作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary 第八話
カテゴリーその他
保管日2007-02-14 (水) 00:43:43

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「あ、いや……、調べ物です」
「本以外に興味が無さそうな人がパソコンに向かっているから、てっきり文章でも書いているのかと思いましたけど」
 喜緑さんはしれっとした表情で、痛いところを着いてくる。
「うっ……」
 編集者に睨まれた締め切り作家というのは、こんな苦い気分を味わっているんだろうか。
 喜緑さんは編集者ではなくまた俺は作家でもないのだが、締め切り云々は間違いではない。まだまだ先のことでは有るが、俺には、文芸部の機関誌を書き上げるという役割が課せられているからな。生徒会役員の喜緑さんは、その取立て役でも有る。
 取立てって言い方もあれだけどさ。
「ちゃんと書いてくださいね」
「分かっていますよ……」
 分かっている、分かっているって。
 第一、文芸部室に古いパソコンが運び込まれたのだって、それが理由なんだし……、そう、だから、喜緑さんは、俺が文章を書くためにわざわざこの部屋にやってくるなんてことをしないだろうと知っているのに、こんな風に話を振ってきているのである。
 穏やかそうな見た目に反して、結構、意地の悪い人だと思う。
「……調べ物の続きをしたいんですけど、良いですか?」
「ええ、どうぞ」
 喜緑さんは俺の言葉に頷くと、さっとそこから離れ、部長氏と少し話をしてから部室を出て行ってしまった。
「あの、ちょっと良いですか?」
「ん、何?」
 俺は手近なところで作業をしていた別の二年生部員を呼び、さっきの『not found』のページを見る方法が無いかどうか聞いてみることにした。
「ちょっと待って。えーっと、このページか……」
 席を譲られた二年生部員が、パソコンを操作していく。操作といっても、ブラウザ上で彼方此方をクリックしたり入力したりということをしているだけなんだが、パソコン初心者の俺にとってはこれだけでも充分ありがたい。
 ちなみに途中でアーカイブがどうのこうのと言っていたが、俺にはその意味はよく分からなかった。
「……駄目だな。見れないみたいだ」
 十数分後、幾つかの方法を試した二年生部員はその試みが実りを得なかったことを俺に告げた。
「そうですか……」
「ごめん、力になれなくて」
「いえ、良いんです」
「けど、おかしいなあ、普通だったらこのくらいのは見れるはずなんだけど……」
 このくらい、というのは多分、時間的なことだろう。
 大体二年くらい前か? 結局分かったのは、二年前にこの日本のどこかに古泉一樹なる人物が居たらしくて、かつ、そいつはピアノを弾いていて、どこかのコンクールか何かに入賞するくらいの腕前だった、ということくらいだな。
 まあ、それだけでも収穫と言えば収穫なんだろうが。

 
 

 結局俺はそれから暫く検索やら何やらを続けていたわけだが、結果としてはそれ以上の収穫は何も無いまま文芸部室に戻ることになった。あれからピアノ関係のページを適当に回ってみたが、古泉一樹なんて人物はどこにも表記されてなかったからな。古泉が入賞したコンクールとやらは、そんなに有名なものではないのかも知れない。
「よう、長門。そっちはどうだ?」
「……新たな情報は無い」
 携帯を手に持っていた長門が、俺の方を見ないまま答えた。
 直前まで電話をかけていた、という風でも無いな……、一体どうしていたんだ? ずっと電話をかけ続けていたんじゃないのか?
「そっか……」
「あなたは?」
「あ、ああ。こっちは……、一応、ゼロじゃあない、かな」
「本当?」
 それまでゆっくりとした動作だった長門が、突然さっと立ち上がり、俺の方へ向かって歩いてきた。
 おいおい、距離が近いって。
 というかお前、行動が早すぎというか、オンとオフの切り替えが早すぎだろう。
「いや、あのな……。とりあえずい、座れ」
 俺は長門を椅子に戻し、自分も机を挟んで反対側の椅子に着いた上で、パソコンで調べた結果を話してやった。
「……そう」
「なあ、長門、お前の知る古泉一樹には、」
「わたしの知る古泉一樹には、楽器演奏の経験は無かった」
「そうか……、じゃあ、人違いかもな」
「……」
 顔も年齢も分からない、名前だけの情報だ。同姓同名の別人って可能性だって有る。楽器演奏の有無だけではっきりそうとは言えないが、こんな頼りない情報を元に人を探すのは難しいだろう。
「そろそろ帰らないか? もうすぐ下校時間だ」
「……」
「お前が焦る気持ちは……、まあ、分からなくは無いけどさ、少し落ち着け。物事ってのはもっと段階を踏んでじっくりやったほうが良いぞ」
「……」
「……とにかく、今日は帰ろう。携帯、返してくれるか?」
「……」
 長門はほんの少しだけ首を縦に動かすと、俺に携帯を返してくれた。

 
 

 長門有希の考えていることは、正直良く分からないような分かるような……、何だろうな、この微妙な感覚は。
 とりあえず、これから人探しが日課になりそうなことだけは確かだが……、疲れる話である。別に嫌だってわけじゃないんだが、俺にだってやることが有る。
 勉強とか読書とか、機関誌のことも……、そうだ、機関誌のことが有るんだったな。喜緑さんが現れるまで、すっかり忘れかけていたが。
 提出期限は一応三学期になってからってことだが、俺一人で文面を埋めることを考えたら、出来るだけ早く取り掛からないといけない。
 とはいえ未だ一行もかけてないんだが……。
「文章、か……」
 何時ものように朝倉の家で夕食をとり、何気ない雑談を交わしてから自分の家に戻った俺は、ふと、ノートを開き何となく思いついた文章を書きとめていった。
 長門が話してくれた、どこかおかしな高校生活。

 人物の名前や背景を少し捩れば、これはこれで一つの話が出来上がるんじゃないだろうか。
 伝聞をそのまま文章にするなんていうのは芸が無いが、こういうのもありだろう。
 長門有希が巻き起こす厄介ごとに巻き込まれているんだ。俺が長門から聴いた話を利用するくらいのことは許されても良いはずだ。
 後は、そうだな……。

 
 

 closed sanctuary 第九話へ続く

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:08 (3092d)