作品

概要

作者G.F
作品名ある美人人妻養護教諭の呟き 2
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-01-11 (木) 21:34:35

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

設定参照  SS集/427 SS集/428 SS集/430 SS集/439 SS集/445 SS集/447

 

「あのさ、キョン、有希…」
ある日の夕食後。ハルヒが夫と私に声をかけてきた。
「話すべきかどうか迷ってたんだけど…あの娘のためを思っていっそのこと話す」
は?ハルヒ…「あの娘」って誰のこと?
私はじゃれ付いてきたシャミセンをひざの上に抱き、頭をなでてやりながらハルヒのほうを向いた。
「実は…吉村美代子ちゃん…だったっけ?」
吉村美代子…ああ、夫が「ミヨキチ」と呼んでる娘だ。
確か義妹のクラス(つまり夫の受け持ちクラス)の同級生で、義妹の一番の親友だっけ。
「ミヨキチがどうかしたのか?」
「あたし…今日、あの娘が50過ぎくらいの『大企業の重役クラスくらいのおっさん』と手を組んで歩いているところ、見ちゃったの」
「ぬゎぬぃぃーっっ!」
もし我が家にちゃぶ台があったら…それはこの時、夫にひっくり返されていただろう。
「ハルヒ!他人の空似だろ?それは…そうだろ?そうだと言ってくれ!」
「何であたしがあの娘の顔を見間違うのよ!あの娘の顔は一回見たら一生忘れないわよ!」
やれやれ…この二人、法律上は「本当の夫婦」じゃないんだけど「本当の夫婦喧嘩」みたいな迫力だ…って傍観してるわけにはいかない。
「それは当の本人のみが知ること…だと私は思う」
夫とハルヒははっとした表情で私のほうを見た。
二人の「シャミセンでさえも食わぬと思われる言い争い」は一回きりで納まったようだ。
「まさか…あの娘に限って絶対にそんなことは…」
「あたしもそう信じたいわ。でも…」
やれやれ、大声での言い争いこそ一発で済んだものの、火種はまだくすぶっているようね。
「キョンく〜ん、有希お義姉ちゃ〜ん、ハルヒちゃ〜ん…ミヨちゃんが何かしたの〜?」
ドアが開いたかと思うと、義妹が心配そうな顔をしている。
「いいから…お前が心配するこっちゃない」
「でも…」
「これだけは言っとく…お前は援交なんか絶対にするなよ、絶対に!いいな!」
夫は「絶対」を強調していた。
「援交なんか絶対にしないも〜ん」
やれやれ…普通なら私たちがしていた「ミヨキチがどうとかこうとか」という話と、夫の台詞「お前は援交なんか絶対にするなよ」を聞けば、即座にそれが結びついて「美代子ちゃんに対する援助交際疑惑の話」だと気がつくはずなのに、義妹は「肝心のこと」に気がつかなかったようだ。
兄として、またクラス担任としての「単なる注意」だと受け取ったらしい。
おかげで助かったような助からなかったような…そんな気分にさせられた。
「有希、明日の昼休みにでも…ミヨキチを保健室に呼び出して事情を聞いてやってくれ」
ほえ?何で私が?
「それって…クラス担任であるキョンがすることなんじゃ?」
ハルヒもぽかんとしている。
「俺はあの娘を幼い頃からよく知っている。だからこそ…頼む、有希…俺だと事と次第に寄っては激昂してあの娘に平手打ちを食らわせてしまいそうで…怖いんだ」
夫が私に合掌している。
「う〜ん…なるほどねぇ」
ハルヒは神妙な面差しで腕組みした。
「あたしだって…もし幼馴染の知り合いがそういう状況だったら…思わず平手打ちを食らわせかねないもんねぇ」
いやよ…いや…ハルヒ…やめて、やめてよ…つい思い出しちゃったじゃない、あの地獄のような辛い日々の事を…。
夫を巡っての「過去(ただしその殆どが高校時代)の確執」はあなたが夫と私の挙式のときに私にしがみついて号泣して謝ったことで全て水に流したつもりだったはずなのに…たとえ意図的じゃないにしても思い出させないでよ。
…そして…私はいつの間にか高校時代の自分と同期していたようで、溢れる涙をぬぐおうともせずに歯を食いしばって嗚咽していた。
そう…1年生のときから既にその兆しは見えていたけれど、2年生で涼子も含めて4人(ご存知の通りみくるさんは1つ上級生だし古泉君は特待生だからね)が同じクラスになってから…ハルヒの私に対する嫌がらせはますますひどくなるばかりだった。
そんな私を庇ってくれたのはいつも夫と涼子だった。
だから…私はハルヒの目の前でこそ平静を装っていたが、夫と涼子の前では涙を見せたこともある。
だが…涼子だけならともかく夫までもが私を庇うのがハルヒにとっては面白くなかったようで、火に油を注ぐ結果になってしまったことは確か。
実はハルヒと私は同じ1人の男…キョン…つまり現・私の夫…を愛していたから…ね。
恐らく私への嫌がらせはその多くが急接近していく夫と私に対する嫉妬…それは解っていた。
古泉君は機関からのお達しでハルヒを刺激しないためにハルヒのいる前でこそ傍観者を装ってはいたが、ハルヒのいないところではこっそりと励ましてくれた。
一つ上級だけどみくるさんもそうだった。
だからこそ私、自己構成自己解除(=自殺)をせずに済んで卒業、大学は夫と同じ学校を選び、やっとの思いでハルヒと離れ離れになることが出来た。
大学時代はハルヒがいない分だけ夫と思う存分接近できた。
そして大学在学中に夫からプロポーズ、卒業後…公立高校の教員採用試験を受けて同じ高校に就職・その年内に夫と結婚。
そして23歳の今日を迎えていられるんだっけ。
もっとも私の場合、23歳というのは「公式年齢」であって「実年齢」は11歳なんだけどね。
「有希…どうしたの?」
「ハルヒ、今のはお前が悪いぞ」
「ちょっとキョン、それ、どういうことよ?」
「『平手打ちを食らわせかねないもんねぇ』でお前にいじめられていた高校時代のことを思い出したんじゃないのか」
「その前にあんたも言ってるでしょ?『平手打ち云々』は…」
「俺が言ったあれよりお前が言ったそれの方が精神的ダメージが大きいんじゃないのか、有希にとっては…」
そういわれてハルヒははっとしたようだ。
「そうよね…そうだったよね…ごめんね、有希…あたしが無神経だった」
「解ってる。あなたが決して意図的じゃなかったのは…」
こうしてハルヒの目の前で私が涙を見せるのは夫との結婚式のとき以来だ。
長門有希(あえて旧姓名)の涙は夫や涼子、江美里さんならともかく、恐らくハルヒは一回たりとも見たことがないはずだから…ね。

