作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary 第十話
カテゴリーその他
保管日2007-02-22 (木) 19:51:26

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 かくして俺、朝倉、長門姉妹の計四人は、朝倉の家に向かうことになった。
 と言っても俺の家も同じマンションに有るわけなので、俺だけは買ったばかりのノートパソコンを自室においてから再集合となったわけだが。やれやれ、本当なら買ってすぐ機関誌の原稿に取り掛かりたいところだったんだが、そういうわけにもいかなさそうだな。
 まあ、たまにはこういう一日もありだろう。
 子供の相手なんてあんまり馴染みが無いから、不安材料と言えば不安材料なんだが。

 
 

「えへへ、キョンくんの負け〜!」
「くそっ、もう一勝負だ!」
「良いよー。でも次も負けないもんっ」
 不安なんてどこへやら、俺はその一時間後には、長門の妹さんと仲良くゲームをする羽目になっていた。朝倉の家に有る、それほど新しくないレーシングゲーム。以前誘われてやったことが有るが、結局全然勝てないわ記録も散々だわという理由で、あっという間に俺が放り出してしまったものだ。……朝倉は、他の友人達とやっていたんだろうか。
 しかし、一度無理だと思ったものであっても、俺と長門の妹とだったら良い勝負になっているからなのか、何時の間にやら俺も熱くなってしまっていた。まあ、それでも七割以上向こうが勝っているんだが。
 それにして、こんな子供相手にむきになるなんていうのも……。
 ん? 子供? そう言えば、
「なあ」
「なーにー?」
「君は幾つなんだ?」
「11ー、5年生ーっ」
 長門の妹は、元気な声で俺に答えを返してきた。
 11歳……、とてもそうは見えないんだが、特に意地を張ったり嘘を吐いたりしているような気配は無いから、恐らくそれが正解なのだろう。というか、実年齢を知っている相手がすぐ傍に居るところで他人に嘘の年齢を言うなんてこと、普通はしないだろう。
 しかし、11歳か。
 しまいにしてはあんまり似てないと思うし顔立ちの系統自体が違う気もするが、長門は長門で多少童顔な方に見えなくも無いから、これも遺伝的なものなのかもな。
「そっか」
「キョンくんは、有希ちゃんよりちょっと上に見えるよねー」
「……そうか?」
 そうそう、朝倉が俺のことを「キョンくん」呼ばわりしていたせいで、俺は長門の妹にまでそう呼ばれる羽目になってしまった。まあ、今更訂正するのも面倒だからとやかく言う気は無いんだが。第一、相手は子供だしな。
「うん、ちょっとだけどね」
「ふうん」
「あ、次はこのコースでやろう!」
「ああ、分かった」
「次も負けないもーん」
「こっちも全力で行くぜ!」
 かくして俺は、長門が見守る中、長門の妹とのレースゲームに盛り上がりまくっていた。そうそう、長門は今は取り立てて何もして居ないが、時折アドバイスをしてくれたり、疲れた合間に代わってもらったりはしている。朝倉も交えて四人で出来るパーティゲームもやったな。その朝倉はと言えば、今は夕食の準備中だ。どうやら長門姉妹は夕食も出前か何かで済ますよう言われていたようだから、折角だから、ということらしい。まあ、俺としても、こういう場所で三人以上と食卓を囲むもの、そんなに悪くないと思っている。大抵は朝倉と二人か、自分一人だからな。
 そうそう、長門はゲームが無茶苦茶上手かった。
 有希ちゃんとやるとつまらない、という長門の妹の台詞にも頷けるな。
「ね、もうすぐ出来そうだから、そろそろ終わりにしない?」
「えーっ」
「ご飯の後、もうちょっとやってもいいからね」
「はーいっ」
 朝倉の言葉に、長門の妹が頷く。結構聞き分けの良い子みたいだ。
 そうして俺達は、朝倉の家で、朝倉の手料理を四人で食べることになった。
 俺、朝倉、長門姉妹。高校の同級生同士とその妹って構図か。別に、そんなにおかしなことじゃないよな。
「有希ちゃん、相変わらず良く食べるわねえ」
 長門は食事中も無口だったが、その無口さを埋めるかの如くハイペースで煮物を口に運んでいた。昼も思ったが、こいつの胃袋は一体どんな仕組みになっているんだろうか。
「有希ちゃんねー、食事中は何時もこんななんだよぉ」
「ふうん、やっぱりね」
 何がやっぱりなんだろうか、俺にはよく分からない。
 俺は昼間と同じ面子で、昼間とは様子の違う食卓を囲む光景をやや傍観者的に捉えながら、己の現状を振り返る程度だ。別に友人同士とその妹というのは珍しくも無い構図だろうし、長門と俺が奇妙な出会いというか再会を果たさなくたって、朝倉と長門が友人であった以上、有りえたかも知れない光景なわけで……、いや、どうだろうな。もしそうだったら、朝倉は俺を誘うことは無かったんじゃないだろうか。朝倉は、他の奴に対するときは知らないが、俺に対するときは1on1ってのが基本みたいな感じだしな。
 まあ、俺があんまり他人と馴染めないからってのも有るんだろうが。

