作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary 第四話
カテゴリーその他
保管日2007-02-06 (火) 00:10:56

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

「……は?」

 

「朝比奈みくるは? 古泉一樹は? ……森園生や多丸敬一、多丸裕でも良い。ちなみに涼宮は涼しいに宮、古泉は一般的な小さい泉ではなく古い泉、多丸は多いに丸、」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 なんだなんだ、一体何を言っているんだ。
 長門は(面倒くさいのでいい加減心の中とはいえフルネーム呼びはやめよう、と俺は思った)表情をほとんど変えないまま矢継ぎ早に名前を出しているが、俺はその名前に一つとして心当たりが無かった。というかなんだよ、そのおかしな名前の羅列は。
 大体『はるひ』『みくる』『そのう』なんて(名前の漢字やら何やらを確認したのは少し後のことになるので、この時俺の頭の中では注釈つきの苗字以外は音しか分からなかったことを付け加えておこう、長門の台詞を最初から便宜上正しい文字にしているのは、見易さの問題ってことで納得してくれ)「それ人の名前?」という次元なんだが……。
「誰も、知らない?」
「あ、ああ……、知り合いをあたれば森って苗字の奴くらいは居そうな気はするが『そのう』なんて変わった名前の奴は知らないし……、後はどの苗字も全く心当たりが無いな」
「そう……」
「なあ、長門さん、あんた一体どうしたんだ? 一体何を焦っているんだ? あんたがこの学校に転校してきて、それで、名簿か何かで俺の名前を見つけて、俺が文芸部員だと知って、文芸部室にやって来た……、っていうのなら分かる。あんたは俺の名前を知っているんだしな。でもあんたは、俺と出会ったことを覚えてないんだよな? じゃあ、あんたは何でここにやって来たんだ? 偶然とかじゃないよな、あんた、俺を見て『居た』なんて言ったしさ。それに、さっきの俺が俺じゃないとかいう話は一体何なんだ?」
「……」
 長門は、さっきから表情をほとんど動かしていない。
 これを見て焦っている、何て思うのは俺の思い込み……、なんてことは無いと思いたい。表情はともかくとして、行動からは焦っていそうなのがありありと見て取れるからな。
「なあ、長門さん。あんた一体、」
「わたしの話を聞いて」
「話?」
「そう、わたしの話。……あなたは馬鹿げていると思うかもしれない、信じられないかもしれない。でも、聞いて。……信じて」
 いや、信じてって言われても……。
「……なあ、長門さん、あんた今日が転校初日なのか?」
「転校は明日、今日は放課後の見学だけの予定だった。でも、職員室で出会った朝倉涼子に話をしたら、あなたのことを教えてくれた」
「長門さんは朝倉の知り合いなのか?」
「そう、彼女は……、わたしの友人」
 肯定までのほんのちょっとの間が気になりはしたが、まあ、朝倉の知り合いってことに間違いは無いんだろう。そういや、朝倉には長門に出会ったって話はしなかったな。
「わたしの話」
「え、あ、」
「聞いてもらえる?」
「……聞いてやるよ。どうやら急ぎみたいだし、朝倉の知り合いでもあるみたいだしな」
 別に俺と朝倉の間に何かあるわけじゃないが、名前だけ知っているという関係よりは、クラスメイトの友人って方がまだ距離が近い感じがするしな。
「わたしは、」
 それから、長門の長い長い話が始まった。
 何でも長門は宇宙人によって作られた人工生命体で、朝倉涼子はその同類。さっき名前が出た人々は皆長門の知り合いで、涼宮ハルヒが人間には有り得ないとされる能力を持った人間、朝比奈みくるが未来人、古泉一樹が涼宮ハルヒに力を与えられた限定的な能力者、だったかな? 古泉一樹の後に出た名前は、その古泉一樹なる人物の背後に居る組織の人間の一部だそうだ。
