作品

概要

作者G.F
作品名風邪を引いた長門さん
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-12-31 (日) 11:04:19

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「もしもし、キョン君?私。そう、喜緑江美里」
朝早くから喜緑さんから電話がかかってくるということは…まさか…長門の身に何かあったのか?
「実は…有希が風邪引いちゃったんですよ」
…そのまさかだった。
え?長門が風邪?俺は耳を疑った。
あいつなら昨日は確かに元気そうだったが…この宇宙生まれのエンジェルはインフルエンザウィルスとエイズウィルスと今流行中のノロウィルスをブレンドしたようなウィルスにも感染しないというような顔をしていたことは確かだ。
「今、体温を測ってみたら熱が絶対温度313ケルビンもあるんです」
絶対温度313ケルビン…そう聞いて俺は中学校の理科の教科書を改めて取り出して該当する箇所を読む。
ん…摂氏と絶対温度は目盛りが同じで、絶対零度は摂氏-273度か。
従って絶対温度273ケルビンイコール摂氏零度だから…313マイナス273で摂氏40度。
平熱が36〜37度といわれているのでそりゃかなり高熱だ。
俺は今日、たとえ帰りが遅くなっても長門のマンションへお見舞いに行く事を決意した。

 

あれ?俺、そういえば昨日何してたっけ?
あ…そうそう。SOS団の団活でペアが俺と長門と古泉、ハルヒと朝比奈さんが組になって、それでいつもの如くハルヒの恨めしそうな視線を後に集合場所の喫茶店を出て…それでその後…。

 

学校の教室に行ったら古泉が平気そうな顔をして遅れて入ってきた。
良かった。古泉、お前も「うましか」確定だ。
あれで一緒に行動していたお前まで風邪を引いてたら俺だけが「うましか」ってことになってしまう。
「キョンさん」
古泉がにやけ顔でポケット将棋を出しつつ話しかけてくる。

 

今、異常なまでにうれしそうな顔をしていましたが。
おいおい…お前には俺の心はお見通しかよ。
だって同じスケートリンクでスケートをしていたにも関わらず長門さんは風邪を引きました。結果今日学校を休んでいます。でも我々二人はこの通り引いてませんからね。

 

「これにて『うましか第2号』決定」の超能力者と視線で会話を交わした後、俺は改めて昨日を回想してみる。
…んと、何があったっけな。そうそう。

 
 

「私はスケートというものをしたことがない」
町で配っていた「○○屋内スケート場本日オープン」というチラシをもらって、長門がふと言った。
そうしたら古泉がちょうど前売券が3枚あるからって屋内スケート場のチケットをくれたんだっけ。
そして俺と長門はフィギュア用の、古泉はスピード用のシューズを借りて滑った。
長門は滑るのに馴れないからって俺の手をしっかりと握り締めていたが、だんだんコツをつかんだらしくしまいにはかなり上手に滑っていた。
あの手のぬくもりは…今もしっかりと残っている。

 
 

「こらキョン!」
ハルヒ!…ったくもう、この暴力女は…人がせっかく回想に浸っているのにこれだ。
「古泉君も同罪だけど…あんた昨日、有希と一緒にどこへ行ってたわけ?」
「同罪」と言われて古泉も困惑しているようだ。
「とぼけたってあたしには全てお見通しよ。あんたが行きそうなところは把握してるんだからね」
そういってハルヒが取り出したものは…昨日のスケート場のチラシだった。
…と、ここまでは元気だったハルヒの身に急に異変が。
「ウッ…おなかが…おなかが痛い…」バタッ。

 

それにしても長門が風邪を引いたそのちょうど同じ日に普段から「あたし、病気なんてどんなものなのか知りませ〜ん」って顔をしているハルヒまでもがまた急性虫垂炎でぶっ倒れて緊急入院だなんて話が少し出来すぎているような気がしなくもないが…ハルヒはとにかく救急車で病院へ担ぎ込まれた。
岡部ハンドボール野郎が昼休みに教室にやってきていわく「病院から連絡が入った。手術は無事成功とのことだ」…ということになると傷口が完全にふさがるまで半月は安静が必要だろう。問題はその間あの女が病院のベッドの上でおとなしくじっとしていられるかどうかってことだが…でもまあおかげで当分の間あの顔を見ずに済むと思うと…ハルヒには悪いがこっちはめでたしめでたしだ。

 

さて放課後…あの「超」がつくくらいの「うましか女」の見舞いは朝比奈さんと「うましか第2号」に任せといて、こっちは宇宙からやって来たこれまた「超」がつくくらい「可愛いエンジェル」のお見舞いに向かうとするか。
いいかハルヒ、今回ばかりは「何でキョンは来ないのよ!」なんて叫んで大暴れするなよ。傷口がふさがるのが遅れてお前の命がそれだけ縮むことになるからな。

