作品

概要

作者ありがとう
作品名『有希のプライド』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-04-02 (月) 15:04:52

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

「………」
「…………」
「…何あんた達。ケンカでもしたわけ?」
まさか。むしろその方がどれだけ良かった事か。俺にはもう、
お互いの意見を納得するまでぶつけ合い、自分の非を認め謝罪する機会さえも無いのである。
「………別に」
言い訳はしないさ。誰が見たって俺が悪い。長門が俺に背を向けるのも当然の仕打ちだな。
それ程の事をしてしまったんだ。一発ぶん殴ってきてくれないか?
あの長門をここまで怒らせた昨日のバカヤロウを。

 
 

「…あなたのわたしに対する気持ちはよく分かった。もういい。…あなたと話す事は何もない」
そう言い捨て、使い古した本棚に別れを告げるような瞳で見つめた後、
一度も振り向く事なく去っていった。
追いかける?もちろんそのつもりだ。
だが俺の足はどうやら賛成票を投じてはくれないらしい。
何故なら…正直驚いていたんだ。謝れば済むと思っていた俺が、今はひたすら憎らしい。
あんなにハッキリと怒り、そして悲しむ長門を見るのは初めてだった。

 

土曜日の深夜。相変わらず成果の無い不思議パトロールに付き合わされ、
朝比奈さんの春物先取りスタイルに情熱を持て余し、見慣れた制服姿の食欲に今日も驚かされつつ、
古泉(中略)な俺はテレビも消さずに愛猫との睡眠合戦に奮闘していた。
「……んー…もしもし…長門か」
相手がハルヒなら文句の三つも言ってやるのだが、長門なら話は別だ。
考えたくはないがヘンテコ事件発生の連絡かもしれないしな。
「…………寝てた?」
「…ああ、別にいいさ。また事件か?」
俺のマヌケな声で気付いたんだろう。この心遣いを少しはアイツにも見習って頂きたい。
「………明日…図書館に」
明日の日曜日、団長様のありがたい『心遣い』により、丸一日休暇が与えられた。
悲しい事に予定は無いし、事件が起きた訳でもないみたいだしな。
「じゃあ10時に図書館でな」
二つ返事で了承した。
たまには長門様にも息抜きをして頂こうじゃないか。世話になりっぱなしじゃ男が廃る。
ついでに昼飯でも奢ってやろう。映画に連れて行ってもいいかもな。
すっかり目が覚めてしまった俺は、シャミセンの頭をワシワシしながら明日の予定を何度も確認した。
静かに本を読む長門、黙々と飯を食う長門、恋愛シネマを見る…
何を考えてんだ俺は。
これじゃあまるで浮かれた谷口だ。いかん、いかん!早く寝ちまおう…。

 

今思えば確かに浮かれていたかもな。その時目覚ましをONにしておけば、
長門を悲しませずに済んだだろう。

 

翌日。目覚ましをかけ忘れた俺は、妹の気の効いた『心遣い』のおかげもあり見事に寝坊した。
最低限の準備を済ませ自転車に跨がる。時計は12時を少し過ぎたところ。
「やれやれ。昼飯代が高くつきそうだ」
俺は大して焦ってはいなかった。
長門の事だ、重箱みたいな本を読むのに夢中になってるだろ。
そして俺は特に急ぐ事もなく、すぐに行くであろうレストランの混み具合を心配しつつ、図書館へと向かった。
そんなバカヤロウだった。

 

図書館へ入ると、いつもの制服を着た長門はすぐに見つかった。
ただ、いつもと違い本も読まずに立ち尽くす姿に違和感を感じたのは確かだ。
そこで気付くべきだったな。
「長門、すまん。目覚ましをかけ忘れちまってな」
「………そう」
俺の瞳の中で捜し物をするように見つめ、
「……ゆっくり」
「ん?ああ、本当に悪かった。お詫びって訳でもないが昼飯を御馳走するよ」
「…………」
これは相当ご立腹のようだな。当然か、腹いっぱい食べて機嫌を直してもらおう。
「本はもう読んだのか?この近くのレストランが…」
思わず口籠もる。
わずかに眉間にしわを寄せ、できるかぎりの不満な表情で俺を見上げて
「…………もう帰る」
「お、おい長門!ちょっと…」
その後、別れの挨拶を終え、視界から消えてゆく長門の後ろ姿を追いかける事もできずに、
ただ…見ていた。

 

「なるほど。今回ばかりはフォローしかねますね。ハッキリ言えばあなたの怠慢です」
結局最後までシカトされた部活終了後、珍しくも古泉と二人で下校している。
俺が理由も無くコイツと好んで歩く筈はない。腹は立つがコイツに聞くのが正解だろう。
「だが謝罪はしたんだ。そのあと賠償もするつもりだった」
呆れ顔で前髪を弾きながら、
「遅刻した事に怒った訳ではありません。思い出してください。長門さんはあなたを見て何と言いましたか?」
「いつもどうり『……そう』だったな」
「その後です。あなたを見つめ、悲しそうに言った筈ですよ」
悲しそうだったかは分からんが…
「たしか『…ゆっくり』だな。そりゃそうだろ、2時間も遅刻したんだ」
「まだ分かりませんか?その鈍さには、もはや同情します」
悪かったな。教えてくれよ。このまま絶交されるのは本望じゃない。
「仮に…遅刻してきた人物が涼しげな表情ならどうでしょう?
息を切らせ駆け込んで来た訳でもない。ましてや汗一つ掻いていなかったら」

 

そりゃあお前…腹も立つだろうよ。

 

