作品

概要

作者スレ職人有志
作品名題名のない物語 (βルート/完結)
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-05-13 (日) 17:30:14

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

 長門は思い出す。
 生み出されてからの三年と、その後に積み重ねられてきたものたちを。
 初めに孤独があり、次に同胞との時間を経て、やがて彼らがいた。
 それからは未知の刺激で溢れていた。
 すべては鮮明に残っているもの、渡したくはないと思えるもの。
 理由は解らないが、そうしていいものだと長門は思う。
 未来は己を信じて為したことで作られるもの、信じるのはかつて得たものたちだ。
 だけどそれを気付かせてくれた、自分を受け入れてくれた「彼ら」は、もう、いなくなる。

 

『 いつまでもこうしていたいと思いつつ
  もしも心がざわめいたら
  そのときどうしていられるだろうか―― 』

 
 

 パイプ椅子に座る長門は、膝に乗せた本に視線を落としていた。
 放課後の部室、誰もいない空間はひたすら静かだった。
 しかし長門の目は、文字を見ているが追うことはせず、
「……」
 思考は一つの事象を何度も浮かべ続ける。それは先日届いた、思念体からのある命令。
 ……やらなければならないこと。
 内容はさほど難しいことではなかった。長門の性能なら充分可能なことだ。
 思念体もそれを解っているから任せたのだろう。
 だがそれを実行することを考えると、原因不明のノイズが走る。
 長門は与えられた命令を口の中で復唱した。
「――彼らの記憶から、わたしに関するものをすべて消去する」
 突然の命令。
 理由は知らされていないが、推測はできる。
 高校に入ってから、涼宮ハルヒは明らかに変わってきている。
 性格も、能力の弱体化も。
 それらは遠くから観測していた三年間には無く、高校に入ってから、もっと言えば長門とハルヒが直接に接触してからのことだ。
 対象である彼らの精神活動の変化。
 ハルヒの変化の原因は鍵となる彼が多くを占めていることは思念体も解っているはずだ。
 だが、長門がもたらした部分も無視できないのだろう。
 彼女の求める宇宙人。
 あの部屋での長門の役割。それがハルヒの無意識に作用していないとは言い切れない。
 そして、それに追い討ちをかけるかのような長門の暴走。
 思念体は、これ以上の接触は双方にさらなる問題を生み出すと考えたのかもしれない。
 ゆえに再び離れた位置から観察をさせることに決めたのだろう。
 危険を冒してまで近くにいることはない。
 理解できる。今までの観測データからなら充分に判断できる対応だ。
 それでも、口にした言葉がまたノイズを生む。
 あの冬に自分を狂わせた物に近く、けれど嫌な感じはしない。

 

