作品

概要

作者ばんぺい
作品名SOS団と歯医者
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-04-08 (日) 13:11:41

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 歯医者というのは医者であり、歯の不調で困った人を助けてくれる有り難い職業である。
 しかし世の中に、歯医者が大好きだ! という人間は限りなくゼロに近い。
 もちろん現在歯痛に悩んでいるこの俺も例外ではない。
 虫歯に気付いたのは1ヶ月前。何だかんだと自分に言い訳をして敵前逃亡を続けていたのだ
が、どうも若干悪化しているらしい。
 当然だ。虫歯というのは放っておいて治るものではない事など俺でも知っている。俺ももう
小さな子供ではないのだから、歯医者くらい自主的に行ってしかるべきだろうか。
 授業中虫歯を舌でぐにぐにしながら、今日こそは歯医者だな……などと考えていた。

 
 

 さて放課後である。とりあえず部室に顔だけ出して早退する事を伝えよう。

 

 コンコン

 

「はぁ〜いv」

 

 朝比奈さんボイスが返って来た今日はラッキーデイ。歯の痛みも和らぐね。虫歯菌もしばし
エンジェルボイスに聞きほれているのだろう。

 

「遅いわよキョン! あんた以外もうみんな来てるのに!」

 

 わかったから、そうがなりたてないでくれ。
 大人しくなった虫歯菌がおまえにつられて騒ぎ出しやがる。 お前は虫歯菌の友達か?
 おまえほど虫歯菌のコスプレが似合う奴も居ないだろう。

 

「まぁいいわ。それより聞きなさい、今日はこれから皆で図書館に行くわよ!」

 

 俺が早退を言い出す前に、高らかと宣言しやがった。言い辛くなったな……。 ていうか
なんで図書館なんだ? 長門の希望か?

 

「違う」
「なんでも古い古文書の類を探しに行くそうですよ。あれだけの本があるんだから、まだ誰も
 気付いていない宝の地図などがあるかもしれない、とね」
「何度も言ってるけど面白い事は待ってるだけじゃ来ないのよ。有言実行、善は急げ! さぁ
 行くわよ!」
「……」

 

 まぁ仕方ない。こうなっては誰も止められまい。俺の歯医者は中止だ。別に気分が乗らない
とかそういうわけじゃないからな。不可抗力だ。あぁ、仕方ない仕方ない。

 

「わかったわかった。とっとと移動するぞ」

 

 俺がやむをえず歯医者に行くのを諦め、ハルヒについて行こうとした時。
 もしかしたら俺はまた舌で虫歯を弄んでいたかもしれない。
 だとしても、俺が虫歯だと気付く奴が普通居るか?

 

「……駄目。あなたは医者へ行くべき」

 

 居るんだこれが。
 俺の服の裾をつまんで氷点下の瞳で俺を見つめる、この万能宇宙人だけは。
 いや、もしかしたらニヤケ面超能力者も、ハルヒの虫歯なら気付けるのかもしれんが。

 

「なぁにキョン。あんたどっか具合でも悪いの?」
「いや、別に? どうした長門。俺の具合が悪そうに見えたのか?」

 

 長門よ。ここは場の空気を読んで、今日は皆で図書館へ行く事にしようじゃないか。
 別に歯医者が嫌だってわけじゃないぞ。明日行くさ、明日。

 

「……口をあけて」

 

 やはり長門は一歩も引かないか。ハルヒも怪訝な目で見ているが……今更「実は歯医者に
行く予定だったんです」とは言い辛い。
 さてどうする……まずは長門を説得せねば。

 

「あ」

 

 のな長門、と言いかけた一瞬。その一瞬に、長門の手の中で何かが閃いた!

 

「のあああああ!!」

 

 何かが! 硬く尖った何かが俺の穴をぐりぐりと!!
 長門よ! なんでそんな、歯医者の歯をぐりぐりする針持ってるんだ!?
 それ常備してるのか? いやお前たった今作ったろ!

