作品

概要

作者ばんぺい
作品名長門とヘタレとホラー映画
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-04-08 (日) 21:40:00

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 発端は何てことのない一言だったように覚えている。
 あれは2、3日前、帰りが遅くなった日だ。ハルヒの言いつけで長門を部屋まで送って行っ
た日だったな。
 どこで覚えたんだか、家まで送ってもらったのだからお茶の一杯でも出すべきだと言い張る
もんだから、部屋に上がらせてもらったんだ。
 いつもの通り何もない部屋。
 いや、本は増えていたか。カーテンも掛かってたし。
 それでもいやに無機質な感じがするのは何故だろうと考え、おおよそほとんど物音がしない
事に気付いたんだ。それで

 

「なぁ長門、この部屋に一人で居ると寂しくないか? テレビでも置けば気休めになるかもし
 れないぞ」

 

 テレビに興味がないならビデオかDVDでも置いて、小説の映画化された奴でも見てみたら
どうだ、と勧めたんだ。
 もちろん長門なら寂しいなどとは言わん事は100も承知さ。しかし俺が納得できん。
 例えこいつが要らんと言っても、こういう事はさせておくべきだ。

 

 さて、あれからまだ2、3日なんだよな。うん。
 2、3日という時間は万能宇宙人にとって、馬鹿でかいスクリーンの高級シアターセットを
導入するのに十分な時間だったようだ。思い切りのいい奴め。

 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 

「おまえの導入したシアターセットがすごいのは良く解った。びっくりしたが、まぁこういう
 のも良いだろう。それで長門、今日は俺にこれを見せたくて呼んでくれたのか?」
「違う。見てほしいものがある」

 

 そういって長門が取り出したものは、俺の進言した通りの小説原作の映画だった。そこそこ
メジャーになった映画だが、正直俺はこの手の映画を進んで見たいとは思わん。
 何が悲しくて自分から進んで怖いものを見なければならんのだ? 怖いもの見たさという物
を理解出来んわけでは無いが、限度というものがあるだろう。俺は自分の限度を弁えている。
 そしてこのホラー映画は俺の限度を超えているであろう事も、風のウワサで理解している。
 要するに、怖いから見たくない! ヘタレで結構!

 

「見た。見たぞ。これでいいな。俺は帰る」

 

 差し出されたパッケージを見てそう言い放ち玄関へ向き直った俺の襟首を、長門の人差し指
がガッチリとホールドする。こんなにちっこい体なのにビクともしないのは何故だ。

 

「あなたの指示とわたしの用意したものに齟齬が無いか確認してほしい」
「無い。問題無い。だから帰る」
「もうひとつの理由。わたしはこのパッケージを確認し、一人で見てはいけないと判断した。
 原因は不明」
「なんだそりゃぁ。……なんとなく、嫌な感じがしたのか?」

 

 辞書で「なんとなく」という言葉の意味を調べるくらいの空白が有ってから、長門はコクン
とうなずき「そう」と答えた。
 何となく恐怖を感じるような、そんな感性が長門にも生まれつつあるのだろうか。それは喜
ばしい事だ。
 しかしな長門。そう思うなら見なくてもいいんだぞ?

 

「……一人で見てはいけないと判断すると共に、あなたと一緒に見るべきと判断した。これも
 原因は不明」

 

 と困惑気味に言って来た。
 それは一体どういう感性なんだろうな。俺はフロイト先生じゃないからわからんが。

 

「一緒に見る事を提案する」
「……どうしてもか?」
「どうしても。わたしにこれを推奨したのはあなた」

 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 

「……っ!! っ!!!!」

 

 時折ビクッと体を震わせながら、必死に声を出すまいとする可愛い仕草。
 知らずに相手の手を握ってしまうのは、安心したい一心なのか。初々しい事この上ない。
 ……全部俺の反応だよ。悪かったな、ヘタレで。
 しかしヘタレな俺でも、女子の前で悲鳴をあげない程度のプライドは守ってる。ここは誉め
ていただきたいね。

 

「ぅっ……!!」

 

 声なんか出てない。出してないぞ。
 流石に耐えかねて画面から目を逸らし、隣に座る長門の方を向いてしまう。しかし俺が長門
の方へ目を逸らすと、必ず長門もこちらを見ているのだ。
 明かりを落とした部屋の中で、スクリーンの映像を映し込んだウレックサイトのような瞳が
俺を見つめる。暗がりの中では長門の表情解析スキルも70%減だが、ちゃんと画面を見て、
と抗議している様にも見える。
 それにしてもこいつは全く怖がる様子が無いな。俺なんてもう冷や汗ダラダラなのに。あぁ
すまん、また手を握っちまってるな。汗ばんでてすまん。

