作品

概要

作者ありがとう
作品名『有希と工場見学』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-04-09 (月) 23:59:29

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

退屈な日常に憤慨して溜息なんぞ吐きつつも、
いっそ世界が分裂して自分を動揺させる陰謀でも起きてくれないものかと考え、
いやいや、そんな暴走を許せば憂欝な未来が両手を広げて「ウェルカム」してくれる事は間違いなく、
ミラクルな希望もすっかり消失してしまい、平凡な日々にも少々の楽しみを見つけ始めた頃、
「みんなっ!明日は工場見学に行くわよ!」

 

金曜日の放課後、もはや意味を成さないほど聞き慣れたミーティング中にそれは起こった。
まるで冷凍された新じゃがのような瞳が八つ。なぜ自分が冷凍庫に放り込まれたのかが分からん。
我ながら可笑しな比喩ではあるが、この文芸部室の体感温度が伝わればそれで満足さ。
そんな空気の中、一人オーブンみたいな笑顔の女に言ってやりたい。「AIR読め」と。
「今さらなぜ行くのかとは聞かん。だが何の工場だ?」
ニヤリと悪魔な微笑みを俺に向け、団長机によじ登ると、
「お菓子工場よ!しかもお土産付きなんだからね!」
まあいいさ。破壊兵器工場より危険な目にあう事は無いだろう。しかし、俺は驚いていた。
「わかった。それで何時集合だ?」
なんとまぁ…どうやら俺はウキウキしているらしい。平和な毎日を望んでいたはずなのだが、
知らぬ間に退屈を恐れ、ハルヒの持ち込むイベントを心待ちにしていたのだ。
とうとうコッチ側の人間になってしまったんだな。少しばかり複雑な気分ではあるものの、
「わぁ、お菓子ですかぁ。どうやって作るんだろう?」
朝比奈さんはワクテカしていらっしゃるし、
「素晴らしいですね。貴重な体験ですよ。お菓子と言えば最初に発明した…」
「古泉くん、ウンチクは聞き飽きたわ。自重してちょうだい」
「まったくだ。少し自重しろ」
ハルヒと視線を交わし、お互いの健闘を讃えつつ長門を見る。
「……ポテチ…チョコパイ…グミ…ベルタースオリジナル…」
『お菓子』と聞かされた瞬間からこんな感じだ。栞も挟まずに本を閉じ、
一人でブツブツとつぶやきながら空を眺めている。楽しみなんだろうな。
でも俺はヨダレ属性は無いぞ。

 

そして見学当日、バスに揺られて40分。
この辺りまで来ると民家は減り、大小さまざまな箱が連なる工業地帯になっている。
ハルヒが申し込んだ工場は、その中では若干ちんまりとしているものの、
「ココよ!体育館くらいの大きさかしら?んー、いいニオイ!」
砂糖の焦げる魅惑的な香りと共に現れた工場長。
「やあ、こんにちは。美人ぞろいだね。お土産を奮発しちゃおうかな」
頭部にワカメか昆布でもかぶせた方が良いのでは?ぐらいの年齢だろう。
危うく声に出すところだったが、古泉が口を塞いでくれて助かった…だが、
「その手をどうするつもりだ?古泉よ」

 

「……非効率的。作業工程の改善を行うべき」
巨大スクリーンのようなガラスに張りつき、中の様子を見て溜息混じりに文句を言った。
「そう言うな。今の地球じゃこれで限界なんだ」
しかし納得できないのかね、黙々とクッキーを吐き出す機械のように無機質な瞳で俺を見つめ、
「…理解できない。……早くお菓子がほしい」
これを言ったのがハルヒなら、迷わずチョコレートの海に突き落としていたことだろう。
だが長門の気持ちも分からんでもない。苦労して作った手作りケーキを、
一口も食べずに突き返されれば誰だって腹も立つ。それにしても少し怒りすぎじゃないか?
「………つまらない」
やれやれ。反抗期かもしれんな。

 

どうやら種類によってブースが分かれているらしい。そこにはチョコパイに縁の無さそうな中年男性。
「どうしたのかしら?あの人なにかミスでもしたの?」
「最近入ってきてまだ慣れてないんだよ。大変だろうなぁ」
次は我が身。そうつぶやいた工場長は黙り込んだ。…つまりはリストラか。
若いリーダーにペコペコしている中年男性も、前の職場では逆の立場だったのかもしれん。
それでも家族の為に頭を下げ、汗を流して懸命に働いている。
パートで来ているあの女性も、髪の茶色い兄ちゃんも、何かを守る為に必死なのだろう。
…親父の肩でも揉んでやるか。
「…………」
ふと長門を見ると、先程と同じようにガラスに張りついていた。しかしその瞳は同じではない。
隣からでは何を見ているのか分からんが、俺と同じだといいな。
汗を拭う中年男性を、俺はしばらく見守っていた。

 

「みなさんお疲れさま。はい、これお土産ね。いつもより多めだよ」
見学を終えた俺たちは、それぞれ菓子の詰め合せを受け取り、バス停へ向けて歩いている。
ハルヒはさっそく袋を開けてムシャムシャし始めた。やれや…そうだ、長門。もう食べていいんだぞ?
チョコパイを見つめていた瞳をこちらへ向け、
「………まだいい。大事に食べる」

 

子供扱いしてるわけじゃないぞ?何となくそんな気分なのさ。
ハルヒが振り向く前に、俺は長門の小さな頭を
そっと撫でてやった。

 

END

 
 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:32 (3090d)