「そういう事ですよ、長門さんのプライドを傷つけてしまったのでしょう」
「…それは分かった。俺がバカだったな。だが、」
俺を怒鳴りつければ済むんじゃないか?怒りこそ湧いても、悲しむ事は無いだろう。
「急いで来てほしかったんですよ。自分を待たせた事に後悔したあなたにね」
十字路が近づいてくる。古泉とはここまでだ。
「前にも言ったとうり、長門さんは普通の女性に近づいています。あなたと出会ってから急速に」
いい事じゃないか。宇宙的な能力まで消えたら困るが。
「そこです。あなたは長門さんに頼り過ぎです。いえ、それ自体は構わないでしょう」
交差点で立ち止まり、意味も無く信号を見つめたまま、
「長門さんも年頃の『少女』です。頼れる宇宙人としてではなく、か弱い乙女として扱ってほしいのでは?」
言い終えると、軽やかな足取りで歩いていった。

 

「勝手な事ばかり言いやがって」
確かに長門なら何があっても平気だとは考えていた。…甘えていたな。
なんて事だ、誰よりも理解していたつもりだったんだがな。
もう一度謝ろう。土下座でも何でもしてやるさ。

 

ピンポーン
「プツッ…………」
「あー、俺だ。少し話をしたいんだが…」
入り口が開く。やれやれ、さすがにもう怒っては…
「…………ガチャ!」
妹よ、シャミセンの事を頼む。

 

「………入る?」
入れるものなら入ってみろ的な表情で長門が待ち構えていた。
本当にずいぶん嫌われたもんだ。改めて自分の罪の重さを再確認する。
このままでは、まともな話はできそうにない。仲直りしてからと思っていたのだが…
「お前に似合うと思ってな。その…貰ってくれるか?」
残念ながら手持ちが無かったので一本だけだが。
店員の話によれば、花言葉は『威厳、純潔、無垢』なんだとか。
長門にピッタリだろ?ユリの花は。
「…きれい」
無垢な瞳で俺を警戒しながらではあるが、ソロソロと手を伸ばし受け取ってくれた。
しばらくユリを見つめていたが、微かに表情を緩め、
「………入って」

 

「……話って何?」
「ゴホン!つまりだな…」
中身がこぼれる程乱暴に出されたお茶を飲み干し、長門の隣に正座する。
首だけこちらを向き、おいしさそのままフリーズドライされた瞳で俺を見る長門。
そんなに怒る事ないんじゃないか?いや、覚悟を決めろ。俺も男だ!
「本当に悪かった!このとうりだ!」
「………」
男が土下座をする意味をコイツが知ってるかは分からん。しかし、残された道はこれしか無いんだ、頼む。
「………」
冷凍食品の霜が溶ける程の時間は有っただろうか?
「もうやめて」
祈るような気持ちで長門の次の言葉を待っていると、
「……チャンスをあげる」

 

あれから六日後、つまりは日曜日。
いつもの北口駅前で、ショートヘアーがよく似合う小柄な少女を探していた。
俺が迎えに行けば済む話なのだが、わざわざ待ち合わせする事を望んだのは長門だ。
もちろん一時間前に着いた事は言うまでもない。
「……待った?」
三時間は待つつもりでいた俺の決意は役目を終え、目の前の美少女を見つめる熱意に変貌を遂げた。
「………おかしい?」
体に張り付く白いカットソー、やや挑発的な短めのプリーツスカート、
そこから伸びる細めながらも丸みを帯びた足には黒いロングブーツ。
「最高に似合ってるぞ、長門」
それ以上の誉め言葉があるのなら教えてくれ。
「……そう。…行こ」
本日の目的は単純明快。
いっしょに飯を食ったり、ゲーセンを冷やかしてみたり、雑貨屋をうろついたり…。
俺に与えられた任務は長門を楽しませる事、長門のご機嫌が直らなければさようなら…さて、
「とりあえず飯にするか」

 

当然長門の食欲はいつもどうりなのだが、注目を浴びている理由はそれだけじゃないだろう。
「よし、次はゲーセンに行こう。早く」
長門への熱い視線を避けるように店を出た。まったく気分悪いぜ。
「ジャン・ケン・ポン!ズコー」
「…情報結合の解除を「長門、次行こう」
まぁドタバタしたが正直楽しかったな。長門の意外な面もたくさん見れた。
何より、長門も楽しそうだった。

 

外はすっかり夕方、散々遊び倒した俺たちは長門のマンションへと向かっている。
あとは長門様の採点を待つのみなのだが、
「……あなたは今日、常に車道側を歩いている。なぜ?」
言われてみればそうかもしれん。しかし理由を聞かれても、
「まぁ、何となくだ」
「………そう」
少し俯き、何を考えているのか…マンションに着くまでお互いに話はしなかった。
「…………保留」
だそうだ。少なくとも無視される事は無さそうだし、元の長門の面影も出てきている。
焦る事はないか。
「じゃあな。それ、無理しなくてもいいからな」
「……わかった」
コクリと頷き中へ入って行った。
それにしても、今日の長門は少しおとなしい普通の女の子みたいだったな。

 

翌日の放課後、
「ごめんごめん!掃除が長…有希!どーしたのそれ?メッチャ可愛いじゃない!」
「……もらった」
「それってユリよね?誰から?おとこ?」
「………ひみつ」
昨日プレゼントした安物のヘアピンを誇らしげに付けている長門。
…なんの事はない。普通の事だ。

 

俺はただ、少し心奪われただけさ。
どこにでも居る、普通の『女の子』に。

 

END

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:28 (3087d)