 ……これはなに?
 判断できない。
 なぜこのような反応が出るのか。
 自分は納得しているのではないのか。
 論理的な思考の構築は出来る。
 ……この操作による害は予測上、彼らにも、わたしにも出ない。
 記憶が無くても彼らのこれからの活動に支障は無い。
 自分が集まりから抜けたところで、処置が終わった後の彼らにはそれが当然のこと。
 会ったことのない人間の不在に疑問を持つことは出来ないのだから。
 ならば危惧すべきことは一つも無い。
 これまでのほんの短い時間が無かったことになるだけ。
 彼らの記憶全体から見たら無視できる割合だ。
 それだけ。
 他には何も無いはずなのに、判断不能の情報群が思考に割り込んでくる。
 その情報をなんと呼ぶのか、長門は知らない。
 だが不快ではないとは感じていた。
 と、聞き慣れた軽い音が耳に届いた。
 誰かのノック。それだけで解る。そして数秒たってからドアが開く。
「ん、長門だけか」
 彼だ。
「いつも早いな」
 涼宮ハルヒともっとも近しい人物。
 長門は思考を中断し、少しだけ視線を向け、すぐ本に戻す。
 いつものこと。
 彼も解っている。何も言わずに椅子に座った。
 会話は無い。心地良いと判断できる無言。
 それもつかの間のこと。
 すぐに朝比奈みくるが来て、古泉一樹が来て、涼宮ハルヒが来た。
 いつもの皆。
 一気に部屋がにぎやかになる。
 いつもの音。
 特に決めたわけではないが、それぞれが、それぞれの動きをする。
 男子二人はトランプを始め、涼宮ハルヒは指定席でパソコンをいじり、そんな彼らに朝比奈みくるが茶をいれる。
 いつもの部室。
 変わらない空気が、不意に記憶を呼び覚ます。
 時間にすれば、記憶全体の半分にも満たない、ちっぽけな記録たち。
 しかし思い出すほとんどの風景に彼らは刻まれていた。
 団の結成。
 七夕の短冊。
 白球を打つ音。
 彼らと歩く街中。
 夏の海辺、冬の山。
 空を彩る無数の花火。
 冷たい空気と温かい鍋。
 コンピュータ研との対決。 
 笑い声に包まれている彼ら。
 鮮やかな記憶。
 過去に沈む思考は、小さな音で現在に引き戻された。
 ことん、と控えめな音で目の前のテーブルに置かれたのは、湯気の立つ湯呑み。
「長門さん、どうぞ」
 朝比奈みくる。優しいと判断できる少女。
 何度も見たその笑顔が、またノイズを引き起こす。
「……っ」
 去っていく小さな背。遠退いていく。ノイズがひどくなる。
 焦りに近い何か。
 長門は自分でさえ解らない内に、口をわずかに開いていた。
 息を吸い、しかし掛けるべき言葉は出ない。
 ……何を言う?
 今の彼らに何かを伝えたところで、近いうちに忘れてしまうのに。
 ……違う。わたしが、消す。
 それは、避けようのない規定事項。
 長門がやらずとも他の個体がやるだけで、最後は変わらない。
 さらに思考の乱れは体の制御を一瞬失わさせ、膝から本が滑り落ちた。
 拾おうと首をめぐらすが、
「っと。長門さん、落としましたよ」
 すぐに気が付いた古泉一樹が先に拾ってくれた。
「どうぞ……大丈夫ですか?」
 本を差しだす古泉は、いつもの微笑にわずかな別の表情をにじませていた。
 その向こうでは彼と朝比奈みくるも同じような表情をしている。それらは、
 ……心配、そう判断できる。
 かつて雪山で涼宮ハルヒが見せた表情だった。誰かの身を案ずる人間が浮かべる顔。
 さらに、いつの間にか涼宮ハルヒまでもがこちらを見ていた。
 彼女自身の体調は正常なのに、なぜ表情を歪めているのか。
「ちょっと有希、具合が悪いならそう言ってもいいのよ? 無理しないでね」
 心配されるのは、相手にとって自分がどういう存在にあたっているからか。
 そして気が付いた。彼らと自分は同じだと。
 自分の持つ記憶は、彼らにもある。
 当然の、しかし、重要なこと。
 だから、
「……別に」
 本を受け取り、
「わたしは、だいじょうぶだから」
 だから、わたしは。
 本を受け取る動きに迷いはない。
 だいじょうぶ、ともう一度つぶやき、長門は皆の顔を見回す。
 ……彼らは納得してくれるだろうか。
 解らない。
「まあ、有希がそういうならいいんだけど……本当に大丈夫なのね?」
「本当」
 視線を本に戻す。
 それが『いつもの長門有希』だからだ。
 納得してくれたかは解らないが、部室に表面上の普通が戻る。
 これでいいのだ。
 自分はインターフェイスではなくSOS団の団員なのだから。
 それが、わたしが彼らに出来る最後のこと。
 やがていつもの時間は過ぎ、長門が本を閉じたのを合図に解散となる。
 皆が部室を出て行く。
「あ、忘れ物があったんだった。先に玄関に行ってて!」
 言うが早いか涼宮ハルヒは部室を飛び出していった。
 古泉一樹と朝比奈みくるもそれに続く。

 

 長門は本を棚に戻しながら、いろいろな事を考える。
 小さな願い。叶わなくてもいい。ただ、何かをしようと思った。
「なあ長門、本当に何とも無いんだな?」
 ちら、と視線を彼に向ける。何度か見た硬い表情だ。
「何とも無い」
「……そうか」
 答えながら、一冊の本を取り出す。そこにしおりを挟む。明日には意味がなくなること。それでも。
 彼の前に立ち、
「読んで」
「え?」
 彼は差し出した本を微妙な表情で見ている。
「あー……読めと?」
 うなずく。
「ただの本。あなたに読んで欲しい」
 突然の申し出をどう思うか。解らないが、受け取って欲しい。
「貸すから」
「あ、ああ」
 手渡すとき、わずかに手が触れた。エラー発生。無視する。
 彼はまだ何か言いたそうだったが、長門は部室を後にした。思考に現れたノイズを気のせいだと信じながら。

