作品

概要

作者江戸小僧
作品名<Kyon the unlucky man> Trouble is my business
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-05-16 (水) 23:14:29

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

(注:原作設定とはかなり違います)

 
 
 

― 男は、タフでなければ生きてゆけない
  優しくなければ、生きてゆく資格がない ―

 

「そうよ! こんな性格だったらきっと……」

 
 
 

 俺の朝は一杯のコーヒーから始まる。
 深く炒った豆を細かく砕き、それを布で漉す。お湯は煮えたぎるほどに熱くしておかなくてはいけない。
 紅茶の時は沸騰させ過ぎると良くないらしいが、プール付きの屋敷に住む身分ではない俺が淹れるコーヒーにそんな繊細な淹れかたは似合わない。俺の脳細胞を叩き起こすためには、この淹れ方が一番だ。
 脳細胞を叩き起こすには理由がある。なぜだかわからないが、自分の事がうまく思い出せないでいる。そのくせ、何をやるべきかは分かっていた。一体俺はどうなって……
 いや、もうよそう。部屋の中でただ考えいても答は出ない。知りたければ、行動するのだ。時は待ってくれない。
 今やるべきこと。それは、女を捜すことだ。理由はわからない。だが、これは必ずしなくてはいけないのだ。見つけて、言わなくてはいけないことがある。
 俺は、部屋を出て朝から廊下で騒がしい音を出す母娘らしき2人連れを遠目に眺めながら仕事用デスクのある建物へと向かうことにした。
 まだ夏には遠い筈だが、太陽は坂道を徒歩で上る俺を蔑むように熱気を浴びせてくる。
 俺がその古ぼけた建物に着いたのは、ほぼ予定の時間通りだった。
 タイルがところどころ剥げた階段を昇り廊下沿いに並んだドアの1つを開ける。
 結構な広さの部屋だが、残念ながら俺の専用個室ではない。だが、ここにかろうじて俺のスペースが確保されている。
 俺のスペースの隣、というより後ろというべきスペースを占有している女が、俺を黙って見つめていた。肩の辺りまである黒髪と、それを留める黄色の髪留めが特徴のある女だ。
 バーのカウンターで笑顔を浮かべていれば、大抵の男は声をかけるだろう。
 しかし、今その大きな瞳に宿る炎は男の心を焦がす輝きではなく、暴力と死を連想させる暗い色を帯びていた。それが、じっと俺に注がれている。
 この地では他人にいちいち怯えていては生きていけない。こんな場末にも表向き民主主義はあるが、それは単なる見せかけだ。力の序列という大きな現実に呑み込まれた理想には夜道を照らすマッチほどの効果すらないのだ。
 俺は女を無視して俺のスペースに入る。何か言いたいことがあるなら待っていれば向こうから動き出すだろう。自分から厄介ごとに首を突っ込む必要はない。特に、美人と言われる類の女に対しては。
 尤も、往々にして厄介ごとこそが俺の仕事となるんだが。
 そんな事を考えていると、早起きをしたせいかこの陽気のせいか、意識が徐々に遠くなっていく。まあ、いいだろう。誰かが俺に用があれば起こしに来るに違いない。

 

 気が付くと、周りがどうも騒がしい。時計を見ると、昼を指していた。人を捜すには好都合な時間だ。
 部屋の中にいる数人が俺に目を向けていたが、気にせずに部屋を出る。
 俺は古びた建物を出ると、少し歩いて更に古ぼけた建物の入り口を潜った。使い古された木の匂いや紙の匂いが漂ってくる。
 俺の本能が、上だと告げていた。
 埃の目立つ階段を昇ってみると、この建物も廊下の片側に部屋が並んでいる。すぐ目の前の部屋に、俺の本能が反応していた。
 部屋の上にはプレートがあるが、それに引っ掛けるように何か紙がぶら下がっていた。
 俺は、ゆっくりとノブを回した。鍵はかかっていない。
 その部屋は、ショーの楽屋と会計士の事務所を一緒にしたように混雑していた。
 統一感のない女物の衣装のかかったハンガー、呪いにでも使いそうなよくわからない装飾品、隙間なく本で埋められた特大の本棚、窓を背にしたデスク。
 そして、部屋の中央に置かれた質素なテーブルの上には、本が1冊。小さく薄い本で、日陰がどうとかいうタイトルのようだ。
 俺は、改めてゆっくりと部屋を見回した。しかし、人がいた証拠は他に何もなかった。

 

