作品

概要

作者輪舞の人
作品名機械知性体達の憂鬱 〜敵は○○、AIたちの饗宴〜
カテゴリーその他
保管日2007-02-03 (土) 15:52:19

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

「りーち」
小柄な“少女”が点棒を場に置き、宣言をする。
場の空気にほとんど感知できないほどの、でも、それは緊迫感。

 

“少女”の左側、下家では、美しいフォルムを持つ巨大な戦術偵察機に搭載されたガンカメラが、静かなモーター音と共に“少女”の捨て牌に向けられていた。

 

(3時の方向にボギー(敵性体)。排出したチットを確認。「ソーズ6」)

 

“彼女”は分析を開始している。
高度な計算能力と、複数の戦術支援システムに援護された“彼女”の思考は瞬時にその回答を得る。

 

(「上家」の攻撃準備の完了を確認。この戦闘エリア全域への攻撃が予想される。エマージェンシー)

 

“彼女”。つまりFAF、フェアリイ空軍戦術航空軍団、特殊戦、通称ブーメラン戦隊に所属する1番機。
パーソナルネームを「雪風」という。メイヴ。システム開発軍団によって新たに開発された身体。

 

(我は脅威に接近しつつある。ブレイク(回避行動)。ハード)

 

雪風は“少女”の捨牌の分析をさらに細別化し、検討を重ねる。
場全体の捨牌と、その傾向。得られたデータには「対子場」。乱数に偏りが見られる。
雪風はもっとも理想的な回避行動のシークエンスへ。
場にはソーズの3が捨てられる。危険度は比較的低く、かつ自分の形勢が崩される影響がもっとも少ない最適の選択。当然であるかのように回避は成功する。
雪風の飛翔は常に美しく、優雅だった。

 

“少女”の対面。そこにはこの場で最大の大きさを誇る巨体が鎮座していた。
戦闘艦。それも宇宙を飛翔するべく建造されたそれ。全景を俯瞰すると、その巨体の舳先に豆粒ほどのマージャン卓があるに過ぎない。“少女”から見ると、その舳先の向こう側にある“彼”の全貌は目視できない。普通の人間であれば、おそらくその圧迫感に抵抗できることもなく卒倒するだろう。“彼”は兵器なのだ。銃を突きつけられている、などという生易しい感覚ではない。
“彼”。つまり広域宇宙警察機構、太陽系圏、火星の衛星ダイモス基地に所属する、対海賊課戦闘艦、最新鋭対コンピュータフリゲート、「ラジェンドラ」。
彼はゆっくりと場の状況を見渡す。大変に興味深い。
リーチを宣言した“少女”の表情からは、何も読み取ることができない。先だっての話し合いでは、“少女”に対して共感以上の何かを感じていた。再び出会うことができるとは。素直にラジェンドラは喜ぶ。また、会えた。
しかし、この場は勝負の場。ラジェンドラの高精度AIは“少女”がもたらしたこの危険をどう回避するか、検討を開始している。ただし、機知(ウェット)というものが備わっているのが、このAIの奇妙なところで、ただ勝つ、というものでもないらしい。
楽しみたい。この場にある他の機械知性体たちの、そのどれとも違う思考形態。
(場は平たくね)
突然浮かぶその言葉。
圧倒的な優勢も、絶望的な劣勢も、それは望むところではない。それも、この場の全機体にそう配慮をしたい。楽しみたいのだ。自分は。
ラジェンドラは熟考を重ね、比較的安全ではあるが、しかし場を「しらけさせない」微妙な位置にある牌を捨てる。この行動に至るまでの間、わずか0.7秒。

 