 
 

 翌朝。通学路を、長門は一人歩く。処置は昨晩のうちにすべて終わっていた。
 そして学校へと続く坂道で見た。
 彼だ。
 長門の横を追い抜き、クラスメイトが彼に声をかけた。
 彼が振り向いた。目が合う。
 だがそれも一瞬のこと。彼は隣に並んだクラスメイトと挨拶の後、また前を見た。
 そうだ。今の彼にとって、長門有希という存在はただの他人だ。
 学校についてからも、朝比奈みくるとすれ違い、古泉一樹の視界に入ったが、どちらも反応は無かった。
 そして放課後の文芸部室。一人だけの時間。不意に長門は知った。今まで感じていたエラーの正体に。
「わたしは――」
 SOS団の品を片付けた部室はまた殺風景な教室に戻っていた。どこにも彼らの面影は残っていない。
 今はそんなものは無かったことになっているのだから。
 だが、と長門は思う。
 彼らは確かにここにいた。その証、たった一つの小さな証拠もある。
 ……わたし。
 もはやこの世界のどこにも存在を許されない記憶。意味の無い情報。
 それでも彼らは、いや、SOS団は確かにあったのだ。
 たとえ自分しか知らなくても。たとえ彼らが忘れてしまっても。
「……この記憶は嘘じゃない」
 そうである限り、決して消えない。消させない。
 彼らがくれたもの。それを守ろう。
「忘れない」
 皆がいたことを。
 つぶやく。誰に対してかは解らない。自分にか、それとも。
「――絶対に、忘れない」
 静かな部屋に小さな声が響く。
 それを聞く者は、誰もいなかった。

 
 

『 わたしは、ここにいる 』

 
 
 
 

 俺は大学進学のため上京することになった。
 一人暮らしのため荷物を整理していると、机の奥になにやら見慣れぬハードカバー。
 何気無しに捲れば押し花の栞がハラリと落ちた。
 俺は……

 
【分岐点】
 ,箸蠅△┐左気北瓩后
 ▲后璽張院璽垢砲弔瓩襦
→栞を調べる。
 
 

「そうだな、大事な栞だったら、本を返した時に怒られちまう。元に戻し……」
 そこで妙な事に気づく。
「返す? そういえば俺、この本どこで借りた? 図書館か?」

 
【分岐点】
 〇圓凌渊餞曚鬚△燭襦
→学校の図書室をあたる。
 そしてそのうちに考える事をやめた 
 
 

 図書館のラベルも貼ってない……借りた覚えは無いが、学校か?
 借りたまま上京するのも後味が悪い。俺は卒業したばかりの母校へ本を返却に行った。

 

「はい、記録ですと、確かに三年前に貸し出してますね」
 ふわふわと海草のように揺れる髪の、おっとりした図書委員長(?)が記録を調べてくれた。
「じゃあ、やっぱり俺が借りたのか。全く覚えてないんだけどなぁ」
「貸し出し人は『朝比奈』さんになっていますが、間違いありませんか?」
「え? 朝比奈さんが?」
 ふむ、やはり俺は借りてなかったのだ。
 あの人の事だ、うっかり俺の荷物に紛れ込ませてしまったという事も考えられる。
 卒業してしまってから2〜3回しか会っていないが、元気にしているだろうか。
 とにかく本は返した。これで心置きなく出発できるというもんだな。発つ鳥後を濁さず、だ。
「あ、栞が挟まっていますね。これはお返しします」
 どうやらあの栞は、後から挟まれたものらしい。俺の物でもないから図書室に寄贈したい所ではあるが……

 
【分岐点】
 …比奈さんに会って渡す。
 ⊆蠍気砲いておく。
→わかめ髪の図書委員長(?)に寄贈する。
 
 