 何でも長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹はそれぞれ違う事情で涼宮ハルヒに近づいており、俺は、その涼宮ハルヒに選ばれた人間、だということだった。でもって、その五人の活動拠点がこの部室だったそうな。ええっと、世界を多いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、略してSOS団、だったか? 何だそりゃって感じだな。
 ちなみに一応の説明を付け加えておくと、俺がこのずらずら並んだ名前の書き文字を知ったのもこのときだ。ハルヒとかみくるとか園生ってのが女の名前で、一樹とか裕ってのが男の名前だって確認したのもここでだな。ていうか話の流れで疑問に思って俺が訊きかえさなかったら、長門は多分、連中の性別さえ教えてくれなかったんじゃないだろうか。……何か、根本的なところで抜けてないか?
 まあ、しかし、長門の言っている事は結構滅茶苦茶だったが、俺にも一応SF的知識なるもものがあるせいなのか、長門の言っていることの全部が理解できないってことは無かった。
 要約すると、長門はつい最近まで、俺が今ここで過ごしているような世界とは似て非なる世界で生きてきたってことになるそうだ。
 世界が丸ごと違うのか世界の何かが違ってしまったのかは分からないが、まあ、長門の話が正しいとするならば、何かおかしなことが起こっているってことになるんだろうな。
「……お願い、信じて」
「……」
 そう言われてもなあ。
 俺はただの文芸部員で、言ってみれば、本好きな文学少年って奴だ。
 そりゃあSFやファンタジーの世界にあこがれたことも有ったが、そんなわけの分からないことをいきなり並べ立てられてあっさりと信じられるほど、俺の頭はいかれちゃ居ない。
 大体、証拠もなしに……、ん、証拠?
「なあ、長門さん。あんたは自分が宇宙人製の人工生命体って言ったよな」
「正確には情報統合思念体製対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
「いや、正式名称はいいんだ。……だったらさ、あんたが宇宙人だって証拠を見せてくれないか? あんたの話が確かなら、傷を一瞬で治したり、空間を操ったり出来るんだろう?」
 長門が説明してくれたエピソードの中で、そういう場面が有ったからな。
「……」
「長門さん?」
「それは、今のわたしには無理。……今のわたしは、普通の人間と同じ能力しか持っていない。わたしは、そういう風に変えられてしまったから」
 長門は、やっぱり表情を変えないまま、そう言った。
 けど、申し訳ないって思っているのはちゃんと雰囲気から伝わってくる。
 長門の話は滅茶苦茶だが、今のところ、嘘を吐いているような気配は全然無い。だからと言って簡単に信じるわけにもいかないんだが。
「……とりあえず、保留で良いか?」
「保留?」
「信じるか信じないかは保留ってことさ。とりあえず、聞いた話は覚えておくし、そうだな、知り合いとかに頼んで、あんたが教えてくれた名前に心当たりが無いかどうか聞いてみるくらいならしてやってもいい。……もっとも、俺の友人や知り合いは少ないんだがな」
 クラスに居ても、朝倉以外に割と話をする相手といったら、たまたま俺と同じ中学出身の国木田と、最初の時の席順で席が近かった、ええっと、谷口って奴くらいかな? 名前を忘れかけているって時点で駄目駄目だろうって気もするが。
「……分かった。でも、出来るなら急いでほしい」
「何か急ぐ理由があるのか?」
「期限があるかもしれないから」
「期限? ああ、あれか、時間制限がかかっているかも知れないってことか」
 SF小説とかだとお馴染みの場面だな。
「そう」
「分かった、一応それも覚えておくよ」
「……お願い」
 長門はそう言って、頭を下げた。

