作品

概要

作者せだえんらc
作品名永久への鍵 第05話
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-02-24 (土) 09:34:26

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

全てを忘れてしまったかのような平穏な日々が始まる前の日の午後、俺達の部屋に来客があった

 

エントランスからのコール無しで玄関のインターフォンが突然の来訪者を告げた

 

スピーカーから流れる声は過去に聞き飽き、つい先日再び聞いた爽やかな声だった

 

「なんだ古泉か・・・」

 

「ええ、古泉です」

 

ドアを開けると予想通り爽やかなスマイルがあった

 

「ハルヒをいつまでも放って置いていいのか?」

 

「今はハルヒさんも落ち着いてきましたから・・・少しお話があります、久しぶりにチェスでもしながらどうですか?」

 

古泉は片手に持った紙袋からチェスやら将棋やらのボードゲームの箱を取り出して見せながら笑った

 

「・・・・・・・・・受けて立とう」

 

その時、俺は自分が既に聞き役にされていることに気がついていなかった

 

 

「で、どんな話なんだ」

 

俺と古泉の分の紅茶を出してくれた有希がタケルを伴い、朝倉のところに向かうのを見送りながらチェス盤を開いた

 

口中に広がる俺の好みを知り尽くした紅茶の渋い甘味にほっとしながら、チェスの駒を一つ摘み上げた

 

有希は最近凝りだした自家製ヨーグルトも出して置いてくれていた、
黒いテーブルの上に白いヨーグルトの器が映える

 

その隣で白と黒のチェックの盤面に整然と駒が並んでいく、
それはこれから始まる戦いの戦陣

 

「あなたが機関と情報統合思念体、そして広域帯宇宙存在の関係をどんなものか訝しがっているのではないかと思いましてね」

 

俺は古泉を見据えた、そして目を伏せた

 

「大雑把な話は鶴屋さんから聞いたよ、鶴屋さんは随分つらい立場に居るみたいだな・・・」

 

俺は鶴屋さんの表情を思い出して心が痛くなった

 

あの夜の鶴屋さんの表情はあまりに痛ましかった

 

俺には鶴屋さんの落ち込んでいる顔よりも、創り笑顔の方が辛くて見ていられなかった

 

俺の言葉につられて古泉のスマイルにも沈鬱な翳りが差していた

 

古泉も溜息を吐くように沈んだ声で話した

 

「あの方は本当に大変ですよ・・・両者の板挟みになって双方の仲を取り持ち、尚且つ自分達を守らなければならない
 しかもそれから決して逃げることは出来ません、彼女の双肩に鶴屋財閥とそれに関連する全ての人々の未来がかかっているのですから・・・
 でも決して逃げない本当に強い方です」

 

そして寂しげに、哀しげに、自虐するかのように一言を付け加えた

 

・・・多分、このあたりの部分だけが古泉個人の本音だったのだろう

 

「それ以上に重いものを我々は幼い子供に背負わせてしまっているのですがね・・・」

 

古泉は想いを振り払うかのようにカチリと駒の一つを進め、その冷たく硬質な音で開戦を告げると、気を取り直して本題に入った

 

「現在の事態は単純ではありません、タケル君と撫子さんの対決の決着がついたからといってそれで全てが終わるわけではないのですよ
 ”終戦後”のことも考えなければなりませんしね・・・、むしろ人類にとっては”終戦後”こそが本番となるでしょう」

 

相変わらず難しいことで人を煙に巻きやがる、マイペースな奴め、俺はそう思って古泉の饒舌を苦々しく聞き流した

 

「こう考えたことはありませんか、もしも長門さん達があなたがた人類の敵に廻ったら?と」

 

俺は駒を持ち上げた手を止め古泉の顔を無言のまま睨みつけた

 

「古泉、その冗談は性質が悪すぎるぞ」

 

「失敬、今は単なる想定と思ってお付き合いください」

 

「それでもいい気はしないな」

 

古泉は俺の視線を無視して自分の駒を打った、そして一方的に話し続けた

 

「現時点で情報統合思念体は人類との共存の意思を明らかにしています」

 

「彼らは再びTFEIを地球に送り込み始めました、ただし目的は判りません」

 

「両者がさらに強くお互いを求め合うようになるのでしょう、と言えれば良いのですが・・・」

 

