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作者 | 七原 |
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作品名 | closed sanctuary 第十一話 |
カテゴリー | その他 |
保管日 | 2007-03-02 (金) 15:06:18 |
キョン | 不登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 不登場 |
みくる | 不登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
勉強の過程など詳細に描写してもあまり意味など無いだろうから省かせてもらうが、朝倉の教え方は、理数系科目が苦手な俺にもそこそこ分かりやすかった。アンバランスな成績を取り続ける俺がギリギリで補習などを免れることが出来ているのも、一重に朝倉のおかげなのだろう。
そして、月曜日。
金曜と同じようにマンションの前で長門が待ち受けて居るかと思ったが、特にそんなこともなく、俺は何時もと同じように朝倉と二人で登校することになった。
別に何が有るというわけでもないが、何時も通りの朝だな。
違いが有るとすれば、テスト前で今日から短縮授業って程度か。
そうそう、言い忘れていたが昨日から月が変わっている、だから今日は12月2日だ。
明日も短縮授業で、テスト期間は4日から6日。駆け足なことこの上ないが、これもゆとり教育とやらの弊害だろうか。
俺の苦手科目の理数系科目は6日なので、多分俺は五日の夕方まで朝倉の個人授業に付き合わされることになるのだろう。
俺は一時間目の後の休み時間にちょっと6組まで足を伸ばし、それまで手伝えそうに無いことを長門に伝えた。
「……そう」
長門は少し残念そうな雰囲気だったが、相変わらずの無表情でそう言ったきりだった。
すまないな、長門。
「いい、一人でやる」
「そういや、お前の試験勉強は?」
「……」
「お前も一緒にやるか?」
「……良い、わたしは携帯で人探しを続ける」
「そっか、ああ、場所が無いなら文芸部室は使っていいぞ、職員室に行って、俺の名前を出せば鍵を借りられると思う」
「分かった」
「んじゃ、またな」
「……」
本日の俺と長門の会話、これで終了。
……だったはずだが、俺は本日もう一度長門を見る機会が有った。それは何時かと言えば、体育の時間である。5組と6組の体育は合同、それも今日は男女とも同じ体育館で集まることになっていた。
「すっげえなあ」
待機中のその時間、隣に居た谷口がポツリとそんな感想を漏らした。
誰のことを言っているかと言えば、長門有希のことである。谷口の感想はアホっぽいと思うが、俺は奴の意見に反論する気にはなれなかった。俺から見ても、長門は凄い。
今日は男女ともバスケットボールをやっているんだが、長門はあの比較的小柄な身体で体格の大きな相手の脇をすり抜け、たとえぶつかっても力負けすることも無く、綺麗にシュートを決めている。授業中のバスケの試合でバスケ部員以外が3ポイントシュートを決めるところなんて始めて見た気がするぞ。
試合が終わった、と思ったら、長門はあっという間に女子達に囲まれていた。うちのクラスの連中もいるな、多分、長門を部活に誘っているんだろう。これだけ運動神経が良いんだ、どんな運動部からも引っ張りだこだろうよ。
もっとも、当の長門はそんなことには何の関心も無いみたいだが。
しかし長門よ、何も言わないだけじゃ連中も引き下がってくれないと思うぞ。まあ、最終的には長門が入部届けを出さない限り、入部ってことにはならないと思うんだが。
入部届け? ああ、そう言えば、そんなことも考えていたような……。
駄目だな、慌しすぎて忘れていることが多すぎだ。
「ねえ、みんな、そのあたりにしておいたら? 長門さんも困っているみたいだし」
長門はぼけーっと突っ立っているだけだったが、何時の間にやら朝倉が事態を収拾させていた。さすが委員長って感じだよな。
しかし長門はといえば、そんな朝倉に反応することも例を言うことも無く、一人シュートの練習に戻っていたりするわけだが……、本当、良く分からないやつである。
朝倉も良くこんな奴と友人をやってられるよな、どこで出会ったか知らないけどさ。
「キョン、俺達の出番だぞ」
「あ、ああ」
何となく女子達を目で追っていた俺は、隣に居た谷口に促され、バスケットの試合に向かうことになった。
俺の運動神経が大したものじゃないことなんて、語る必要も無いと思うので省かせてもらおう。多分、長門と1on1でやっても、俺は一点も取れないんだろうな。
