作品

概要

作者ありがとう
作品名『有希の携帯電話』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-04-23 (月) 03:24:35

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

貴重な週末をだらだらと過ごすことにも随分慣れてしまった。
そして、今週も二日連続でハルヒによる洗脳が着々と進行中だ。
すっかり従順な競走馬のように飼い馴らされた俺たちなのだが、
それは言い換えれば平和な日常とも言えなくもないわけであり、
まさに危険が危ないなんて表現がピッタリの事件に巻き込まれるよりマシなことは言うまでもなく、
もはや定型文と化した文句を言いつつも、こんな休日に満足している自分を認めなくてはならないな。

 

本日の相棒はSOS団が誇る名馬、
ドーピング疑惑は否定できんが事実上無敗を維持しているナガトインパクトだ。
その長門と暇つぶしするなら図書館ぐらいしかないのだが、今日の行き先は少し違った。
くじ引きを終えて不満げな顔のハルヒたちと別れた直後、
「行きたいところがある」
らしい。知識も無いのにパティシエールの道を目指してしまった女の子みたいな表情で俺を見上げている。
心配するな。おまえの頼みを断る理由なんて無いさ。
「……そう。ついてきて」

 

「あなたと同じ機種が望ましい」
「じゃあこれだ。そんなに新しくはないが0円だしな。いいんじゃないか?」
いつもより堅苦しい無表情で足を踏み入れた店は……携帯ショップ。
正直予想外だ。俺はてっきりデパートの下着売場に連れていかれて、
「似合う?」なんてことをしてくれるものだと思っていたのだが。
「…………」
そんな痴漢で捕まった父親を見るような目で睨むなよ。冗談だって。
「ほら、手続きを済ませちまおうぜ」
なぜか少し残念そうな長門を連れてカウンターへ……。

 

つまりこういうことだ。
今まで使っていた携帯にそろそろ寿命が近づいている。
どうやら思念体によって最初から持たされたものらしいのだが、
機種変更はそっちでやってくれと言われたらしい。なんとも無責任な話だ。
貸し出しカードさえ知らなかった長門にとっては大問題なのである。そして悩みぬいた挙げ句、
伝説の魔物が潜む洞窟へ旅立つ主人公のように、俺に同行してほしいと依頼した。ってところだな。
「――というオプションがありまして、せっかくですから彼氏さんの番号を登録されてはいかがですか?」
店員のお姉さんがとんでもないことを言い出した。
「………彼氏」
指定した端末との通話料が割引になるらしいのだが……
「許可を求める」
お願いと言うよりは脅しに近い瞳が俺をロックする。

 

「はい。ではこちらの番号で登録しますね」
「……彼氏………ユニーク」
もう好きにしてくれ。

 

そしてその夜。晩飯を食い終え、妹を部屋から追い出し、シャミセンが丸くなったのを確認して、
「さあ今日も頼むぜMyウェポン」などと言いつつベッドの下に手を入れた時、
ピリリリリリ……
長門と色違いの携帯が、まるでこのタイミングを待っていたかのように突然鳴りだした。

 

『……見えてる?』
「ああ、さすがにおまえも寝るときは制服じゃないんだな」
俺の携帯の中に引っ越して来たパジャマ姿のミニ長門。
胸から頭の先までがスッポリと画面に入り込んでいる。
淡い水色で包装された自分の体に視線を落とし、母親の口紅を勝手に使った小学生のような瞳で、
『おかしい?』
おかしい……俺にパジャマ属性は無いはずだ。ぐらい似合ってるぞ。まあそれは兎も角、
なぜテレビ電話なんだ?用件を伝えるだけなら顔を見る必要は無いだろう。
『以前の端末はこの機能を備えていなかった』
言われてみればそうだった。最近では珍しくカメラ無しのタイプを使っていたが……
「テレビ電話は通話料が高いぞ。早めに切ったほうがいい」
静止画みたいにピクリとも動かず俺を見つめたまま、
『大丈夫。料金は思念体が支払う』
仕事を増やしたほうがいいぜ、お父さん。

 

パジャマを着た長門は普段よりも幼く見えた。
これをかわいいと思えなくなったらアッチの世界へ行くしかない。
幸いにも俺はまだノーマルな青春を楽しめるらしいのだが、
『わたしが寝るまで………このまま……』
俺の携帯も寿命かね。
画面に映る長門の顔は、どこか寂しげで弱々しくて、誰かの温もりを求めているような気がした。
半年もたたずに故障するとは嘆かわしい。メーカーに対する苦情をいくつか考えつつ、
小指の爪くらいしかない小さな頭に向かって、
「わかったよ。今日はいっしょに寝るか」
すると、物音一つ聞こえない見慣れた部屋の中、見慣れない表情をした長門はハッキリとした声で、
『ありがとう』
ま、この程度の故障は大目に見てやろうじゃないか。
そのかわり、自動的に録画する機能を付けてもらうがな。

