作品

概要

作者輪舞の人
作品名機械知性体たちの輪舞曲 第16話         『星に願いを』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-01-30 (火) 11:53:54

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

『同期の許可を求める』

 

 七月七日、夜。
 自室で、三年前のわたしからやって来た同期許可申請を受信する。
 一瞬の躊躇。すでに決まっている事なのに、わたしは戸惑う。

 

 過去のあなたは、これからとても辛い事を経験するだろう。
 わたしにはできなかった未来の改変。それはあなたにはできるのだろうか。
 おそらくはできない。規定事項の呪縛の力は、あまりにも強いものだから。
 それはわたし自身が実際に経験したこと。
 いったいそのために、どれだけの報われない努力を払うのだろう。
 かつてのわたしがそうしたように。
 しかも誰にも助けを求めることもできず、たったひとりで。その結果に値する報いもない。

 

 わたし自身に対する報い。報いとは何を意味しているのか。
 これは任務だったはず。でも、きっとわたしは期待していたのだろう。
 努力すればかならず報われるはずと、そう信じていたから。

 

 朝倉涼子が隣で笑い、わたしと共に学校に通学するという光景。
 あの五ヶ月間のように、またふたりで食卓を囲む光景。
 彼女の人間社会に対する見解、または感情についての考察の談義を夜通し聞く、そんな光景。
 わたしは戸惑いながらも、彼女の言うことを聞き逃すまいと真剣になる。
 そんな様子を見てまた笑う彼女。わたしは少し「不機嫌」になる。
 そして謝りながら、でもまた我慢ができずに噴き出す彼女。
 わたしは、黙ったまま。
 でもそんな時間がとてもここちよいものだった。

 

 ……あの笑顔を取り戻せるかもしれない。そう考えていた。ずっと。
 たったの、それだけの小さな望み。ただ、それだけで良かったのに。
 でも現実は、特にわたしの直面した現実というものは、そんな小さな一個体のあがきを一蹴した。結局、世界というあまりに巨大な存在そのものに、わたしは負けたのだろうと思う。

 
 

 今日、学校で彼に手渡した短冊は、時を越えて届く過去の”わたし”へのメッセージが込められている。
 今のわたしに対する同期許可の申請が暗号化され、刻み込まれたもの。
 三年前にわたしがそうしたように、あなたはそれを実行しただけ。
 今になって思う。わたしは、”わたし”を「憎んで」いたのかもしれない。
 なぜそんな事をしたのかと。
 でも、わたしは同期指示を彼女に指示してしまっている。
 それが規定事項だから。

 

 これが最後。
 規定事項に縛り続けられたわたしは、この同期を許可することによって、とうとう開放されるだろう。過去のわたしを犠牲にすることで救われるのだ。
 憎まれてもいい。この苦しみから解放されるという現実は、そんな自分勝手で驚くほど醜い己の姿を実感させる。
 もう、終わりにしたい。
 わたしは静かに、ごく僅かに、瞳を閉じる。

 

『許可する』

 

 過去のわたしがダウンロードを終了したことを確認する。
 終了後、リビングの中心で座り込んだままだったが、やがて立ち上がると、隣で寝ている彼と朝比奈みくるの元へと向かった。
 彼らの帰還と共に、エマージェンシーモードの終了処理をしなければならないからだ。
 三年間、わたしのそばで眠りつづけていた彼ら。
 これですべては復元される。
 何も、かも。

 
 

 こうしてわたしにとっての、三年間の「悪夢」のような時間が終わりを告げた。
 この表現はきっと適切なものであると、そう信じている。

 

 覚醒した彼らが部屋を出て行ったあと、ベランダに出てみる。
 夜風が夏の匂いを感じさせる時期。
 七月七日。
 自分の願い事をふたつの星へと捧げる日だという。地球の極東地域の風習。
 ベランダから夜空を見上げ、思考する。
 こんな人形のような存在の願いでも、星は聞き届け叶えてくれるのだろうか。
 昼間に短冊に書いた文字。『調和』と『変革』。
 今、居る場所。彼らとの日常の維持。
 そして定められたあの未来。回避し、覆すことを望む自分。

 

 今の自分ではなく、過去の自分に対して、限りなく可能性の低い事象ではあるが、いちるの望みを託す。

 

『“彼女”が規定事項の鎖を断ち切らんことを。切に願う』

 

 昔のわたしにはできなかった事。
 星は聞き届けてくれるだろうか。

 
 

―ある情報端末の同期終了記録ではあるが、現存は確認できず―

 
 

―第16話 終―

 
 

 SS集/484へ続く

 
 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:00 (2708d)