作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと糸
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-03-14 (水) 21:13:21

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

どこかの学者が実験に用いた犬のように、
今日も俺は律儀に古ぼけた校舎の一室にやってきた。
もはやこれは日課どころか癖にまでなっているようで、
さらにこの悪癖はどうやら治療法がないらしい。

 

目的地にたどり着いた俺は、
さっそくドアにノックをする。
別に職員室や生徒会室ではないのだから、
教室に入るようにすんなり扉を開ければいいのだが、
その場合かなり高確率で我らが天使のあられもない姿を目撃することになる。

 

もちろんそれはそれで大変魅力的なのだが、
その誘惑に負けてしまうと俺は確実に津波の様な女に、
悲惨な目に合わされてしまう。
いくらこの世で最も美しい光景が見れるといっても、
自分の命と評判を落としたくはない。

 

そんな葛藤をしていると、
扉の向こうからあどけない返事が返ってきた。

 

「は〜い」

 

どうやら既にSOS団内作業着の着替えは終わっているようだ。
少し残念になりながらも安心した俺はノブを回した。
それと同時に拡声器を二重に使用したような声が響く。

 

「おそい!」

 

「……掃除当番だったんだから仕方ないだろ」

 

毎度のことながらこの迷惑団長様は、
他人のスケジュールを把握するつもりはないのか。
というよりまともな時間間隔はあるのか?

 

「あんたはいつも遅いじゃない」

 

その『いつも』ってのは正しくないな。
何とかの法則って奴だ。
統計をとれば他の連中の方が遅いかもしれない……

 

などとは口に出すだけ無駄だろう。
それくらいの学習能力は赤点に胴体着陸スレスレの俺の頭でも
かろうじて標準装備されている。

 

ということで一言謝罪の言葉を述べた俺は、
いつものようにニヤケ面とのボードゲームを始めることにした。

 
 
 

エスパーレッドから4つ目の白星を頂き、
さて今日はあと同じくらい稼げるなと思い出した頃、
不意に後ろに座っていたSOS団専属メイドさんが袋から何かを取り出した。

 

「?朝比奈さん……なんですか、それ?」

 

見ると彼女の両手には色とりどりの毛玉と、
それで作られた奇妙な平面図形があった。

 

「あ、これはマフラーです」

 

「マフラー、ですか」

 

白駒と黒駒を並べながら古泉が繰り返す。

 

「えぇ、もうちょっとで完成なんですよ」

 

そう言ってどんな悪霊も一瞬で極楽浄土送りにしそうな笑顔で、
作りかけのマフラーを見せる朝比奈さん。
なるほど、確かに素人目に見ても完成が間近なようだ。

 

「マフラーってあたしにくれるの?」

 

いつの間にか団長席から近寄ってきたハルヒが尋ねる。
というかいつの間に移動したんだお前……
あとなんでさもお前が貰うのが当然って顔してんだ?

 

「え、えと……ほしいならまだ毛玉あるから作りますよ〜」

 

おずおずと答える未来人。
その仕草がいちいち可愛いです。
それと俺の分も作ってもらえませんか。
ぜひとも。

 

「んじゃ作って。ただしキョンのはいいわ」

 

あっけなく俺の願いを却下するハルヒ。

 

「お、おいお前何言ってやg……」

 

「あら、キョンもマフラー欲しいの?
でもみくるちゃんのマフラーをキョンにあげるのはダメよ!
キョンが変な勘違いしたら困るから!」

 

何だそりゃ。
俺が一体どんな勘違いをするってんだ。
というかなんでお前顔が赤いんだよ。

 

そんな俺の反論を聞く前にさらにハルヒは言葉を続ける。

 
 

「ま、まぁあんたがどーしてもって言うなら、
このあたしが直々に作っt……」

 
 

その時、本日はまだ一言も発声を行っていなかった
頼れる文学少女が突然口を開いた。

 
 
 

「それなら私が作る……」

 
 
 

「な、長門?」

 

いつの間にか万能宇宙人が2本の棒を持って俺の横に座っていた。
え〜と、それは編み棒、ってやつか?
というかそれ以前に移動が見えなかったんだが……

 

「毛糸はある?」

 

「あっ、は、はい!ここに……」

 