 

「ちょ、有希、今何したの!?」
「虫歯」
「はぁ!? あんた、虫歯あるの? なんでさっさと歯医者行かないのよ!」
「あ、明日行こうと思ってたんだよ!」
「そんな事言って、結構酷くなるまでほっといたんでしょ! 今日行きなさい、今から!」
「今日は図書館行くんだろ? 明日でいいって」
「予定は変更よ! 今日はへたれのアンタに全員で付き添ってあげるわ!」

 

 マジかよ……こんな大人数で付き添われたら、歯医者もいい迷惑だろう。
 ていうか俺が恥かしい。

 

「……身体の不調は早めに治療すべき。特に進行した虫歯は放置しても治癒しない」

 

 長門なりに俺の体を心配してくれているのは嬉しいんだが……付き添いという状況が少し楽
しそうなのは俺の気のせいだろうか?
 どうしても付き添うというのなら、そんな長門だけに付き添って欲しい。こいつなら治療の
痛みを消したりしてくれるかもしれん。
 しかし楽しそうなのは長門だけではなかった。ハルヒも朝比奈さんも、一体何が面白そうだ
と言うのか。

 

「その……原始的な歯科治療というのは見た事が無くて……」

 

 朝比奈さん、なんとかして未来の無痛治療法をここに用意することは出来ませんか。

 

「それはもちろん禁則事項です。だからキョン君、がんばってくださいね?」

 

 古泉はハルヒのYESマンで、ハルヒは言うまでもなくノリノリだ。
 長門も朝比奈さんも乗り気であれば、俺に断る術があろうか。いやない。
 結局俺は、全員を引き連れて歯医者へ向かう事となった。
 やれやれ。

 
 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 
 

「こんにちは〜。どうされましたか〜?」

 

 院内に入ると、受け付けの優しそうなお姉さんが対応してくれた。
 歯医者というのはやはり精神的な負荷が大きな物であり、それ故かどうか、院内には優しそ
うな音楽が流れ、優しそうな色合いを基調としたコーディネートが施されており、優しそうな
お姉さんが対応してくれると相場が決まっている。
 そんなお姉さんの、古泉とは違う意味で染み付いているであろうポーカーフェイス笑顔も、
高校生5人の集団の来客を目にした時には少し崩れた様に見える。

 

「あの、ちょっと歯が痛くて……虫歯みたいなんですが」

 

 さすがのハルヒも病院では静かにする程度の常識はわきまえている様であり、俺が受け付け
で簡単なやり取りをしてる間は大人しく待合室のレトロな漫画を眺めていた。どうでもいいが
こういうとこの漫画は絶対歯抜けだからな。途中が読めないからって後で怒るなよ?
 朝比奈さんはキョロキョロとあたりを見回し、たまに聞こえるドリルの甲高い音は何だろう
かと可愛らしく首をかしげていらっしゃる。朝比奈さん、あなたはアレを知らないからそんな
反応なんでしょうね。
 古泉はいつものニヤケ面だ。ちなみにここは古泉に紹介された歯医者であり、おそらく機関
の息が掛かっている病院なんだろう。どうでもいいが腕は確かなんだろうな?
 長門はいつものように無表情で突っ立っている。今気付いたんだが、長門に治療してもらう
ってのは無しなのか?

 

「なし。ずるは駄目」

 

 ルール無用の宇宙人にしては手厳しいことだ。
 さて、問診表を書いた俺は名前を呼ばれるまで待ってるわけだが、おまえら退屈じゃないの
か? 付き添いって言ってもただ待ってるだけだろう。やっぱり来なかった方が……

 

「はいこれ。使いなさい」
「なんだ? ハンカチか?」
「どうせあんたみたいなのはハンカチなんて普段持ち歩いてないんでしょ。ちゃんと洗って返
 すのよ!」
「あ、ああ。すまん。助かる」
「ふん。こんな事だから付き添いが必要だって言うのよ。歯医者くらい一人で来れるようにな
 りなさい! なっさけない!」

 

 くそっ、言い返せねぇ。しかも長門が追い討ちをかけるように、

 

「彼女の言う通り。あなた一人では、あと3週間は虫歯を放置していた。これは既定事項」

 

 とか言いやがる。いくらなんでもそんな事あるか。ねぇ朝比奈さん?

 

「あ……えっと、禁則事項です」

 

 申し訳なさそうな笑顔で肯定しないで下さい。
 しかし俺以外が手持ち無沙汰なのは事実だろう。俺以外にどこか診てもらう必要のある奴は
居ないのか?
 そんな俺の心を読み取ったのか、受け付けのお姉さんが声をかけてくれた。

 

「あの、ただ今無料で簡単な歯科検診を行っていますので……お連れの方もよろしければ受け
 て行かれませんか?」

 

 ほぉ、それは良い事を聞いた。だそうだがハルヒ、ちょっと受けて来たらどうだ。

 

「そうね。あたしは虫歯無いけど、こういうのは早期の発見とケアが大事だし。有希、みくる
 ちゃん、古泉君、あんた達も受けるのよ!」

 

