作品

概要

作者G.F
作品名ある妻帯者国語教諭の呟き〜プロポーズ物語〜
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-01-21 (日) 11:16:28

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

設定参照
SS集/427 SS集/428 SS集/430 SS集/439 SS集/445 SS集/447 SS集/449 
SS集/450 SS集/451

 

今、俺の目の前には去年の今日、あのマンションのあの部屋で我が愛しの妻・有希に渡したガーネットの指輪の入った箱がある。
「これが俺と有希の婚約指輪なんだよな」
それを眺めながら、改めて俺は回想にふけることにした。

 
 

その日、俺はようやくの思いで卒論を提出、その後、とある宝石店に立ち寄った。
そして目指すガーネットの指輪の入った箱を手にレジに持っていったところ、その店の店員になっていた国木田が声をかけてきたため、レジのところで久しぶりのバカ話に興じてしまい、結局、長門(以下しばらく敢えて旧姓で書かせてもらう)のマンションに着いたのは午後5時過ぎだった。
「長門、公式年齢22歳・実年齢10歳の誕生日、おめでとう」
俺はそういうと長門に(今、俺の目の前にある)指輪の入った箱を渡した。
「お前の誕生石、確かガーネットだったよね」
「感謝する。ありがとう」
ガーネット…日本語では「柘榴石」。
ルビーの燃えるような熱い赤に対し、こちらは暖かい感じのサーモンピンク。ハルヒならともかく、長門にはぴったりの石だと思った。
しかも石言葉は「血液の浄化」だそうだ。
「長門…この場を借りて改めて言いたいことがある」
「え?」
俺は呼吸を整えてぶちまけた。
「長門、お前の身が機械であることは俺はよく知っている。だが俺はそれでも構わない。俺は…今現在俺の目の前にいる長門有希という1人の女が好きなんだ!」
長門はしばらくぽかんとしていたが、やがて俺の胸に取りすがって泣き出した。
「よう、久しぶりだな、キョン君」
「え?」
そこに現れたのは情報統合思念体・主流派氏。
「聞かせてもらったよ、娘に対する君の熱い思いを…な」
主流派氏は俺にそう言うと、長門に向かって言った。
「有希…お前は今日からキョン君と一緒に人間・有希として生きろ。そのためには…もうあの機能は必要ないはずだ」
長門の身体が宙に浮かんだかと思うとまぶたが閉じられ、衣服と皮膚の構成が解除され、内部機構がむき出しになった。
俺は改めて長門の内部機構を観察してみる。
長門や朝倉、喜緑さんたち「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」の身体が、人間でいう「脳髄」に該当する器官を除く99パーセントが機械だということは長門が話していたので知ってはいたが…
「娘がかつてキョン君に迷惑をかけたあの『閉鎖空間発生機能』のプログラムが入ったROMチップは今、取り外した」
主流派氏の手にはそのROMチップがあった。
そして…ROMチップが主流派氏の手の中で粒子化していったかと思うと、みるみるうちに長門の皮膚が再構成されていく。
「キョン君…娘を宜しくお願いします」
主流派氏はそういうとかき消すように姿を消した。
それとほぼ同時に長門は目を開け、すぐに自分が全裸であることに気がついたようだ。
「お父さん…服の再構成を忘れていった…」
長門の恥ずかしそうな声が響く。
「いや、それでいいんだよ」
主流派氏はわざと皮膚及び毛髪だけを再構成して服を再構成せずに姿を消したのだが、俺には主流派氏のその意図するところのものはすぐに理解できた。
そう。「人間は誰でも裸で生まれてくるもの」なのだから。
そういうと、俺は長門の両肩に両手を置いた。
「だから…今日は有希、お前の第二の誕生日でもある…ってわけだ」
「え?」
長門は俺の名前の呼び方が変わったのにすぐに気がついたようだ。
「今、私のこと…何て呼んだの?」
「有希…って呼んだ」
その時、長門有希の目から一筋の涙が零れ落ちた。
「私…ずっと…ずっと待ってた…あなたが私のことを『有希』と呼んでくれるこの日が来るのを…」
「ああ…約束するよ…俺、もうお前のこと、二度と『長門』とは呼ばない。『有希』と呼ぶから…」
そして…俺と有希は熱い口付けを交わした…。

 