 見たところ普通の栞だ。名前は知らないが、小さく可憐な感じの花が押し花にされている。
 ……どこかで見たか?
 何となくだが、そう思った。いやまあ、栞に世話になったのなんてほとんどないんだけどさ。
 休日は、高校の途中で訳のわからん団を立ち上げたハルヒに振り回されっぱなしだったからな。
 今じゃ馴染んでるが、いきなり引っ張られてきたときは迷惑だったろうな、朝比奈さん、古泉よ。
 ちなみにその団体に、名称はなかった。
 最初はハルヒがSOS団とか名づけたけど、そいつはその日のうちに団長様ご自身の口から却下された。
 詳しい理由は知らないが、何かが違うんだとさ。何がだろうね?
 とにかくこういうものは俺じゃなくて、もっと本が似合うようなやつの手の中が居場所なんだ。
 候補としては国木田、古泉あたりか。いや、何か違うな。
 他、誰かいたような気もするが、思い出せん。
 と、目の前の図書委員長(?)の笑顔が目にとまる。
 わざわざ名前も知らん野郎のために、自分が在学していなかったころの記録まで調べてくれたのだ。
 彼女へのお礼としてなら朝比奈さんだって解ってくれるはずだ。
「いや、いいよ。俺も使わないし、どうぞ」
「まあ」
 なぜ笑いながら驚きますか。
「ふふ、すみません。知らないのですか?」
 何を?
「この花です」
 まあ見たようなそうでもないような気がしないでもないような。
 図書委員長(?)はふふと笑い、
「これは勿忘草といって、花言葉は誠の愛なんですよ?」
 なんと。つまり、
「そ、それは……いや、他意は無かったんだが」
「そうですか。なら、他のでしょうか? 真実の友情や、――私を忘れないで、とか」
 瞬間、脳裏に何かの映像がちらついた。これは……

 
【分岐点】
 ,匹海の川辺だ。
→∋堽図書館だ。
 はっきりとは思い出せない。
 
 

 ふと浮かんだ映像は、数度しか足を運んだ事がない市立図書館。
 何故? 花言葉から連想するような物でも無いと思うんだが。
「真実の愛に、真実の友情に、私を忘れないで……か」
 呟いて考えてみたが、もちろん図書館との接点はわからない。
 この栞を図書館で見た事があるとか? 図書館でその花言葉を聞いた事があるとか?
 俺は、過去に図書館に行った記憶を引っ張り出そうと試み……やめた。
 記憶を手繰るまでも無く、思い出そうとするまでも無く、何故か図書館に特に思い出は無いという奇妙な確信があった。

 

「どうしました? 大丈夫ですか?」
「ああ、なんでもない。ちょっと考え事してただけだ」
 図書委員長(?)の声で我に返ったが、結局図書館のイメージが何だったのかは謎だ。
 花言葉にしても、別に真実の愛人や、真実の友人や、忘れてはいけない人に心当たりは無い。
 考えるだけ無駄なデジャヴみたいな物だったんだろうか。

 

「これはお返ししますね」
 図書委員長(?)はやんわりと微笑んで俺に栞を握らせた。
「でも俺」
「きちんとした栞ですもの、持ち主に返されるのが良いと思います」
 それはまぁ、正論だ。
「ですから……ちゃんとあなたから、持ち主の方へ返して下さいね?」
 念を押されてしまった。見るからに真面目そうな子だしな。
 しかし栞程度でそんなに真剣な目をする事もないだろうに。

 

 さて、この本を借りたのが朝比奈さんであればこの栞は朝比奈さんの物であろう。
 とりあえずどうするか。

 
【分岐点】
→,気辰のが何だか気になる。ちょっと図書館へ行ってみるか。
 ∩把召膨比奈さんに返すべく、連絡を取るべきだろう。
 なに、自分で持っておいてもバチは当たるまい
 
 

