作品

概要

作者ばんぺい
作品名長門さんと読んデレ
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-03-03 (土) 13:38:24

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「なぁ長門」

 

 無言で顔を上げる長門。

 

「何読んでるんだ?」

 

 無言で本の背表紙を見せる長門。わたしたちの村田くん? 恋愛小説?

 

「面白いか?」
「ユニーク」

 

 いつも通りの長門の様子に、俺は少しだけいたずら心を抱いた。

 

「もし良かったら、俺にも読んで聞かせてくれよ」

 

 有事の時以外はあまり声を聞かせてくれないからな。たまにはたっぷり聞いてみたいと思っ
たんだ。

 

「……」

 

 無言で俺を見つめていた長門は、すっと本に視線を戻してしまった。やっぱり駄目か?
 しかし俺が期待の眼差しで横顔を見つめつづけていると、長門は俺にだけわかる程度に溜息
をついた。そしてそのまま小説の朗読を始めたではないか!
 ……ただし、非常に抑揚の押さえられた声で。

 
 

「座席からはロータリーの様子が一望できて、これでは朝の大騒ぎを沢松に見られていても不
 思議ではないように思えた。あんななりふりかまわないザマを、沢松はどんな気持ちで見て
 いたのだろう。ぽわーん、村田くんステキ(はあと)……ではない事だけは確かだ。いきな
 り憂鬱な気持ちになるが」

 
 

「ストップ、ストップ!」

 

 自分で頼んでおいて何だが、これはちょっと……。朗読というよりもパソコンに合成音声で
 テキストを読ませている気分になってくる。

 

「なぁ長門よ。それは恋愛小説なんだろ? もうすこし、読み方に気持ちを込めてというか、
 なんていうか、なぁ?」
「要望の意味が理解できない」
「うーん……長門が読んでる時、場面を想像しながら読むだろう? その想像の人物がしゃべ
 ってるような感じで読んでみてくれないか」
「わたしの想像……」
「そうだ」

 

 長門は少し考え、少し躊躇った様子で、少しの間俺を見つめていた。
 そして、再び小説に視線を戻し朗読を始める。
 今度はさっきよりも心地よい音が、長門の小さく開かれた口からこぼれ出した。
 あぁ、こいつの声ってやっぱり綺麗なんだな……

 
 

「そしてそこから鮮やかに生まれてくるのは、これまでよりももっともっと強烈な、もっと眩
 いもっともっと熱い、長門への――いや、なんと呼んでももうかまわない、長門は最高だ。
 本当に本当に最高だ!
 『キョンく―――ん! キ、キョン、く――――――ん!』
 顔を歪め叫ぶ声。一ミリでも遠くまでと願うみたいに、まっすぐに伸ばされた指先。しかし
 バランスを崩しかける。俺の脳裏にあのトラックに倒れた長門が蘇える。そういやこいつ、
 骨折してるくせになにやってんだっ!?」

 
 

「ストップ! ストーップ!」

 

 再び朗読を止めた長門が、何で止めるの? と言いたげな瞳で俺を見つめている。

 

「……なぁ長門。読み方はとても良くなった。聞いてて気持ちよくなってきた。上出来だ」

 

 ほんの少し、得意げな雰囲気を醸し出す長門。

 

「でもな。なんか、さっきと登場人物の名前が変わってる気がするんだが気のせいか?」

 

 長門は俺の目を見つめたまま、さらっと言いやがった。

 

「わたしが読んでいる時の想像で朗読しろと言ったのは、あなた」

 

 俺の理解が一瞬追いつかず、きょとんとしている間に、長門の視線は再び本に戻されていた。

 

「『誰がなんと言ったって、俺には、お前が、長門有希が、宇宙で一番の、一等賞だああああ
  あ――――っっ!』
 『キョ、キョンくん!』
 ズルズルと次第に遅れていきながら、
 『わたし、わたし……っ!』
 バスの後方で長門は泣いた。顔をぐしゃぐしゃに歪め、俺の名を呼びながら泣いた。そして
 『キョンくんが、好き―――――っ!』 」 

 
 

 もうだめだ。
 ズドン、と打ち込まれた銃弾が、俺の胸で燃え尽きて、二度とふさがらない穴を開けた。
 ちょっとしたいたずら心のつもりだったんだ。しかし俺はこの瞬間、長門という名の、二度
と戻れない深みに嵌り込んでしまったらしかった。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:16 (2714d)