古泉はそこで言葉を濁した

 

「しかし人類と情報統合思念体の『本当の関係』は、広域帯宇宙存在と情報統合思念体の関係ほど単純では無い様子なのです」

 

「広域帯宇宙存在と情報統合思念体は互いに相手の存在を許さない仇敵です」

 

「とても判り易い関係です、この両者にもはや相互理解はないでしょう、ならば相手を滅ぼすしかない」

 

そこで俺に駒を弾かれた古泉は困ったように俺に質問を振った

 

「では人類の存在は彼らにとってどのようなものだと思いますか?」

 

俺は適当に答えた

 

「ウィルスみたいなもんじゃないのか」

 

「もう少しマシ・・・と思いたいですね」

 

古泉は小さく呟き再び盤面に目を落とすと、また自分の話に没頭した

 

「この宇宙が誕生してから135億年、その間存在し続けありとあらゆる知識と力を極めてきた情報統合思念体」

 

「その情報統合思念体が自己の存在を維持する上で脅威と見なしたのは広域帯宇宙存在だけだったはずでした」

 

「しかしその両者をまとめて消滅することの出来る存在が辺境の惑星に誕生しました、驚いたことにそれはちっぽけな有機生命体だったのです」

 

「ハルヒか・・・」

 

俺の脳裏にハルヒの無茶苦茶な行動の数々が思い浮かんだ

 

「それを涼宮さんと限って考えるのは早計です、現にタケル君と撫子さんが存在していますから」

 

あっさりと古泉はそれを否定した

 

「この宇宙に生命が発生することは珍しくありません、しかし生命の発生と、存在と呼ぶに値する『実存』の発生は別物です
 情報統合思念体が生命に高度な知性が誕生すると考えていなかったのは生命を無意味な自然現象の一つとしか捉えていなかったからでしょう
 彼らにとって有機生命などという存在は一瞬の観測で消え去る物質の形態変化に過ぎません」

 

「その生命に彼らさえ不可能な無から有を生み出す自律進化が観測されたのです、この時の驚愕は想像を絶したものだったでしょうね」

 

「俺にとっては驚いたより当たり前だがな」

 

「それはそうですよ、人類が最初から”そのように生まれついた”のは人類にとっても”不自然”なのですから、彼らにとってはますます”不自然”極まりない・・・ん?」

 

そこで古泉ははっとしたように俺を見返した、その目が驚愕に開かれる

 

「今、あなたは”当たり前”と言ったのですか!?”驚いた”ではなく?!」

 

古泉が奇異なものを見る視線で俺を見ていた、こいつやっぱり俺の受け答えをちゃんと聞いて無かったんだな?

 

「それがどうした?」

 

数秒間、俺の顔を呆然としたままじっと見つめていた古泉は、ようやく驚いたように我に帰った

 

「そう・・・そうでしたね、”あなた”にとっては”当たり前”でしたね」

 

人の怪訝な表情を無視して僅かな間だけ苦笑いを浮かべると古泉は芝居ががった仕草で話をそらした

 

「では彼らが存在を認める実存とはなんでしょうか?」

 

「人類の祖先は有名な言葉を残しました”我思う、故に我在り”」

 

「それを真とし、しかしその解釈を曲解すれば”我「だけ」は必ず存在する、故に存在するのは我「だけ」”とも読めます
 だが彼らは”我”以外の存在があることを認めざる得なくなった、それが双方の接触です
 しかしそれすらもどうでいいと思わせるほどの驚異に出会いました、それが人類です」

 

カチリ、と心地よい音を立てて古泉がチェックメイトを決めた、めずらしく優位に立っている

 

「タケル君は情報統合思念体が切り札と望んだ者、撫子さんは広域帯宇宙存在が切り札と望んだものです」

 

「どちらも両者にとって相手に打ち勝ち生き残るために必須の戦力です、あの子達以外の戦力では戦いになりません」

 

「どちらが生き残るのかについては今は保留として、その決着がついた後はどうなるでしょう?」

 

「人類のおかげで仇敵を滅ぼし生き残ることが出来た、でもそれで全ての脅威はなくなったと言えるのでしょうか?」

 

そこで古泉は盤面からキングとクイーンを勝手に抜き出しそれぞれを片手に持った

 

