作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary cross to...02
カテゴリーその他
保管日2007-03-02 (金) 14:56:33

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 土曜日の夜に自宅に帰宅したわたしは、そのまま風呂に入り就寝した。
 妹が一緒に入りたいといって来た上特に断る理由もなかったので一緒に入ったけれども、彼女が何故私と一緒に入りたいと言ったのかは、わたしには分からない。
 わたしと居るときの彼女は、とても楽しそう。
「有希ちゃん、だーいすきっ」
 彼女は、そう言ってくれる。
 だいすき、と……、好意を寄せてくれる。
「……そう」
 でも、わたしにはその理由が分からない。自分にそう思われるだけの価値が見出せない。
 だって、わたしは彼女の姉ではない。
 わたしは情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。人工生命体であるわたしに、人間の家族に該当する者は存在しない。
 彼女は何らかの原因によりわたしに偽りの生が与えられたのと同様に、偽りの記憶を与えられている。
「向こう行ってくるねーっ」
 今日は日曜日。
 昨日の外出に引き続き、わたしは彼女と共に外へ出ている。
 近所の公園で遊ぶ彼女を見守るのが、わたしに課せられた役目。彼女の年齢を考えればそのようなことは必要ないと思われるが、新しい土地ゆえの配慮なのだろうか。
 『妹』の考えることは良く分からないけれど『母親』の考えることも、わたしには良く分からない。
「本当はねー、クラスの子と遊びたかったんだけど、予定が合わなかったんだよね」
 公園でブランコをこぎながら、彼女がそんなことを言う。
 わたしも彼女も、まだ転校してから二日しか学校に行っていない。そんな短い間に、彼女は学校で友人を作ったと言うのだろうか。……いや、作ったのだろう。彼女はわたしと違って社交性・順応性が高い。そのくらいのことが出来てもおかしくはない。
「ともだち……」
「何々? あ、有希ちゃんも学校で友達が出来て良かったね」
 不意に口にしていた言葉を、彼女が拾い上げる。
「……わたしに?」
「うん、キョンくんと涼子ちゃん。有希ちゃんの友達でしょう?」
「……」
 どう、なんだろう。
 朝倉涼子は確かにそういう位置づけになっているけれども、だからと言ってそうだとは言い切れないし、彼に関してはもっと未知数だ。

 

「違うの? ……あ、もしかして有希ちゃんはキョンくんが好きなの?」

 

 ……。
 ……好き?
 わたしが、彼を?
 彼のことを、わたしが?
「違うの? あれ、それとも言いたくないのー?」
「……」
 そんな風に顔を近づけて問いかけられても、わたしは答えを見つけられない。
 好き……、彼のことを? そんなことはありえないと思う。わたしにとって彼は『彼』の名残を残す別人でしかないし、何よりわたしには、恋愛感情というものが理解出来ない。
 ……本当に?
 瞼の奥に、涼宮ハルヒと古泉一樹の顔が浮かんだ。
 わたしが知っているのと同じ、だけれどわたしが知っているものとは少し違う。
 『彼』と彼の相違点とは、何かが違う気がするけれども。……どういうこと?
「……どうしたの、有希ちゃん?」
「何でもない」
 そう、何でもないのだ。
 思考する上での疑問も、記憶への障害も、わたしと世界が書き換えられたことによって生じる弊害や副作用のようなものでしかないのだろう。
 そしてそれを、誰かに説明する必要も無い。
「そっかあ……。あ、有希ちゃん、がんばってね!」
「がんばる?」
「うん、がんばるの! 有希ちゃんがキョンくんともっと仲良くなるためにね! だーから、約束しよ、指きりねっ」
「……」
 仲良く、約束、指きり……、どうししてだろう、心の上を滑っていくはずの言葉が、頭から離れなくなる。
 わたしは何も言い返せないまま、彼女にされるがまま、指切りをしていた。

 
 

 ……自宅へ帰り自室に戻ったわたしは、ベッドの上に携帯電話と電話帳を置いたまま、何も出来ずにいた。
 電話帳を頼りに電話をかけ続けて意中の人物が見つかるとは限らないけれども、探しているうちに見つかる可能性が無いわけでもないだろう。
 ……見つけたいのだろうか?
 ……見つけて、どうしたいというのだろうか?
 わたしの知る世界を取り戻す方法と、わたしの探し人達。等号で繋がっているとは限らないだろうけれど、何らかの関連性が有るとは思う。わたしの記憶とこの世界の齟齬は、そのまま世界を元に戻す鍵になる。……きっと、そうだろうと、わたしは信じている。
 そう、わたしは戻りたいのだ。
 ここで出会った彼よりも、ただの人間の少女である朝倉涼子よりも、妹を始めとした家族達よりも……、平穏な生活を送るここでの自分よりも、あの、騒がしくも楽しい、わたしの知っている『彼』のいる世界に……。
 それなのに……。
 それ、なのに……。

 

 目を閉じて浮かぶのは、文芸部室の中に居た、彼の姿。

 

 どうして……。どうして?
 彼は『彼』ではないのに、所詮、偽りの姿のはずなのに……。

 
 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:13 (3087d)