作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと九曜さん その2
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-04-13 (金) 21:12:55

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

あれだけ頭上を覆っていたはずの薄桃色の花びらが、
硬質のコンクリートの表面に絨毯のように広がり、
そろそろ長袖はお蔵入りだなと感じるようになったある日のこと、
俺は婦人服売り場の傍で一人たたずんでいた。

 

といっても、俺が婦人服を着て喜ぶ性癖を持っているわけでも、
女装に興味を持っているわけでもなく、
ただ単に母親と妹の付き添いでここにいるだけだ。

 

季節の変わり目には新しい服を購入するというのが、
哺乳類の中で珍しく毛皮を持たないニンゲンの習性であるかのように、
毎年この時期になるとこの母子は俺を連れまわしてくれる。
ちなみにこの労働に対する対価は昼飯のカルボナーラ1皿、しめて780円也。
割に合わない気がするのは気のせいか。

 

それにしても女性の買い物というのは何でこうも長引くんだろうね。
しかも長時間見て回った挙句、何も買わずに帰ったりするんだから、
アパレル産業がちゃんと収益を上げているのか疑わしい。

 

ただ同じ女性でもハルヒや佐々木なら即断即決しそうだな。
あいつらは衣装に無頓着に見えて、スタイルもいいし、
センスだけはあるから何を着ても着こなしちまうだろう。

 

反対に朝比奈さんは……おそらくインナーだけでも2時間くらいかけそうだ。
フリマの時に見たあの不用品の山を見ると、
優柔不断なところは否めないしな。

 

そして長門は……

 
 

「……なに?」

 
 

「うわ!?」

 
 

背後から気配もなしに声をかけられて、
俺は思わず口から臓器一式を吐き出しそうになった。

 

「な、長門!?」

 

「……」

 

頼むからもっと普通に登場してくれ。
10mくらいの距離で片手を挙げるだけで充分だ。
ついでに軽く微笑んでくれれば120点満点に植木鉢付きの花丸をくれてやろう。

 

「こんなとこで何やってんだ?」

 

「……あなたは?」

 

「俺か?俺は母親と妹の買い物の付き添いだが……」

 

「そう……」

 

端的に答えると婦人服売り場の方を向く長門。
というか俺の質問はスルーですか。

 

そんな俺の心が伝わったのか、
目の前の無口少女は視線を合わせないまま声を出した。

 

「私も……」

 

「ん?」

 

俺の疑問符に対し、
こちらに顔を向けながら長門は続けた。

 
 
 

「服を買いたい……」

 
 
 
 

母親と妹がまだ店から出ないことを確認した俺は、
早速この万能宇宙人の願いをかなえるべく、
婦人服売り場に潜入した。

 

しかし経験のある諸兄ならお分かりだと思うが、
婦人服売り場というものは一般男性にとって、
非常に入りにくい空気となっている。

 

もちろん、長門の同伴として来ているのだから、
俺が恐縮する理由はミジンコのフンほどもないのだが、
女性用下着売り場などは何となく気まずい。

 

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、
長門は胸用の下着を眺めているわけだが、
そもそもお前が今見ているのは、
サイズ的には少し大k……

 

「 な に ? 」

 

いえ、何でもありません。
よくお似合いでございます、はい。

 
 
 

それからしばらく店内を歩き、
そろそろレジに向おうかと思い始めたとき、
不意に長門が一点を凝視して動かなくなった。

 

一体何d……
あぁ、あれはいつぞやのお前を着せ替え人形にしていた女性店員じゃないか。
最終的にはゴスロリ風に仕立て上げて満足してた人だな。
確か……コンセプトは『捕らわれの堕天使』だったか?

