作品

概要

作者ありがとう
作品名『有希の誕生日』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-03-26 (月) 14:44:11

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

『有希の誕生日』

 

「お!…ダメか。これも一枚足りないな」
念の為だが、井戸の底で皿を数えてる訳じゃないぞ。
「まぁ簡単に見つかる物でもないしな」

 
 

そろそろ本格的に冬将軍様の指揮の下、
天下を収めて油断した夏の熱気が白旗を振る季節がやって来た。
俺はシャミセンの体温を有効利用しつつ、安らかな睡眠を楽しもうとしていたのだが
「いつもの喫茶店に集合!オーバー♪」

 

ハルヒの一方的な無線連絡を受けた俺は、
スヤスヤと寝息をたてるシャミセンに羨望の眼差しを送った後
一時間もすればオーダーストップ確実であろう喫茶店へ向けてペダルを漕いだ。
ええい、寒い!

 

見慣れた三人がそこに居た。毎度ご苦労様だな。
一人足りないのが気になるが。
「おっそいわよっ!罰金!」
チョコバナナパフェを半分以上食い終えているハルヒにより、本日2回目の罰金が決定した。
とりあえず口を拭け。それじゃあタラコチョコだ。
今日の朝、貴重な休日の睡眠時間を削られたくない俺の願いは成就され、
代償として財布の中身を削られたのである。つまり今日は土曜日だ。

 

「こんばんわキョン君」
口元を手で隠し「ふわぁ」と可愛らしいあくびで出迎えたのは地上の天使、朝比奈さん。
眠気の為か、ポワポワしてる上級生は色気三割増しだ。
「やあどうも。あなたも懲りませんね」
相変わらずどうでもいい。
しかし少しぐらいは反抗したっていいと思うんだがな。
一日中ハルヒのワガママに付き合わされた挙げ句、
こんな時間に呼び出されて何でそんな顔でいられるんだ?二人とも。
「二人にはさっき言ったんだけどね、明後日は有希の誕生日なのよ!」
まぁ、聞くまでもないか。

 

ハルヒの話によれば、長門の誕生日を知ったのは半年も前なのだそうだ。
「だったらもっと早く教えてほしいもんだ」
「誰かがポロっと言っちゃうかもしれないじゃない」
まあな。特に朝比奈さんに半年も禁則事項が守れるとは思えない。
「味方を騙すにはまず味方からって言うでしょ!」
なんだそれは。などとは突っこまないさ。
ウソでも敵なんて言いたくないだろうからな。俺だって同じだ。
つまり、長門にビックリ誕生パーティーを仕掛けようって事らしい。
いかにもハルヒが考えそうな事だな。
だがまぁ…今回ばかりは褒めてやったっていいさ。

 

「……産み出されてから3年間…私はずっとそうやって過ごしてきた」
俺は長門の無表情を思い出していた。

 
 

「やれやれだな。さて、あとは…」

 

日曜日。有り難くも準備期間として、特例の探索中止命令が下った。
朝飯を詰め込んだ俺が向かったのは近所の公園。
無邪気な我が子を守る為か、怪しい男を警戒する母親の視線が痛い。
そりゃそうだろ。
朝から延々と草むらを掻き分ける男子高校生なんざ、そうそう居るものじゃない。
やっとの事で終了条件その一をクリアした俺は、通報される前に公園を後にした。

 

「頼むぞ。失敗は許されないからな」
小学生時代に一度やったきりだしな、不安は有るさ。
4年目の誕生日を迎える長門に対する俺なりのサプライズだな。
そもそも俺がこんな事をするきっかけになったのはハルヒの一言が原因だ。

 
 

「そうなるとケーキが必要ですね。実は僕の親戚に…」
お前の親戚に首相の親父が居たとしても今更驚きはしないな。
閉店間際の店内で『有希☆おめでとう☆パーティー』の打ち合せが行われた。
「あたしとみくるちゃんは料理担当ねっ!材料は明日買いに行きましょ!」
「はい!うふふ。長門さん喜んでくれるかなぁ」
それは楽しみだ。
朝比奈さんはもちろん、ハルヒも料理の腕だけは確かだからな。
アレだコレだと楽しそうにメニューを言い合ってる二人を眺めていたが、
やがて一つの疑問が浮かび上がった。
「ハルヒ、俺は何の担当だ?」
決定した献立をノートの切れ端に書き込む手を止め、
「プレゼント!いーい?絶対に有希が喜ぶ物じゃなきゃ死刑だからっ!」

