俯く。

 

俺も同じ気持ちなので、お引取り願うつもりで答える。

 

「もうそれはご遠慮願いたいんですが……」

 

「あら、そうですか?でも折角ですから目を通すだけでも……」

 

「は、はぁ……」

 

まぁ、それでこの人の気が済むならいいだろう。
そう思った俺は台本を受け取りページをめくった。
どうやら長門も興味あるらしく、横から覗いてくる。

 
 

数分後……

 
 

「あ、あの〜喜緑さん?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「これは一体……」

 
 

長門の顔があり得ないほど赤くなっている。
おそらく俺も同じだろう。
なぜならそこには、どこかで見た……いや、体験したような、
ラブロマンスが綴られていたからだ。
というかこれ、あの日の……

 
 

「ふふ、私言いましたよ?
この間の『続き』だって……」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:45 (2735d)