作品

概要

作者ありがとう
作品名『有希の寝言』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-05-01 (火) 18:14:37

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

春の訪れとともに活性化する涼宮ハルヒ。べつに冬眠していたわけでもなさそうなのだが、
元気に走り回るあいつを見ている限り、まだまだ世界は平和だなぁなんて思えるのも事実であるし、
まあ、落ち込まれるよりは俺の精神的負担も少ないしな。放し飼いにしておけばいいだろ。
無理に首輪なんか付けなくても、今のハルヒはそう簡単に噛みついたりはしないさ。
この一年でそれなりに成長したからな。

 

それは他のメンバーにも言えることであり、何度も三途の川に足を突っ込んだ俺はもちろん、
そんな時、必ず引き上げに来てくれた万能宇宙人――長門有希も少しずつ人間味が濃くなってきている。
最近俺を見る目が時々、恋に恋する少女漫画的な輝きなのは気のせいだろうか……。
そして、ラブロマンスのヒロインでさえ嫉妬するほど愛らしい朝比奈さん。
俺の顔面を緩ませるプリティな振る舞いは相変わらずなのだが、
ハルヒによる強制猥褻さながらの身体測定によれば、ある部分の質量が着実に増しているらしい。
特盛り用のどんぶりを準備しておくべきですよ。デザインでお悩みでしたら相談に乗りますから。
着実に増しているといえば……古泉に対する信頼も付け加えてやらねばなるまい。
裏切ったら怒るぜ。その時は殴ってでも目を覚ましてやるよ。仮にも親友だからな。

 

佐々木団との一件以降、特に大きな事件は発生していない。思い出したくもないのだが、
いずれ語る日が来るだろう。分裂した世界。そこで起こった驚愕の物語を。
「こらーっ! さっさと歩く! 部活に使える時間は少ししかないんだからね!」
やれやれ。あいつにとっては既に過去の出来事みたいだな。
カタパルトから押し出された戦闘機のように、並み外れた機動力で部室へと向かうハルヒの笑顔は、
この平凡で退屈で、ちょっぴり不思議な日常に満足しているようだった。
メイド兼マスコットの未来人、解説役が板に付いた超能力者、何があろうと読書を続ける宇宙人。
そんな奴らにツッコミを入れつつ過ごす高校生活。
ああ、俺も文句無しだ。これ以上望むことがあるとすれば、こんな毎日がずっと続けばいい。
続くと思っていた。

 

アフターバーナー全開のハルヒに引きずられ、最速タイムで辿り着いた文芸部室。
無意識に窓際へ視線を向けると、いつもの場所に長門は居なかった。
「あれ? 有希、どうしたの?」
ドアノブを掴んだまま声を掛けるハルヒ。その表情に見覚えがある。
あの雪山、高熱を出して倒れた長門の肩を抱き寄せた時、
普段からは想像もできないほど険しい顔をしていたよな。
その視線の先では、テーブルに突っ伏した長門がピクリとも動かずに目を閉じていた。
マネキンのように真っ白な無表情で。

 
 

「ふふっ、わたしが来た時にはもう寝てました。気持ち良さそうですねぇ」
小さめな声でそう告げて、なるべく音を立てないように慎重な手つきでお茶を注いでいる。
長門の斜め前に座る古泉も、珍しくゲームをやるつもりはないらしく、静かにSF小説なんぞ読んでいた。
「オセロや将棋は音が出ますからね。今日は我慢しましょう。この寝顔にはそれだけの価値があります」
同じく小声の古泉。いつものニヤケ面も少し違って見える。そりゃそうだ。
「……スー……スー………」
こいつの言うとおり、こんな寝顔を見せられたら思わず目尻が下がっちまう。
今日ばかりは朝比奈さんの立場も危ういかもしれん。いや、正直もう限界だ。今すぐ持って帰りたい。
「このエロキョン! 有希はみんなのものよ。独り占めはダメっ」
目一杯ボリュームを下げつつ怒鳴るとは器用なもんだ。冗談だよ、ってことにしといてくれ。

 

