作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんの欠席
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-12-21 (木) 23:40:46

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

ヤンデレ?注意

 
 
 
 

改変された世界から無事帰還し、古泉たち機関の連中の計らいで、
格安で泊めてもらっていた病院を退院した俺は、
自分の中ではほんの少し、実際にはかなり久しぶりに学校に来た。

 

会う人会う人懐かしい感じで話しかけてくるため、
ちょっとした浦島太郎気分だ。
というか俺の中では一昨日会ったばかりなんだが……
まぁ、あっちの世界で会話したのは、
長門と朝倉くらいだったんだがな。
この際、谷口も役に立ったから数に入れてやってもいい。

 

ともかく、久しぶりに元の教室に戻ることが出来た俺は、
以前のように授業を受けることにした。
……つまり睡眠学習だ。

 

これでも一応病み上がり扱いなので、それほど咎められず、
いつもはシャーペンの芯を体内に埋め込むことで起こそうとするハルヒも、
今日は見逃してくれたようだ。

 

……あぁ、やっぱりこういう何でもない1日が幸せだな……

 

結局俺がその日、ノートに書いた文字数は、
普段の長門の口数よりも少ないものになっていた……

 
 
 

放課後、もしやまた文芸部室になっているのではないかと、
恐る恐る歩を進めた俺は、何とか無事に我らがSOS団室に着いた。
ハルヒが殴り書きして張り付けた『SOS団』の文字が、
これほどありがたく思ったのは初めてだ。

 

と、ここで感慨に浸ってもしかたない。
そう思った俺はいつものようにノックをした。

 

「はぁ〜い」

 

どうやら、中にいらっしゃる麗しのメイドさんの
着替えは終わっているようだ。
ほっとするようながっかりするような……

 
 

「うぃ〜s……」

 
 

「遅いわよキョン!!」

 
 

いつものようにナチュラルに入ろうとした俺の耳に、
シンバルを拡声器2台使って鳴らしたような声が響く。

 

「……いきなり大声を出すな。
鼓膜が破れたらどうする」

 

「だ、大丈夫ですか、キョン君?」

 

あぁ、物の例えですよ朝比奈さん。
それに俺の鼓膜がナノ単位で分解されたとしても、
あなたの声を聞くためなら瞬時に復活してくれます。

 

「それくらいで破れるあんたの鼓膜が脆いの!
それに破れたら、その時はあたしが縫ったげるわよ」

 

全然ありがたくない。
むしろ迷惑だ。

 

「あなたも病み上がりなのに大変ですね」

 

本当にそう思うならその胡散臭いニヤケ面をどうにかしろ。
というか、お前から労わりの言葉を受け取ると、
何か裏がありそうな気がしてならん。

 

と、そこで俺はあることに気付いた。

 
 

「……長門はどうしたんだ?」

 
 

そう、いつもは部屋の片隅でひっそりと
読書に励んでいるはずの文学少女の姿が見えない。
あいつが俺より後に来るとは思えないんだが…

 

「有希?さぁ?風邪かなんかじゃないの?」

 

風邪?あの万能宇宙人が?
あいつなら例え今流行りのノロウイルスとやらに、
インフルエンザとペストをブレンドした細菌相手でも平気な顔をしそうだが……

 

もしかしたら、あいつはあいつなりに今回の世界改変騒ぎで、
いろいろ疲れたのかもしれない。
終わらない夏休みの時も次の日は休んでたし……

 

なんだか心配になってきたな……
ちょっと連絡してみるか。

 

「悪い、ちょっと電話かけてくる!」

 

「え、あ、ちょっとキョン!?」

 

「すぐ戻る!」

 

ハルヒにそう答えて、
俺は団室を飛び出した。

 
 

あんまり人には聞かれたくないな……
この時間なら屋上に通じる階段なら誰も来ないだろう。
そう思って俺はハルヒに始めてネクタイを締め上げられた、
嫌な意味での思い出の地に来た。

 

早速ケータイを取り出す。
え〜と、長門の電話番号は……っと、あった。
もちろんそのまま発信ボタンを押す。

 
 

『……』

 
 

「……あれ?」

 

……おかしい。
いつまで経ってもコール音がない。
一応この場所は圏外じゃないし、
ケータイが壊れてるわけでも……

 

『……なに?』

 

「!?な、長門!?」

 

いつの間につながったんだ?
電話に出る音さえ聞こえなかったぞ!?