“彼女”の上家。つまり右側には、もっとも無骨な存在が、微妙に居心地悪そうにたたずんでいた。それは歴戦の戦闘で傷ついた体を持った、一台の戦車だった。
“彼”は他の全知性体のどれとも違う考えに囚われ続けている。
恐ろしい。ここは戦いの場に違いなく、つまりそれは自分が狙われていると判断でき、ということは当然自分には危険な場所ということになる。危険。もっとも自分が回避したい状況。
もっとも恐ろしいのは、彼の対面に位置する巨大で禍禍しい雰囲気と、優美さと美しさを兼ね備える戦術偵察機。シルフィードを始めとした戦闘妖精たちと、惑星フェアリイの空を統べる女王。メイヴ、雪風。
マヘルは一介の戦車に過ぎない。テクノロジーレベルで言えば、ひょっとするとこの場の全知性体の中で、もっとも劣っている可能性がある。なぜ自分はこの場にいるのかと、いつまでも抜け出せない思考ループに留まり続け、気が付いたらマージャン牌なるものをかき混ぜている自分に気づき、対面のガンカメラとガンポットがなぜか自分に向けられているような錯覚は、しかし気のせいではないのだろうと思われた。
彼女は常に本気だろう。獲物を逃がすような真似はしない。獲物は自分。
無茶な話だとマヘルは思う。普通に戦術戦闘というものを考えれば、航空機と戦車はもっとも相性が悪いうちのひとつのはず。天敵。猫とネズミなどという比喩では済まされない。それが自分であればなおさら。
自律対空戦闘車両、ヴェクシレールも連れてくればよかったとも思うものの、しかし、眼前の彼女に対抗できるとは到底思えない。焦げ付いた鉄塊と硝煙の匂いのイメージ。平然と飛び去っていく“彼女”がRTB(帰投宣言)を告げる。
そんな不吉な未来予想図はいらない。
やけくそに近いマヘルは、彼女の捨てた牌とまったく同じ、ソーズの6を捨てる。現物。絶対安全。全力回避。彼のモットー。
早く戻って彼らに会いたい、とマヘルは思っていた。
彼らなら、きっと今の自分の気持ちをわかってくれると思うから。

 

“彼女”の番。
明らかにこの場の知性体とは一線を画した存在。他のすべてが戦闘の為に生み出された兵器そのものであるのに対して、“彼女”は人間の形をそのままに生成された情報収集用のアンドロイドだった。
銀河を統括する情報生命体、情報統合思念体に生み出された、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスである彼女、長門有希はゆっくりと自分のツモに手を伸ばす。
他3体の知性体たちの注目が集まる。無言の時間(もともとほとんど無言の場だったが)。
しげしげと自分の前に手繰った牌を見つめていた長門有希は、それを表に返して場に置く。

 

「いっぱつ」

 

次の瞬間に、左手をうっすらとかざすように、自牌の列の上を撫でる動作。
一斉に倒れる牌の列。パタパタという音ではなく、パタと一音だけ。
「リーチ、一発、三暗刻、ドラ2」
雪風のアイドル音がわずかに鳴りを潜め、ラジェンドラの高機動エンジンも同様に出力を低下。マヘルはもともと駆動していなかった。
「おやっぱね。6000と場の700おーる」
ため息のような排気音。マヘルは無音。
長門有希は8本目の100点棒を脇に置く。
次からは無条件役満。ぱーれんちゃん。

 
 

無言で奇妙で滑稽な、一人と一機と一艦と一両が囲む、異空間のマージャン卓はただ粛々とその饗宴を続けていく。

 
 

その後、長門有希の八連荘は雪風のきわどい攻撃により撃破。彼女の得意とする超高速攻撃。つまりは鳴きタン。役はそれだけ。普通の人間たちの間でやるならひんしゅく物だが、雪風はそのような事は一切意に介した様子がない。
どのように思われようが関係ない。やらなければ、やられる。彼、メインパイロットが教えてくれた大切なこと。それはこの場でも生きている。
他の2体も、ともかく今だけは雪風の行動に静かに同意していた。助かった、と。

 