 

帰り道、俺たちと出会う前の長門を想像しながら自転車を走らせた。
アイツがこの世に存在してから3年間。何をして過ごしたかは分からない。
1年目の誕生日は誰に祝ってもらったのだろう。
2年目は?蝋燭が増えた事を喜んでくれた人が居たのか?
3年目。あの部屋で一人、日付が変わるまでただ座っていたのだろうか。

 

4年目はきっと良い思い出が作れる筈だ。俺は長門に渡すプレゼントを考えた。

 

初めて祝福された誕生日。
その日をいつでも思い出せるようなプレゼント。

 
 

「いい?せ〜のっ!」
「有希(さん)!お誕生日おめでとう!!」
長門は玄関で瞬きを繰り返す人形になっていたが、しばらくして俺を見上げた。
「黙ってて悪かったな。お祝いに来たんだ。迷惑だったか?」
ゆっくりと首を左右に振ってから中へ招いてくれた。

 

「………………………いい………ありがとう」

 
 

『有希☆おめでとう☆パーティー』当日、放課後の文芸部室。
特に変わった事は無い。いつもと変わらない平凡な日常そのものだ。
窓際で半端なシャギーをなびかせる長門がどこか寂しげなのは気のせいだろう。
そんな長門に今日の計画をバラしてしまいたくなっていた俺は、
ハルヒからの圧力光線のおかげで禁則事項を守り通した。

 

一度帰宅した後、18時に長門のマンションに集合。
インターホンに話し掛ける役目はもちろん俺だ。他の奴らよりは自然だろう?
ハルヒは怪しげな目で見ていたが…
それぞれに荷物を持った俺たちは無事にエレベーターに乗り込んだ。
「プレゼントってそれ?まぁ無難なとこね。ほとんどの女の子は喜ぶわ」
本当に渡したい物はこの中に有るんだがな。

 

長門の部屋のテーブルの上はかなりにぎやかだ。
ハルヒと朝比奈さんのコラボによる食い切れない程の料理、
その真ん中には古泉が抱えて来た二階建のケーキが建築された。
「…………」
「わぁぁ…すっごくかわいいですぅ」
「さすがは副団長ねっ!…あれ?蝋燭が4本しか無いけど」
「アッー!僕とした事がうっかりしてましたね。すみません」
顔が近い。ウインクをするな。
お前の「機関」が何処まで知ってるかは分からんが、ずいぶん気の利いたうっかりだな。
自分の歳より多い蝋燭を喜ぶ女性はそうそう居ないだろう。
ユラユラと揺れる4つの灯りを長門はぼんやり見つめていた。
その姿を見ながら
毎年1本ずつ増えていく蝋燭を、SOS団全員で祝うのも
「悪くないな」
俺は思ったんだ。

 
 

「……ありがとう」
SOS合唱団によるバースデーソングの後、長門は蝋燭を吹き消した。
注目されたのが恥ずかしかったのか、少しの間俯いてからお礼を言った。
「さぁ有希っ!ジャンジャン食べなさい!」
それは見事な食いっぷりだったな。
1時間もしない内にすべて平らげた俺たちは、
ゲームしたり写真を撮ったりしてる間に時間を忘れていた。
「もうこんな時間!楽しいと本当に早いのね!」
「……」コクッ
ハルヒの歴史的な大発見に長門も同意した。帰りぎわ
「あぁ長門。プレゼントした花束だが、花瓶か何かに移しといてくれるか?」
「………わかった」

 

ふぅ。これで俺の役目は終わったな。結果は明日の放課後まで分からんが。

 

翌日の文芸部室。今日の活動も長門が本を閉じるのを合図に終わりを告げる。
鞄から栞を取出し何かを思い出すように見つめた後、読みかけの本にそっと挟み込んだ。

 

何処にでも有るような植物が装飾された、味気無いただの栞。

 

気に入ったみたいだな。やれやれだ。
来年はもっと大変だろうな。まぁ何とかなるさ。

 

見つけてやるよ。五つ葉のクローバーを。

 

END

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:25 (3088d)