作品

概要

作者書き込めない人
作品名白紙の入部届
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-01-18 (木) 22:24:50

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

静かな部屋の片隅。
文芸部室という広くは無い、
けれど一人だけなら充分広大な部屋で、
私は一人黙々と読書に興じていた。

 

今読んでいるのは市立図書館で借りてきたもの……
学校の図書館で借りてもいいのだけれど、
何故だかいつもあの図書館に足が向う。

 

それにしても、この本も何回読んだか分からない。
始めてあの図書館で借りた本……

 

あのときのことは今でも鮮明に覚えている。
引っ込み思案で司書に声をかけられなかった私に、
笑顔で優しく貸し出しカードを作ってくれた彼……

 

……笑顔だったかな?
まぁ、いいか。そっちの方が雰囲気が出る。

 

今でも時折思い出す彼の顔。
1週間に4回くらい夢にも出てきてくれる。

 

クラスも隣だし、
見に行こうと思えば見に行けるんだけど、
そんな勇気はない。

 

はぁ……
彼の後ろの席の朝倉さんが羨ましい……
羨ましいなぁ……

 
 
 

そうやって長テーブルの端でパイプ椅子に座って、
いつものように本を読んでいた私の耳に、
聞きなれない足音が響いた。

 

「……?」

 

誰だろう……
すぐそこのコンピュータ研究部の人?
それとももしかして、入部希望者?
こんな時期に?

 

そうやって、考えていると、
突然勢いよく部室のドアが開かれた。

 
 

「・・・・・・・・・・・・・・・!」

 
 

私は一瞬自分の目を疑った。
次にコレが現実の世界か疑った。
そして最後に目の前の人物を凝視した。

 

もしかして私は平行世界にでも紛れ込んだのではないか?
そうでもなければ、彼がここにいる理由が……

 

焦る私に向って、
目の前の『彼』が私に声を掛けてきた……

 
 
 

「いてくれたか……」

 
 
 

完全に不意をつかれた私に対し、
彼は何故か安堵のような表情を浮かべていた

 

「長門」

 

彼が私の名を呼ぶ。
文字通り夢にまで見た状況。
本当は諸手を挙げて躍動したいところだけど、
私の理性がそれを拒む。

 

「なに?」

 

できるだけ軟らかく言ったつもり……
だけど、いつから私は彼と話ができるような関係になったのだろう?
やっぱり夢?

 

「教えてくれ。お前は俺を知っているか?」

 

彼が少し真剣……むしろ悲痛な面持ちで尋ねてきた。
もちろん彼のことは知っている。
隣のクラスでいつも窓際後ろから2番目の席に座り、
成績は少々低め、小学生の妹がいて……
でも、そこまで言ってしまうと怪しまれるかもしれない。
大人しく『知らない』と……
ダメ。それじゃあ、きっと彼は帰ってしまう。
何となくそんな気がする。

 

「知っている」

 

だから私はそう答えた。
途端に彼の顔に喜色が表れる。

 
 

「実は俺もお前のことなら多少なりとも知っているんだ。
言わせてもらってもいいか?」

 
 

突然の告白に私は驚いた。
彼が私のことを知っている?
それっていわゆる相思相愛の関係……

 

落ち着け、落ち着くのよ私。
とりあえず彼の『長門有希像』を拝聴して……

 

期待と動揺と期待と喜びと期待と期待を胸に、
私は彼の言葉を待った。

 
 
 

でも、その言葉は私が意図しているものとはかけ離れていた……

 
 
 

「……それが俺の知っているお前だ。違うか」

 

……なにを、いって……るの?
人間じゃない?うちゅうじん?
ちがう……私は長門有希。

 
 

あなたが言ってるのは私じゃない。

 
 

半ば茫然自失した状態で、
彼の言葉に答える。

 

彼はまたも焦りの表情をあらわにして私に詰め寄る。

 
 

こんなに近くであなたの顔が見られるなんて夢のよう。
それも私の名前を連呼して……

 
 

でも、あなたは誰の事を見ているの?
あなたが言ってる『長門』と私は全然違うよ?

 
 

ねぇ……顔も目も身体全体が私の方を向いているのに、
あなたは一体誰を見ているの?
さっきから誰の事を言ってるの?
ここにはあなたと私しかいないのに、
どうして私のことを見てないの?
『ナガト』って誰?
もうそれ以上私以外を見ないで。
やめて。私だけを見て。
ここにいる私を見て。他の人を見るのはやめて。
やめてよ、お願いだから。やめてヤメてヤめテヤメテヤメテ。

 
 

「やめて……」

 
 

つい口にした拒絶の言葉に、
彼ははっとした顔をした。
そして、すまなさそうに謝罪の言葉を述べると、
椅子に座り込んでしまった。

 
 

しばらく、茫然自失の状態でいたが、
不意に何かを思い出したように彼は顔を上げた。
その視線が私のそれと交じり、
つい私は下を向いてしまった。

 

「長門。それ、いじらせてもらえないか?」

 

それってどれ?
あなたにならどこでもいじらせて……
と、顔を上げた私に、彼は部室の奥にあるものを指差した。

 

……パソコン?
そういえばさっき小さな声で『パソコンだ。』とか言ってた気もするけど……
でも、彼の願いなら反故にする気はない。
喜んで……

 

って、ダメ!!
今あの四角い箱の中には、
私が書いた恥ずかしい小説や、彼との……

 

でも、困っている彼の頼みを断るのも……

 

だけど、あの中身を見られたら……

 
 

彼とパソコンをチラチラ見ながら、
何とか決心した私は、彼にこう告げた。

 

「まってて……」

 

彼の了承を得て、
すばやく機体に向う。
はやく、はやく……

 

ようやく、立ち上がったパソコンの画面上に散在する見られてはならないフォルダを、
移動し、隠し切ったところで彼に交代する。
彼がこのようなものに精通しているとは思えないが、
万一のために監視しておく。
……彼を疑ってるわけではないけど。

 
 
 

何やらいろいろ探っていたようだが、
諦めたように彼は私に礼を言うと、
席を立った。

 

どうやら『ナガト』探しはやめたらしい。
それなら、私ともっとお話でも……

 
 

「邪魔したな……」

 
 

どうして、そんなこというの?
なんで出て行こうとしてるの?
私はもっとあなたといたいの。

 
 

それとも私がいやなの?
そんなのイヤ。待って。行かないで。
私はここにいるのに。
どうして行っちゃうの?

 
 

待って……私と一緒にいて……
置いていかないで……
私と一緒に……

 
 

でも、彼が嫌がってたら?
その言葉を直接彼に聞くの?
聞かされるの?聞いてしまったら答えられてしまうの?
イヤ。そんなこと言われたら生きていけない。
でもどうするの?このまま帰すの?
ジャア、ドウスルノ?

 
 

その時私の手元に何かが当たった。
一枚のちっぽけな紙切れ。

 

そうだ、コレ……

 
 
 

「待って」

 
 

私の言葉に振り向く彼。
きっと彼は今、何か嫌なことでもあって、
思考が混乱しているのだろう。
落ち着けばきっと私のことを思い出してくれる。
考えてくれる。愛してくれる。

 

今は我慢の時……
いずれ二人きりで過ごすことができる……

 

そう思った私は、
彼にそれを渡した。

 
 
 

この部屋でいつか彼と二人で過ごすため、
ずっと置いてきたこの小さな紙切れ……

 
 
 

「よかったら……」

 

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:54 (3088d)