 

『あなたが電話をかけたと同時に……』

 

……ってことはコール音がなかったんじゃなくて、
お前が一瞬で電話に出た、ということか。
随分器用だな……

 

『用件は何?』

 

しばし呆気にとられる俺に、
長門が怪訝な声で聞いてきた。

 

「あぁ。用、って程でもないんだが……
お前が学校を休んでるって聞いて、
ちょっと心配になってな……」

 

『……心配?』

 

……何だ、今の間は?
俺が心配するとおかしいか?
確かにいつも助けられてばかりだから、
俺はむしろ心配される方だが……

 

「風邪でも引いたかと思ったんだ」

 

『体調管理には問題はない。
身体には異常は見られない……』

 

やはりこの宇宙人に勝てる細菌は地球上には存在しないようだ。
いや、ハルヒのようなウイルスがいるなら別だが……

 

「じゃあ、何で休んでんだ?」

 

俺としては、SOS団の面子は常に揃っている方がいいんだが……
一人でも欠けるとなんだか落ち着かない。
いや、古泉は別だけどな。

 

そんなことを漠然と考えている俺の耳に、
驚くような答えが返ってきた。

 
 

『……言いたくない』

 
 

「へ!?」

 

思わぬ返事に声が裏返る。
まさか長門がこんなにはっきり拒絶するなんて……
って、驚いてる場合じゃない。

 

「言いたくない、ってどうしてだ?」

 

『……』

 

沈黙する長門。
もしかして、物凄くプライベートなことなのか?
だとしたらこれ以上聞くわけにはいかないが……

 

「あ〜、恥ずかしいなら別に……」

 

『恥ずかしいわけではない……ただ……』

 

「ただ、何だ?」

 

『……』

 

さすがの長門表情鑑定士1級の俺でも、
電話越しでは表情はわからない。
よってどんなことを考えてるか分からない。

 

『……』

 

「……長門?」

 

まさか電話の向こうで倒れてたりはしないよな?
いや、何か呼吸のようなものが聞こえるから大丈夫だとは思うが……

 

そう不安がる俺の耳に、
長門の透き通った声が聞こえてきた。

 
 
 

『あなたに……』

 
 
 
 
 

私が改変した世界を彼は否定した。
邪魔者は誰もいない、私と彼だけの世界を創ってくれると思ったのに……

 

……いや、違う。
彼はこの『私』がいる世界を選んでくれたのだ。
念のために『私』のいる世界を選べるようにしておいて良かった。
彼は今の私を愛してくれている……

 

だから薄汚いメス犬を下界に降りて探してきてまで、
この世界に帰って来た……
正直に言えば、私はあちらの世界の方がよかったが、
彼が今の私がいいと言うのだから、
むしろ喜ぶべきだろう。

 

だけど、こちらの手違いで、
彼を危険な目にあわせてしまった……

 

あんなことがあって彼は私のことを嫌いになったのではないか?
それは嫌だ。
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌イヤイヤいやいやいや……

 

……でも、彼は病室で私のことを許してくれた。
卑しいメスに3日も横で寝られていたと知って、
心底不快だったろうに……
あの時は彼に否定されると思って覚悟していたのに……

 

やはり彼は私のことを愛して……

 

ダメ……もしかしたら気が変わっているかもしれない。
私の顔を見て不快になるかもしれない。
それは耐えられない。
どうすればいいどうしたらどうにかして……

 

そうだ……
……こうして家で一人でいれば彼に怒られなくてすむ……
彼に嫌われなくて……

 

……ダメ。
これでは彼に会えない。
愛しい彼に会えないなど考えられない。
それにこうしてる間にも雌イヌ達が彼を脅かしているかもしれない。

 