「そういやさ」
帰宅後、俺は朝倉の家で苦手な科学のテスト勉強に取り掛かっていた。教師はもちろん朝倉だ。こいつは俺と違って全科目での出来がいい。大体250人中20番前後をキープって感じで、苦手とされる科目でも40位以内って感じだ。本当、俺とは大違いだな。
「何?」
お茶を用意していた朝倉は、ティーポットをコタツに置きつつ、俺に聞き返してきた。
「長門のことなんだけどさ、あいつ、成績とかはどうなんだ?」
「ああ、長門さんね。あの子すっごく優秀よ」
「ふうん……」
「そう言えば、長門さんが勉強をしているところって見たこと無いなあ」
「同じ学校だったのか?」
「小学校の5、6年の時ね。……はい、お茶」
「ん、ありがとよ」
なるほど、その時期か。
幼馴染で、学校も殆どずっと一緒だった俺達が、たまたま違う学校に通っていた時期だな。まあ、これは俺の方の家庭の事情と言うべきか……、ちなみに、中学は俺の方の学区、朝倉にとってはここからだと越境通学にあたる場所になる。朝倉が何でわざわざ越境通学をしていたかといえば……、それは多分、俺のためなんだろうな。
俺だって、そのくらいのことは分かるさ。俺は、こいつに世話になりまくっている。……それなのに、何も返してやれない。
「親の仕事の都合だったんじゃないかしら。詳しいことは知らないけど……」
「それから三年と何ヶ月かたって、たまたまこっちに引っ越して来たってことか」
「そういうことになるわね。あ、キョンくんそこ間違っている」
「あ……」
「相変わらず科学は苦手よねえ、あんなにSF小説とか読んでいるのに」
「SFと科学に直接の関係は無いだろ」
「そういうものなの? まあ良いわ、一休み終わったら今度は数学ね。同じ教科ばっかり詰め込んでもよくないものね」
「分かったよ」
俺は家庭教師としての使命に燃えている朝倉を止めることは無理と悟り、これも自分のためと言い聞かせ、再び勉強に向かい合うことにした。
それから週末まで、俺は勉強とテストの繰り返しの毎日だった。理数系科目での手ごたえは、まあ、何時もよりはあったんじゃないかと思うが、確信は無い。
そんな時期だったから、長門とはあんまり話しをしていない。時々すれ違ったときに声をかけてみたりはしたが、余り芳しい反応は得られなかった。電話攻勢の方も余り上手く行って無いらしい。
そうそう、先週末に買ったノートパソコンに着いてだが、とりあえず適当に付属していたメモ帳で文章を書き始めていたりはする。あんまり進んでいるとは言えないが、テスト勉強中の気晴らしくらいにはなる。まあ、やっぱり読む方が好きなんだけどな。
そして、金曜日の放課後。
テスト最終日、ノートパソコンを持ってきていた俺は、一週間ぶりに文芸部室に行ってみることにした。あそこならはかどるかも知れないし、もしかしたらお隣のコンピ研も営業中かも知れないって目論見も有った。コンピ研の連中に頼めば、このパソコンにもメモ帳よりマシなエディタを落とせることだろう。ネット関係は……、それはまた今度だな。
職員室まで鍵を借りに行った俺は、そこで、鍵が既に借りられている状態であることを知った。どうやら長門が先に行っているらしい。
こんな日まで人探し続行中か、もしかしたら、テスト期間中もか?
「ようっ」
「……」
部室の扉を開ける俺、無言の長門。携帯のボタンを押した直後ってことは、ちょうど電話を切ったところだったんだろうか。
「調子はどうだ?」
「駄目、誰も見つからない」
「そっか。……ん、結構進んだみたいだな」
「これで市内の分は終わり」
どうやら、ジャストタイミングだったみたいだな。
「そっか……、これからどうするんだ?」
「……他の場所の電話帳を入手したい。ただし、私の家宛てだと」
「ああ、分かった、俺の家宛で良いよ。……そうだな、ちょっと隣にお邪魔しないか? コンピ研も今日は営業中みたいだし、電話帳の申し込みならネットでも出来るだろう」
お隣の部屋の中から人の声がしたから、誰かしら居るんだろう。
「……」
無言で首を僅かに動かす長門。
どうやら、了承してくれたらしい。
しかし、どうしてこいつは……、いや、まあ、良いか。俺としても、このちょっと変わった長門有希という少女に付き合うのは、そんなに嫌じゃないんだ。テスト勉強に追われている間は長門と顔を合わせていなかったが、こうしてまた顔を見ると、少しだけ……、そう、少しだけ、何だろうな、なんとも形容し難いが、俺が今まで知らなかった感情に出会えたような気がするんだ。
これも、やがて長門の存在と共に俺の前から消えていくようなものなのかも知れないけどな。
closed sanctuary 第十二話へ続く