 

あ、せっかく見舞いに行くんだから何か買っていってやらないとな。
「やっぱりケーキがいいかな」
そう思って俺はケーキ屋に入った。そういえばあいつ何が好きなんだろう。う〜ん、ここはあいつの体調を考えてベイクドチーズケーキかな。よし、これにしよう。
「あ、キョン君、ちょうどよかった」
ケーキ屋を出たところで掛けられた声で見ると…ちょうどそこには喜緑さんの笑顔が。
「これから有希の部屋まで行くんでしょう?悪いんですけどついでに私の部屋へ荷物持ち、お願い出来ないですか?」
はい、了解です。ハルヒの荷物ならともかく、あなたのお荷物ならいいですよ。どこへでもお供いたしますから。

 

「あの…ですね、ついでにと思って有希にお薬を買ってきたんですけど」
そういって喜緑さんが取り出した「薬」を見て俺は唖然とした。
「あの〜喜緑さんそれはもしかしてひょっとして…?」
鍵括弧の間の俺の台詞に最後のクエスチョンマークまでの間に一箇所も句読点がないことから俺がどんなに空いた口がふさがらない思いをしたかわかるだろう。
「そう。コマーシャルでもおなじみのあの『塗る風邪薬』」
喜緑さん、いくらなんでもそれはちょっと恥ずかしいですよ。
「それがね…あの子ったら…飲み薬、駄目なんです」
へ?
「『苦いから』って全然飲まないんですよ」
じゃ俺の口から言ってやりますよ。長門、諺にも「良薬は口に苦し」というぞ…って。
「だから…これならどうかと思ったんですよ。どう?塗ってやってくださいます?」
そう言ってくすくすと笑ってドアを閉じる喜緑さん。
…ほ〜あなたは飽くまでもこの俺を3歳の幼女に対する猥褻行為を行った性犯罪者に仕立て上げる気ですかあ〜そうですかそうですねそうなんですねわかったふ〜ん…
…などと、「句読点なし」ですねてもしょうがないので、俺は喜緑さんにもらった薬とケーキの箱を持って長門の部屋へと向かうことにした。

 

長門、来たぞ。
「…上がって」
奥のほうから返事がした。返事に甘えさせてもらい上がらせて貰う。

 