会いたい。でも嫌われたくない。
でも会いたい。会いたい。会って話がしたい。
いつものように私の姿を見て欲しい。
でも会ったら嫌われる。好きだから嫌われたくない。
好きだから会いたいけど嫌われたくない。

 

会いたい嫌わないで話をして私を見て会いたい愛してる怒らないで
会いたい会いたい声を聞かせてどうして会ってくれないのここまできて会いたいのにアイ……

 
 
 

……そうだ……
声だけなら聞けるではないか……

 

そう思って私は携帯電話を取り出した。
彼の電話番号なら常に表示してあr……

 

『……あれ?』

 

!?
今のは……間違いない、彼の声。
聞き間違えるはずがない。
いつだって聞いている彼の声。

 

まさか、彼のほうから、それもほぼ同時に連絡をくれるなんて……
これも私たちの愛のなせることだろうか?

 

「……なに?」

 

『!?な、長門!?』

 

少し驚かせてしまった。
でもあなたのためならいつでも呼び出しに応じる。

 

それにしてもいつになったら、
私のことを『有希』とよんでくれるのだろうか……
雌イヌは名前を呼び捨てにしているのに……
いや、あれは『ハルヒ』という名の犬だ。
呼び捨てで当然ではないか。

 

「……用件はなに?」

 

『あぁ。用件、って程でもないんだが……
お前が学校を休んでるって聞いて、
ちょっと心配になってな……』

 

心配?
誰を?
彼が?
私を?

 

あまりの幸せに一瞬返事が遅れた。
あぁ……やはり彼は優しい……
でも優し過ぎる……
その優しさを私だけに向けていればいいのに……

 

どうやら彼は私の身を案じてくれているらしい……
まだ、彼とはそういう関係を持っていないから、
心配しなくても大丈夫……
将来生まれてくるあなたと私の子供のためにも、
常に体調管理は欠かしていない。

 

『じゃあ、何で休んでんだ?』

 

彼が怪訝そうな声で尋ねる。
そんな声も素敵……

 

……でもどう答えたらいい?
『あなたに怒られるのが嫌だったから』?
彼はこんなにも私のことを心配してくれたのに?

 

彼が愛する私を嫌うはずがない。
どうしてそんなわかりきったことを、
心配していたのか?
少しでも疑ってしまった彼に対して申し訳ない。

 

『あ〜、恥ずかしいなら別に……』

 

!?
あなたに愛されることが恥ずかしいはずがない!
どうやら、彼は私が沈黙して不安になっているようだ。
心配しなくても私はあなたのもの……

 

やはりここは正直に白状して、
彼のことを愛していると伝えよう。
そうすればきっと彼の不安も和らぐはず……
『わたしはあなたに怒られると思って心配だったの、ごめんね☆』
……よし、完璧だ。
あとは口にするだけ……

 
 
 

「あなたに……」

 
 
 
 
 

『さっきから誰と喋ってるの?』

 
 
 
 
 

長門の言葉の途中で、
急にケータイが手からすっぽ抜けた。
いや、正確にはひったくられた。

 

「おい、何しやがるハルヒ!!」

 

「それはこっちのセリフよ、キョン……?」

 

言いながら勝手に俺のケータイの電源を切るハルヒ。
というかどうしてここが分かったんだ?

 

「ねぇ……誰と話してたの?」

 

「別に怪しい電話じゃねぇよ。長門だ。
欠席してるから心配になってな……」

 

「どうして?」

 

「は?」

 

どうして、ってどうした?
今ちゃんと理由を述べたぞ?
字数が足りないって言うなら、
今のセリフに句読点を一杯増やしてくれ。

 

「なんで有希なんかに電話してんの?
誰がしていいって言ったの?ねぇ?どうして?
なんでよ?」

 

「だ、だからお前が風邪って言ったから心配で……」

 

「あたしが『風邪』って言ったら風邪なの。分かる?
それにも有希にもプライバシーとかあるでしょ?分かった?
だから勝手に連絡とか取らないでね?コレは没収」

 

そう言って俺のケータイを服の中に入れるハルヒ。
って、おい!

