作品

概要

作者せだえんらc
作品名永久への鍵 第03話
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-02-12 (月) 00:02:08

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

そこに少女がいた

 

扉の向うでその少女は待っていた

 

その少女の姿を一目見て俺は広域帯宇宙存在を呪った

 

ハルヒの幼い頃は全く知らない、写真も見たことが無い

 

それでもその少女はハルヒとしか思えない姿をしていた

 

あまりにもハルヒに似すぎている、にもかかわらず俺の心に浮かんだのは別の少女だった

 
 
 
 

          長門有希

 
 
 
 

俺の最愛の女性、そしてこの子の母親

 

それが俺の心に映った姿だった

 

少女の中には初めてあったころの人形のような長門の雰囲気があった

 

その瞳にハルヒの瞳の輝きは無く昔の長門の瞳の虚無の深遠があった

 

「見つけた」

 

少女が何も見ていないような瞳のままポツリと呟く、ハルヒの顔で、長門の声で

 

タケルの存在を認めた少女が気配もさせずに一歩踏み出す

 

ゆっくりと伸ばされる小さな手、その手はそっとタケルの裾をつまんだ、まるで縋るかのように

 

しかしタケルは小さく唇を噛み締めるとその手を払った、まるで空気でも振り払うかのように

 

「悪いけどいずれ消す相手と握手する趣味は無いんだ」

 

氷のように冷たい声と冷たい視線、その中には殺意はおろか敵意すらなかった

 

タケルは少女の存在そのものを否定していた

 

くるりと踵を返してタケルは玄関に向かって行く、その背中を少女の声が追う

 

「わたしはここにいる」

 

鶴屋さんがそっと少女を肩越しに抱きよせ引き止める

 

それでやっと俺の目に周囲の光景が入ってきた

 

鶴屋さんは目に涙を堪えながら少女を抱きしめていた

 

俺はその場にいたたまれなかった

 

自分の声が頭の中で駆け巡る

 

これが現実なのか?これが必要なことなのか?なんでこんなことになってるんだ?

 

この少女はただの道具でしかない、殺すための、殺されるための

 

なんでこんなことがあっていいんだ?!

 

再び少女の声がタケルの背中を追う

 

「わたしはここにいる」

 

タケルはその声すらも無視した

 

 

俺達は鶴屋さんの屋敷の離れに通された

 

離れの奥の座に和服の鶴屋さんが座り、向かいに俺達親子が腰を降ろした

 

「何から話せばいいさね・・・」

 

聞きたくないな・・・鶴屋さんの落ち込んだ声なんて

 

そう思いながらも俺は出されたお茶を一口含み、唇を湿した

 

「鶴屋さん、あの少女が・・・・・・そうなんですね?」

 

俺の問いかけ・・・いや、確認に鶴屋さんが無言でうなずく

 

その顔は俺達の知っている陽気な先輩の鶴屋さんではない、鶴屋家を守る跡取りの顔

 

「あの子の名前は?」

 

俺の次の問いかけに答えたのは以外にもタケルだった

 

「撫子」

 

驚いて振り返る俺の視線の先にお茶菓子を摘み上げたタケルがいた

 

「鶴屋家と機関が収集した情報はもう読み取らせてもらったよ、それと・・・」

 

上品な和菓子を観光地の温泉饅頭か何かのように口に放り込み、かすかな咀嚼の音もさせずに飲み込むとその先を続けた

 

「僕について集めた資料とそれをどこまで向うにリークしたかについてもね」

 

鶴屋さんが指先を揃えると深々と頭を下げた、目の前に座った年端も往かない幼子に向かって

 

「私どもは決して貴方様に相対するつもりはございません、むしろ貴方様達の仲立ちを「合格だ」・・・」

 

鶴屋さんの口上を遮って尊大な口調で言い放つ

 

「僕に対する情報提供も向うに対する僕の情報のリークも等価と評価できる・・・・・・機関及び鶴屋家を積極的中立勢力と認めよう」

 

何様のつもりだおまえは?!

 

思わず声を荒らげそうになった俺の手を有希がそっと押さえた

 

「これがこの子にとっての現実、そしてこの子の現実の生き抜き方、あなたにはそれが不必要だっただけ」

 

何も知らなかった事を思い知らされて、俺は打ちのめされた

 

だが俺を本当に打ちのめすのはこれからだったんだ・・・・・・・・・

 

 

今思い出しても胸が痛む

 

離れでは沈黙の刻が悪戯に過ぎてゆくだけだった

 

タケルはデーターを吸い上げた後はその場に居続ける必要性を認めようとしなかった

 

それはとりもなおさず現時点での鶴屋さんの利用価値が完了したことを意味していた

 

後ろめたい思いで中座する俺達を鶴屋さんが直々に見送ってくれようとした

 

すでにとっぷりと日は暮れ、月の光と夜の闇の支配する時間が訪れていた

 

その光陰の中でそれは起こった

 

「わたしはここにいる」

 

再びあの少女、撫子が俺達の前に姿を現した

 