 まあ人のものならちゃんと返すのが礼儀ってものだろうな。
 たしかめるために今度ヒマを見つけて朝比奈さんに連絡してみるとするか。
 会うとなれば時間を決めないといけないし、久しぶりにあの愛らしいお声を聞きたいしな。
 いやはや、これで謎の本をめぐる用事は終わりか。
 にくたらしいくらい、現実なんてこんなあっけないものなのさ。
 いや、実は最初は知らないうちに記憶でもいじられたかと思ったが。
 くだらないね、本当。
「―――」
 それじゃあ図書委員長(?)にお礼を言って、帰るとするか。
「わざわざありがとうな。助かった」
「いえ、受け持った仕事ですし――」
 何かを考えるように言葉を切り、
「個人的にも、その栞が持ち主のもとに返るきっかけになれたなら、嬉しいことです」
 妹のことを思う、優しい姉のような笑顔だった。
 ふむ、本当に真面目なんだな。
 まだ見ぬ先輩のことをここまで思いやれるとは。どこぞの団長様にも見習わせたいね。
 あるいは朝比奈さんと知り合いか。年齢的に考えにくい話だが。
「……どうでもいいか」
 俺はその子にまた軽く礼を言い、図書館から去ることにした。
 はあ、帰って仕度の続きか。面倒な話だ。
 長丁場になりそうな気もするね。どうも整理は苦手だ。
 門外不出の整理術とか我が家に伝わってないのかね。
 と思ったが、よく考えたらそれなりに順調だし、春休みはまだある。
 のこりは何日だったか。
 約一週間。充分だ。
 それじゃあどうしようか。ちょっと考えてみる。
 くだらんことしか浮かばないね。
 今日ぐらいは、しばらく離れることになる地元をブラブラするのもいいはずだ。
 はたして俺は誰に言い訳しているんだろうね?
 ただ、あるいはこんなことを考えたのは、あの栞が切っ掛けだったのかもしれない。
 そうとしか考えられないだろう?
 うるさい外野もいないところで本が読みたくなたって可能性もあるが、
「――いや、とにかく」
 大して思い入れの無いはずの、市の図書館に行ってみようと思ったなんて、な。
 じゃあ誰か誘おうかな?

 
【分岐点】
 々駝敕弔墨⇒蹐靴討澆茲Α
→古泉に連絡してみよう。
 ハルヒに連絡してみよう。

(αと同じ選択だが、これ以後世界はβルートへと分岐する)
 
 

 図書館の様な静かな場所にハルヒを連れて行くのは気が引けた。
 さし当たって手ごろな相手……古泉に連絡を取ってみる。
 ………
「古泉か? 良かったら図書館一緒に行かないか?」
「おや? 貴方からそんなお誘いがあるとは……どういう風の吹き回しでしょう?」
 悪かったな。俺だって好きで誘ってるわけじゃないし、図書館が似合わないのも分ってる。
「折角なんですが、手の外せない用事がありましてご一緒は出来ません」
 なるほどね。手間取らせて悪かったな。
 俺は仕方なく一人で図書館へ向かう事にした。
 市立というだけあり立派な図書館だと思う。
 俺は殆ど利用した事は無いが使う人に取っちゃ便利なものなのだろう。
 俺は取りあえず中へと入り適当に本棚の間を歩いた。
 特に読みたい本や探している本があるわけでもなく。
 何で図書館が思い浮かんだのか……
 結局何も思い出せないままそろそろ帰ろうかとした時。
 受付のカウンターの前に挙動不審な少女が居た。
 本を手に持ってキョロキョロしている。
 本の借り方が分らないのであろうか……?

 
【分岐点】
 〇廚だ擇辰得爾鬚ける。 
 ¬技襪靴撞△襦
→……待てよ、この光景は確か……
 
 

 見た目からして大人しそうな少女だった。それだけで俺は挙動不審の理由を直感した。
 ただ内向的で、忙しそうに歩き回る職員に声をかけられないのだろう。
 ひそかに可愛いなと思ったのは内緒だ。
 それにしても、こういうものを見て気になるのは何でだろう。外見とか抜きでもさ。
 手を伸ばせるならそうしてやりたいというか。出来ることをしてやろうか、とか。
 誇大妄想でなければ、誰かさんに振り回されたからかお人よし度が上昇した気がする。
 大切なのは継続だね。しかし俺も楽しかったんだろと聞かれたら、まあ答えはイエスだが。
 とにかく、やりたい放題のあいつに付き合ってたら、多少の面倒は面倒じゃなくなるね。
 もしも誰かが変わりにやりたかったというなら、全力で止めるがな。
 得た経験がそう言ってるんだ。止めとけ、と。
 しかしまあ、本当にあの少女はこういうことが苦手なようだ。
 きっと相当頑張っているのだろうが、でも最後の一歩が踏めない感じ。
 また一人、職員ぽい人が少女の前を通過した。けどやはり無理だったようだ。
 ……あー、どうしたもんかね。
 ここはやはり手を貸してやるべきか。
 目の前で何度もスルーされる少女を見るのはあまりいい気分ではない。
 感想は述べるが見ているだけの俺も、職員と同罪だが。
 言い訳だけなら誰でも出来る。ならばその先の違いは? 簡単だ。
 俺は彼女のもとへと歩いていこうとした。
「あ、」
 まただ。さっきより強烈な既視感。
 もしかしたら何か思い出せるかもしれない。
 しかしイメージはすぐに霧散しようとする。何だこの感じは。
 脳に浮かぶ光景は、やはりこの図書館。
 ああ、ダメだ。
 もっと思い出そうとするほど、記憶とも言えないほどの引っかかりが消えていく。
 また図書館関係だったとしか残っていない。
 でもそれだけじゃどうにもならん。
 その先が重要なのに。そう思うのだが。

