作品

概要

作者七原
作品名偽装未満的純愛理論
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-02-01 (木) 14:48:30

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 久しぶりの不思議探索のその日の午前中、僕は籤引きの結果により長門さんと一緒になった。
「じゃあ、そっちは頼んだからね!」
 涼宮さんが元気な声をあげながら、両手で彼と朝比奈さんを引っ張りながら、通りの向こうの方へと消えていく。
 何時ものことながら、元気なことだ。
 組み合わせのせいで何かも無いが発生しないことを祈りつつ、僕は適当に手を振りつつ三人を見送った。当たり前だけれど、引っ張られている彼と朝比奈さんに僕と長門さんの方をまともに振り返る余裕は全く無さそうだった。
「あの、」
「あなたに話したいことが有る」
 さて、どうするかなと思ったら、長門さんの方がさっと口を開いた。
 珍しいことも有るものだ。
「話、ですか」
「そう、話。……正確には、協力の要請」
「あなたのお役目関係ですか?」
「そう」
 ということは、この籤の結果は、長門さんの仕業なんだろうか。
 いや、単に二人きりになれる機会を待っていただけという可能性も有るけれども。
「……立ち話もなんですから、移動しましょうか」
 別にどこで話していようと大した問題は無いだろうし、状況的に考えて長門さんが周囲からの盗聴を防いでいるか、どこかに待機しているかもしれない別のTFEI端末辺りが同じようなことをしてくれるかも知れないけれども、だからといって、こんな話を広場や道のど真ん中でしたくはない。
 気分の問題と言ってしまえばそれまでだけれど、協力の要請とやらをされる側なのだから、僕にもこのくらいの我侭は許されて然るべきだろう。
 とりあえず僕は適当に周囲の看板を眺めてから、手近なカラオケボックスに入った。
 周囲と音声の遮断された空間。
 密談という雰囲気ではないかも知れないけれど、まあ、一応音が漏れない場所では有る。
「で、要請とは一体なんですか?」
 適当な位置に腰をかけてから、僕は長門さんに向かって質問を投げかけてみた。
 先ず第一に、長門さんがこんな風に僕に協力を求めたことなど有っただろうか。
 結果的に協力し合うようなことになったことは、何度か有るわけだけれども……、少なくとも、こんな風にはっきり何かを求められたことは無いような気がする。
 そんな風にぼんやりと考えていた僕は、次の彼女の発言で完全に思考を遮断されてしまった。
 彼女は、何時も通りの平易な口調で、こう言ったのだ。

 

「あなたに、わたしの恋人として振舞って欲しい」

 

 ……。
「……は?」
 僕は呆気にとられつつ、ただその言葉とも呼べないような声を発するのが精一杯だった。
 それは一応疑問形の響きを持っていたはずだけれども、長門さんにはそれが理解できないのか、彼女は唇も表情も一切動かさなかった。
「……」
「えっと、それは、どういう意味でしょうか?」
 わけが分からない。
 振舞って、というからには、それが彼女の本意というわけではないのだろうけれども。
「文字通り。……あなたに、わたしの恋人として振舞って欲しい」
 普段から平易な口調を更に簡素にしたような、ただ、報告をなぞるような響き。
 少なくとも人にものを頼むときの態度ではないと思うけれども、問題はそこではない。
「それは……、情報統合思念体からの要請、と解釈して問題ありませんか?」
「問題ない」
「あなたは、」
「わたしに拒否権は無い」
 質問するより前に答えられた。
 長門さんの口調は、硬い。物凄く硬い。
「わたしは、情報統合思念体の命令を遂行するだけ……。それが、わたしがここに居る第一の理由だから」
 それだけが理由ではなくとも、それが一番であることは揺らがない。
 その事実が、長門さんを縛っている。
「……回答の前に、幾つか質問をしてもよろしいですか?」
「わたしに答えられる範囲なら」
「まず、これは僕に対しては要請であって強制では無い。……そうですよね?」
「そう。けれど情報統合思念体は、あなたがこの要請を受け入れるものと思った上でこの要請をしている。……これは、あなたにとっても利益が有るはずのことだから」
 段々、理解出来てきた。
 理不尽なこの要求が、振って沸いて来た理由が。
 解せない、と思う部分は有るけれども。
「……どうしてこのような要請が行われているか、あなた自身はその理由を理解しているんですか?」
「涼宮ハルヒの観察のために必要なことだから」
「それは随分と物事の順序を飛ばしすぎた回答ですね」
「……」
「あなたも有る程度は分かっているはずです。……現在の自分の位置づけも、求めているものも、自分が涼宮ハルヒという人間にどういう影響を与える位置に居るかも……、情報統合思念体は、現状を考慮した上で、その全てを一度に解決する方法を提示した。……あなたではなく、僕に対してね」
 こういうことを口にするという行為が長門さんを傷付けることになるかも知れないと思いながらも、僕は言いたいことを言い切らせてもらった。
 情報統合思念体とやらが一体どんな感覚で動いているのか、僕は知らない。
 全知全能ではなくとも、ただの人間に過ぎない僕らから見れば、それに近いほどの、有る意味で涼宮さんを超える、不可解な力を持った巨大な存在。
 そして、自分が作った端末……、いや、自分の子供の心情さえ理解出来ない、理解しようとしない、或いは、理解した上で無茶を押し付けている……、とにかく、駄目な親であることに間違い無い存在。
「……」
「随分と、ずるいやり方ですよね」
 長門さんに洗脳的な形で強制することも、僕の記憶や感情を操作することも出来そうなのに、情報統合思念体は、そういうことをしなかった。
 あくまで、長門さん自身に一切の手を加えずに要請を提示するだけした上で、それを僕に伝えさせ、僕に選ばせようとする。
 ……これも、彼等の言うところの観察の一環なのだろうか?
 馬鹿げた話だ。
「お断りします、とお伝えください」
 利害の一致という見解を否定する気は無いけれども、僕は彼等の流儀に乗る気は無い。
 否定した挙句記憶や感情を弄られるという可能性も有るし、あとで『機関』の仲間達に何か言われるかもしれないけれども、そんなことは知ったことじゃない。
「……どうして?」
 長門さんが、硬い表情を少しだけ動かす。
 僅かに見開かれた目が、不思議そうに僕を見ている。
 そんなに、不思議なことなんだろうか。
 長門さんは、僕がこの要請を受け入れると思っていたんだろうか。
「どうしても何も、僕がそうしたいと思わなかったから……、ただ、それだけのことですよ。それに、恋人ごっこなんてしていたら、普通の恋愛も出来ませんしね」
 現状ではどう転んだって普通の恋愛なんて出来なさそうな気もするけれど、それはそれこれはこれだ。嘘も方便とは良く言ったものである。
「……そう」
「そういうことです」
 これ以上のことを説明する必要は、無いのだろう。
 長門さんはもしかしたら、僕がさっき一気に喋ったことを全て理解していないのかもしれないけれども……、だとしても、それは僕が教えるべきことじゃない。
 全ては、彼女が自分で気づかないと意味が無いことだ。
 僕には彼女を応援する理由は無いし、応援した挙句に涼宮さんの逆鱗に触れるなんてことになったらそれはそれで困るわけだけれども、それ以前に、長門さんが彼を想うということ自体を邪魔する理由も無い。
 長門有希という存在を取り巻く世界がどうしようもなく不公平で、それは本当にどうしようもないことで……、もし、彼女がゴールなど掴めないかも知れないというのなら、せめて、スタート地点にはまともに立たせてあげたい。
 そこから先は……、僕の、預かり知らぬことだけれども。

 
 

 終わり

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:00 (3087d)