作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary 第五話
カテゴリーその他
保管日2007-02-06 (火) 23:29:21

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

「ただいま」

 

 自分の部屋に帰ってきた俺は、習慣となっている挨拶を口にしてから玄関で靴を脱ぎ床に上がった。
 挨拶に対する返答は無い。一人暮らしだから当たり前だけどな。
 俺に同居人、いや、家族と呼べる人間は居ない。それでいて高校生の一人暮らしにしては不相応とも言える3LDKに住んでいたりするのにはそれなりに事情ってものがあったりもするんだが、俺自身はあんまりその事情ってやつに触れたくなかったりもする。
 自分の境遇を認めるのは別にかまわないんだが、それで誰かに同情されたりするのが嫌なんだ。別に俺は今の境遇に不満があるわけじゃないしさ。
 一人暮らしになったのは高校生になってからのことだが、家族が居ないのは最初からみたいなものだしな。
 高校生の一人暮らし、しかも広い家付き。
 これで俺に親しい友人でも居れば、友人を呼んで遊んだりなんてことも有るんだろうが、俺は今のところそういうこととは無縁だった。
 ただし、来客が居ないわけではない。
 制服から私服に着替えちっとも読み進めることが出来なかった本の続きを読もうかと思ったものの、突然の来訪者のことが頭を駆け巡っているせいなのか本の内容が全然頭に入ってこないという状況にどうしようかと思っていたら、その来客はやって来た。
 チャイムに応じて玄関の扉を開くと、そこには朝倉涼子が立っていた。
「ご飯一緒に食べない? おでん作りすぎちゃったのよ」
「またかよ」
「ねえ、良いでしょ? キョンくん、どうせ今日もご飯作ってないんでしょ?」
「まあな」
「じゃあ、おいでよ」
「ああ、分かった分かった」
 かくして俺は、朝倉に連れられ朝倉の部屋で一緒に夕食を食べることになった。
 こんなことは珍しくも何とも無く、俺にとっては日常の光景の一つだ。まあ、最初は朝倉が半ば強引に鍋やらタッパーやらを俺に押し付けに来ていたんだけどな。ある程度懐柔出来たと思ってからはちゃんと同意を得て連れ出す方法に切り替えたってことなんだろう。
「ん、美味いな」
「ありがと、キョンくん」
 朝倉の作る飯は美味いし、朝倉の顔を見て飯を食うのも悪くない。
 本を読む以外のことをしろとかもっと協調性を持って欲しいとか言ってくるときの朝倉はちょっとどうかと思うが、朝倉は基本的に料理が美味いし顔も美少女の部類に入るからな。
 別にこいつは悪い奴じゃないんだ、お節介過ぎるだけで。
「そう言えばキョンくん、今日、キョンくんのところに、えっと、」
「長門有希のことか?」
「そうそう、長門さんが会いに行ったでしょ? 一体何があったの? あたし、キョンくんと長門さんが知り合いだなんて知らなかったから、長門さんがあなたの居場所を聞いたとたん走り出しちゃって、すごくびっくりしたんだけど」
「……昔の知り合いだ」
 俺は長門の話を思い出しながらもその話の内容を頭の脇に寄せつつ、適当な嘘をでっち上げることにした。この様子だと朝倉は長門からあのおかしな話を聞かされてないみたいだしな。まさか、長門の記憶の中でのあなたは宇宙人です、なんて風に告げるわけにも行かないだろう。
 下手な嘘を吐くと後で厄介なことになる可能性も有るが、そこは長門に口裏を合わせるという形で回避できることを祈ろう。幸い何か有ったときのためにってことで、予め長門の連絡先は聞いているしな。家電というのがちょっとネックではあるが。
「知り合い? どういう? まさか、恋人とか?」
「そんなんじゃないって」
 長門云々以前に俺には恋人なんて者が存在したことは過去において一度も無い。
 こうして朝倉の家に上がって二人仲良く飯を食う関係だったりはするが、幸か不幸か俺と朝倉の間には恋愛感情めいたものはこれっぽっちも存在しない。何せお互いのことを知り尽くしすぎているから、全く持って恋愛対象にならないんだよな。それはきっと朝倉の方も同じことなんだろう。
「ふうん……。でも、変なの、あたしの知る限りじゃ、長門さんとキョンくんの交友関係って全然被っている印象が無いんだもの」
 そりゃそうだろう。俺だってあの五月の出来事以外に長門との接点は無いさ。……少なくとも、俺にとってはそうなんだ。
「……まあ、キョンくんがあんまり言いたくないって言うなら、これ以上のことは聞かないでおいてあげるけどね」
 朝倉はにやにや笑いつつも、これ以上俺と長門のことについて追求しないということにしてくれたらしい。絶対何か勘違いされている気がするんだが、訂正しようとすると余計話がこじれそうだから、ここはとりあず放っておくしかないか。
 それに、これから何日かすれば、この誤解も解けるだろう。

 
 