「やっと築けた…あなたと『二人だけの世界』を…」
ああ…「俺と有希の二人だけの世界」…それがお前の念願でもあったからな。
「有希、俺、お前を絶対に幸せにしてやるよ。絶対に…」
そういえば…有希は「二人だけの世界」という言葉を「俺と有希の二人だけしかいない世界」という意味だと思い込んでしまったからこそ暴走したんだっけ。
「他人がいてその上での二人だけの世界」というのが本当の「二人だけの世界」という言葉の意味なのに…俺、これは今も後悔してる。もっと早く「本当の意味」を教えてやればよかったと…もっとも有希もその時初めて「二人だけの世界」という言葉の「本当の意味」にようやく気がついたようだし。
「有希…俺の家に来い。俺とお前の職場の関係上、すぐには無理かも知れないが…今年中、遅くとも九月には結婚しよう」
有希はコクッと頷いた。

 
 

有希はその翌日、それまで住んでいたマンションを引き払い、俺の家に身を寄せた。
そして俺と有希の同棲生活が始まり、ともに大学を卒業、四月から俺は国語教諭、有希は養護教諭として、ともに母校・北高の教師として勤めることになった。
「キョン君、有希、久しぶり」
俺は一瞬目を疑った。
そう、俺のクラスの副担任になったのは紛れもなくあの朝倉涼子だった。
「今日から私はあなたたちの同僚、数学教諭、朝倉涼子です。キョン君、有希…改めて宜しくお願いします」
結果、担任・副担任がともに新米同士の組み合わせに相成ってしまったわけなのだが…まあ朝倉ならお互いに知り合いなだけにうまく行きそうな気がする。
「キョン君、有希…私だけじゃないよ。ほら…あそこから…」
朝倉が指した方向を見ると喜緑さんと朝比奈さんが笑顔を見せてこっちに歩いてきた。
「化学専門の理科教諭、喜緑江美里です。キョン君、有希、涼子…改めて宜しくね」
「芸術科目・書道の非常勤講師、朝比奈みくるです。キョン君、長門さん、朝倉さん…改めて宜しくです」
俺は朝比奈さんが着ている服に見覚えがあった。
「朝比奈さん…その服…もしかして…」
「やっぱり…覚えていてくれてたんですね」
朝比奈さんが感涙している。
そう…7年前に俺の目の前に現れては消え、消えては現れた「朝比奈さん(大)(=有希いわく「朝比奈みくるの異時間同位体」)」そのものの姿だったからだ。
「私、未来の調査機関で…『時間を自由に行き来できる身分』になれたんです」
おめでとう朝比奈さん。あなたなら…早くそういう身分になれると信じてましたよ。
「本当に…早く会いたかったです…大人になったあなたたちに…」
朝比奈さんはそういうと俺に抱きついて泣き出した。
「私も…あなたに会いたかった…」
有希も朝比奈さんと思わぬ形で再会できた喜びで涙を流していた。
まあ、無理もないよな。朝比奈さんは高校卒業後、未来へ帰ってしまっていたんだから…最悪、もう二度と会えないと思っていたんだから。
「有希…朝比奈さんにまた会えて良かったな」
コクッと頷く有希。
「えっ?」
朝比奈さんだけではなく、朝倉と喜緑さんまで目を丸くした。
「キョン君…今、長門さんのことを『有希』って呼びませんでした?」
「どういうこと?キョン君」
「説明しなさいよ」
まあまあ、朝比奈さん、喜緑さん、朝倉、三人とも落ち着いてください、今説明しますから。
「彼に…プロポーズされた」
有希!そういう台詞はいつもの無表情かつ無感動調で言うな。
顔を少しうつむき加減にして恥ずかしげに言うものだぞ。
「えぇ〜っ?キョン君は確か…涼宮さんと…」
朝比奈さんが唖然としている。
「どうなっちゃってるの?」
喜緑さんが呆然としている。
「やった!有希、良かったね。おめでとう」
喜んだのは…そう、有希の一番の大親友、朝倉だった。
そういえば…ハルヒが有希をいじめていたときにいの一番に庇ってやっていたのは朝倉だったもんな。
後に夫婦になってから有希が告白してくれたことによると、ハルヒの有希へのいじめの原因は俺にあったのだそうだ。
ハルヒは俺のことが好きだったらしい。だが有希も俺のことが好き。
ハルヒは独占欲が深いタイプだ。だからハルヒは「SOS団団長」という権威を傘に、「あの女さえいなくなればキョンを独占できる」とばかりに有希をいじめ始めたらしい。
当時の俺は…まさかそうとも知らずに朝倉とともに有希をかばってやっていた。
だからこそハルヒに取っては面白くなかったわけで、俺と朝倉が見ていない前で有希をいじめるなど、手段をだんだんと陰湿化、なおかつエスカレートさせていった。
有希はハルヒの前でこそ平静を装っていたことがあるが、俺と朝倉の前では泣いていたこともあった。
いや、俺と朝倉の前だからこそ泣けたんだよな。有希…よくあの地獄のような日々を耐え抜いたよな、お前は…。
ハルヒにいじめられている有希を可哀想だと思う心が、何時しか有希への愛へと変わり始めていた…のだと思う。
俺と有希は学部こそ違え同じ大学に合格。
有希はハルヒとようやくの思いで離れ離れになれたことを心から喜んでいた様子だったし、キャンバスが同じだったこともあって、二人の関係はいつの間にか回りが認めるほどに進展して行った…。
有希、お前はいじめられていたからこそ『養護教師』という職業を選んだんだよな。保健室をいじめられている生徒のためのシェルターとして活用してくれればいいと思うし。
よく考えてみたら…俺が教師になろうと決意したのも有希のことがあったからなんだっけ。
「有希みたいな思いをする子」を少しでも減らしたかったからな。
聞いてみると朝倉も実はそうらしい。
「朝倉…一緒に頑張ろうぜ」
「うん。キョン君となら頑張れる気がする」
俺たち二人のクラスからは一人たりとも「高校時代の有希のような思いをする子」を出さないために…どんな些細なことであっても相談させよう。
それがその時朝倉と交わした約束だった。