 

 俺は、どうしたらいいんだろうね?

 
【分岐点】
→,箸蠅△┐詐女に声をかけよう。 
 △修両譴濃弸にふける。 
 5な転換に読書だな。
 
 

 まあいい。今はそれよりも出来ることから片付けていこう。
 どっちみち俺の頭の限界は、俺自身が一番わかってる。だとしたらやることは一つ。
 今はどんな事よりも、彼女を助けるのが取るべき最善の行動だろ?
 思索は後回しにしても良いはずだ。そもそも何の意味があるかも解らないしな。
 別に失徳でもないのだし、少しの消化不良も我慢するさ。
 それくらい、俺はその少女が気になっていた。
 どうしてだろう。さっきはおせっかい心のつもりだったが、今は違う気もする。
 だってそうでなければ、俺がここまで気にするはずがない。自信を持って言える。
 俺は、それほど慈愛に満ち溢れちゃいない。
 自分でも不思議だが、俺は少女に話しかけようと思っている。
 今度も頭の隅で何か引っかかるのだが、栞とは違うこう……何だろうね。
 だが時間の無駄遣いはほどほどにしておこう。
 少女がまだ困っている。もう結構そうしていたにも関わらず、だ。
 俺はため息をつく。ヒトメボレでもしたのかね俺は。それともおせっかいに目覚めたか?
 どっちでもいいさ。自己詰問は後でゆっくりやればいい。
 では再び、と彼女のもとへと歩いていく。
 変にびびらせてはいけない。あくまで自然に。しかしはっきり。
 何か俺も緊張してきたぞ。
 少女はうろうろしているだけなのだが、なぜ他の人は声をかけないだんか。
 そう思う反面、俺が声をかけるまでそれであってほしいとも思った。
 妙にいろいろ考えるのは緊張のせいだけか。
 声が出るか不安になってきた。
 動揺してるのを悟られたくは無いね。格好悪い。
 またため息。
「……よし」
 もう小さな背中は手を伸ばせば届きそうな距離だ。
 そうさ、後一歩だ。
 気になったから声をかけることの何が悪い。
 誰の願った展開だこれは。
 やばいやつに見えはしないか心配だね。
「ふぅ――えっと、あのさ、どうかしたの?」
 少女が振りむいた。眼鏡の似合う小柄な子だ。
 わずかに驚いてる、ように見える。

 

 さて、どう切り出す?

 
【分岐点】
→,匹海で会ったか聞いてみる。 
 ⊆擇蟒个靴亮蠡海を手伝おうということを伝える。 
 くだらないジョークを飛ばす。 
 
 

 小柄な少女は少し驚いた様子で答えた。
「えっと……本を借りようとしてるんですけどその……貸し出しカードが……」
 やはり想像通り借り方で困っていたようだ。
 俺は借りるのを一通り手伝った後気になっていた事を訊ねる。
「あのさ。変な事だと思うけど、俺と何処かで会った事ある?」
 さっきから感じている既視感……
 ひょっとしたら何処かで会った事があるんじゃないかと思ったんだ。
 少女は少し頬を染めて途絶え途絶えながら答えた。
「えっと……私は貴方を知っている……こうして話すのは、今日が初めてなんだけど……」
 俺を知っている? だが俺にはこの少女と出会った記憶が無い。
 これはどういう事だ? 栞の件といい俺の中で何かがおかしい……

 
【分岐点】
→_晋硫兇鮹里辰討い襪里詳しく聞いて見る。 
 △海谿幣緤垢出すのはかわいそうだな。 
 2兇狼ど佞い拭2兇砲浪燭が欠けている。それが何かは分らないのだが。 
 
 