 

「ちょっ、お前!?どこに隠しやがる!!」

 

「返して欲しければ、取ればいいじゃない。
今、丁度ブラの間にあるから……」

 

それは世間ではいわゆるTANIMAとかいう神聖スポットでは……
つか、そんなとこに手を入れたら俺の人生ジ・エンドだ。

 

「馬鹿言うな。できるわけないだろ」

 

「あら、どうして?
好きにすればいいじゃない」

 

出来るんならとっくにやって……
今のは失言だ。何でもないぞ。
とにかくハルヒは、勝手に部屋を出たことにご立腹らしい。

 

「心配しなくても、あとでちゃ〜んと返すわよ」

 

お前の口から『心配するな』と言われて信じるほど、
俺の頭はノータリンではない……が、
このままでは埒が開きそうにもない。

 

そう思った俺は、ハルヒの口車に乗った振りをして、
折りたたまれて挟まれている電子機器にしばし別れを告げた。
……羨ましいこと火の如し。

 
 
 
 

キョンたら……
あたしの言うことも聞かずに部屋を出て行くなんて……
でもどこにいるかなんてばっちり把握してるんだから。

 

さ〜て、今どこに……
あら、思い出の屋上前の階段じゃない。
キョン……もしかして、二人きりになれる場所にあたしを連れて行きたかったのかしら?
それならちゃんとエスコートしなきゃ……

 

いいえ、きっとあたしに追いかけてきて欲しかったのよ!!
そうだわきっとそうよ!!
もう、意外とロマンチストなんだから……

 

ほ〜ら、もうすぐそば、あなたの後姿が良く見え……

 

……ねぇ、何であたしに背中向けてるの?
それにどうして電話してるの?
長門?誰それ?
あんたが知ってる名前は『涼宮ハルヒ』だけでしょ?
ねぇ、勝手に知らない人間と電話しないで。
どんな悪い奴かも分からないでしょ。
ねぇ。ねぇったら。

 

……そっか、ケータイの電源切ればいいだけじゃない。
ほら、こうして、こうやって……

 

「何しやがるハルヒ!!」

 

それはこっちが言いたいわ。
はい、電源オフ。

 

それにしても……よりにもよってメス猫なんかと話すなんて……
いい、キョン。猫が話すなんてありえないのよ?
そっちの方が面白いのは分かるけど……
でもちゃんと相手を選びなさい?
汚らわしいメス豚よりシャミとお話した方が楽しいわよ?

 

……もう、そんな欲求不満丸出しな顔しちゃって……
そうだ!ちょっと誘ってみようかしら?
キョンのケータイをこうやって……
ふふ、照れてる照れてる♪
言ってくれればいつでもこうやって挟んであげるのに……

 

でも、誘いには乗ってこないわね……
ストイックすぎるのもどうかと思うわ。
罰としてこのケータイは没収ね……

 

それにしても、あのメス豚……
どうしてくれようかしら?
やっぱり団長直々に……

 
 
 
 
 

暴虐な地主にケータイと言う財産を召し上げられた俺は、
団室で一人で考え事をしていた。
どうやら他の二人も俺の探索に駆り出されているらしい。
もちろん考え事の内容は長門の最後の言葉だ。

 

しかし、今すぐ聞こうにも連絡手段はないし……
……仕方ない。
今から直接行くか。
ケータイを没収されたままなのは痛いが、
ハルヒだって滅多な事はしないだろう。

 

そう思った俺は、誰かが帰ってくる前に団室を出ることにした。
なんだか気分はダンボール好きの軍人だな……
『ミッション:長門の家にたどり着け』って感じか。
……っと、途中で何か買っていくかな。
体調は悪くないみたいだけど……まぁ、見舞いと言うことで……

 
 
 
 
 

彼の声が突然途切れた。
その前に聞こえてきた声……

 

忌々しいあの声……

 

彼にいつも迷惑をかけるあの女……

 

何の権限があって邪魔をするのか。
何様のつもりだ?
私が作った世界にも乱入してきて……
あの女さえいなければ今頃私たちは……

 
 

『おかけになった電話番号は、現在……』

 
 