 かくして、団員全員の歯科検診が始まった。といっても簡単なものだ。俺が治療を受けてる
間に全員終わるだろう。順番をクジで決めているようだが、そこまでする様な事か?
 結局順番は、ハルヒ→古泉→朝比奈さん→長門の順番に決まったようだ。
 しかし何だな。他の連中はともかく、長門が虫歯という事はまぁ無いだろうな。
 そういうしているうちに俺の名前が呼ばれる。緊張の一瞬。足がふわふわする。

 

「こんにちは。ええとキミは……初診だね。とりあえず診てみようか。はい口あけて」

 

 されるがままになる俺。先生のにこやかな笑顔も、緊張をほぐすためだろうと思うと、逆に
これからの痛みを想像してしまう。

 

「あー、これはちょっと深めだね……でもまぁ一回で終わるでしょ」

 

 そして治療が始まる。治療の内容については詳しく語る必要も無いだろう。ていうか俺が語
りたくない。歯と一緒に命まで削られる思いとだけ言っておこう。
 ちなみに治療風景は待合室から丸見え……とまでは行かないが、結構伺い知る事が出来る。
 ハルヒは歯科検診中か。朝比奈さんは先生の手元の器具と俺の表情から大体何をしてるの
か察した様で、口に手を当て、青い顔に涙目でガクブルしていらっしゃる。
 安心してください、歯のケアがちゃんと出来てればこんな目には遭いません。

 

「はい、ちょっと口ゆすいでください」

 

 俺の治療が一旦途切れ、先生が別の患者の所へ駆けて行く。
 軽く涙目になりながら一息つき、口をゆすいでちょっと休憩タイムだ。
 と思っていたら助手とおぼしきお姉さんが先生の指示でこちらへ来た。
 一瞬体が強張るがこの人はどう見ても看護婦で、歯を削る人ではあるまい。

 

「ちょっとごめんねー」

 

 案の定俺の命を削りに来たわけではなく、器具の調整的な事だったらしい。俺の反対側にあ
る器具に手を伸ばす。
 しかしおねえさん! その体制ですと、豊満でやわらかいものが白衣を通して俺の顔に一次
的接触を果たしてしまいますよ!
 いやしかしこんな事は歯医者では日常茶飯事に違いない。過剰反応してはかえって変に思
われてしまうだろう。平常心平常心……。
 さて、平常心を保とうとする俺に、待合室の方から不穏な冷気を感じるのは気のせいか?
 例えるならマイナス273度の黒曜石が発するような冷気だ。

 

 ふに。

 

 ってちょっとまてまて、そんな事考えてる間にホントにあたってるって!
 これは正直、たまりません!
 ドギマギしながら、体をぴくりとも動かす事が出来ずにいる俺。

 

「あ、あの……すいません、ちょっと体勢的に、顔が……」
「ふふ、あててるのよ」

 

 なんという事をこの看護婦さんは!
 ……って、冷気がさらに0.15度下がった気がする。気のせいであってくれ。

 

「ごめんねー。キミ可愛いからちょっとからかっちゃった」

 

 年上の余裕を滲ませながら離れていく看護婦さん。
 その時、待合室から聞いてはいけない音を聞いたような気がする。例えるなら、そう、早口
言葉をテープで早送りしたような……。
 嫌な予感が汗となって背中を流れる。しかしそれが何だったのか考える暇も無く、すぐに先
生が戻ってくる。

 

「ごめんごめん、お待たせ。じゃあもう一度口をあけて」

 

 あぁ、また削られるのか……ってあがががががっっ!!!!
 何なんだこりゃ! さっきより1.5倍ほど痛いぞ!!!!!
 まるで誰かに神経の感度を1.5倍にされたみたいに!!!

 

「あれ、そんなに痛い? おかしいな……少し我慢してねー」

 

 いたいいたいいたいいたい! マジでマジで!
 あああああああああぁぁぁぁぁ……

 

−−−−−−−−−−−−−−−

 

「何よ、そんなに痛かったの? 子供じゃないんだから、歯医者程度で半泣きとかありえない
 わよ。つくづく情けないわね」
「はぁ……はぁ……思ったより深くてな……。それより、おまえは虫歯無かったのか?」
「とうっぜんよ。日頃からちゃんと歯磨いてれば虫歯なんてならないの!」

 

 聞けば古泉も虫歯とは無縁らしく、いつもより2割増の笑顔で無意味に歯をキラキラさせて
いる。
 ところでそこでうずくまってる朝比奈さんは、何があったんだ? そんなに俺の治療風景が
ショッキングだったのか?