 
 

 さて、長門に頭を下げられたわけだが、俺達は一緒に帰り道である坂を下っている。
 あんな話をされた後じゃ、とてもじゃないが読書を再開するような気になんてなれなかったし、どうやら帰り道の方向も同じみたいだからな。
「なあ、長門さん」
「……何?」
「あんたはさ、その、世界が変わったってのは……」
「二日ほど前の就寝中のこと、今のわたしでは正確な時間を求めることは困難」
「そっか……じゃあ、あんたが覚えてない、俺が5月にあんたに会ったってことも、あんたにとっては無かったことになるんだな」
「……そう」
「そっか」
 正直、それは少しショックだった。
 別に俺は長門との出会いに何か意味を求めていたわけじゃないし、そこから何かが始まるなんてことも思ってなかった。
 けど、俺にとっての出会いの記憶を、その相手が持っていないなんて……、単に相手にとっては印象に残らないような出来事だったとか、相手が嘘を吐いているとかじゃない。
 長門は、俺に出会ったことを含めて、今の俺の全てを否定している。
 それも、無茶苦茶真剣な面もちでだ。
 ……長門有希をおかしな電波女だと片付けるのは簡単だが、俺にはどういうわけか、そうい風には思えなかった。五月に会った長門は確かにちょっと変わった女の子に見えたが、別に変人という風にも見えなかったしなあ……、いや、それだけが理由じゃないとは思うのだが。
「……ここが、あなたの家?」
 俺が自分の住むマンションに辿り着いたことを告げここでお別れだなと言うと、長門は少し不思議そうな顔でマンションを見上げていた。
「ああ、ここの708号室だ。朝倉は505号室な。朝倉から聞いてないのか?」
「あなたが文芸部室に居ると聞いた時点であなたのところに向かったので、他の情報を得ることは出来なかった。朝倉涼子がこのマンションに住んでいるというのも今始めて耳にした」
 ということは、長門が朝倉に出会ったのは朝倉がこのマンションに住み始めた頃より前ってことなんだろうか。……いや、でも、待てよ。
「なあ、長門さん。あんた、朝倉涼子は友人って言ったよな」
「そう」
「でもあんたは、朝倉は自分の同類だって言った。……友人ってのは嘘なのか?」
「違う。……この世界での朝倉涼子は、間違いなくわたしの『友人』という位置づけになっている。……そしてわたしも、そのことを知っている」
「どういう意味だ?」
「わたしは……、ここにいる『わたし』がどういう人生を歩んできたかということに関して、多少なりとも知識を持っている」
「なるほど……。けど、それはあんたが自分で体感した『記憶』とは違うってことか?」
「……そう」
 俺の確認に、長門が僅かに首を動かす。
 何だかややこしいが、言いたいことが分からないわけじゃない。つまり、長門は、ええっと、長門の基準では二日前辺りから自分の周りの世界が様変わりしたってことになっているわけだが、その、様変わりした世界でも生きていけるだけの知識やら能力やらを持っているってことか……、何か、都合が良いのか悪いのかよく分からない話だな。
 そんな風に順応できるだけの素養が有るなら、そのまま馴染んでしまえば……、まあ、そういうわけにはいかないのか。俺が長門の逆の立場でも、元の世界とやらを探しに行きそうな気がするしな。……いや、俺はそんな体験をしたいわけじゃないんだが。
「……そういや、このマンションに何かあるのか?」
「分からない……、有るかも知れないし、無いのかも知れない」
「曖昧だな……、まあ、もしかしたら、あんたの知る俺は違うところに住んでいたのかもな」
「その可能性は有る」
「可能性って……、あんた、以前のことを全部覚えているわけじゃないんだな」
「分からない。……ただ、記憶に幾つか曖昧な部分が有るのは確か。これは以前のわたしからすれば考えられないこと」
 分からないって……、ますます怪しいというか、頼りない話だな。
「そういや、長門さんはどこに住んでいるんだ?」
「わたしはここから歩いて20分ほどのところで家族と一緒に暮らしている。と言っても、引っ越してきたのは今日のこと」
「宇宙人にも家族が居るんだな」
 別に長門を本気で宇宙人扱いする気は無いんだが、俺はふとそんなことを口走っていた。
「……たぶん、彼らは元々わたしの家族ではない。なんらかの人為的な手段により家族という位置づけになっていると推測される」
 純粋な疑問として出てきた俺の呟きに対して、長門はどこか落ち着かないような様子で答えをくれた。
「……そんな寂しいこと言うなよな」
「寂しい? ……どうして?」
「……長門さんはさ、今の自分や俺が間違っているって思って居るみたいだけどさ、もしかしたら、長門さんの記憶の方が間違いって可能性もあるわけで……いや、まあ、そういうことは良いか」
 話しているうちに長門の表情が曇り始めていたので、俺はその話をやめた。
 ついでに言うとそれ以上追求してくる様子もなかったので、寂しいって思った具体的な理由なんてのも省かせてもらうことにした。
「……まあ、家族のことは大切にしなよ。あんたがどうであれ、家族の連中はあんたのことをちゃんと家族だと思っているんだろうからさ」
「……分かった」
 長門は僅かに首を縦に降った。
 こいつ、本当に俺が言ったことを理解しているんだろうか……。

 
 

 closed sanctuary 第五話に続く

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:04 (3093d)