突然の質問におっかなびっくりに答える朝比奈さん。
いつ見てもこの人は長門に怯えている気がする。
そんな愛らしい先輩や呆気に取られる俺達を気にも留めず、
長門は赤い毛玉を取って自分の指定位置に戻ろうとしていた。

 
 

「だ、だめよ有希!」

 
 

そんなサイレントガールの肩を、
物凄い勢いで掴むハルヒ。

 

「なに?」

 

「キョンなんかのために有希が労力を使うことはないわ!」

 

おい、『なんか』って何だ。『なんか』って。
そんな俺の文句を華麗にスルーして、
ハルヒはさらに続ける。

 

「いい?有希みたいな可愛い子が編んだマフラーは
この世のどんな宝石よりも高価なのよ。
油田だって裸足で逃げ出すくらいよ。
だからキョンなんかにあげるもんじゃないの」

 

前半部は激しく同意だが、
後半部は激しく撤回を求める。

 

「だからあたしが……」

 

「問題ない」

 

「あるの!」

 

「ない」

 

「ある!」

 

「ない」

 

「ある!」

 

何やら二人の間に火花が見えるのは気のせいだろうか。
そんな雰囲気に耐え切れなくなった朝比奈さんが、
恐る恐る口を開いた。

 

「あ、あのぉ〜」

 

「なにッ!?」

 

「なに?」

 

「ひぇっ!?」

 

あんまり朝比奈さんを睨むんじゃない。
とりあえずちゃんと聞きなさい。

 

しかしこの心優しいがどこか抜けてる未来人のセリフが、
後々に大変なことを巻き起こすとはその時は夢にも思っていなかった……

 
 
 

「と、とりあえず二人とも作ってみてはどうでしょう……
どうせ皆さんの分作る予定だったし、毛糸はまだありますから……」

 
 
 
 

「じゃあどちらか先に出来た方がキョンのマフラーになるんだからね!」

 

「望むところ……」

 

あの〜お二方?
一体何を燃えてらっしゃるんですか?

 

「いいからあんたは黙ってなさい!
これはあたしと有希の真剣勝負なんだから!!」

 

いやマフラーを編むだけだろ?
それに編み物ってそう手早く終わるものじゃ……

 

「大丈夫。情報結合を……」

 

「ズルはダメだぞ」

 

嫌な予感がしたので先に釘を打つ。
こら、何でそんな目で見るんだ。
ダメなものはダメだぞ。
お父さん許しません。

 
 

「それでは、始めますよ……レディー……」

 
 

いつの間にかスターターとなっていた古泉が、
これまたいつの間にか持ってきたストップウォッチを構えていた。

 
 

「ファイッ!!」

 
 

そんなありきたりな掛け声と共に、
2人の少女の壮絶なバトルは始まった……

 
 
 

青い毛玉を選んだハルヒは、
手際よく手に毛糸を巻きつけスイスイ編んでいる。
この辺りの技術がすごいのは分かるが、
如何せん編み物に縁がないのでどれほどすごいのか分からない。

 

ただ何となく鬼気迫る感じがするのは気のせいだろうか……

 
 

さて、もう一方の赤の毛玉を使っている長門はどうだろう……
そう思って振り返って見ると……

 

「長門?」

 

何と長門が1メートルほどの毛糸を持って目の前に立っていた。
一体どうしたんだ?
まさかこいつに限って編み方が分からないって事はないだろうが……

 

そんな風に困惑する俺の目の前で、
さらに長門は困惑するようなことを言い出した。

 
 

「やっておきたいことがある……」

 
 

「は?一体どういう……」

 

疑問に思った俺はその場で目の前の無口少女に尋ねようとした。
だが、そんな俺を気にもしないで長門は黙々と俺の手、
正確には指に何かをしていた。

 

「おい、ながt……」

 

もう一度質問しようとした俺を、
視神経を通じて脳に届いた映像が制止した。

 
 

そこ……つまり俺の小指には……

 

きっちりと結ばれた赤い糸と、
同じ様に結ばれた長門の小指があった……

 

そして小さな声で長門はこういった……

 
 
 

「運命の赤い糸……」

 
 
 
 
 
 

P.S.

 

その後ハルヒと長門が俺の小指がうっ血するくらい
毛糸を巻きつけたのはまた別の話……

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:22 (3093d)