「なあ、よかったら教えてくれないか?どうして君は俺を知っている?」
 俺が尋ねると、眼鏡の奥の瞳がやや伏し目がちになった。ひょっとしたらこの娘、眼鏡取ったら結構可愛いんじゃないだろうか。
「……私、文芸部にいたけど……えっと、文芸部は貴方たちがいた部室から2つほど隣の部屋にあって……それでときどき、貴方を見かけた事があるから……」
「……あ〜、そうだったかな?」
 文芸部、文芸部……確かにそんな部があった気はする。だがそんな近かったっけ?
 お隣さんだったコンピュータ研とはたまに交流……っていうか、主にハルヒのやつが迷惑かけまくってたが。
「夏とか、窓を開けてるとき、よくみんなの声が聞こえた」
「そ、そりゃ悪かったな、騒がしくて迷惑だったろ?」
「……め、迷惑……じゃない」
 恐縮するように俯いた彼女は、首を左右にふった。
「むしろ、その……楽しそうで……羨ましいな、って……。私は一人だったから」
「一人?」
「部員は私だけで、他はいない。三年間、ずっと……」
 同じ学年だったのか。制服着てるからいっこ下くらいかと思ったぜ。
 ん? 待てよ。たしか、部活は最低五人が条件のはずだが……。
「先生に頼んだ。私が卒業するまでって……でもやっぱり、新入生も入ってこなくて……」
「え、そうすると文芸部は?」
「私が今年卒業したから……もう、無くなる」
 消え入りそうな表情で、彼女は言った。淡々とした言葉だが、俯いてきゅっと握りしめたこぶしが彼女の無念さを語っていた。
「そっか……」
 それ以上掛ける言葉もないまま、なんとなく俺もやりきれない気分になってきた。
 同好会めいたものを無許可で作って好き勝手やってきたハルヒならともかく、こんな大人しい娘が三年間も一人で守っていたのか。部室でただちゃらんぽらんに過ごしてきた
 自分とは大違いだ。
 なんとなく重くなった空気を払拭するように、俺は声を掛けた。
「あのさ――」

 
【分岐点】 
→〆から文芸部の部屋に行ってみないか? 
 △海麟戞見覚えないかな? 
 ところで君、卒業してからどうするの? 
 
 

「あのさ、今から文芸部の部屋に行って見ないか?」
 重くなった空気に耐えられず俺は話題を変えてみた。
「え……? いいけどでも……特に見るものも……」
「いや良いんだ。単純に部室に興味が沸いたんだ駄目かな?」
 少女は少し考えた様子だったがやがて口を開いた。
「貴方が良いなら……私は構わない……」
 こうして俺達は文芸部室へと向かった。

 
 

 俺たちの居た部室の二つ隣……。
 気付かなかったがそこには確かに文芸部は存在していた。
 部室の中の作りは大まかな所は俺たちの居た部室と変らない。
 一つ大きく違うのは部屋の半分を本棚が占めている事だろうか。
 俺達は四人でいたから何も感じなかったがこの広い部屋に一人きりだった事を考えると胸が苦しくなった……。
 三年間一人きりで窓辺で本を読み続けていたのだろうか……?
 俺は特にかける言葉も見当たらず途方に暮れていた。
「この部室とも……もうお別れ……私の記憶の中だけの思い出になってしまう……」
 俺は実はさっきから気になっている事があった。
 部室の片隅にあるパソコンだ。
 それがまるで起動を待っているかのような気がしたのだ。
 おかしいと思うだろう? 俺もそう思う。
 だが何故かそう思えたのだ。
「なぁあのパソコン触ってみてもいいか?」
 慰めの言葉もなく俺は切り出してしまった。
「別に構わないけど……特に何も無いと思う……」
 いや、いいんだちょっと気になってな。
 パソコンを起動した時画面に現れたのは……。

 
 
【分岐点】 
 [匹見慣れたOSの起動画面だった。 
→何も無い真っ黒な画面だった……が。 
 F輿害燭のプログラムが起動した。 
 
 

 パソコンの立ち上がりを示す機動音……。
 やがてOSの画面が……。
 映らなかった。
 代わりに映ったのは真っ黒な画面。
 何かの故障か?
 隣に居る少女も戸惑っているようだ。
「あれ……俺おかしい所触っちまったかな……?」
 と言っても触ったのは電源ボタンだけなのだが。
 取りあえず少女の様子を伺ってみる。
「あ……画面が……」
 俺は少女の声で再び画面に視線を戻した。
 するとそこには先ほどの黒い画面に文字が映し出されていた。

 
【分岐点】 
 YUKI.N>貴方は此処に辿り着いた。 
→YUKI.N>見えてる? 
 YUKI.N>良かった……。 
 
 

 YUKI.N>見えてる?