長門はパジャマ姿で氷嚢と氷枕で頭を冷やしつつベッドに寝ていたが俺の姿を認めるとむっくりと起き上がった。お見舞いのケーキの箱を渡すと早速開封してパクついている。
「なあ、長門」
「何?」
「昨日はごめん。いかに屋内とはいえ…氷の上は寒かったろ」
「あれはあれでうれしかった。氷の上であなたが手を握ってくれたから」
え?だってお前、それで風邪引いたんじゃないのか?
「いい。風邪もあなたからのプレゼントだと思えば楽」
そりゃまたとんだプレゼントになってしまったな。
「えへ」
長門が少し笑ったような気がする。この分だと回復は早いかもしれない。
「そういえば今日は変な日だった。お前は風邪を引くし、ハルヒは急性虫垂炎で緊急入院するし」
「え?」
さすがにいつも無表情な長門といえどもこの時は表情をはっきり動かした。
「私は何もしていない。私は…情報を書き換えたりはしていない」
長門、わかるよ、お前の気持ちはよくわかる。
「いや、そのことでお前を責めに来たんじゃなくて…だな」
長門は目を閉じて彼女の過去の異時間同位体とシンクロしていたようだが…やがてポツリと一言。
「あの女(ひと)が文芸部の部室にあなたを引っ張って部室を乗っ取りに乗り込んできたあの瞬間、私とあの女の運命は既に決したと言っていい」
え?
「そう…2人はこれまでも、そしてこれからも、時にはいがみ合い、時には仲睦まじく、未来永劫に渡って同じ1人の男・つまりあなたを愛することとなる…あなたが私とハルヒのどちらかと結ばれたからといってどちらかが別の男性と結ばれるということは決してない」
え?何言ってるんですか長門さん。
「いえ…なんでもない」
と、これは元に戻った長門。
「お前…学校休んでるからってまさか昼ドラ見てんじゃないだろうな?ほら、昼の一時半くらいからのドラマ」
いくら俺でも昼間一時台のテレビドラマには今長門が言ったような内容のドラマが多いというような話は聞いているし、現に休暇中には見ることもある。
「えへ」
やっぱり?
「そういえば長門」
「え?」
「喜緑さんに聞いたぞ。お前…苦いからって薬を飲んでないそうじゃないか」
「だって…苦いのは真実だから。それに」
「それに?」
「あの人、喜緑さんもそうだが…脳髄以外の99パーセントが機械の身である私に地球上の薬が効くとはとうてい思えない」
俺はしばらく考えてから切り出した。
「長門、言っとくけどな、俺、最初から『あれは出来る』『これは出来ない』と決め付けるような考え方をするような奴は嫌いなんだ」
「そんな…」
長門の目がうるうるしてきた。俺の「嫌い」という言葉に敏感に反応したようだ。
「そもそも『出来る』だとか『出来ない』だとかいうことは実際にやってみて試して初めていえるんじゃないか。そう思わないか?長門」
俺は長門の肩を抱く。
「いいか長門、いかにお前の身体が機械の身だからっていっても…例えばお前は普通の人間と同様にちゃんとご飯を食べてるだろ?普通の人間と同じように怪我をすれば血が出るだろ?普通の人間と同じように脈拍は打っているだろ?普通の人間と同じように感情があるだろ?」
長門はうつむいて聞いていた。
「だからそんなお前の身体に地球の薬が効かないはずはない、と思う」
「…」
「俺はお前の身体は人間でいう脳髄に当たる器官以外の99パーセントが機械だということをよく知ってる。この事を知ってるのは北高の関係者の中でも限られた存在…俺と朝比奈さんと古泉と鶴屋さん、それからお前の仲間である朝倉と喜緑さんくらいだろうと思う。だが…俺たちがなお普通の人間と同じように接しているのは何故だと思う?決して…ハルヒも含めて事実を知らない人の手前そうしているんじゃないぞ」
「何故」
「おっと、その答えはこれからお前が俺たちとの生活の中で出すべき答えだ。俺がいうべき答えじゃないはずだ」
長門の目から涙が堰を切ったように流れ出した。
「そう。今お前の目から流れている涙。もしお前の身体が100パーセントまで機械・つまり完全なロボットだったら決して流れることはない。機械には感情はないしもし機械に感情があったとしてもそれは人間によって『こういうときにはこうしろ』とプログラムされているニセ感情なんだ」
「…」
「だから頼む。長門、ちゃんと自分を大切にしてくれ」
「…」
「薬が苦くて嫌だというなら…ここに喜緑さんが用意してくれた『胸に塗る風邪薬』があるが、どうだ?良ければ俺が塗ってやる」
「感謝する。ありがとう」
長門は頷くとパジャマの前をはだけた。

 

「ハルヒ、夕べは古泉と朝比奈さんだけに見舞をさせてすまなかった」
翌日。俺はすっかり回復した長門と一緒にハルヒのお見舞いに行った。
「ふん!どうせあんたは私がいないのいいことに有希の方に行ってたんでしょ」
ハルヒは絶食中だからなのか、手術の傷口が傷むのか、恐らくその両方があるのだろうがいつもの調子が出ないようだ。
「おいおい、ハルヒ。そんな体勢で寝るなよ。傷口が広がるぞ」
「もう…」
ハルヒは明らかに照れているようだ。
「…優しいのね、キョンって。あたしにも、有希にも」
え?何か言ったか?ハルヒ…俺は聞き返そうとして長門に袖を引っ張られた。

 

「しかし長門、お前の回復振りにも呆れるよ」
古泉と朝比奈さんに入れ替わって病院の玄関を出たあたりで俺は長門に声をかけた。
如何にアンドロイド(ガイノイド)とはいえ…何といっても「塗る風邪薬」を塗ったらすぐに治ってしまったもんな。
「違う」
ん?
「薬よりもむしろあなたが効いた、と思う」
え?何?目が潤んできているぞ。
「あなたがこの私の身体に触れてくれたのが効いた、と思う」
あの〜長門さん、あなたはいったい何を言ってるんですか?
「あなたがこの私の胸をモミモミしてくれたのが効いた、と思う」
あ”〜もうそれ以上言うな!恥ずかしいったらありゃしない。他の人に聞こえたらどうする!長門!頼む!女ならもっと恥じらいの心を持ってくれ。
もしハルヒが聞いてたら俺は命がいくつあっても足りない思いをするだろう。まあ、ハルヒは病院内にいるからここで何かを話したとしても聞こえていないからいいようなものだが。
「だからハルヒもあなたの顔を見たことで案外早く回復するかも知れない。医者が驚くくらい」
ああ、あいつならありえるかもな。
そういおうとした俺に、長門は一歩前に出てつぶやいた。
「あの女(ひと)と私は1人の男に関わる運命共同体。これまでも、そしてこれからも…」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:51 (2705d)