 
 

それにしてもあんな黒い布の様なものを何……

 
 
 

そこで俺は初めて気付くことになった。

 
 

俺の視線に合わせるかのように、黒い布の様な
『そいつ』は俺のほうに顔を向けてこう言った。

 
 
 

「――ああ――ごきげん――よう――」

 
 
 

相変わらず脳から口までの通路が寸断されて、
思ったことを喋られないかのように、
のたりくたりと挨拶をする長門の親玉の敵が作った宇宙人、周防九曜。

 

「こんな所で何をs……」

 

「う〜ん、やっぱりこっちの服のほうがお似合いかと思いますよ?
さっそく着てみてください」

 

「――あ――」

 

俺の質問を遮るように数種類の衣装を手に持った女性店員が、
出来の悪い市松人形より生気のない娘を人攫いのように試着室に連れ込んだ。

 

「……なぁ、長門」

 

「なに?」

 

「こないだといい、あいつ……何がしたいんだ?」

 

「分からない……けど意思疎通は行ってみる」

 

そう答えると、
二人の女性がいるであろう試着室の方に視線を向ける長門。
どうやら宇宙人はテレパシーも使えるらしい。
こうしてまた一つ超能力者のお株が消えたわけか。

 

「……(こんな所で何をしているの?)」

 

『――(ショッピング……)』

 

おそらく何かしらの会話が成立しているのだろうが、
俺には何も聞こえない。
一体どんな高度な会話をしているんだ?

 

「……(あなたに必要なものならダイ○ーに行くべき。婦人服売り場は3年早い)」

 

『――(あなたこそ4歳のおばさんのくせに……婦人服売り場は3年遅い)』

 
 

バチッ

 
 

あれ?
今何か雷が落ちたような……

 

『――(あぁ、それにしても私のお洒落な姿を彼に一番に見てもらえるなんて……
し・あ・わ・せ)』

 

「……(彼に色目を使わないで)」

 

『――(開店から3時間も声をかけてもらえなかったけど、おかげで彼に会うことが出来たわ)』

 

『まぁお客様、これもお似合いですね〜』

 

「……(相変わらず影が薄いのね)」

 

『――(あなたこそ胸が薄いのね)』

 

俺の耳には店員の褒め称える声と、
衣擦れの音しか聞こえないが、
試着室のカーテン越しに二人の無口宇宙人は、
今熾烈な争いをしているような気がする。

 

「……(ブラのサイズが小さすぎて存在しないあなたに言われたくない)」

 

『――(あなたは胸自体が存在してない)』

 

「……(うるさい、この昆布女)」

 

『――(誰が昆布よ、絶壁胸娘)』

 

「……(ぜっぺk……言って良いことと悪いことがある)」

 

『――(それはこちらのセリフ……海草はあなたのお仲間だけで充分)』

 
 

俺がハラハラしながら二人の見えない聞こえない分からないやりとりを、
横で眺めていると、突然試着室のカーテンが開いた。

 
 

「お似合いですよ、お客様〜」

 
 

「……」

 

「……」

 

これは俺と長門二人分の沈黙だ。

 

確かに店員さんの言うとおりその格好は似合っていた。
濡れ羽の様な黒髪にその衣装は確かに映える。
まさに純和風といった出で立ちが周りの目を引きつけるほどだ。
ベストマッチと言えなくもない。
言えなくもないのだが……

 
 

思い切って満足そうに今回の衣装のコンセプトを考えているだろう、
女性店員に俺は尋ねてみた。

 
 
 

「……巫女袴なんて取り扱ってたんですか?」

 
 

「えぇ、もちろん」

 
 

どんな店だよ、ここは……

 
 
 
 

P.S.

 
 
 

「――(あぁ、彼が見てる……似合ってるかしら)」

 

「……(その前にその格好は何?)」

 

「――(この店員さんが『やっぱ黒髪にはこれでしょ!!』って……)」

 

「……(マニアック……)」

 

「――(今度からこの格好でいようかしら)」

 

「……(やめておいた方がいい)」

 

「――(なぜ?)」

 

「……(有機生命体はそのような格好を普段することは無い)」

 

「――(そ、そうなの?)」

 

「……(そう。それに……)」

 

「――(それに?)」

 

「……(コスプレキャラは一人で充分……)」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:34 (3088d)