 

 そこには黒い画面にそう表示されていた。
 YUKI.N……?
 俺はそれを見たとき激しいフラッシュバックに襲われた。
 俺は確かにこの光景を知っている……。
 考えるより先に体が動いていた。

 

 『ああ』

 

 俺はタイピングした。数秒の後応答がある。

 

 YUKI.N>貴方は失った記憶の片鱗を取り戻しつつある。

 

 失った記憶……? 栞を見つけたときから気になっていた事か?

 

 YUKI.N>貴方が望むのなら失った記憶を取り戻す事は出来る。

 

 少しずつ分ってきた。
 栞を手にしてから感じた様々な事。
 俺はどうやら何かとても大切な事を忘れているようだ。
 それは間違いない。今なら確信できる。

 

 『俺は何の記憶を失ったんだ?』

 

 YUKI.N>詳しい事はまだ教えられない……。

 

 『どうすれば記憶は戻るんだ?』

 

 YUKI.N>貴方が見つけた。栞。この部屋。そしてそこに居るはずの少女。それが鍵。

 

 『鍵?』

 

 YUKI.N>そう。貴方はこれまで何度か感じたはず。既視感のようなものを。

 

 確かに何度も感じた。それは今は少しぼやけ掛けた記憶となりつつある。

 

 YUKI.N>栞の花言葉の意味。貴方がその少女にしてあげた事。この部屋でした事。全てが繋がる時貴方の記憶は戻る。

 

 花言葉は確か……「私を忘れないで」
 俺は本を借りようとしている少女を助けて……。
 文芸部室……。
 そうか……あれは確か……。
「入部届け……」
 俺は声に出していた。
 先ほどから黙って俺の行動を見ていた少女は突然発せられた呟きに驚いた様子だった。
「え……? でももう入部は……」
「理由は言えないけど、必要なんだ。入部届けあるかい?」
 少女は少し離れた所にある机を探しに行った。
「あれ……ここに沢山あったはずなのにどうして……一枚だけ? しわくちゃの……」
「それでいい。渡してくれるか?」
 俺は少女からしわくちゃの入部届けを受け取った。
 すると……。

 

 突如辺りは光に包まれた。

 

 眩しさの余り眼を閉じる……。
 徐々に明るさに慣れ眼を開くと……。
 部室の皆で過ごした三年間の様子がゆっくりと走馬灯のように流れた。
 ただ一つ俺の記憶と違ったのは一人の少女が居た事だった……。
 無口で、一見無表情に見えるが人間らしい感情を持った一人の少女。
 俺はその少女の名前を叫んだ。
「長門!!」
 今はっきりと思い出した。
 俺が忘れてしまっていた事。
「忘れないで」と長門が最後に告げた事。
 全ての記憶を取り戻した。
 と、同時に光に包まれていた部屋が元に戻る。
 俺と一緒に居たはずの少女は居なくなっており代わりに居たのは……。
 俺の長門だった。

 

「……よかった。思い出してくれて」
 長門の声を久しぶりに聞いた気がする。
「すまない。忘れないでなんてメッセージがあったのに俺は……」
「いい……悪いのは私。思念体からの指令で貴方たちの記憶を改竄した。でも私には完全に消してしまう事はどうしても出来なかった……貴方達と過ごした日々はとても大切な物だったから」
「長門は悪く無いさ。俺が思いだせるように色々ヒントを残してくれたんだろう? それで俺はまた長門に会えたんだから……」
「私は貴方にもう一度会えたことが嬉しい……貴方は?」

 

 決まってるだろう。俺も嬉しいさ。

 
 

 こうして俺は旅立ちの前に、掛け替えの無い大切なものを取り戻した。
 思念体の命令を完全に実行したわけじゃない長門の心配もしたが、どうやらお咎めはないらしい。
 俺はそして長門と誓った。
 もう何があっても決して離れはしないと……。

 
 

 fin

 
 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:43 (3093d)