作品

概要

作者せだえんらc
作品名永久への鍵 第04話
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-02-18 (日) 12:01:01

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

あいつの行動は迅速だった、そして不可解だった

 

居場所を突き止めた次の日から通い始めたのだ

 

その時何を思っていたのかはわからない

 

それを知っているのはあいつだけだろう

 

だから少しの間だけ視点を譲ろうと思う

 

 

僕は撫子の存在を捉え、最初の接触を果たした

 

そしてママのマンションに戻ると情報統合思念体の意識群体にアクセスした

 

〈我、目標と接触せり、広域帯宇宙存在特殊個体は既に能力を発現せるも未完成状態〉

 

焦りにも似た性急さを露にして情報統合思念体の意識の潮流が催促をよこした

 

《可及的速やかに目標及び広域帯宇宙存在の消滅を図られたし》

 

ふぅ、と小さく溜息を吐いて回答を思案する

 

〈否、更なる自律進化の可能性追求の資源として、目標の調査解析が必要と判断する〉

 

情報統合思念体からの再度の催促、なにをいまさら、といった印象がそこから読み取れた

 

《広域帯宇宙存在を理解することは不可能との総意に達している、速やかな敵性存在の絶滅を求める》

 

〈否、その結論は未知存在を除外している、特殊個体の持つ可能性の検証を要する〉

 

《繰り返す、速やかな敵性存在の絶滅を求める、これは情報統合思念体全体の総意である》

 

僕は思わず声に出して言った

 

「拒否する、これは情報統合思念体最上位権限個体の決断である」

 

思念体の潮流の中に怒りにも似た大きなうねりが巻き起こり、それが治まった後、ごく短い回答があった

 

《・・・・・・・・・了解した、現在はその判断に服従する》

 

マンション内部に感じていた朝倉涼子と喜緑江美里の気配が硬質なものに変化したのがわかった

 

 
 
 

先手を打たれた

 
 
 

それが正直な感想だった

 

世間はまだ春休み期間中、僕のかりそめの入園まで期間があった

 

その期間は恐らく全てを終わらせるのに十分かもしれなかった

 

僕にとって終わって欲しくない春休み、いつまでも続いて欲しい春休み

 

でも、そんな訳にはいかないことは判っていたんだ

 

次の日の朝、僕がマンションを出るとエントランスに撫子が立っていた

 

昨日の夜と同じ心の抜け落ちた瞳で、心のこもらない声で撫子は呟いた

 

「見つけた」

 

僕は撫子を無視してその背後を睨みつけた

 

マンションの外には黒塗りの高級車が停まっていた

 

そのドアの前に鶴屋家の跡取りが所在無さげに立っている

 

僕と視線があうと上品な物腰で頭を下げ、ゆっくりと歩み寄って来た

 

それはたくさんの物を背負い、たくさんの者を守る運命に縛られた人の姿

 

心のどこかがズキリと痛んだ

 

痛みとは裏腹に僕の口を吐いて出たのは人を傷つける辛らつな言葉だった

 

「余計な真似が上手なようだね」

 

造り笑顔を崩さずに鶴屋家の跡取りは再び頭を下げた

 

「早朝からご迷惑とは思いましたが、たってのご希望でございましたので・・・」

 

その笑顔には微かな悲しみと微かな自嘲があった

 

わかっているさ、早く決着をつけて欲しいんだろう?そして自分のやっていることが嫌なんだろう?わかっているさ

 

この人は何にも悪くない、ただ彼女はその嫌なことを背負わなければならない立場に生まれついてしまっただけなんだ

 

誰のせいでもない、でも誰かがそれをしなければならない、そういう立場

 
 
 

今の僕と撫子がそうであるように

 
 
 

いつの間にか撫子が僕の斜め後ろに立っていた

 

静かに佇みながら僕の服の裾に縋った手を決して離そうとはしなかった

 

僕は鶴屋さんを無視すると撫子の手をとってマンションの前から連れ出した

 

「行こう、せめて最後には幸せな記憶だけでも残したいんだ」

 

僕のその言葉には撫子を調べるための口実以外の気持も確かにこもっていた

 

 

俺達は7階のベランダから走り去って行く二人の子供の背中を見送った

 

あの子達が二人でいる姿を見ることができるのはあと何回あるだろう?

