作品

概要

作者Thinks
作品名夏、花火、窓辺にて。
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-07-30 (日) 16:05:40

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

突然だが、今、俺は長門と二人きりだ。
二人で遠くに散る色とりどりの大輪と、遅れて聞こえる音を聞いている。
なかなかのもんだな、これは。などと我ながら贅沢な事を思っていると、
長門が俺の肩に寄り添ってきた、、、。
 
なぜにこういうことになっているのかって?
それでは少し時間を遡ろうか。俺も悪い気はしないからな。
 
………
……

 
 例のごとく状況説明すると、今日は夏休みであり、土曜日であり、
今は例の探索が終わった直後、ハルヒ曰く「反省会」の真っ最中だ。
 正団員五名でいつもの喫茶店で茶を飲むだけなのだが。無論、俺の奢りだ。
 くそ暑い中、街中歩いて汗だくになっているので、冷房が心地良い。
 
「今日は、みんなで行く?」
 アイスコーヒーをずぞぞ−−−−っと吸い上げながら、ハルヒが言う。
 あいも変わらず文脈とかそういうことを全く考えずに話し始めるおまえが悪い。
 反応が遅れるのは勘弁しろよ。
「今日は浜の花火大会でしょ?そんなのみんな知ってるわよ」
 
 浜の花火か。もうそんな時期か。
 浜の花火とは、この街から南方面、海側の西隣の街で行われる花火大会の事だ。
 ここいらでは少し有名で、わざわざ出かけるやつらも多い。
 電車は混むし、道も混むしで見に行かなくなってしばらくになる俺にとっては、
懐かしくも無くは無いが、面倒くさいって言うのが返答だ。
 あの花火は、高台になっているこの街からは行かなくても見えるのだからな。
「あっそ。まぁ、8月のやつのほうが近いし、今回は勘弁してあげるわ」
 別に勘弁してくれと拝んだわけではないが、まあいいだろう。
「あの〜、花火、ですかぁ?」
 朝比奈さんが素で訊いている。見た事が無いわけではあるまい。
 去年、一万五千五百回近く、、、もう良いか、あれは。
「そうよ、花火。みくるちゃんは浜の花火、見た事無い?」
「そ、、そうですねぇ、、見た事無いです」
そりゃそうだ。去年は誰かさんが宿題の息抜きだとか言って、
みんなでファミレスで飯食ってる間に終わっちまったんだから。
「僕も見た事がありません。このあたりでは有名なのですか?」
 古泉も興味津々のようだが、ちょっと待て。
 このままじゃ全員強制連行になるぞ。わかって言ってるのか?
「有希、あんたはどうするの?」
 そう訊いたハルヒに、長門は
「今日は用事がある」
 と、意表をついた答えを返してきた。
「……荷物が到着する。待っていなければならない」
「ふ〜ん、そうなの、残念ねぇ、ま、いいわ。八月のは全員で行くわよ!いいわね!」
「あ〜、俺も面倒くさいから行かないぞ?」
 却下される事を前提で言ってみた。本気で面倒くさいからだ。
「さっきも言ったけど、あんたと有希は良いわよ。今日は古泉君とみくるちゃんに浜の花火を見せてあげるわ!」
………正直、拍子抜けしてしまった。
 


  
「長門」
 俺は一人で下校路についていた長門に話しかけていた。
 正直、却下されるとは思っていなかったので手持ち無沙汰だったのかもしれない。
 長門はまるで解っていたかのように、「なが」くらいでふっと足を止めて振り返った。
「なに」
「に、、荷物、届くのか?」
「そう、今夜、届く」
 興味がある事態だ。
 あの、手紙はおろか新聞の一部も無い生活感皆無の部屋に、誰から何が届くと言うのだろう。
 長門は何かを眺めるように上を向いて、きっかり一秒停止してからこう言った。
「お父さんから、、。中身はわからない」
 
 お父さん、、、、?情報統合思念体か!?
「そう、主流派」
 そいつはこの間、おまえを操作して、
その罰で朝倉とおまえにボコボコにされたんじゃなかったのか。
「お詫び、だと言っていた」
「そうか」
 生返事を言った後、俺は妙にその中身が気になった。
 それは長門への、いわば仕送りであって、俺が見て良いものでもなかろうが、
あんな事件があった後だ。何を送ってくるか解ったもんじゃない。
 パンドラの箱とか、ミミックとかそう言う物が頭に浮かぶ。
 長門が危ないかも知れん。俺はそう考えていた。
「………?」
 長門が足を止め、首を傾げて俺を見ている。
 あ、すまん、ちょっと考え事を、、だな。
「わたしが、心配?」
 あ、、ああ。そうだな。その荷物の中身が気になる。
 開けた途端に何かが起こらないとも限らん、と思ってな。