言うまでもないだろう、俺とハルヒの早とちりだったわけだ。
よく見ればスヤスヤと寝息を立てているだけで、俺たちが考えた最悪の状況とは程遠い。
文字通り胸を撫で下ろした俺はそっと鞄を置き、古泉の正面――というよりは長門の隣か。に腰を下ろす。
一見すると無表情に変わりはないのだが、こうして近くで見るとよくわかる。
まるで使い慣れた布団に包まれているような……
「安心感。ですかね」
身を乗り出すな、耳元で喋るな、顔が近い、おまえの精神分析はハルヒ専門じゃないのか?
「そう言わずに。疑問に思いませんか? いつも隙の無い長門さんが、こんなにも安らかに眠れるわけを」
「まあな、確かにこんなことは初めてだ」
幸いハルヒは寝顔の撮影に夢中のようだし、聞いてやってもいいか。
無駄に整った顔をニヤリと緩め、
「喜ぶべきことですよ。僕たちは彼女に認められたのです。信頼できる仲間としてね」
ちょっと待てよ。じゃあ今までは信用されてなかったとでも言うのか?
「いえ、そうではありません。特にあなたに対しては早い段階で心を開いていたようですしね」
わざとらしく残念そうに首を振り、溜息までオマケして、
「ですが、僕や朝比奈さんは所詮『同盟』です。目的は同じでも組織は別。
長門さんの心の中に、無意識だとしても多少の疑いがあるのは当然でしょう」
何が言いたい。あまり気分のいい話じゃないな。結論を聞かせろ。
「失礼。つまり、」そこで真面目な表情に戻って、
「前回の……あの事件です。互いの信頼が無ければ他の未来が待っていた。SOS団存続の危機でしたね。
しかし僕たちは今ここにいます。誰一人欠けることなく、ね」

 

安心しきった寝顔を見つめるうちに、つい口から出てしまった。
古泉が肝心なところを言わないせいだ。忌々しい。
「俺たちは本当の仲間なんだよな」

 
 

たまにはこんな日があってもいいんじゃないか。静まり返った部室の中、穏やかな雰囲気が心地よかった。
保育園児をようやく寝かし付けた新米保母さんのような、
なんとも暖かい眼差しで長門を見守る朝比奈さんを見ていると、
「有希ー? 嫌いな食べ物なぁに?」
「………うぅん……ピーマン」
今まさに食べてしまった! みたいなしかめっ面で白状した。
カレー好きでピーマン嫌いか。お子さまだな。いやいや、それよりも、
「なにやってんだ、おまえ」
長門の耳からくちびるを離し、悪戯を思いついた我が妹より三倍は楽しそうな表情で、
「秘密調査に決まってるじゃない。こんなチャンスなかなか無いわよっ」

 

ハルヒがジッチャンの名にかけて調べた結果によると、
長門はピーマンが嫌いでゾンビが恐くて、残念ながら下着の色は非公開。
実はシャミセンと仲良くなりたいのだが、ニャンコ萌えだと思われたくなくて我慢している。さらに、
「んじゃ最後ね。ズバリ! この中に好きな人がいる?」
「…………」全員が息を飲む。
朝比奈さんはカタカタ震えていらっしゃるし、古泉はなぜか顔面蒼白。
……ハルヒ、おまえに睨まれる理由はないんだが。親の仇と勘違いしてないか?
みんなどうした。ちょいと大袈裟過ぎるぞ。まあ、わからんでもないが。
もし「いる」なんて答えが返ってくれば、それはつまり、
俺か古泉のどちらかが宇宙人のハートを射止めたことになる。
そもそも恋愛感情があるのかも怪しいところだが、淡い期待を持ったとしても責められることはあるまい。
無口系美少女から愛の告白をされるのも……うーん、悪くないね。
微妙な空気の中、いい意味で期待を裏切ってくれたのは、
いつもより幼く可愛らしい声で長門が口にした、嬉しい一言によるものだった。
「……みんな……みんな大好き………ムニャムニャ」

 

さて、心苦しいがそろそろ起こしてやるか。すっかり日も落ちてきた。
部活終了後、「あんたは残りなさい。本当はあたしが残りたいけど用事があるのよ。も・ち・ろ・ん、」
何もしてませんよ。誰か誉めてくれないか。
兎にも角にも、目覚まし係になった俺は、満足気な三人を見送って部室にいるわけだ。
みんな嬉しそうだったな。あんなこと言われたら当然か。
……起こす前にもう一度聞きたい。誰だってそう思うだろ?
「みんなのこと好きか?」
「……大好き」
「俺のこと……好きか?」
何を言ってるんだろうね。だが、答えは同じでも気分は違うのさ。
「…………大好き」

 

気付けば外はもう真っ暗だった。いかん、もう起こそう。満足したしな。
「長門、起き――」
言いかけた俺から顔を背け、長門はもう一度、短い寝言をつぶやいた。

 

「大好き」

 
 

END

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:40 (2705d)