 
 

そして九月の九日、俗にいう「重陽の節句」…俺と有希は古泉のプロテスタント教会で結婚式を挙げ、有希は正式に家族の一員となった。
その式のとき…ハルヒが突如として現れ、有希に高校時代の「いじめ」を泣いて詫びた。
ハルヒにしてみれば…俺としては回りに「元カノ」と思われているハルヒに対する「配慮」もあったということも事実なのだが、有希にとっては恨み重なる相手だから…自分一人だけが招待状を送られなかったことで…つまり皆から一人だけ仲間外れにされたことで…ようやく有希がどんな思いをしていたか気がついたのだと思う。
そして有希もまたハルヒを許し、ここに二人は高校時代以来のわだかまりを捨てて仲直りして…ハルヒはその日以後、かつて朝比奈さんがSOS団の団室で身にまとっていたあのメイド服を着て、俺の家で「住み込み家政婦」として俺たちと一緒に暮らすことになった。
そして今では俺の妹も含めてまるで三姉妹のような仲だ。
因みにこのことについて…ハルヒが俺たちの家に住み着いてから一週間ほどして鶴屋さんの店であるバー「クレイン」に古泉を呼び出して聞いてみたところ…。
「涼宮さんは…例えどのような形であろうと、どうしてもキョンさんと一緒に暮らしたかったのではないでしょうか」
そうだったのか。
この時ほど俺はハルヒが可愛く思えたことはなかった。
普通なら「別の男を捜す」ところなんだろうけれど、意地でも俺への愛を貫くとは…如何にもあのハルヒらしい…と、俺は苦笑せざるを得なかった。
「そして有希っちも…ハルにゃんが見せた予想外の行動…つまり『泣いて謝った』こと…で、ハルにゃんを恨む心が消えていった…んじゃないかなぁ」
鶴屋さん、なるほど…そういうことですか。
「実は…有希が言ってた。有希とハルヒ、二人とも俺以外の男は一切駄目だ…って」
「そう、そう…涼宮さんはともかく、有希さんはそれを知り抜いていたからこそ、涼宮さんをメイドとして家に迎え入れてあげる決心をしたんでしょうね」
古泉…お前も本当にいいことを言う奴だな。
俺は…この時、目から鱗が落ちる思いだった。

 
 

そして今日…こうして有希の公式年齢23歳・実年齢11歳の誕生日…を迎える…と、こういうわけだ。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:55 (2622d)