 飯を食い終わり家に帰った俺は、とりあえず長門の家に電話をかけた。
 まずは適当に口裏を合わせてもらわないといけないからな。朝倉は話し好きだから、うかうかしていると先を越されて襤褸が出るかもしれない。
 しかし、女子高生の住む家に、保護者の知らない男子からの電話と言うのはどうなんだろうな。まあ、そんなことを心配している場合でもないんだが。
『はーい、長門です』
 なんて思っていたら、電話に出てきたのは子供の声だった。声の感じからすると妹さんってあたりか? 家族構成によっては姪とか従妹とかいう可能性も有るが、普通に考えたら妹だよな。
 俺は親が出なかったことに心の中で感謝し、自分の名前を名乗り長門を呼び出すように頼んだ。
『有希ちゃん? うん、呼んでくるからちょっと待っててね』
 その妹さんらしき人物はあっさりと俺の言葉を了承し、長門を呼び出してくれた。余計な詮索をしてくるような子じゃなくてよかった。しかし有希ちゃん呼ばわりなのか。
『……変わった』
「ああ、長門さんか。実はな、」
 俺はとりあえず朝倉に追及されたことと、朝倉に具体的な話をする気が無いなら誤魔化すために口裏を合わせたほうが良いこととを長門に告げた。朝倉にどこで追求されたかってことについては一応伏せさせてもらったが。
 ……まあ、伏せる意味があったかどうかは俺にもよく分からない。
『そう』
「どうする? 何か良い方法が有るか?」
『……あなたがわたしを助けたことにすればいい』
「俺が、長門さんを?」
『そう、それでわたしがあなたにお礼を言い損ねていたか、感謝したりないと思っていたということにすれば、特に問題は無いはず。……あなたが名前入りのものをわたしの元に忘れていた、という付加的要素を加えると説得力は増すと思われる』
「……そっか、じゃあ、そういうことにさせてもらうか」
 まあ、道理は通るよな。ちょっとベタ過ぎる気もするが、宇宙人がどーのなんていう電波話よりは数百倍まともだ。
 俺の記憶の中では、俺の方が助けられた側なんだが……、まあ、ここはそういうことを気に病むような場面じゃないか。
『それでいい?』
「ああ、かまわない。すまないな、こんな夜中に電話かけてさ」
『良い、原因はわたしだから。……それに、わたしの方からも言いたいことがあったから』
「ん、何だ? 今日の話の続きか?」
『違う』
「じゃあ何だ?」
『名前。……わたしの知るあなたは、わたしに敬称をつけることは無かった』
「へえ、そうなのか」
 それだけ親しかったってことなんだろうか。
『だからわたしは、あなたにも、わたしの知るあなたと同じようにわたしのことを呼んでほしい』
「……長門、って呼べばいいのか?」
『そう。……けれどこれはわたし個人の願望に過ぎない。当然、あなたにはわたしの要求を拒否する権利がある』
「いや、いいよ。俺もこの方が呼びやすいしさ」
 出会って初日で呼び捨てってのはどうかって気もするが、まあ、本人がそれを望んでいるっていうならそういうのもありだろう。
 俺は、長門有希の知る『俺』とは違う人間だと思うんだが。
『……』
 この沈黙はどういう意味なんだろう。
 悪いが俺は超能力者でも宇宙人でも未来人でも無いので、電話口の向こうで沈黙している相手の心境を読み取るなんていう非常識なことは出来なかった。
「そういやさ、長門。さっき電話に出てくれたのはあんたの妹さんか?」
『……そういうことになっている』
 やっぱり妹だったのか。
「なっているも何も、妹さんは妹さんだろう」
『……』
「二人姉妹なのか?」
『そう』
「そっか……、妹さんのこと、大事にしろよ」
『……』
 返事無しかよ。
「なあ、長門……」
『わたしは、彼女にどう接すれば良いか分からない』
「……」
『彼女はわたしを姉として扱ってくれる。でも、わたしにとって彼女は『妹』ではない。彼女だけではない、両親も同じこと。……わたしには『家族』という存在と接するべき適切な方法が分からない。わたしの中に有る彼女達の『知識』は、わたしに、わたしという存在が取るべき行動を教えてくれない』
 淡々とした、長門の小声の訴えが俺の耳に響く。
 家族、か。
「……なあ、長門」
『何?』
「あんまり、深く考えない方がいいんじゃないか。……とりあえず、波風を立てないようにしておけば良いんだと思う……。多分な」
 長門の疑問への回答は、俺も知らない。俺には分からない。
 きょうだいってなんだ? 両親ってなんだ? 家族ってどういうものなんだ?
 そんなこと、俺だって知らない。
『そう……』
「そういうもんだろ……。じゃあ、おやすみ」
 悪いな、長門。
 何の力にもなれそうに無くてさ。
『……おやすみなさい』
 就寝の挨拶を交し合い、俺は電話を切った。
 長門に関する心配事はいろいろ有るが、今日はもう遅いしな。
 俺が長門と長門の家族の関係を心配してやる必要は無いはずなんだが……、いや、まあ、良いか。
 俺は多分、長門がどうって言うより、他人の家族や家庭ってものに少なからず憧れめいた感情みたいなものを抱いているんだろう。だから、家族が居る癖にそれを受け入れられない長門に、ほんの少し、ほんの少しだけ、苛立ちを感じているんだ……。贅沢だ、何て風に思っているのかもしれないな。
 別に、長門が悪いわけじゃないと思うんだが……。長門の電波話がどこまで本当か知らないが、長門が何らかの理由で本当に長門の言うとおりの状態だったり、或いは、性質の悪い精神的疾患に侵されていると仮定したりした場合、それで家族との距離感が保てなくなったっていうなら、悪いのは長門じゃくてその原因の方なんだ。
 だから、長門は悪く無いんだ……。多分、何も。

 

 駄目だな、こんなことを考えている時点で駄目だ。
 全く……、一人には、慣れているつもりなんだけどな。

 
 

 closed sanctuary 第六話に続く

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:04 (2711d)