 

布団に潜り込んだ俺たちは、ほんの少し遅れて届くお互いの顔を黙って見ていた。
かれこれ一時間は経過しただろうか。月明かりに照らされた長門の瞼がゆっくりと閉じられていく。
――かと思えばまた開き、既に限界を超えた眠気と戦っている様子。何やってんだ、早く寝なさい。
『でも……』
「おまえが寝るまでちゃんと見てるから。安心しろ」
優しい人に拾われた捨て猫みたいな瞳で、
『そう』
「そうだ」
『………おやすみ』
「おやすみ、長門」
幸せそうに寝息をたてる子猫を、バッテリーが終わるまで、
ずっと見つめていた。

 
 

明けて翌日、寝不足でふらつく足を引きずりながら教室へ入ると、
スラリと伸びた生足を組んで俺を睨み付けるハルヒと目が合った。なんか見えそうだぞ。
「あら? あんたはあたしになんて興味ないでしょ?」
とんでもない、興味津々さ。おまえの思い付きで世界の命運が決まるんだ。
後世のために『ハルヒ伝記』執筆真っ最中なんだぜ。
「悪いが話なら後にしてくれ。今は心地よい睡眠にしか興味ないんでな」
鞄を机のフックに掛け、日の光を浴びて程よく温まったイスに座る。そして睡眠モードオン。
一連の動作をジトッとした目付きで見ていたハルヒだが、珍しくそれ以上は何も言ってこなかった。
教室の騒音が遠くなり、夢の世界へ続く改札口を通過する間際、
「今から独り言を始めるからね」
後ろのクラスメートがついに壊れた。ボケるには少し早いんじゃないか?
「昨日寝る前に思いついたのよ。不思議を見つける方法をね」
そりゃよかったな。成功したら教えてくれ。
「この発見を早く伝えたくてキョンに電話したのよ。でもずっと話し中だったわ」
短い息継ぎをしてから俺の背中に向かって、
「その後有希にかけたの。そしたら話し中。これってどう思う?」
独り言じゃなかったのかよ。それに言えるわけ……いてぇ!!
「起きてんでしょ? 答えなさいよっ!」
「やめろ馬鹿! シャーペンは字を書くもんだ! 脇腹をグリグリするなぁー!」

 

放課後、痛む脇腹を擦りつつ文芸部室へ。
部室には長門が一人だけ。鬼団長が掃除してるうちに少しでも寝ておきたい。
長門は熱心に携帯をいじくっていた指を止め、
「待って。カメラの使い方が知りたい」
「えーと、まずこのボタンを押して……」
俺の説明を頷きながら聞いている。何を撮るつもりなのかわからんが、
普通の女の子らしくていいことだ。自分の顔でも写してみろ。上手く撮れたら送ってくれよ。
「わかった。必ず」
爆弾の設置を終えた特殊部隊のような顔が気になるが……まあいい。じゃあ寝かせてもらうぜ。
「……おやすみ」ワクワク

 

んん……顔がくすぐったい。それに何か暖かい………
パシャ!
何かの音で目が覚めた。もうハルヒの奴が来たのか?
ガタン!ダダダダッ!
ぼやけた視界の中、一瞬俺の隣から猛ダッシュで窓際へ向かう長門の後ろ姿が……気のせいか?
「なんのこと?」
窓際の指定席にはもちろん長門。おかしいな、疲れてるのかね。
それにしても随分気に入ったんだな。携帯の画面を嬉しそうに見ている。
バン!
「さぁーてキョン、きっちり説明して……あれ? 有希、ケータイ変えたの? 見せて!」
「あっ」
麻薬取引を嗅ぎつけた敏腕デカのように携帯を取り上げ、
「ふ、ふぅぅん……素敵な待ち受けね」
画面から目を離し、不自然な笑みでシャーペンを握り締め、一歩、また一歩、こっちに
「ちょ、おま……危な――」

 

訳もわからず刺された俺に真相を教えてくれたのは、
その日の夜長門から送られてきたメールだった。
添付された写真の中で寄り添うように眠る男女。
『これを待ち受け画面に』
うん、それ無理♪

 
 

END

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:38 (2714d)