 
 

 食事後、長門の妹が寝てしまったので、俺は長門と二人でゲームに興じることになってしまった。と言っても対戦ものだと全く勝負にならないので、二人で協力して進めていくアドベンチャーゲームだ。朝倉一人に片づけをさせるのは悪いと思ったが、朝倉は「気にしないで良いのよ」と言って片目を瞑ってみせた。
 ……何か勘違いされているような気がしてならない。
「なあ、長門」
 ゲームの音が大きいし、皿洗いの水音もあるからキッチンの方に居る朝倉には聞こえないだろうと思い、俺は隣に座る長門に話しかけた。
 ちなみに俺は適当に胡坐をかいているが、長門はきっちりと正座している。足は痺れないんだろうか。
「……何?」
 ゲームをしながらだと気が散ってもおかしく無いだろうに、長門の受け答えは小声では有るがしっかりしているが、画面上の長門が操るキャラクターの動きも機敏なままだ。
 器用な奴である。……俺はとっくに一人ゲームオーバーになって、こうやって長門の一人旅を眺める羽目になっているというのに。
「その……、家族とはどうだ?」
「……どう、とは?」
「あ、いや……、上手くやっているか?」
「上手く、という言葉では曖昧すぎて定義が不明。ただ、家庭内の問題に発展しそうな事項は今のところ見当たらないと思われる」
「……そうか」
 長門の淡々とした受け答えからは、その意図するところまでは掴めない。ただ、長門の家族が長門をおかしな人間だと思っては居ないらしいか、おかしいのも元から程度に思っているんだろう、ということは何となく伝わってくる。妹さんも、長門に対して疑いをかけるような態度じゃなかったしな。
 数日前に世界が変わってしまったと言う、自称宇宙人娘。
 そんな長門有希も、こうして一緒に居るだけなら、ちょっと変わった一人の女子高校生に過ぎないんだ。

 
 

 俺はそれから長門の一人旅モードを暫く眺め続けていたが、長門が「時間」と言い出したため、ゲームを終わらせ、朝倉と共に長門姉妹を自宅まで送っていくことになった。
 辿り着いた長門の家は普通の一軒家で、出迎えてくれた長門姉妹の母親も、ごく普通の主婦と言った感じの人だった。
「長門さん、あんまり変わらないなあ」
 二人で帰る道すがら、朝倉がぽつりと呟いた。
「……長門は前からあんな感じなのか?」
「うん、割とね。前はもうちょっと違った気がするけど、無口なのは前からだし」
「そっか」
 そう、長門本人が言うには、長門には以前の記憶が無いんだ。
 人間として生きてきたはずの『長門有希』の記憶が……、なあ、長門、お前はそれをどこに落っことしてきたんだ?
 どこかに居るかもしれないレア苗字の羅列みたいな連中探しより、本当は、そっちを探す方が大事なんじゃないのか? お前には、妹さんを始めとした家族が居るんだしさ。
 ぽっと出の俺のことなんてどうでもいい。学校の連中のことだってどうにでもなる。でも、お前にはお前なりの人生の積み重ねが有るはずなんだ……、そういうものじゃないのか?
「あ、そう言えば、もうすぐ期末テストだったわよね」
 俺が何となく黙っていたら、朝倉がいきなり話の矛先を切り替えた。
「へ? あ、ああ、そう言えばそうか」
 そう言えばその通りなわけだが、一昨日辺りからの騒がしさですっかり忘れていたな。
 まあ、俺は元々そんなに勉強熱心な方じゃないんだが。
「キョンくん、試験勉強なんて全然してないんでしょ?」
「いや、それは……」
「全く、またいびつな成績表を作るつもり? まあ、受験には困らないだろうけど。そうだわ、今日は帰ってから勉強しましょ。科学と数学、苦手分野を克服しないとね。あ、もちろん明日もよ?」
「お、おい……」
「反論は駄目よ、こうでもしないとキョンくん、試験勉強なんて殆どしないんだから」
 朝倉にはっきりと言い切られ、こうして、俺の土曜日の夜と翌日の日曜日は、苦手な理数系科目の克服のために消化されることになってしまった。

 

 どうやら、長門のことは少しの間お預けになりそうだ。
 ……とはいえそれも、俺より先に長門が一人で何かしらのヒントを掴んだりしなければという話なんだが。

 
 

 closed sanctuary 第十一話に続く

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:11 (2730d)