作品

概要

作者ありがとう
作品名『有希も出た』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-04-15 (日) 02:31:13

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

水を飲む。
「ゴクゴク…ヒック!ぜんぜんダメよ!」
息を止める。
「………ぷはっ…ヒック!」
えーと次は…
「キョン!あんたふざけヒク!…てんじゃないでしょうね!……ヒック」
鮮やかな夕日に照らされた心配顔の朝比奈さん。その眼差しはいかなる特効薬よりも効き目がありそうだ。
それでも病状が回復しない哀れな人間がいるとすれば、そいつはとんでもなく変わった属性の持ち主だろう。
喜ぶべきなのか。俺はそんな人物を知っている。いつから部室内に住みついたかわからんが、
目の前で奇妙な鳴き声を定期的に発している新種の生きもの…さすがにこれは言い過ぎか。
「ヒック!なんとかしてよぉ…ヒク!」
つまりハルヒなのだが、いつものふてぶてしさは何処へやら。おいおい、なんて顔してやがる。
潤んだ瞳で俺にすがりつくような視線を送るハルヒに、不覚にも庇護欲をくすぐられた俺は大きな声で、
「ハルヒ、結婚してくれ!」
「えぇ!?」「おや」「………」
そりゃそうだろう。驚くのも無理はない。正確に言えば一人だけ何を思ったのかわからん奴がいるが…
見てはいけない。なぜかそんな気がする。本能的な警告を遵守しつつハルヒを見ると、
「は、はぁぁ?ななな何て…」
よし、一分経過したな。成功だっぜ。

 

「ところでしゃっくりはどうした。忘れちまったか?」
真っ赤な顔でカーテンに抱きついていたハルヒはしばらく停止。
そして思い出したようにビシッと人差し指を突き出すと、
「こらぁ!そういう事なら先に言いなさいよ!」
なんともご丁寧なお礼を口にした。
宣言したうえでビックリさせれる程の技量は無いんでな。勘弁してくれ。
「ふんっ!ま、まぁ助かったのは事実だからね。サンキューと言っておくわ」
「どーいたしまして」
確かにしゃっくりは辛いからな。
しかし高度な医療技術を獲得した現在でさえ明確な療法が無いとは恐ろしい。
朝比奈さんなら何か知ってるかもしれないな。どうせ『禁則事項』なのだろうが。
そういえば…宇宙人もしゃっくりに悩まされたりするのかね。
「長門、おまえも経験したことあるのか?」
「……無い。わたしにそんな機能は…」
長門の故郷で暴れ回る無法者たちを描いたハードカバーから目を離し、
今だに顔から湯気を出しているハルヒを見つめた。
それから何事かを早口で唱えた後、素早く本を閉じて俺を見上げる。どうしたんだ?

 

「……………ヒック」

 

「キョン!水汲んできて!さっきあたしが飲んじゃって残ってないのよ」
「僕が行きますよ。少しお待ち下さい」
勝負を途中放棄されて暇を持て余した古泉が立ち上がった。いい心がけだ。
「……ヒック…救助を求める。できればヒック…涼宮ハルヒと同じ方法が望ましヒク…い」
しゃっくりの度に体をピクリと揺らす長門はどうしようもなく可愛らしい。
それと同時に今すぐにでも緊急病棟まで連れていき、
世界中の名医を集めて万全なオペを受けさせてやりたい。
だが、俺はその時ちょっとした悪戯心が芽生えてしまった。
「つまり驚かせばいいんだな?」
「…ヒック……そう」
これでやっと止められると思ったのか、その瞳は期待を押さえきれない様子でキラキラと輝いている。
そんな長門に心の中で何度も謝りつつ、できるかぎり真剣な表情で語り掛けた。
「長門。しゃっくりってのはな、百回出たらアウトなんだ。…死んじゃうんだよ」
「…………えっ……ヒック」

 

長門の慌てぶりは見事だった。無表情を維持してはいるのだが、
「ゴキュゴキュゴキュ…ヒック」
古泉が三回目の水汲みへ行ってる間に、
「……………止まっ…ヒク!」
懸命に息を止める長門の努力は残念ながら報われず、六十回を過ぎたところで本棚の前に移動した。
何やら本を整頓しているらしい。一冊ずつ内容を思い出すように見つめながら黙々と続けている。
「……ヒック………」

 

まさかここまで信じ込むとは思わなかった。なんという事をしてしまったんだ俺は。
急いで長門の側まで駆け寄り、
「すまん、冗談だ。ただの迷信だから気にするな」
もはや俺の声も届かないらしい。ただ立ち尽くしてしゃっくりを繰り返すその姿に胸を締め付けられ、
自分の馬鹿さ加減を嫌というほど自覚させられ、思いつくかぎりの謝罪の言葉を考えていた時、
「長門さん!ごごごめんなさぁぁい!」
ドン!という衝撃音とともに長門の体が傾く。不意を突かれ、さらに放心状態であったこともあり、
バランスを崩した小さな体は何の抵抗もせずに俺にぶつかってきた。
身を縮めてしがみつく長門の肩は震えていた。迫りくる死の恐怖によるものであることは間違いない。
「長門、もう大丈夫だ。おまえを何処にも行かせはしない。しゃっくりなんて俺が退治してやる」
強く、強く、長門を抱き締めた。

 

肩の震えが止まり、気付けばしゃっくりも止まっている。
長門の頬が少しだけ赤い気もするが、夕日のせいだろう。
「うまくいって良かったぁ。でも…そろそろ離れたほうが……」
ハルヒの形相により、思わずしゃっくりみたいな声が出てしまった事は内緒だ。

 

その日から長門は時々しゃっくりをするようになったが、
その顔がほんの少し嬉しそうなのは
俺の勘違いだと思う。
「………ヒック」

 
 

END

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:34 (3093d)