「ちょっと。朝からの態度、一体どういうつもりよ!」
 目の前の女が口を大きく開けていた。
 昼下がり、建物の陰にある木製のスツールに腰を落ち着けて昼飯代わりのコーヒーを口に含んでいた時だ。
 同じ部屋にいた黄色の髪留めをした女がいきなり現れ、俺の同意を求めることもなく俺の前に立ちはだかった。
 人目を引く女というのは、自分の行動の良し悪しを熟慮する能力に欠けるらしい。
「あんた、昨日誰とどこ行ってたのよ? いくら電話しても出ようともしないで。さ、素直に吐きなさい」
 俺は、池で遊ぶアヒルのように口を曲げる女の顔をじっと見つめた。
「そんな昔の事は覚えていない」
 女の眉が跳ね上がる。口で笑いながら目で怒るとは器用なものだ。
「そう……今日の団活の議題が今決まったわ。いいわね、キョン。掃除当番が終わり次第全速力で来るのよ。逃げたりしたら承知しないから」
「そんな先の事はわからない」
 ここで俺は、過ちを犯した。女から目を離すべきではなかったのだ。
 少しぬるくなった手元のコーヒーに目を移した俺に、下から跳ね上がった棒状のものが襲い掛かった。

 

 気が付いた時には、足音が近づいていた。
 俺の頭上に影が立つ。
「授業までサボって、こんなところにいらっしゃったんですか。全く、涼宮さんの機嫌は今や最悪です」
 ゆっくりと体を起こし、そいつの前に立つ。俺よりも背が高い長髪の男だった。それが習い性なのか、仮面のような薄笑いを顔に貼り付けている。金貸しに良くいるタイプだ。
「俺が昼寝をしたからって、世界は止まらないぜ」
「僕のバイトをこれ以上増やさないでください」
「商売繁盛、羨ましい限りだ」
 俺のような男は1日脚を棒にして、やっとコイン1枚を手に入れるのだ。それが、下げたくない時には誰にも頭を下げない俺の生き方だ。
「ふざけてるんですか? 暇潰しで厄介事を引き起こすというなら、僕だって怒りますよ」
 俺は張り付いた笑顔が壊れつつある男をまっすぐ見つめた。
 勝つ自信がある訳でもなく、喧嘩が好きってこともない。しかし、身に覚えがないことと俺のルールに合わないことに頷くのは負け犬だ。それは俺の生き方ではなかった。
「厄介事は、俺のビジネスだ」
 俺の商売は花の香りが漂う場所でケーキを食べていても進まないのだ。自分からドブに浸かるような真似をして、初めて手掛かりが掴めることもある。
「何ですか、それは? さあ、とにかく早く行きましょう」
 男が俺の右手を握ろうとするのを打ち払う。
「男の右手を気安く触るもんじゃないぜ。お兄さん」
 男はもう一度手を差し出しかけ、俺の目を見つめてそれを引っ込めた。
「どうしてしまったんですか、あなたは。これはもう長門さんに…」
 長身の男は肩を落として頭を振りながら立ち去った。今日はこの地の誰でもが俺に何か言いたいことがあるようだ。
 いつの間にか、日は天空を移動していた。まもなく、ネオンとアルコールが似合う時間だ。俺も、頭を整理するには一杯やったほうがいいだろう。
 ほの暗い明かりが申し訳程度に中を照らしている建物を出ようとしたところで、俺の行く手を遮る者がいた。
「あなた、面白い事してるのね」
 前髪越しに女の目が俺を見つめていた。その目付きは教会の修道女を思わせるが、奥底には異質なものがありそうだった。
 その女は俺の視線を正面から穏やかに受け止める。目に入る体のラインはすべからく曲線でできているが、案外こいつは芯がありそうだ。違う時に違う出会い方をしていたら、一杯奢る気になったかも知れない。
「でも、ちょっとやりすぎだと思うな」
 歩くに従ってストレートヘアを揺らす女の笑顔も、短いスカートから覗く脚の曲線同様に艶がある。それでいて、どこか心の奥底に鋭く突き刺さるような笑顔だ。
 今日の疲れからか、俺の足が少々安定を欠きだした。
「何の話か知らないが、仕事の依頼なら明日にしてくれ。そうでないなら、店で一杯やりながら聞こうじゃないか」
「そうおっしゃらずに、お付き合いいただけますか」
 声に振り向くと、上品そうな笑顔を浮かべた女が俺の横に立っていた。
 商売柄、普段から気をつけているのに誰かが忍び寄ってきた気配は全く感じられなかった。それにも関わらず、その女はさっきからそこにいたような風情で立っている。
「深夜勤務は断る主義だ」
 その女の背は俺の前から迫る女ほどは高くなく、ウエーブのかかった緑色に輝く髪が柔らかくその卵型の整った顔を包み込んでいる。こんな薄汚い建物にいるよりも着飾って舞踏会にでもいる方が似合うタイプの女だった。
 深窓の令嬢。髪を海草のように飾りたてた、社交界デビュー前のお嬢様といったところか。
 正面から俺を見つめている眉の太い女が右手を背中に回しながら言葉を挟む。
「うん、それ無理。こうなったら独断で――」
「短気はいけませんよ。話せばわかっていただけます」
 どうやら男は女に従うものだと信じ込んでいるらしい。
「若布は味噌汁の中だけで十分だぜ」
 横の女が瞬時に顔を振り向けた。
「あら、それは今のあなたが考えた即興の冗談ですか。それとも、本当のトラブルを抱え込みたいんですか」
 そこには言葉に似合わない涼しげな笑顔。
 西日で空気が暖められていたのか、俺の額からは汗が流れつつあった。
「トラブルは、俺の――」
 いや、今日はこの冗談を言い過ぎたようだ。
「どうぞ続きを。あなたが後悔しないで済む事をお祈りします」
「後悔ならこれまでもしてきた。今更少しばかり増えてもたいしたことじゃないぜ」
 目の前の女の目が細められた。口が何かを呟きだす。
「喜緑江美里。それは許さない」
 今度は後から澄んだ声が響いた。