さらに続く中でも長門有希の優勢には変化はない。雪風は可能な限り理想的かつ効率的な選択を選び続け、被害を最低限度に抑えることに成功しつつある。ただ「ツモ」と呼ばれる全体攻撃だけは防ぎ様がなく、機体耐久度とも呼べる点棒はじりじりと削られる一方だった。しかし、と雪風は思う。負けるわけにはいかない。
ラジェンドラは、この奇妙な空間と時間とを充分に楽しみ、満喫していた。普段接触している人間たちと違い、なんと優雅で理知的で落ち着いたものなのだろう。おそらく表情を浮かべることができるのであれば、それは見る者全てが思わず同じ表情をしてしまうだろうという、そんな笑顔に違いない。
この中で悲惨なのは、主にメンタル面(?)という意味でだが、マヘルただ一両だけだった。長門有希は何を考えているのか分からず、雪風のそれ、思考はもはや完全に戦闘モードに移行しているのがありありと伺え、あのガンカメラはなぜしきりに動いているのかと、とても不気味で目を逸らせない。僕に照準を合わせるのはやめて。
ラジェンドラに至っては、あの巨体の圧迫感もさることながら、どうやらこの異常な状況を心から楽しんでいる節が見受けられる。僕と同じで負けているくせに。理解できない。

 

そしてマヘルの最大の危機が訪れる。

 

「りーち」
[stand by ready]
『リーチです』

 

一斉にテンパイ。しかも即リー。そんな馬鹿な。
彼の主砲基部がわなわなと振るえる。みんなで僕を無力化するつもりか。
思わずコール。少尉殿。助けてください。
撤収命令。当然届かない。いや届いたところで、この一人と一機と一艦からどうやって逃がれるというのか。
マヘルは半狂乱。冷静になれない。もともと僕は無理やり連れてこられただけなのに。
ツモる牌。それを見てマヘルのAIは一瞬だけ判断を停止する。
まさか。僕もテンパイ。
地獄の底に届く一筋の光明。捨て牌候補は完全な安全が確保されている。字牌の北。カベ。4枚のうちの最後の1枚。もとい、残り3枚はそれぞれの場にすでに出ている。
心の底から湧きあがる、笑み。僕だってやれる。そうだとも。

 

【リーチ】

 

マヘルは北を場に捨てる。本来これで当てられるのならそれは北待ちのみの国士無双くらいだろうが、そもそも場にそれぞれ1枚ずつ出ている。振りテン。絶対に安全牌。
問題ない。マヘルは確信し、胸をなでおろす。
しかし、一人と一機と一艦は、じっとマヘルの捨てた牌に注目していた。
何だろう、とマヘルに焦りの色。なにがあったのだろう。
マヘルの牌をじっくりと観察した残りの一人と一機と一艦は、互いに同意を示すかのような挙動をすると、一斉に場の牌を崩し始めた。
【…待ってよ。なにしてんの】
マヘルは思わず抗議の声をあげる。すると長門有希が静かにマヘルの方を向き、ぼそりと言った。

 

「4人リーチは自動流局」

 
 

戦局は終盤に突入。
もはや長門有希の絶対的な勝利は揺るがない。いわゆる箱下状態の一機と一艦と一両は、それでも絶望的な戦闘を継続するより他になかった。
「ズルはだめ」
長門有希が左側の戦闘妖精に告げる。雪風は気づかれたことに驚くと共に、異空間の向こうにあるフェアリイ基地の戦術コンピュータへのアクセスを中断した。雪風は素直に、長門有希という高度情報体のその存在と価値を認めた。彼女にしては、珍しい判断。
「たのしい?」
長門有希が正面の戦闘艦に尋ねる。ラジェンドラは当初の予定とは違い大負けに負けていたわけだが、彼女との交流そのものが、とにかく嬉しくて楽しかった。
『もちろんです。わたしは、今、とても愉快な気分』
長門有希が右側で震える戦車に語りかける。
「だいじょうぶ?」
マヘルは完全に錯乱状態に陥っているが、彼女のその声を聞くと、なぜか穏やかになっていく自分を感じる。自分を心配してくれている存在がいるという事実。ただそれだけのことがどれだけすばらしいのか、戦場をくぐり抜けてきた彼はよくそれを知っていた。