 
 

翌日の放課後。私は美代子ちゃんを保健室に呼び出した。
「あなたが…昨日、『50過ぎの男の人』と歩いていたのを見たという人がいる」
この場合…いきなり核心から切り出すのはまずかったのだろうか。
「有希先生…ごめんなさい…」
だが…彼女は愚直なまでに素直だった。
「私…キョン先生の事を…キョン先生と有希先生との結婚式にも出席させてもらったんですけど…どうしても諦められなくて…援助交際でもすれば忘れられるかなと思って…つい…」
キョン先生…そう聞いて私は思わず彼女の顔を見た。
夫が…何でまた、そこで夫が絡んでくるわけなの?
「キョン先生から聞いてはいると思いますが…キョン先生は…私の…私の初恋の人だからなんです」
美代子ちゃんはそういうとその場で号泣した。
そんな…美代子ちゃんの援助交際の動機が夫の結婚にあるなら…それは私のせいみたいじゃない。
「そうだったのか…悪かったな、ミヨキチ」
夫が入ってきて泣いている美代子ちゃんの両肩に手を置いた。
夫よ、何時の間に話を聞いていた?私は保健室一帯を常人では入り込めない閉鎖空間に…はっ、出来なくなってるんだっけ。
そう…「閉鎖空間作成能力」は私を過去に暴走させるその大元となった機能なのだった。
だから、夫のプロポーズを受けたその日に、「キョン君と一緒に人間・有希として生きろ。そのためにはこれはもう必要ないはずだ」と思念体によって取り外されており、従って夫のプロポーズの日以来、私はもう閉鎖空間を作ることが出来ない。
「ところでミヨキチ、いったい誰だったんだ?その…『50過ぎのおっさん』は…」
「知らない…まったく知らない人…」
彼女の言うことによると、美代子ちゃんとその「50過ぎの男の人」との間には何もなかったそうである。
その人はただお金のみを渡して、名前も告げずに去ったそうだ。
「どこかの会社の重役クラスかと思われる人」という以外はこれといった特徴もなかったらしい。
「美代子ちゃん…私も謝る。あなたの大事なキョン先生を横取りしちゃって…ごめんなさい」
彼女の身に何もなかったからこそ…彼女は素直に白状する気になれたのだろうか。
「いいんですよ…今、泣いたおかげですっきりしましたから…」
彼女の寂しげな笑顔が…やけに印象的だった…。

 
 

「あたし…美代子ちゃんの気持ち、わかるような気がするな」
ハルヒがシャミセンを抱き、頭を撫でながら言った。
「あたしだって、鶴屋さんからあの電話…キョンと有希が結婚するという電話…が来たとき…凄く悔しくて…ベッドで三時間ほど号泣してたから…ね」
ただし…ハルヒの場合は潔く敗北を認めたのだが、美代子ちゃんの場合は「キョン先生のことは諦めよう」と自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど未練心がくすぶるという形になってしまい、それが彼女をあのような行動に駆り立ててしまったのだ。
「…」
私は複雑な思いでブラインドを押し下げ、窓ガラスに映った私の瞳を見つめていた。
「ところで…いったい誰だったんだろうな、その人」
「まさか…『彼』にしては年が合わないことは確かだし…」
ハルヒがいう「彼」とは…あの今から10年前の七夕の夜に運命的な出会いをしたジョン=スミス(=実は夫だ、などということはハルヒには未だに内緒)のことだろうな、と思う。
「ま、これ以上の詮索はよそう。『謎の人』のままの方が…彼女にとってもいいかもしれないからな」
「それもそうね」
もしかすると美代子ちゃんは…今までに夫に恋した女の中で唯一の「普通の人間」だったのかも知れない。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:53 (3092d)