「来る?」

 長門は子犬のような目で俺を見つめている。
 もちろん、行かせていただく。当然だ。心配だからな。それだけだ。本当だぞ。
 


 
 長門と一緒に部屋に入るなり、目の前にあったものは小柄な段ボール箱だった。
 もうあるじゃないか。お早いご到着、だな。
 鍵のかかった誰もいなかったはずの部屋に、段ボール箱が突然置いてある。
 そこらのヤツにならミステリーっぽいシチュエーションかもしれないが、
俺はいまさら何とも思わん。あの部室ですら、古泉は異空間化していると言うしな。
「………捜査完了。敵性と判断できるようなものは入っていない」
 長門が片手をかざしていた段ボール箱には、「ごめんね。パパより」
ダイレクトにメッセージが書いてあったような気がする。
 長門がダンボールをごそごそと探り始めた。敵性のものは入っていないと言うから
大丈夫だろう。俺も長門の背後から中身を覗こうと思ったが、何とか理性で止めた。
「これは、何?」
 長門が手に持ってしげしげと眺めているのは、ショッキングピンクの袋で、
輪ゴムで止められた袋の口から割り箸が突き出している物だった。
「そりゃあ、、、綿菓子だ」
「わたがし?」
 ああ、綿菓子だ。作り方は割愛するが、
100%砂糖で出来ているわけだからある意味究極のお菓子と言えるかもな。
袋には、決して上手いとは言えない、ネコの様な顔の七人が集合しているアニメチックな絵。
また、噴出しで「宇宙を大いに盛り上げるための情報統合思念体をよろしく!」
そんなものが描いてあった様な気がする。気のせいだ。
「これは?」
「それはりんご飴だな。朝比奈さんが喰ってただろう」
「これは?」
「風船ヨーヨー。確かハルヒが持ってたな」
 箱の中からは、夏祭りグッズが次々と現れる。
 最後に長門が掴みあげたのは、薄い青地に大小の染め抜きがある浴衣だった。
 渋染だろうか、落ち着いた茶色の帯もセットになっている。

 じっと浴衣を見つめていた長門は、
「着替える」
 そう言って隣の部屋(三年部屋。命名、俺。)に入って行こうとするのだが、
浴衣をじーーーっと見つめながら歩いて行っているため、非常に危険であり、
やはり引き戸に頭をぶつけている。おいおい。
「迂闊だった」
 長門は忍者の様な一言を残し、額を押さえて部屋に消えて行き、五秒後くらいに出てきた。
「速いな、、、」
「着替えは、得意」
 良く解らないが、見事な帯の締め方と言い、得意なんだろうなあ。
「これ」
 箱に入っていた風船ヨーヨーを持って言った。
「どうする、物?」
「ああ、これは、だな、、」
 俺は長門の左手を取って、指につけてやった。
「こうするんだ」
 長門の手を上下に揺すると、風船もぽん、ぽんと上下する。
「…………」
 無言で続けている。楽しいのだろうか。
「単純な構造、単純な動き」
 難しい事を言いながらも結構楽しんでいる様である。

 ひたすらヨーヨーで楽しんでいる様子だった長門が動きを止めて、窓の外を見つめた。
「……花火」
 お、始まったか。ここからでもビルの上に見えるんだな。
「作りたいものが、ある」
 ん?作る?今から何を作るって?
「お面」
「お面??」
「時間はそれほどかからない」
 不思議がる俺を他所に、長門は綿菓子の袋を持って洗面所に入って行き、また五秒で出てきた。
 その右手には袋が無くなってその姿を現した綿菓子。
 頭にはショッキングピンクの、決して上手いとは言えない、
ネコの様な顔のお面を斜めに着けていた。
 

……
………
 
 長くなったがそう言う事なんだ。そう言ったわけで、
今、俺の右は、浴衣を着て、右手に綿菓子を持って、左手に風船ヨーヨーを付けて、
おまけに頭には妙な顔をしたお面を着けた長門がいるって言う事。

 その長門は、、どうもヨーヨーを見ていて眠くなったんだろうか、
花火が良く見えるように、部屋の電気を消したのが悪かったのか。
 俺の右肩に寄り添って目を瞑っている。
 何か、、、、うん、鶴屋さん風に言えば、めがっさ安心してるのさっ!そういう感じだ。
 子供が親に抱かれているような。全身プレゼントに包まれているわけだからな。
 妙にムカつく俺もいるのだが。
 親の気持ちなんて言う物は今の俺には解らない。でも少し、気持ちは解らんでもないな。
 綿菓子が俺の制服に当たっているのだが、全然怒る気にならないのはそういう事かもしれない。
 
 五分ほどその状況を堪能しただろうか。花火大会も佳境を迎えて大きな花火を上げ始めた様だ。
 ビルの上に今までで一番大きな、鮮やかに色を変える大輪が現れ、遅れてそれに応じた音が届いた。
「!………」
「あ、驚いたか。でかいのが上がってる。見てみろよ」
 俺は立ち上がって、長門を窓辺に誘った。
 長門は、その目を若干大きくしていた様子だったが、
やがて立ち上がり、俺の肩に頭を寄せてきた。
 そして、花火と、それが浮かべるビルのシルエットを無言で見ていた。
 やがて花火の色に染められ、色を変えていく綿菓子を少しかじり、、、
 
「……きれい」
 
 微妙に笑いながら、ぽそっと、そう言った。
 俺は、花火なんかそっちのけで、さまざまな色に染まる綿菓子と、長門の笑顔を見ていた。
 
「ありがとう、おとうさん、、、」
 
 
                                             おわり。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:52 (2704d)