「いいえ違います、脅威は2つも残っています」

 

そしてまず片方を指先につまんで俺に見せる

 

「脅威の一つは人類が存在することです」

 

「人類は自分達を消滅させる力をいつ発揮するかわからない存在です」

 

「彼らは人類にその気が無くとも人類を不倶戴天の天敵と評価するでしょう」

 

一息きると今度は反対の手に持った駒を指し示す

 

「残りの一つは人類が滅亡することです」

 

「人類から得られる自律進化の力なくしては再び進化の袋小路に迷い込み滅びる運命を逃れられません」

 

「人類の滅亡、それは自分達の未来も閉じるという脅威です」

 

そしてキングとクイーンを並べて見せた

 

「人類がいれば消されるかもしれない危険となり、いなくなれば緩やかな滅びが忍び寄ってくる・・・あなたならどうしますか?」

 

「勝手な話はいい加減にしろ、どこまでが真実かも明らかにしないでほざくな」

 

俺はいささかうんざりした気分になっていた、古泉の話は想定とはいえ憂鬱すぎる

 

その俺の苛立ちをまたしても古泉は無視した

 

「解決方法はあります、人類を吸収し自分達の一部として取り込んでしまえば良いのです」

 

古泉がキングとクイーンを片手に握り締め力を込める、その手中からパキリと駒の砕ける音がした

 

「情報統合思念体には”人類吸収計画”が存在しています、人類の持つ可能性を取り込み我が物にする企み、その本質は人類に自ら取り込まれることを望ませる事」

 

そして続けた、絶対に許せない一言を

 

「長門さんがあなたの心を真実の愛情で捉えたように・・・」

 

部屋に鈍い音が響き、椅子が倒れた

 

俺は渾身の力を込めて古泉を殴り倒していた

 

それでも古泉は笑っていた、俺に椅子ごと殴り倒されて無様に床に横倒しに転がったまま、それでもいつものスマイルで俺を嘲笑していた

 

「もしも終戦後にタケル君が可能性ではなく危険性と判断されたらどうなるでしょう?あなたはそれを考えたことがありますか、父親として?」

 

もう一発殴ってやろうと思って伸ばした俺の手はその最後の言葉で止まった、俺は古泉を睨み付けた

 

古泉の胸倉を掴むと殴る代わりに古泉を引き起こし、大きく息を整える

 

そして俺は勝負を仕掛けた、古泉・・・いや古泉の中の存在に語りかけた

 

「それで、古泉の協力を得て何を話したかったんだ、”あんた達”は?」

 

古泉・・・は感極まったように溜息をついた

 

「気がつかれましたか・・・やはりあなたは涼宮ハルヒ以上に興味深い存在です・・・」

 

俺は古泉の中にいる”何か”に話しかけた

 

「自分が外から見てどう思われるか、そういう感覚が疎いようだな、あんたらは」

 

古泉の身を借りていた”何か”は俺の言葉に苦笑すると、それを無視して気になる言葉を残した

 

「我々はあなたがた人類を高く評価しているのですよ、そして彼らに人類を・・・」

 

古泉と称する存在は俺に胸倉を締め上げられたままちらりとテーブルの上を見やった

 

「そう、そのヨーグルトの乳酸菌のような・・・有益細菌並みの扱いはさせたくない」

 

「それで誉めているつもりか?出直して来い!」

 

俺は再び”そいつ”の胸倉を締め上げた、言うに事欠いて人間を有益細菌よばわりか

 

「私達も少し判断を急ぎすぎました、それに準備にもう少しかかる・・・しばらくは平穏でしょう」

 

古泉の雰囲気がかすかに変わる、古泉の助力を得て俺の眼前に来ていた”何か”が立ち去ったらしい、俺は手を緩め古泉を解放してやった

 

「さすがとしかいいようがありませんね、やはりあなたは・・・」

 

喉元をさすりながら苦しげに話す古泉本人の声はそこで断ち切られた、その言葉の途中で割り込んできた幼い声によって

 

「ありがとう、少しでも情報が得られるのは助かるよ」

 

傍らから不意打ちの声がした、タケルがいつの間にか帰ってきていた

 

「僕も返礼の必要があるね」

 

凍りついた俺たちを無視してタケルはチェスに手を伸ばした

 