さっきから彼の携帯電話につながらない。
もう30分ほどこのメッセージを聞いている。
どうやら電源が切られているようだ。
それとも、彼の携帯があのメスに電力を吸い取られたのか?
どこまで人のものを盗れば気が済むのか。
きっと彼は無理やり会話を中断させられたのだろう。
かわいそうだ。助けないと。
彼の障害になるものは全て排除せねば。

 

朝倉涼子から貰ったアレがいいか、
それともこの私の手で……

 
 

「〜♪〜〜♪」

 
 

突然携帯電話の着信が鳴る。
しかもこのメロディは彼の……
思うより先に身体が動く。
彼の声が聞ける……それだけで幸せになる。
そして私は電話に出t……

 
 
 

『ご機嫌いかがかしら?』

 
 
 

「!?」

 

何故あの女の声が!?
確かに着信は彼の携帯電話からだ。
電話番号も間違っていない。

 

『あら?有希ったら喋ることもできないの?
それとも……』

 

「あなたと話すことなどない。
それは彼の携帯電話……」

 

『そうよ、これはキョンのケータイよ。
よく分かったわね〜』

 

馬鹿にしているのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題は何故この雌犬が彼の携帯電話を持っているのか、だ。

 

「なぜあなたがそれを……」

 

『あら、何か変かしら?
あたしにしてみれば、あんたみたいな泥棒猫がキョンの番号知ってる方が変だけど?』

 

「泥棒はあなたの方」

 

『……は?』

 

この女は自分の事も分からないのか。
いや、盗人猛々しいとはこういうことを言うのだろう。

 

「早くそれを彼に返して……」

 

『人を泥棒みたいに言わないでくれる?
あたしはあんたと違ってキョンと相思相愛なんだから』

 

それはこちらのセリフだ。
どうやらこのメス犬は夢と現実の区別がついていないようだ。
病院に行った方がいい。

 

「あなたの戯言を聞く気は毛頭ない。
彼から強奪したそれを早く……」

 

『強奪?人聞きの悪いこと言わないでくれる?
これはキョンに貰ったの』

 

「……嘘」

 

『嘘じゃないわよ。
なんだったら明日キョンに聞いてみれば?
あんたの妄想と一緒に全部否定してくれるわよ』

 

嘘だ。
彼がそんなことをするはずがない。

 

『じゃあ、どうして今キョンは何も言ってこないのかしら?
あんたが言うようにあたしが強奪したんなら文句のひとつも言うんじゃない?』

 

「それは……」

 

『キョンは何も言わずにコレをくれたの……
ほら、キョンって不器用だから……』

 

知った風な口をきくな。
彼がそんなことをするはずがない。
……でもどうして彼は何も言わないの?

 
 

『だ〜か〜ら〜、あたしとキョンがラブラブだからに決まってるじゃない』

 
 

嘘だ!
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……
この女が奪ったに決まっている。

 

『もう、あたしのキョンに近寄らないでね、メス猫さん♪』

 

そういって電話が切れた。

 
 

……『あたしの』……?

 

何を言っているのか?
この女は彼の所有物だけでなく、
彼までも奪おうとしているのか?

 
 

許さない……

 
 

絶対に許さない……

 
 

そんなことは私がさせない……

 
 

そうだ、させてはいけない。
彼と私の幸せな未来のためにも……
アレさえいなければ今頃は二人で幸せに暮らしていたはずだ。

 
 

いや……今からでも遅くはない。

 
 

わざわざ世界を創らなくても、
あの女さえいなければいい……

 
 

私の手で直々に駆逐してやればいい。
特別に朝倉涼子から奪ったコレで……
彼に危害を加える者を、
彼に危害を加えた物で……

 
 

そうだ、あの女さえいなければ幸せになれる……
彼も私も……

 
 

あの女さえいなければ……

 
 

アノオンナサエ……

 
 
 
 

身体が自然にドアへと向う。
外の状況?気温?湿度?人数?
知ったことではない。

 
 

必要なものは駆除すべき細菌の居場所だけ……

 
 

……不思議だ……身体が自然に高揚してくる……
これが、喜び?
きっとそうだ……もうすぐ彼との幸せな生活が手に入る……
そのことへの喜び……

 
 