 

もしかしたらこれが最後かもしれない、もしかしたらこれからもずっと見られるかもしれない

 

それは結果が出るまで判らない、でもいつか結果が出ることだけはわかっている残酷な未来

 

有希の手を握る俺の手は恐れと不安で汗ばんでいた

 

たおやかに握り返してくれる有希の手のぬくもりだけがその時の俺の救いだった

 

 

僕は撫子の手を引いて街に繰り出した

 

たぶん、撫子にとってこれが最初で最後の経験となるだろう

 

その最初と最後をもたらす者は僕、希望を与え、それを絶望で断ち切る者、それが僕

 

そしてこうも思った、それは僕にも当てはまるのだと

 

僕もこんな風に街に出るのは初めてだ

 

データー上の知識は存在する、でも経験としては初めてだ、そして恐らくは最後

 

僕は物心もつかないうちにママとパパの手から引き離され穏健派の養子に出された

 

それは仕方の無いことだったのだと思う、今になって思えば

 

僕の誕生には情報統合思念体全体の未来が懸かっていたのだから

 

それにパパとママにも僕を手元に置けない事情があったのだから

 

だから僕は穏健派が作った架空の家の子供にされ育てられてきた

 

最初から「否定する者」としてのみその存在を望まれてきた

 

穏健派の管理下で、急進派の手でその力を培われてきたのだ

 

だからたぶん、僕にとってもこれが最初で最後になるだろう

 

 

その日の夕方、優しく暖かい春の夕日を浴びながらタケルは悲痛な表情で帰って来た

 

−あいつの笑顔を見ることが出来たよ−

 

それが帰ってきてポツリと呟いた言葉だった

 

そう呟いて有希に縋りつき、声を殺して泣いていた

 

その背中はあまりにも小さすぎた

 

 

3人だけの寂しい夕食が終わった

 

朝倉と喜緑さんは今日は来なかった、来たくても来れる状況では無かったのだろう

 

いつもは有希と二人だけだ、なのになぜ親子揃った今日の夕食のほうが寂しく感じるのだろう?

 

夕食の片付けが済むと有希は朝倉達に話がある、と言って部屋から出た

 

気を使ってくれたのかも知れなかった

 

しかし俺は話しあぐねていた

 

一体何から話せばいいと言うんだ?

 

この子が背負わされているものはあまりにも大きくて重すぎる

 

そしてそれはあの子も同様なのだろう

 

周囲から勝手に背負わされ、その期待に嫌でも応えなければならない

 

そうしなければ必要としてもらえない

 

大人の勝手な都合、そしてそれから守れなかった大人の俺、愚かな歪

 

その歪の全てが2人の子供に背負わされている

 

どうすればいいんだ?

 

本当に悲鳴を挙げたいのはこの子達の筈なのに、俺の心も悲鳴を挙げたがっていた

 

様々な想いが頭の中で駆け巡る

 

どちらに転んでも悲劇にしかならない

 

決して希望には辿り着けないと定められた迷宮

 

それが今のこの現実

 

そして一番の絶望はその現実を解決できない無力な俺

 

タケルはその俺に背を向けて寝室に行こうとしていた

 

このまま行かせてはいけない、何か話さなければ、なんでもいい、何か話をしなければ

 

「おまえが勝ったらあの子をどうするつもりなんだ?」

 

俺の焦りがあまりにも愚かな質問となって出ていた

 

言ってから自分の言葉の愚かさに気がつき後悔した

 

そんな質問はタケルの心を抉る刃にしかならないだろう

 

「消滅させる、広域帯宇宙存在ごとね」

 

俺は俯いた、打ちのめされて俯いた

 

「もしも・・・もしもおまえが負けたらどうなるんだ?」

 

俺は俯いたまま尋ねた、未来を直視する事を恐れていたから俯いたまま尋ねた

 

「パパは・・・パパはもちろん大丈夫さ、涼宮ハルヒがパパを望んでいるからね」

 

その声には微かな嘲笑が含まれていた

 

「でも情報統合思念体とその端末は全て消される、殺されるのでなく消される、その時にはママも・・・・・・」

 

小さく絞られた最後の声に俺は顔を上げた、再び目を合わせたタケルの瞳には深遠が広がっていた

 

「そして僕には死よりも酷い運命が待っている、それすらもかまわない、でも・・・・・・せめてあいつだけは」

 

それは一体・・・と言いかけて俺は肩に感じた手の感触に振り向いた

 

振り返ると有希がいた、いつの間にか有希が部屋に戻っていた

 

「有希・・・今の聞こえちまったか?」

 

狼狽する俺の声に有希は頷いた

 

「聞かなくても知っている・・・でも私はこの子を信じる、だからあなたも信じて」

 

有希はまるで聖母のように穏やかに微笑んだ、そして言葉を続けた

 

「そしてもうすこしだけ時間を創って、この子がこの子達の未来を創れるように」

 

どうすればいいんだ?

 

俺の中で俺の悲鳴が響いた

 

第04話 終



 

次回分(予定)より抜粋

 

「こう考えたことはありませんか、もしも長門さん達が我々人類の敵に廻ったら?と」

 

俺は古泉の顔を無言のまま睨みつけた

 

そして俺は勝負を仕掛けた、古泉・・・いや古泉の中の存在に語りかけた

 

「それで、古泉の協力を得て何を話したかったんだ、”あんた達”は?」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:10 (2730d)