作品

概要

作者七原
作品名舞台装置的思考
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-01-22 (月) 19:18:08

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

 それはロマンチックなことだと少女は言った。
 それは馬鹿げているけれども意外と建設的かも知れないと少年は言った。

 

 わたしには、分からない。
 わたしにはまだ、分からない。

 

 愛するということ、恋をするということ。
 間違いだった『それ』をほんの少しだけ残念だと思ったけれども、本当に、それだけ。
 残念だと思ったその理由は……、その理由は、何?
 わたしには、分からない。
 思うということ、意思を持つということ、思考するということ。
 その全てを自身の中に内在する事象と捉えていても、わたしにはまだ、分からないことの方が多い。

 
 

「我々は舞台装置と同じなんですよ」
 ある日、たまたまわたしと二人きりになったとき、とある少年はそう言った。
 舞台装置、部隊を動かすために必要な道具。
 少年がそうであるかどうかは知らないけれども、それは、本来道具に過ぎないわたしには相応しい言葉なのかもしれない。
「涼宮ハルヒというたった一人のために用意された、ね」
 含みを持った言葉の裏に位置するものが何で有るのか、わたしには分からない。
 記憶を有する部分が違う以上一方的なものとはいえ人間の一生分以上の時間顔を突き合わせていたはずだというのに、わたしにはまだ、分からないことの方が多い。それはこの少年に限ったことではなく、この部室に来る他の三人についても同じことだ。
 繰り返したはずの時間の合計よりもこれから共に過ごす時間の方が確実に短いと知っているのに、わたしが彼等のことを本当の意味で理解する日など、来るのだろうか。
 同期を封印することが新しい発見に繋がる可能性は有るけれども、それさえも決して確かなものではない。
「僕もあなたも朝比奈さんも、多分、彼さえも……。正直なところ、僕か彼か、或いはその両方が涼宮ハルヒという人間にとって都合の良い存在として作られた人間だったとしても、僕は驚きませんね」
「……」
 少年の言葉に、わたしは答える術を持たない。
 ただ、涼宮ハルヒという存在の持つ情報を生み出す能力を持ってすれば、そんなことも可能かもしれない、という風な推測をすることは可能だ。
 けれどそれはあくまで推測であって答えではない。
 わたしはそのような答えを望んでいないし、恐らくこの少年も、その件についてはわたしと同意見なのだろう。
「まあ、全てが予定調和だとまでは言いませんが、」
「作り物なのは、わたしだけで充分」
 不意に、わたしは少年に向かって言い返していた。
 そう、作られた存在なのはわたしだけで良い。
 わたしの周囲を彩る人々は、わたしとは違う存在。
 泣くことも笑うことも知っている、思うということの意味を捉えている、そんな人々が、作り物で有るはずが無い。
 確証など、何一つ無い。
 けれどわたしは、そう、信じている。
 今のわたしには、未来を知る術は無くとも、信じる、ということが出来る。
「……あなただって、ただの道具というわけではないでしょう」
「わたしは……、わたし」
 わたしはわたしが情報統合思念体によって作られた道具であることを否定出来ないそ、それ以外のものになれるとも思っていない。
 反逆とも捉えられる行動をしたわたしがこの場所に存在することを許されているのは、眼前に居るのとは別の少年の主張があったからと、わたし自身が既に涼宮ハルヒの周囲を形成する一人であり、わたしという存在を欠くことが涼宮ハルヒに対して悪影響を及ぼす可能性が有るためだ。
 そう、わたしは。
 涼宮ハルヒが存在するからこそ生み出されたわたしは、結局、涼宮ハルヒが存在するからこそ、ここに存在していられる。
「ええ、あなたはあなたですよ。……『長門有希』という名のスタンドアロン。例えあなたが道具であろうと作り物であろうと舞台装置であろうと、あなたが一個の個体という現実を、誰も覆せない。……たとえ、僕を含めた『長門有希』の記憶を持つもの全ての記憶が改竄された上であなたが消えてしまったとしても、あなたがここに居たという事実までは覆せない」
「……」
 少年は、何時にも増してお喋りだった。
 わたしはただ、黙って少年の話を聞いていた。
「……僕は、あなたを含めた、あなたの背景に居る存在が、人間の記憶なんて簡単に変えられるという事実を知っています。だから、その気になれば、暴走したあなたの存在を抹消した上で、関わった人間の記憶を消すことなんて容易かったんでしょう……。でも、あなたはそうはならなかった」
「……」
 そう、わたしはここに居る。
 ここに居続けることが最適と判断され、存続を許されている。
「……すみません、喋りすぎましたね」
「良い」
「……え?」
「気にしてないから」
「そうですか……」
 溜息交じりの少年がわたしの返答を聞いてどう思ったのかは、わたしには分からない。
 喋りたいだけ喋って満足したのだろうか。
 わたしは……、わたしが、ここに居る理由。
 生かされている、存在を許されているという言葉が相応しいはずのわたしが、ここに居る理由。
 暴走したわたしが、他者の中のわたしの記憶ごと消されなかった理由。
 わたしは、道具。
 わたしは、舞台装置。
 恋も愛も未だ理解できない、時間を重ねても分からないことばかりの、欠陥品。
 そんなわたしが、ここに居る理由。
「……別に、舞台装置でも恋をしたって良いんですよ。その恋が仕組まれたものなのか、偶発的なものなのかは、僕には分かりかねますが」
 少年が、ぽつりと呟く。
 恋を。
 舞台装置に過ぎないわたしが、恋を。
 それは、誰のため? それは、何のため?
 それは、破れるため? それは、成就するため?
 分からない、わたしにはまだ、何も分からない。
 時折恋する少年少女の物語を読んでいても、わたしにはまだ、恋物語は遠い。
 わたしも、何時か。
 などという風に思ったことは、果たして有っただろうか。
 わたしは……、舞台装置。
 わたしがもし、恋をすることが有るというのならば。
 それもまた、この『涼宮ハルヒ』を中心とする舞台に必要なものだからなのだろうか?

 
 

 終わり

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:57 (3093d)