そうして、私の手は自然にドアを開けた…

 
 
 
 
 

「よぉ、長門」

 
 
 
 

「!?」

 

っと……何でそんな驚いてるんだ?
せっかく見舞いに来てやったのに……
まぁ、連絡無しだったから当然か。

 

「……どうしてここ……に?」

 

「ん?あぁ……
いくら下で呼んでも返事がなかったから、
困ってたら、お前のお仲間のあの先輩が助けてくれたんだ。
ええと、たしか……」

 

「喜緑江美里?」

 

そう、その人だ。
事情を話したらエントランスを開けてくれたよ。
あとで礼を言っておかなきゃな。

 

「そうではない……何故、ここに?」

 

「何故って……まぁ、心配だったから……
って、お前なんつーもん持ってるんだ?」

 

俺の声にあわてて手に持っていたナイフを隠す長門。
いや、そういった物はトラウマがあるから、
捨てるなり何なり……って、そうか。

 

「お前……」

 

「!?」

 

珍しく驚く長門。
この反応を見る限り俺の推測は間違ってないらしい。
そう思って俺は長門の恐ろしい出迎えの理由を述べた。

 
 
 
 

ドアを開けたら、
後はあの部屋まで高速移動すればいい……
そう思った私の目の前には彼が立っていた。

 

なぜ、ここに?
涼宮ハルヒの近くにいるはずでは?

 

そう思い理由を尋ねた私の質問に、
彼は少し的外れな答えを返してきた。
やはり彼と心の疎通はうまくいってないのだろうか?

 

どうやら、喜緑江美里が彼を招き入れたらしい。
あとで礼を言う必要がある。

 

その時、彼が私の手元を見て驚いた表情をした。
しまった……こんな物を持っている理由がない。
このままでは彼に嫌われ……

 

そう思った私に彼は話しかけてきた。

 

「お前……」

 

マズイ。
どうすればいい?どうすれば……
やめて、言わないで。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい……

 

しかし、私の心配とは裏腹に、
彼はまたも的外れな答えを出してきた……

 
 
 

「俺が果物買ってきたこと知ってたな?」

 

そう言って彼は嬉しそうに自分の手に持った買い物袋を持ち上げた……

 
 
 
 

長門が事前に用意してくれたナイフは非常に切りやすく、
りんごの皮がスルスルと剥けていった。
ただ、当てるだけでこんなに刃が食い込むのは何故なんだろう?

 

どうやら体調は本当にいいらしく、
俺が切るそばから果物をぱくついている。
正直追いつきそうにない。
まぁ、こんなにうまそうに食ってくれるなら、
俺としては文句のつけようもないわけで……
ほら、ウサギさんだぞ。

 

「ところで長門……」

 

「なに?」

 

桃缶の桃をひたすらぱくつく長門に、
俺は気になっていたことを聞いてみた。

 
 

「さっきの電話……最後何て言おうとしたんだ?」

 
 

その問いに、長門の動きが止まる。
正確には手と口だけしか動いてなかったが。

 

「あれは……」

 

桃が2個刺さったフォークを持ったまま、
長門は少し考えるような仕草をした。
いや、食ってもいいんだぞ、それ。

 

やがて、長門は答えを見つけたのか、
俺のほうを向いて、ちょっとだけ嬉しそうにこう答えた。

 
 
 

「……なんでもない」

 
 
 

……その顔でそれは反則だぞ……

 
 

結局俺は買ってきたフルーツを、
全て丸裸にして長門の口に放り込む作業に専念することとなった……

 
 
 
 
 

P.S.

 

さ〜て、キョンの電話帳に入ってる人全員に結婚しましたメール送ったし、
もう一度、あのメス猫に電話をかけてみようかしら……

 

「あら、元気かしらメス猫さん?
それともまだ妄想全開かしら?」

 

『……ちょっと待って……彼に代わる……』

 

え、『彼』?
『彼』って誰よ……

 
 

『電話って誰からだ……?え、俺?』

 
 
 
 

ナンデソコカラアナタノコエガキコエルノ?

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:49 (3088d)