「これだとあんまり上手い例え方が出来ないんだけどね」

 

そう前置きしてヤツは盤面に手を伸ばした

 

「以前、ママが行った改変はこう」

 

そう言いながらコマを好き勝手に動かす、邪魔なコマを排し、好きなコマを加え、あっという間に俺の劣位を逆転した

 

「ハルヒおねえちゃんの力はこう」

 

今度は盤をひっくり返してコマを箱に戻すと再び最初からコマを並べなおした、いきなり最初から王手が決まっていた

 

「そして僕の情報創造能力はこう」

 

突然机上のチェスが薄れて消え、その空間に重なるように新たな盤が出現した、それは複雑を極めた局面の将棋だった

 

「なるほど、そういうことですか」

 

古泉はそれで理解したらしい

 

しかし俺はヤツの例えと言っていることの間に齟齬を感じた、何かおかしい、何かが引っ掛かっている、なんだろう?

 

だが俺の入り込みかけた思索の迷路は古泉の声で霧散してしまった

 

「意味深ですね、この局面は」

 

新しく創造された盤面を見つめながら古泉が感嘆したようにいう

 

「この局面は必ず千日手に陥るように配置されていますよ」

 

「何が言いたい」

 

考えを邪魔されて俺は不機嫌を隠さずにぶっきらぼうに答えた、タケルはいつの間にかキッチンにいる有希の所に戻っている

 

「わざわざこんなものを見せるということは何か我々に遠まわしのメッセージを伝えたかったのではないでしょうか」

 

「いいたいことがあったらあいつははっきり言うだろうぜ」

 

古泉は俺の言葉を無視してまた滔々と自分の話を話し始めた、まさかまだ憑り付かれてるんじゃないだろうな?

 

「千日手はそのまま当事者同士が打ち続ければ永遠に勝負がつきません、つまり終わりが無いのです」

 

「どんな形であれ永遠にゲームを続けられるんだ、あの連中にとっては結構なことだろ」

 

「終わりが来ないということを未来が在り続けることと同義に考えてよいものなのでしょうか?」

 

「お前の言うことはよくわからんな」

 

こいつと会話するのはもううんざりだ

 

「現実はゲームとは違います、千日手を強制的に引き分けにして差し直しにするルールもなければ審判もいません、
もしかするとタケル君は『誰か』第3者の介入を願っていてそれが必要だとこれで示唆しているのかもしれませんね」

 

俺は古泉に背を向け、その言葉を背中で黙殺しつつ皮肉を込めて答えた

 

「一目で千日手と見抜ける癖に普段はどうして弱いんだ?」

 

窓ガラスに映った古泉は首をすくめていた

 

 

古泉が帰った後、指し掛けのままの将棋を目の前に考え込んでいる俺のところにタケルがやってきた

 

「僕と撫子の対決は厄介なことになるんだよ」

 

タケルは古泉の残していった将棋とチェスの盤を二つに折りたたむと、半分づつのそれぞれを組み合わせた

 

そして将棋盤の上にチェスのコマを、チェス盤の上に将棋の駒を並べていく

 

「それじゃゲームにならないぞ」

 

「その通り、現実の情報統合思念体と広域帯宇宙存在の乖離はこの例えよりさらに大きい」

 

そしてはっきりと言い切った

 

「でも、成立しなくてもやらなきゃならない」

 

タケルのその戦いの決意を聞かされた翌日から、拍子抜けするような穏やかな日々が始まった

 

それは一時だけの偽りの平穏な日々

 

俺はその日々が無かった方があいつには幸せだったと思っている

 

第05話 終



 

次回分(予定)より抜粋

 

「笑えよ」

 

僕は撫子に話しかけた

 

「笑う・・・?」

 

一口だけ齧ったタイヤキを胸元で祈りを奉げるように持ったまま、撫子は表情を変えずに問い返した

 

「おいしいものを食べた時は人間は笑うものなんだよ、撫子」

 

そういって僕は撫子の頭をそっと撫でて微笑み、自分もほかほかのタイヤキに頭からかぶりついた

 

「そう・・・」

 

小さく呟き、また無表情でタイヤキを齧る撫子の横顔を見ながら僕は思った

 

でも、この”僕”はきっと笑えないまま終わるのだろう

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:12 (3094d)