作品

概要

作者ばんぺい
作品名感覚フィルタを緩和した長門有希
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-03-02 (金) 23:58:24

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 さて、今俺は長門と二人で部室に居る。
 特に何事も無い日だ。長門は本を読んでいるし、俺は古泉の真似をして一人でオセロを打っ
ている。
 しかしまぁ、長門の読書は良いだろうが、一人オセロなんてのは長くやるもんじゃない。
 早々に飽きてしまった俺は、何とは無しに長門の方を眺めていた。

 

「……」
「……」

 

 一瞬チラッとこっちを見た気がするが、気のせいか。
 黙々と本を読み続ける長門に相手をして欲しくなった俺は、以前から感じていた疑問をぶつ
けてみる事にした。

 

「なぁ長門、お前朝倉から俺を助けてくれたとき、体に穴あいてたよな」
「……」

 

 今度は無言でこちらを見つめる長門。コクンと首が微かに動く。

 

「平然としてたけど、痛くなかったのか? 映画撮影の時のビームも手に穴があいてたし……」
「……解答は可能。でも質問の意図が理解できない」
「いや、なんとなくなんだが」

 

 もし痛みを感じるのなら、怪我を治せるからって無茶はしないでくれと言い易くなるから。
 なんて事考えてるのは、言わぬが華ってものだ。

 

「痛みに相当する情報は痛みとして処理される。ただし、特別の理由が無い限り、それにより
 行動が阻害されることは全く無い」
「てことは、痛みは感じないってことか?」
「そうじゃない。わたしの意識エリアに干渉する前に処理される」

 

 さっぱりわからん。聞いたことの無い言葉が出てこないのは、俺にも解るよう気を使ってく
れてるからなんだろうが……。

 

「あなたとわたしでは意識レベルが違いすぎる。言語による伝達では必ず齟齬が発生する」
「例えばだぞ、体壊したりしたらどうなる?」
「深刻な状況に陥る事はない。適時体内の状況を走査し、復旧を行う。また、外的要因から大
 きな影響を受けた場合、わたしの意識に干渉する前に適切な処理が行われる」

 

 つまり物凄くビックリする事や強い刺激、ストレス、病気、その他諸々はそもそも意識に上
らないって事か。しかし、それってつまらなくないか?
 もしかして、長門の感情面がずっと大人しいのはそのせいもあるんじゃないだろうか。

 

「なぁ長門。変なこと聞くが、その便利な体質をしばらく封印する事は出来ないか?」
「要求の意図が理解できない」
「うまく説明できないが、まぁ、俺達の感じてる事を長門にも一緒に感じて欲しいって事だ」
「…………そう」

 

 言うが早いか、長門の口が高速で動いた。
 見た目には何も変わっていないが……長門?

 

「わたしの感覚に対するフィルタ設定を大幅に変更した」

 

 -・-- ・・- -・- ・・ ・・・・ ・- -・- -・-- --- -・ -・ -・ --- -・-- --- -- ・

 

 あれから数日が経った。
 俺の見立てが正しかったかどうかは解らんが、普段の長門からはあまり想像できない姿には
何度かお目にかかれた。
 例えば昨日の帰り。 砂を巻き上げた強風から目を守るべく、顔を斜めに俯けて手で覆う様
はとても新鮮だった。
 皆で鍋を食った時も、豆腐を口に入れた瞬間ビクッとなり、妙に食うペースが落ちた。
 あれはきっと舌を焼いたんだろう。「なんでもない」の一点張りだったけどな。
 感情豊かになったかどうかはわからんが、随分と反応は豊富になったな。あまりじろじろ見
てるとハルヒに何か言われそうだから、横目でちらちら観察するのが日課になってしまった。

 

 そして今日、俺は久しぶりに長門と二人で部室に居た。
 この前と同じく、俺は一人でオセロを打ち、長門は難しげな本を読んでいる。
 そしてやはりオセロに飽きた俺は、あの日のようになんとなく長門の方を眺めていた。

 

「……」
「……」

 

 今度ははっきり解った。長門、今ちらっとこっち見たよな。

 

「…………」

 

 チラチラとこっちを見ている。普段ならそのまま何事もなく読書を続けるのだが……

 

「……なに」

 

 驚いた。いや、じっと見てるんだから何か用かと問われるのは不思議な事じゃ無いんだが、
長門の方から声をかけてくるとは思ってなかった。

 

「いや、別に何でもないんだ。最近の長門は見てて楽しいから、何となくな」
「……そう」

 

 納得したのか、していないのか。 長門はそのまま読書に戻る。
 しかし普段より落ち着きが無い。
 椅子の位置をずらしたり、座る位置を直したり、しきりにこっちを気にしたりしている。
 ぼんやり眺めていると、長門は突然こちらを向き、口を開いた。

 

「……あなたにしてもらいたい事がある」

 

「どうした? 何かあったのか?」
「4日前、わたしの感覚フィルタ設定を変更した。元に戻すための許可を」
「何か不都合でもあったのか? 部室に入る時、足の小指ぶつけたのは痛そうだったが……」
「そうではない。肉体的痛覚等は問題では無い」
「何か問題が起こったのか?」
「先ほどからわたしの肉体制御情報にノイズが混入している。除去が必要だと思われる」
「俺の許可が必要なのか?」
「わたしに枷を嵌めたのはあなた。許可を」

 

 長門の身に何か問題が起こっているなら仕方が無い。
 しかし気になる事がある。さっきからと言うと、長門がそわそわし始めた頃からか?