 

「みくるちゃんね、検診で軽い虫歯があったらしいのよ。小さいうちに治した方がいいから、
 今から治療してきなさいって言ったらこんなに怯えちゃって……ほらみくるちゃん! 今の
 うちならそんなに痛くないから!」

 

 カタカタ震えながら、耳に手を当てて必死で何か呟いている。よくよく聞くと、「そんなぁ
……どうしても駄目ですかぁ……?」などと言ってるのがわかる。未来の無痛治療法でも受け
ようと申請しているのだろうか。
 まぁ朝比奈さん(大)にしてみれば、「わたしも受けたんだからあなたも我慢しなさい!」
って所だろう。複雑な関係だ。

 

「長門はどうした?」
「彼女は今検診中です。そろそろ終わると思いますが……」

 

 言うや否や、検診を終えた長門が出てきた。まさかこいつが虫歯なんてことは……

 

「迂闊。歯のケアが行き渡っていなかった」

 

 あったらしい。

 

「おまえでも虫歯になるんだな……。丁度いい、朝比奈さんと一緒に治療してもらっとけ」

 

 こくんと頷き、長門の口がゆっくり開く。
 口から何かを発しようとする長門に俺は声をかけた。

 

「まさか、痛みを感じなくするとか、ズルで歯を治そうとしてないよな?」

 

 長門の肩がピクッと震えた気がする。
 ゆっくりと俺を見て、何か問題が? といわんばかりの視線を送ってくる。

 

「ズルは駄目だぞ」
「……あなたが感じる痛みというものは、有機生命体にとってとても大事なもの。でもわたし
 はただのインターフェース。そのような物は必要としない。あなたとは違うから」
「深刻な話にすりかえようとしても駄目だ」
「……」
「そんな目で見ても駄目」
「……許可を」
「却下します」
「……」

 

 長門なりにだいぶ渋っていたのだが、最終的には諦めたようだ。心なしかとぼとぼと治療を
受けに行く。
 別に俺の歯を知覚過敏にした仕返しってわけじゃないんだぞ。そりゃ俺だって長門が痛い目
見なくてすむならそれに越したことは無いと思ってしまうさ。
 でもな、そんな便利な体に頼ってちゃ駄目なんだよ。心が体に頼っちゃ駄目なんだ。
 長門の言う通り、確かに痛みを感じるってのは大事な事なんだよ。
 ま、だからって1.5倍に増量するのは勘弁願いたい。

 

−−−−−−−−−−−−−−−

 

 ほどなくして、治療を終えた朝比奈さんと長門が帰ってきた。
 朝比奈さんは放心状態。どちらかというと痛みよりも恐怖でって感じだ。未来人にとっては
この時代の治療はちょっと野蛮すぎたのかもしれない。
 長門はといえば……

 

「あなたの指示に反する事は無かった」

 

 その無表情なくせに、少し涙目になってるの見りゃわかるさ。

 

「これは肉体的な反射。痛みを我慢できなかったわけではない」
「そうか。とにかく、えらいぞ長門」

 

 頭をなでてやる。長門はされるがままに頭を揺らしている。
 ほんの少し嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか?
 もちろん、また治療を受けたいと思っているわけではあるまいが。

 

 そんな俺達の様子を見て不機嫌そうなのはハルヒだ。一体何が気に食わないんだ?

 

「うるさいわね。別に不機嫌じゃないわよ!」

 

 どうみても不機嫌なんだが……。
 とにかく、これでひとまずはSOS団歯医者ツアーはおしまいだ。
 一度治療を受けたんだ、次にお世話になるのは大分先になるだろう。
 出来れば二度と世話になりたくない。

 
 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 
 

「で、だ。昨日何もなかったお前が、どうして甘い物食えないんだって?」
「夕べから急に歯が痛みだしまして。そんなに酷くは無いんですが……」
「それはまた……あれか?」
「ええ、おそらく。涼宮さんは治療を受けたあなた方三人を見て、どこか仲間はずれにされた
 ような気分になってしまったんでしょうね」
「それで自分共々、お前も巻き添えか……」
「この程度で済むなら、それに越したことはありませんよ。はは……」

 

 笑顔に力が無いぞ、古泉。
 めでたく5人そろって虫歯経験者になったところで、今日は今日とてまた歯医者に行く事に
なりそうだ。今度こそ顔覚えられちまうな。
 今回の一番の被害者は古泉だと言えるだろう。同情してやらんでもない。
 ほら古泉、譲ってやるから締めてみろ。

 

「ふぅ……。 やれやれ、です」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:31 (2704d)