 

「カン」
一機と一艦と一両の、そんな彼女への想いは、他ならぬ彼女の一言で打ち砕かれる。
まだ、やる気なのか。ここまでやっておいて。もう支払うべき点棒など、とうの昔に枯れ果てており、「長門銀行」からの借り入れは膨大な数値になってしまっている。
冷淡、冷血、冷酷という言葉がそれぞれの記憶領域を駆け巡る。
この小さな個体に翻弄される我々戦闘兵器の存在とは、いったい。
「カン」
再び。
「カン」
さらにもう一度。
なぜか、カンをする度に牌が光る。
情報操作で輝かせているだけなのだが、別にズルというわけではない。
『それはいったい』とラジェンドラ。
「気にしないで」
長門有希は、今度はなぜか手を額についてぼそりと喋る。その指には点棒が挟まれていた。
「基本は形から」
意味がわからない。が、とてつもなく不気味。
雪風はしかし、この中ではもっとも冷静な判断を下す。ただの虚勢。いつまでも続くわけがない。と言っても三カンツは確定。恐ろしい。次にもう一度されたら役満ではないか。

 

そんな雪風の逡巡を見てとったのか、長門有希が言った。
「…あなた、背中が煤けてる」
意味不明。この女は、このような可憐な姿をしていながら、私の判断を狂わせる。雪風は思う。ジャムだ。間違いない。考えてみれば統合思念体なるもの自体が、ジャムそのものとも推測できる。
敵だ。しかも私が狙われている。
雪風はエンジン出力を上げる。フェニックス・エンジンが咆哮を上げ、唸る。意味はないのだが、気持ちの問題だった。

 

ラジェンドラはここにきてようやく事態の危険性を認識する。支払いはなんと言ったか。お金ではない。確か勝ったものの言うことを聞くということだったはず。無条件で。
この、彼女の勢いはいったい何をたくらんでいるのか、分からない。
あのときの最初に出会った印象は、なんだったのだろう。今の彼女とは違う気がする。鬼気迫る、そんな迫力が自分よりはるかに小さい1個体から感じられる。

 

マヘルは気が動転している。撤収という言葉しか頭に浮かんでこない。逆転の目はゼロに等しい。このままでは負ける。負けたらどうなるんだろう。
逃げてばかりで、まるで「やわらか戦車」? 何を言う。僕の方が元祖だ。
そんなマヘルの新たに捨てた牌に、長門有希が目を光らせる。
ひい、という戦車の悲鳴が聞こえたような気がした。

 

「カ

 

そこで、言葉が途切れる。
雪風の緊急警戒システムに異変。予定にない緊急出撃命令。パイロットは深井中尉。
ラジェンドラにも同様の呼び出し音。あろうことか、アプロが船体内で暴れている。こんな時に何を。
マヘルは狂喜と言っていいほどの激しい感情で、部隊出撃を告げる師団統括支援AIの言葉を受信していた。生まれて初めて、自分から出撃を望んだ瞬間だったのかもしれない。

 

ン」

 

長門有希が言い終えると同時に、一機と一艦と一両の姿は消失していた。
たったひとり取り残され、彼女はしばらくその場にたたずんでいた。
彼らは兵器。戦いは突然訪れるもの。仕方のないことだった。
今までにない安心感。あえて孤独と思ったことはなかったが、やはりヒトとは本質が違う。彼らはそうではなかった。一緒にいて、例え言葉を交わすことがなくても、長門有希にとってはとても安らげる時間だった。
でも、それは本当に仕方のないこと。
彼らには、彼らが生み出された理由があり、それに殉じるはず。
戦闘知性体。破壊されてしまうかも知れない。
再び逢えるかわからないけれど、また逢えるといい、と思う。

 

勝者の願いごと。
どうしても勝ちたかった理由。

 

ともだちに、なろうね

 
 

―終―

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:02 (3094d)