作品

概要

作者七原
作品名closed sanctuary 第二話
カテゴリーその他
保管日2007-02-03 (土) 18:36:04

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 土曜日、俺は朝倉に勧められたとおり市立の図書館に来ていた。
 以前住んでいた場所とはそれなりに距離がある場所なので、ここへ来るのは今日が初めてってことになる。
 俺は入り口近くの案内図を見て、適当に目星をつけてそこへ向かった。
 深い意味なんて無い、そのとき読みたいジャンルの本がある場所へ向かっただけのことだ。
 辿り着いたところで俺はタイトルだけは知っていた割とレアな本を手に取ると、近くの椅子に腰掛け、ページをめくり始めた。
 頭の中に物語が展開し始めると、段々、時間が過ぎていく感覚が曖昧になっていく。
 ビブリオマニアとでも言うのかな、とにかく俺はそういう人種なんだと思う。ああ、俺の友人は本で良い、何て思うときも無いわけじゃない。
 とはいえ、そんなに極端でも無い気もするのだが……、今のところ他の趣味も無いしな。

 
 

 それからどのくらいの時間が経ったのだろうか、章の切り替え辺りで目が疲れてきたからという理由で何となく目から本を離した俺は、外の景色の色合いから、すでにかなり遅い時間になっていることに気づいた。
 ヤバイ、そろそろ閉館時間だ。
 ええっと、借りるにはどうするんだったかな? 貸し出しカードの作り方なんて俺は知らないぞ。前のところでは自分で作ったわけじゃなかったしな。
 ああ、けど、閉館時間が近いからか、職員さん達も忙しそうだな。
 今日は諦めて本を置いて帰るべきか?
 レア過ぎるSF物の洋書だし、置いていったところで他の誰かに借りられるってこともなさそうだが、
「借りないの?」
 迷っていたら、いきなり知らない女の子に話しかけられた。
 ショートカットに地味目の服、整ってはいるもののどこか表情の薄い顔に縁無し眼鏡、大人しめな印象の、いかにもって感じなくらい本が似合いそうな女の子だった。性別が違うから比べるのもなんだが、同じ本好きだとしても俺とは随分と対照的な外見だな。いや、ここが図書館だからと言ってこの子が本好きは限らないわけだが。
 世の中には、俺みたいに外見と中身が釣り合わないって言われるタイプも居るわけだし。
「え、あ……。はじめて来たからカードが無いんだよ。作り方もよく分からないし、職員さん達も忙しそうだから、今日は、」
「来て」
 女の子はそう言って俺の腕を掴むと、その細腕に似合わないほどの強さで俺を引っ張り、あっという間に貸し出しカードを作る手続きと、貸し出しの手続きを済ませてしまった。
 何か、見た目に反して結構行動力がある子みたいだな。……いや、いきなり知らない人間の貸し出しカードを頼まれもしないのに作ってやるなんて、行動力がどうのって問題でも無いような気がするが。
「あ、ありがとう」
 とはいえ、ここは礼を言うべきところなのだろう。
 俺一人だったら、きっと、そのまま本を置いて帰っていただろうしな。
「良い、大したことじゃない」
「いや、でも……。ああ、そうだ、君の名前は?」
 いきなり名前を名乗ったり訊ねたりってのもどうかと思ったが、俺は彼女に名前を訊いてみた。ナンパか何かと思われてないと良いんだが。まあ、図書館の出入り口でナンパをする奴もそうそう居ないだろうけどさ。
 ちなみにわざわざ言う必要も無いだろうが、図書カード作りのときに出すように言われた身分証名称を見られているので、当然向こうは俺の名前を既に知っている。
「……ナガトユキ」
 女の子は、ちいさな声でそう名乗った。
 ナガト? どんな字だ?
「えっと、字は、」
「長短の長、門は門番の門、有限の有に希望の希」
 実に簡潔で分かりやすい説明だな、字も別に難しくも珍しくも無い字ばかりだ。
 長門、ってのは余り耳慣れない苗字だが。
「え、っと」
「……」
 しかし、物語の中ならばともかく、名前を聞いたからといってそこから先に何かが有るとも限らないのが人生というものらしい。長門有希は名乗ったことで用事を終えたと思ったのか、俺が次に何を言うか迷っているうちに、さっさと無言で立ち去ってしまった。
 俺はただ呆然と、その女の子、いや、長門有希の後姿を眺めていた。

 
 

 いやはや、あの少女は一体何者だったんだろうか。
 いきなり現れて、いきなり図書カードを作る手伝いをしてくれて、名前だけを名乗って去っていった。本当に、それだけだった。
 ただの親切にしては行き過ぎているし、そもそも、お節介を焼くタイプって風にも見えなかった。朝倉みたいな性格や言動の奴がああいうことをしたっていうんだったら、俺も大して驚きはしないんだが。
 しかし、長門有希、ね。
 聞き覚えの無い珍しい苗字だから、俺と同じ学校ってことは無いと思うが……、この図書館に来ていたってことは、近場の学校の学生なんだろうか。年は、俺と同じくらいか? 多少上下するかも知れないが、精々プラマイ2歳前後、中学生から高校生の範囲だろう。
 ご近所の、近隣の住人が立ち寄る施設で偶然出会った、少し変わった同年代の少女。
 もしかしたらまたどこかで会うことも有るかもな、何て思いながら、俺は図書館から借りた本を読む合間に、やけに整った字で名前が書かれている図書カードを眺めていた。
 書かれている名前は当然俺の名前だが、書いたのは長門有希だ。
 明朝体をそのまま手書きで写し取ったかのような、綺麗な字体。今時こんな字を書ける同年代の人間が居るってのが先ず驚きだね。
 字を見れば人柄が分かるって言うが……、さて、長門有希はどんな人間なんだろうか。

 
 

 それからのことを手短に話すと、俺は暫くの間週一程度で図書館通いを続けていたが、長門有希に出会うことは無かった。一応学校の教師にも聞いてみたが、長門なんて苗字の生徒はこの学校には居ない、とのことだった。
 そして当たり前のことだが、俺は別に長門のことばかり考えていたわけでもなく、当たり前の高校生としての日常が有ったり、読みたい本のことが有ったりしたので、長門有希のことも段々頭に上らなくなっていったし、図書館にも余り通わなくなっていった。
 ただ、時折、長門有希は何者だったんだろう、なんて風に考えるだけだ。
 何者も何も、近隣在住の女子中学生か女子高校生だと思うのだが。直接合うことが無いのは生活圏内が被るほどご近所さんじゃないからか、長門有希の方が転校か何かでこの辺りから居なくなったかってところだろう。

 
 

 そう、俺は本の中の世界で空想に思いを馳せることは多々あったが、同時にちゃんと現実を見据えても居たんだ。
 だから別に長門有希の存在に夢を抱いていたわけでもなんでも無かったはずなんだが……、どうしてだろうか、長門有希は、その存在を忘れかけた頃にまた俺の目の前に現れることとなった。

 

 そう、長門有希は……、随分と俺の日常を揺るがす形で再登場しやがった。

 
 

 closed sanctuary 第三話に続く

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:02 (2729d)