 

「いい。この方が安心できる」

 

 そうだな、俺が安心できる。情けない事に長門に気を使わせちまってる。
 そんな事言っている間にもまた目を覆いたくなるシーンが大画面に映し出され、握った手に
力をこめてしまう。
 すると、ゆっくり長門も握り返してくる。俺の事を気遣ってくれているのだろう、この手が
無ければ最後まで映画を鑑賞する事は出来なかったと俺は確信を持って言える。

 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 

「……やっと終わったな」

 

 こくん

 

「正直、怖かった」

 

 こくん

 

「? おまえも怖かったのか?」

 

 こくん

 

「全然そうは見えなかったが。俺の気を使ってくれるくらい余裕が有ったんだし」

 

 長門はクエスチョンを浮かべて俺を見ている。どういう事だ。俺の勘違いだったのか。
 それはさておいて、とりあえず何か飲んで息をつきたい。長門、悪いがお茶でも入れてもら
えるか?
 長門はいつも通りの無表情で、しかしほんの僅かに震える唇で、こう言った。

 

「立てない。手を貸してほしい」

 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 

 お茶を入れて一息着き、俺と長門はなんともいえない倦怠感に包まれて、ぼーっと座ってい
た。長門は自分の手を見つめている。

 

「なぁ長門。映画見てる間、俺の手を握り返してくれたのは、俺を安心させるためだよな?」

 

 ふるふると首を振る長門。違うのか?

 

「知らずに力を込めていた。あなたの手が無ければ、エラーデータによりあの映像作品を最後
 まで再生する事なく停止していた可能性もある」

 

 ……そうか、やっと気付いたよ。手を握って安心していたのは俺だけじゃなかったんだ。
 俺が怖がってたのと同じくらい、長門も怖がってたんだな。
 ははっ、可愛らしい一面があるじゃないか。俺の表情鑑定もまだまだだって事だ。

 

 俺が画面から目を逸らすシーンでは俺を見てたんじゃなくて、長門もしっかり目を逸らして
たんだ。そうに違いない。

 

「それもある」
「他にも何かあるのか?」
「……安心できた」
「そりゃぁ怖い映像から目を逸らしたんだから、多少は安心できるだろう」
「……そうじゃない。でも、それでいい」

 

 よくわからん奴め。
 ま、今日は長門の女の子らしい所が見れて良かったよ。
 収穫もあった事だし、そろそろ……

 

「帰る?」
「ああ、もうすっかり遅くなっちまったからな」
「駄目」
「は?」
「今から帰るのは危険」
「そうは言うがな、さすがに泊まっていくわけにもいかんだろう」
「……今日、一人で寝てはいけないと判断する」
「怖いのはわかるけどな、俺も怖いから。でも我慢しなさい」
「怖くはない。でも、あなたと一緒が望ましい。そうでなければ眠れないと予想される」
「そういうのを怖がってるって言うんだ」
「……」
「な、何だよ」
「帰り道、何か出るかもしれない。だからあなたはここにいるべき」
「は、ははっ! あれは映画だ。何も出るわけないじゃないか」
「人間の脳は時として、存在しないものを知覚する。しかし本人が感じる恐怖は、存在するし
 ないに関わらない。あなたはそのような状況に陥る可能性がある」

 

 この……散々脅かしてくれやがって。
 しかしここで甘やかすと長門のためにならん。俺のためにもならん。というか、純粋に泊ま
っていくのはマズイだろう。
 長門はマンションの前まで俺を見送りながら、泊まってほしいという懇願を短い言葉で囁き
続けていたが、俺はそのことごとくを断腸の思いで振り切ってマンションを後にした。

 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 

 ……妙に生暖かい風が吹いている。
 長門の言葉が頭の中でリフレインする。
 考えない方が良いと解っているのに、そこの曲がり角から何か良くないものが出てくる様な
錯覚に襲われる。
 平気だ、平気だと自分に言い聞かせる。

 

  カサカサ

 

「ぅあっ!?」

 

 ただの紙切れだ。風に舞っている。
 ……駄目だ。本格的に駄目だ。
 俺の理性は本能的恐怖にあっさりと負けてしまったらしい。全く、自分がここまでヘタレだ
ったとは知らなかったよ。

 

 諦めて踵を返し、マンションの玄関へと舞い戻る。
 長門、すまんが今夜は世話になるぞ。おまえのせいだからな。
 インターホンの向こうに感じる長門の沈黙は、随分と嬉しそうに思えた。

 
 

<おわり>

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:31 (2734d)