煌々たる満月の光を浴びて静寂と共に日本庭園に立つその姿は幻想のように美しかった

 

「あなたが必要・・・あなたが欲しい・・・あなたとひとつになりたい」

 

少女の口から妖艶な言の葉が紡ぎ出された、まるで憑依状態の巫女の神託のように

 

月の照り返しか、それとも意思の光か、少女の瞳には光が宿っているような気がした

 

少女は吸い込まれるような光と闇を湛えた瞳でタケルを見つめ、タケルを求めていた

 

だがその直後にタケルのとった行動は誰も予想することも止めることも出来なかった

 

月灯りに照らし出された日本庭園に渇いた音が響いた

 

それはタケルの手が少女の頬を打った音

 

月の雫のように光るものが一筋散った

 

それは寂しい粒、心の欠片、少女の涙

 

少女は表情ひとつ変えずに涙を零していた

 

「涙を流す心があるなら僕の心を殺してから流すがいい、殺されてからでは泣くことも出来ないぞ」

 

タケルは激昂していた、冷静な声のまま血を吐くように言葉を吐き捨てた

 

「生きるためには躊躇わずに殺せ、誰かの為に生きているならなおさらだ!」

 

俺達に背中を向けて立ち去りながら、背中越しに吐き捨てた、その顔を決して見せようとはせずに

 

俺と鶴屋さんはただ呆然とその後姿を見送った、その場の刻が凍りついていた

 

頬を打たれた少女と有希だけが平然としているのが訝しかった

 

 

「なぜあんなことをした!」

 

マンションに戻ると堪えていた俺の感情の堰が崩れ落ちた

 

俺はタケルの胸倉を掴んで怒鳴りあげていた

 

俺はあの少女の瞳を忘れることが出来なかった

 

あの少女の瞳はタケルに頬を打たれた瞬間だけ本当の心の光を持ったのだ

 

あまりにも悲しすぎる儚い光を

 

「あいつは敵だよ」

 

俺の頭上からぞっとするような声が返ってきた、子供にこんな冷たい声が出せるとは信じたくないほどの

 

氷よりもっと冷たく寂しい視線が俺を見下していた

 

その怜悧な視線に射抜かれてタケルを床に降ろした

 

タケルは俺を無視するようにマンションのエレベーターに向かって行った

 

有希は黙ってその後をついて行く

 

すれ違う瞬間、有希の口が微かに動いた

 

−大丈夫、必ず守るから−

 

二人の背中を見送りながら俺はあの少女のことを思い出していた

 

涙を流しながらあの少女はタケルの後を追おうとしていた

 

あれほどに手酷い拒絶を受けても追いかけようとしていた

 

俺にはあの少女こそがタケルの為に生きているように見えてならなかった

 

誰もあの子を助けられないのか?誰もあの子達を助けられないのか?

 

そして俺には何が出来るんだ?俺には何も出来ないのか?

 

俺は月光を浴びながらマンションのエントランスにへたり込んだ

 

時間の感覚が麻痺したようにどれくらいたったのか判らなかった

 

打ちひしがれた俺に影がさした、いつの間にか有希が戻っていた

 

「あの子も泣いている」

 

そんな言葉が唐突に投げかけられた

 

「・・・・・・・・・本当か?」

 

「あの行動は本心ではない、でも今はああ振舞わなければならない」

 

「・・・」

 

俺の沈黙をよそに長門は続ける

 

「情報統合思念体はあの子に期待と恐れを感じている、全ての希望を託すと共にそれが絶望へと転落することを恐れている、朝倉涼子と喜緑江美理はその為の監視者、味方であって味方ではない」

 

救いの無い言葉をまるで他人事のように淡々と続ける

 

「あの子は誰からも受け入れてもらえない、なぜならあの子は否定するために創り出された存在だから」

 

そしてまた繰り返した

 

「あの子も泣いている」

 

俺は春の夜風で頭を冷やしながら答えた

 

「それでも・・・それでもあれは許せない」

 

「許してくれなくてもいい・・・今は」

 

「・・・・・・・・・?」

 

俺は有希を見上げた、有希は俺の目を覗き込むと静かに優しく微笑んだ

 

「でも受け入れてあげて、今だけは・・・そうしなければあの子には誰もいなくなってしまう」

 

その声には希望と絶望が同時にこもっていた

 

俺の耳が確かならその後に有希はこういったんだ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「あの子には私達と・・・あの女の子だけしかいないから」

 

第03話 終



 

次回分(予定)より予告抜粋

 

「パパは・・・パパはもちろん大丈夫さ」

 

その声には微かな嘲笑が含まれていた

 

「でも情報統合思念体とその端末は全て消される、殺されるのでなく消される、その時にはママも・・・・・・」

 

その声に俺は顔を挙げた、再び目を合わせたタケルの瞳には深遠が広がっていた

 

「そして僕には死よりも酷い運命が待っている、それすらもかまわない、でも・・・・・・でもあいつだけは」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:07 (2732d)