作品

概要

作者にこ
作品名夕暮れの部室
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-03-24 (土) 23:35:00

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

何の音も返ってこない。ってことはまだ長門しか来てないのか。
ドアを開けると案の定、長門しかいなかった。長門は万年指定席と化した定位置にいた。
しかしあるべき姿ではなかった。
授業中、絶対に抗えない人知を超越した力によって自意識を失ってしまった俺のように、腕を枕にして机に突っ伏し寝ていた。
おそらく寝てしまう前まで読んでいたと思われる、内容までハードなハードカバーSFが床に落ちている。
まあいくら情報統合思念体によって造られた(中略)インターフェースだとしても睡魔には襲われるのだろう。
俺は物音をたてないように、長テーブルをはさみ長門から対角線上になるところにパイプ椅子を動かして腰を下ろした。
いつもならどっかりとテーブルに放るカバンも、丁重に床に置いた。さぞカバンも喜んでいるだろう。
すやすやと眠る長門の前ではあらゆる物が幸せになるのだ。

 

何もすることがない。
窓から見える太陽はそろそろ山陰に引っ込もうとし、置き土産とばかりに眩い赤銅色の、いや、黄金色の光を俺達に投げ掛け、校庭や部室の中に長い影をつくっていた。
耳を澄ますと、野球部の怒鳴り声や吹奏楽部の全然まとまっていない合奏が聞こえてくる。
テーブルの端っこで眠る長門に目を移してみると、小さく肩が上下していることに気付いた。
まるで長門の表情の変化のように微細にだ。
いままで机を見つめるように突っ伏していた長門は、寝返りの要領で頭だけドア側を向いた。つまり俺のいる方向だ。
やわらかに瞳を包み込む瞼。口は薄く閉じられている。
いつもの起きている長門の無表情とは何かが違う表情のなさだった。そうだ。何の不安もないという無表情。そこにあるのは安堵の表情だ。
そのあまりにも無垢な寝顔を、俺は見つめていた。
世界中が乳白色のやさしさにつつまれていくのがわかる。
すべてがすべてを抱擁し、時間が止まったように感じた。

 

しかしそれは俺の勘違いだった。夕日は相変わらず山に飲み込まれ続け、全力を振り絞るかのように光を投げ掛けてくる。
だがそれは真夏の日差しのように凶暴な光ではない。このまま寝込んでいては風邪をひいてしまいそうな人を、俺に代って起こしてくれるような温かな光だ。
長門の瞼がゆっくり開く。そして長門は上体を起こし、なんとも形容のできない瞳でおだやかに俺を見つめ、夕日に照らされながらこう言う。

 
 

「…………おはよう」

 
 
 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:25 (3088d)