 

「そう。あなたがこちらを観察している事を認識してから」
「ノイズってどんなものなんだ?」
「心拍数増加、発刊、呼吸回数増加、毛細血管の拡張、軽微な問題。でも、原因が不明。
 許可を」
「そうか。……なら、許可は出せないな」
「なぜ」
「俺が原因を知ってるからさ」
「理解できない」
「後で教えてやるよ。だから、もう暫く本を読んでてくれ」
「……わかった」

 

 長門は納得の行かない様子で、しかし素直に読書を続けている。
 俺はといえば、さっきよりも熱のこもった視線で、長門の横顔を見つめていた。
 ピンと伸びた綺麗な姿勢、窓際で本を読む美少女。朝比奈さんとは違う方向で心が癒される
ね。普通の相手だとこんなにじっくり見るわけにいかないからな。目に焼き付けておこう。
 よくよく見ると、長門の頬には少し朱がさしている。普段はしているのかいないのか解らん
ような呼吸も、胸のあたりがゆっくり上下してはっきり見て取れる。
 ノイズ、か。あんまり俺が見つめすぎるから、照れて緊張してる……んだろう。きっと。
 良い兆候だと、俺は思う。
 どうしてもあの長門と重ねて見てしまうのは、少しだけ後ろめたいが。

 

「……」

 

 長門は軽く息をついて、少し抗議するような目でこちらを見てきた。
 俺は抗議を受け流し、真正面からその目を見つめ返す。

 

「…………」

 

 しばらくにらめっこ状態だったのだが、長門の方が先に目を逸らしてしまった。

 

「……はやく、許可を」
「まだ駄目だ」
「っ………」

 

 困惑する長門を見て、俺はもう少しだけ攻めてみようと思った。
 言っておくが、別にSっ気があるわけじゃないぞ。長門を困らせて楽しんでるわけじゃない
からな。誤解するなよ?
 立ち上がって、長門の前まで行く。

 

「……?」

 

 同じ目の高さまでしゃがみ、すっと頬に手を沿えてやる

 

「……!」

 

 目を細め、少しだけ身を引いて逃れようとする長門。本気を出せばすぐ逃げれるだろうが、
一瞬何か葛藤したような様子を見せた後、口でだけ抗議してきた。

 

「心拍数、必要酸素量ともに増大。明らかに肉体制御の異常。はやく、許可を」
「違うぞ長門。それは自然な事なんだ」
「違わない。意識領域まで侵食されている。バグデータのプロテクトが破られようとしている」

 

 長門の声が少し震えている。
 やりすぎたか……?
 そう思い、離れようとした瞬間。

 

 長門が抱きついてきた。俺に。

 

「運動中枢が異常動作。制御不能」

 

 やわらか…いや、そんなどころじゃないな。

 

「バグデータの侵食と思われる。復旧は容易、でも」

 

 少し震える声で言う長門の腕に力が篭る。俺と長門は完全に密着していた。

 

「フィードバックが……この状況が更にバグデータを誘発……」

 

 俺を見る長門。上目遣い状態で、目が潤んでいる。
 やりすぎた……
 急に罪悪感の塊がのしかかってきた。
 俺は出来るだけやさしく長門の頭に手を置き、

 

「……すまなかったな、もういいぞ」

 

 そう言った直後、長門の口が高速で動き、すぐに落ち着きを取り戻した。

 

 いつもの様子に戻った長門がこちらを見ている。
 今度は俺が目を逸らす番だ。

 

「あなたは」
「その……すまん。やりすぎた。反省してる」
「……」
「怒ってる……よな? ほんとに悪かった」
「……怒ってはいない。あなたの許可が無くとも、設定の復帰は可能だった」
「そうなのか? じゃあ、なんで俺の言葉を待ってたんだ?」
「……嫌では、なかった」
「大丈夫だったのか?」
「へいき」

 

 俺は胸をなでおろした。
 少しだけ怒ってるようでは有るが、嫌われてはいないようだ。
 それにしても……単に照れていただけなら抱きついてはこないだろう。
 あんな行動に出たのは、実際長門に悪影響があったのかもしれない。
 大いに反省しよう。いつか長門の微笑みを見たいと思っても、焦ってはいけない。
 とりあえず、フォローを入れておかなきゃな。
 すまなかった、長門。

 

「なぁ長門、お詫びに何かしたいんだが……」
「いい」
「そうか? でも俺の気が……」
「なら、あなたにも同じ状態になってもらう」
「え?」
「動悸、心拍数増加、その他を、わたしと同じ方法であなたに」

 

 あの、長門さん? それはどういう意味……

 

「あなたにはフィルタ機能がない。だから、」

 

 少し楽しそうな、そして僅かに意地悪そうな雰囲気を出し、俺に通告した。

 

「反省するまで、じっくり感じて」

 
 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:14 (2704d)