作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary cross to...03
カテゴリーその他
保管日2007-03-02 (金) 15:04:07

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 俺は無言で『そいつ』の後ろを歩いていた。
 そいつは俺の存在に気づかないし、そもそも、自分を尾行している人間が居るとも思わないだろう。
 そりゃそうだ、そうでないとおかしい。
 平和ボケ満喫中で結構、世間の高校生の大半がそうであるように『ここ』でのそいつは、そういう人生を謳歌する、どこにでもいる、ただの高校生の一人なんだ。
 そういうことだろう?
 俺の役目は……、それを守ること。
 人様に頼まれたことでも有るが、これは俺の意思でも有る。
 守ることで得られるものが有るわけじゃないが、これは多分、俺なりの責任の取り方ってことでも有るんだろう。……そんなに上等なものじゃない気もするけどさ。
 俺は尾行のスキルなんて全く持ってないわけだが、ちょっとした細工をして有るおかげで、そいつや周囲の連中が俺の姿に気づくことは無い。居ないわけじゃないんだが、注意力がそっちに向かないって感じになっているそうだ。
 仕組みは良く分からないというか、長ったらしい単語と説明文は俺の理解を超えていたので、あんまり気にしないことにしておいた。何はともあれ、妙な反則技も、世界の平穏のために活用する分には許されるんだろう、というくらいに思っておけば良いはずさ。
 日曜日の午前中、あまり人通りの多くない通りをのんびりと歩くそいつの後ろを俺は追っていく。
 俺の護衛はそいつがとある人物に出会うまで。……反則技の積み重ねより無自覚野郎が最強って辺りがなんとも言えないわけだが、四六時中護衛をしてろと言われるよりは良い。
 幾ら肉体的疲労とは無縁の状態になっているとはいえ、さすがにずっととなると気が滅入ってくるさ。第一、最初は無茶苦茶驚いたんだぞ。……もう慣れたけどな。ずっと、とか、もう、とか言ってもまだ始めてから一週間も経ってないけどさ。
 この世界が狂いだしてから、まだ一週間も経ってない。まだ、そんなにおかしいことにはなって居ない。このまま何も無ければ、何てことはもう無理なんだろうが、出来る限り丸く収まって欲しいと思うのは、所詮部外者に過ぎない俺のエゴだろうか? ……どうだろうな、そういうことは俺にはよく分からない。
 ただ、俺は……、俺達は、守る方を選んだ。……それだけは確かなんだ。
 そんな風にごちゃごちゃと考えつつも、そろそろ集合場所、護衛も終わりかと思って気を緩めそうになったあたりで、そいつの頭上に黒い霧のようなものが発生した。この瞬間を狙ってやがったんだろうが、バレバレにもほどが有る。
「そうはさせねえよっ」
 俺は地面を蹴り上げ、借り物の剣で黒い霧を凪ぐ。
 一瞬で、黒い霧が掻き消えていった。
 ……これだけのことをしても知覚されないというのは奇妙な感じもするが、そんなことを気にしている余裕は無い。正直なところ、俺はまだ自分のやっていることそのものには慣れていなかった。そもそも、柄じゃない。
 おかしな出来事に巻き込まれたり自主的に妙なことに身を投じる羽目になったことは何度も有るが、こんな風に人様の護衛なんて役目を仰せつかるのはこれが初めてだからな。
 俺は何時も、守られている側だった。
 だからこういう風に誰かを守れる立場にいるってのは、悪い気はしないんだが……、やっぱり、慣れないさ。敵さんが人間だったり人型じゃないだけマシってところか。
 何せ俺のやることと言ったら、そいつの近くに時折発生する黒い霧を振り払うだけだからな。
 それだけのことなのに、剣を振るうだけで一々疑問に感じる自分が情けないと言えば情けないが。

 

「えっ……」

 

 不意に、そいつが、黒い霧が消滅したのを確認している俺の方を見た。
 いや、振り返ったというべきなんだろうか。……俺の姿は、知覚出来ないはずなんだが。
 何かを感じ取ったのか、それともただの偶然か。
 正直なところ、借り物の力で役目を果たしているだけの俺には、そのどちらかなんてことが分かるわけも無い。知覚を回避するためのこっちの防壁を向こうが破ってきたとだけは思いたくないが。
 そいつが、じっと俺の方、いや、俺が居るはずの空間を見つめている。
 俺の方から見ると、顔を正面から見る形になる。そういや、こういう位置で眺めるのはこれが初めてだったな。
 俺の知っている誰かさんに似ているはずのその顔が、俺が見たことも無いような表情をしている。……俺は、あいつがこんな表情をしたところを見た記憶が無い。
 こういう違和感を抱く場面には慣れてきたはずなのに、やっぱり、どこか不可思議な感がする。良く似た親戚とでも思えれば良いんだろうが、残念ながらそれは真実じゃない。幸か不幸か俺は『そいつ』が何者かちゃんと知っている。知っているからこそ、俺は俺の意思でそいつを守っている。
 そいつは、そいつにとっては虚空に見えるはずの場所を少し見上げるようにして暫く眺めてから、漸く正面に向き直った。茶色の髪が、風になびく。
 向こうから、そいつと待ち合わせをしていたはずの人物が駆け寄ってくる。
 もう、大丈夫だろう。

 

 俺は少年少女の他愛ない会話に耳を傾けることも無く、その場所を立ち去った。

 
 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:13 (2704d)