作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary 第三話
カテゴリーその他
保管日2007-02-04 (日) 21:13:34

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 それは俺が、生徒会役員だという二年生に、読むだけじゃなく書く方も忘れないでくださいね何て注意され、生まれて初めての文章の執筆なんてものに四苦八苦している文化祭も終わった11月も終わり頃のことだった。何でも、文芸部というのは年に一度機関誌なんてものを作らないといけないらしい。普通だったら入部時点で聞かされている事なんだろうが、生憎文芸部には先輩なんてものは居なかったから、俺はその生徒会役員に話を聞くまでそんなことを全く知らなかった。
 お隣のコンピ研から譲り受けた古いパソコンを立ち上げエディタを開いては見るものの、文章は一行も進まない。とりあえず朝倉涼子をモデルにしたキャラを登場させてみようか、なんてことを考えてみたりはしたが、そもそも話自体が全く決まっていない状態でモデルも何もあったのじゃない。
 結局俺はその日もほんの数分でパソコンの電源を落とし、読書に戻った。
 読む方は好きなんだがなあ。
 そんな風に俺が何時もと対して変わらない日常を過ごしているとき、唐突に、文芸部室の扉が開いた。
 ノックも挨拶も無い、それは、あまりにも唐突な出来事だった。

 

 長門有希が、そこに立っていた。

 

 見間違えようが無い、五月に出会った長門有希だ。
 何で長門有希がここに……、そう言えば、そもそもこの部屋に俺以外の人間が自分からやってくるなんての一体どのくらいぶりだ?
「……居た」
 現れた長門有希は、俺の方を見てそう言った。
 それは感動も何も無い、やたら平坦だが、妙に耳に残る声だった。
 そうそう、現れた長門は、うちの学校の制服を着ていた。いや、校内なんだからうちの学校の部外者が居る方がおかしいわけだが……、けど、これってどういうことだ?
 長門は、この学校の生徒じゃなかったはずだ。この学校に長門なんて苗字の生徒は居ないってことはちゃんと確かめてあるしな。
 転校してきたのか? でもなんでだ? 長門は市内の図書館に通っているくらい近場に居たんだぞ? 普通に考えたら、通っている学校だってそんな離れてないはずだ……。だったら、何でそんな近距離からわざわざここに転校してくる必要が有るんだ?
「……えっと、長門さん、だよな?」
 俺は長門有希が履いている上履きの色が俺と同じ、つまり同学年であることを確認し、敬語ではなく平常モードで彼女に接してみることにした。
「そう」
 つかつかと俺の傍までやって来た長門が、こくりと首を上下させた。
 声と同じく顔からも表情と呼べそうなものが読み取れない、何と言うか、表情の作り方を知らないみたいな感じだった。
 しかし、一体全体、長門有希が何でここに居るのだろうか。
「なあ、何で……」
「転校して来たから」
 転校、というのは間違ってないらしい。
「え、でも……、あんた、五月に市内の図書館に居たよな? 図書館に居たってことは、近くの住人ってことなんだと思うが……、何で、そんな近距離で転校なんてしてきたんだ? それとも、どこか遠くに行ってから、またこっちに戻ってきたのか?」
 俺は頭の中に有る知識と想像力をフル回転させながら、長門がここにいる経緯に着いて思う限りの疑問を口に出してみた。
 でも、どう考えたっておかしい。
 近距離での転校なんてこと自体珍しいし、一度遠くに行っていたというのだとしても、よほどのことが無い限り元の学校に戻るんじゃないだろうか。
 どうして、長門はこの学校にやってきたんだ?
「……五月? ……何のこと?」
「いや、五月に私立の図書館で会っただろう? ……覚えてないのか?」
「……分からない、少なくともわたしにはそんな記憶は存在しない。そもそも、ここにいる『わたし』は五月の時点でこの近隣の……、そう、この地域の施設を利用するような場所には住んでいなかった」
「……」
 どういう意味だ?
 俺は……、五月の時点で、確かに長門有希に出会った。
 ちゃんと名前を名乗ってもらったし、そのときの長門有希の外見も、確かに間違いなくこの長門有希そのものだった。
 第一、貸し出しカードに……、ああ、そうだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「何?」
「これを見て欲しい。……これは、あんたの字じゃないのか? 俺は、図書館で貸し出しカードの作り方が分からなくて、そう、あんたにカードを作ってもらったんだ。名前も、あんたに書いてもらった。……長門さん、これはあんたの字じゃないのか?」
 俺は鞄から財布を探り当て、最近すっかりご無沙汰になっていた図書館の貸し出しカードを引っ張り出して、長門有希に見せた。
 本人なら、これが自分の書いた字かどうか分かるだろう。
「……」
「長門さん?」
 長門有希は、俺の出したカードの名前のところを凝視していた。
「……わたしの字に、酷似している。けれど今のわたしには、これをわたしの字だと判別できるだけの識別能力を有していない」
 ……一体何を言っているんだ?
 識別、って……、どういう意味だよ?
「長門さん、あんた……」
「わたしは……、わたしは『あなた』を知っている。でも『あなた』は恐らく、わたしの知る『あなた』では無い」
「……」
 わけが分からない。
 いきなり意味不明な再登場の仕方をしたくせに、最初の出会いを覚えてないと言い出し、それでいて俺のことを知っているみたいな素振りを見せている。
 けど、俺が俺じゃないとか……、一体、どういう意味だ?
「『あなた』がわたしの知らない『わたし』の記憶を持つという齟齬が発生している以上、『あなた』はわたしが知る『あなた』とは違うと考える方が適切、第一、『ここ』はわたしが知る同じ場所とは状況が違いすぎる」
「な、長門さん、あんた一体……」
 長門有希は、一体全体何を言っているんだ?
 それに、ここ、って……、ここは俺がたった一人の部員として在籍しているだけの零細文芸部だぞ?
 ああ、さっきからわけのかわらない話ばっかだ。SF畑をそこそこ渡り歩いてきたつもりの俺だが、現実にこんな電波話を飛ばす奴に遭遇したのは今日が初めてだよ。
 5月に会った時は、ちょっと変わった子だとは思ったが、こんな電波少女だとは思わなかったんだが、
「一つ、質問をしていい?」
「質問って……」
 今度は何だよ。

 

「あなたは『涼宮ハルヒ』という人物を知っている?」

 

 長門有希の口から、漸く具体的な単語が出てきた。
 けれどそれは、俺が耳にしたことも無い人物の名前だった。

 
 

 closed sanctuary 第四話に続く

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:03 (2713d)