 

 そこにいたのは、これまでの2人とは違う意味で目を見張る女だった。自然が作り出せそうにないほどの純白の肌、黒く大きな瞳。不揃いに短くした色の薄い髪は一見地味なようでいて、実はとても良く似合っていた。
 その細身の体は随分む……む……、まあいい。俺は、探し物を見つけたのだ。一目で、その事には確信を持った。
 意識せずに言葉が口からでていた。
「捜したぜ、俺の天使君」
 短髪の女は感情を見せずに硬質の瞳で俺を射抜こうとする。
「私もあなたに会いたかった」
 なぜ俺が昨日の事も思い出せないのか、なぜこの女を捜す必要があったのか、まるで分かっているような口ぶりだった。
「それは光栄だな。天使君」
「あなたが天使と呼称する存在は私ではない」
 どうやらこの言葉は使い古されているらしい。俺は、この女を連れてここを無事に出る方法を考え始めていた。
 俺が足を動かす前に、短髪の女が再び口を開く。
「今のあなたは本来のあなたではない。局所的な改変だったので、古泉一樹の報告があるまで気が付かなかった」
 何を言っているのか、正直なところ意味不明だ。しかし、俺の本能はこの滑らかな肌の女を信頼するべきだと訴えていた。
「話は後でゆっくり聞こう。今は、先にすることがある」
 女は俺の言葉が聞こえなかったかのように喋り続けた。
「涼宮ハルヒは先週土曜日にハードボイルドと呼ばれるジャンルの小説を読み、更にその後同ジャンルの映画をDVDで3本視聴した結果としてあなたにハードボイルドな人格を期待した。それが、今のあなた。本来のあなたではない。信じて」
「俺は自分のモラルに従って生きている。誰かにアドバイスされた事はない。これからもされる気はない」
 短髪が揺れた。女が僅かに顔を下向けたのだ。俺のように相手の動きに注意深くないと気が付かない程度の動作だが、まるで家族の病を深く悲しんでいるような印象を俺に与えた。
「あなたを守ると約束した。本当のあなたを」
 突然後から突進してくるする女を気配で感じ、俺は何かを握った右腕を素早く繰り出そうとする女をサイドステップでかわそうと――

 

 ここはどこだ……長門?
「もう大丈夫」
 正面に長門の顔がアップで見えた。メタルブラックの瞳に、俺の顔が映っている。
 俺はとりあえず顔を動かしてみた。どうやらいつのまにか、長門の家の例の和室に寝かされていたらしい。
 えーと。何がどうなってんだ?
「涼宮ハルヒは先週土曜日…
…喜緑江美里達と協力してあなたを確保、修正。あなたは体調不良で今日の午後早退したことになっている。後処理は古泉一樹が担当」
 そうか。こりゃ俺にも少し責任があるな。俺は、土曜日の午後、ハルヒと2人の組になった不思議探索の事を思い出していた。
 何を考えてんのか相変わらずわからんが、急に図書館に行くと言い出したのだ。で、図書館に着くと「有希と一緒の時はここに来るんでしょ。あんた、ホントに本読んでるの?」とか言い出して俺がどういう本を選ぶか、猫がチョウの飛ぶ様を見るようにじっと観察し始めたのだ。俺はとりあえず文庫のコーナーで黄色い王がどうとかいう話が入っている推理小説っぽい短編集を手に取ってみたんだが、あいつはそれを取り上げるとさっさと自分が借りる手続きをしやがった。団員の意識調査とか言ってたが、きっとあれが、ハードボイルドに興味を持つきっかけになっちまったんだ。
 やれやれ。いつもありがとよ、長門。
「いい。すぐに気付かなかったのは私の責任」
 俺は今日ずっと何をやってたんだろうな。何か、とても大事なものを追いかけてたような気がするんだが、それがなんだったかうまく思い出せねえ。でも、見つけた筈なんだ。
「……そう」
 長門の口元がほころんだように見えたのは俺の錯覚だろうか。
 ところで、なぜか心に強く引っかかってるんだが、俺、何か喜緑さんを怒らせるようなことをしてないか?
「問題ない」
 それと、意識を失う前に何か懐かしいような、とてもおっかいないような何かを見た気がするんだが。
「……」
 まあいいさ。親が心配しないうちに帰るよ。あ、悪いがトイレ借りるぞ。
「待って、今は」
「あー気持ちよかったー やっぱり有機構造体がないとお風呂は味わえないもんね。あら、長門さん、そこにいるの?」

 

      −to be continued?−

 
 
 

引用した作品;
「事件屋稼業」「マルタの鷹」「カサブランカ」などなど・・・

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:44 (3085d)