作品

概要

作者十六夜
作品名長門有希の・・・
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-07-29 (土) 01:00:28

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 長門が暴走したり、ほかの思念体に攻撃を受け倒れたりとあった年の瀬から早半年。
 あくる日、長門がいつもの場所で本を読み、朝比奈さんがお茶を煎れ、俺と古泉がゲーム(今日はブラックジャック)をやっている放課後、ハルヒだけいない静かな部室で過ごしていると・・・
「釣りに行きましょう!」
 と、扉を開く音とともに現れ、叫んだ。誰かとは、言わんでも分かると思うがハルヒだ。まぁ、釣りなら何も起こらんだろうし、長門も楽できるハズだ。現にあの終わらない夏休み中でも、変なものも釣らなかったし、前向きに考えるとするか・・・。
「それで、どこでするんだ?」
 古泉が何時ものスマイルで、
「今の時期ですと、海釣りもいいですよ」
「そうねぇ、けど昨日、テレビで鮎釣りをやってたのよ。塩焼にして食べていたのが美味しそうで。ということで川にしましょう。カッパもいるかもしれないし!」
 そのハルヒは笑みを見せていたが、俺はそんなのは某CMだけで十分だと思いつつも、ちょいと気になったので、
「おい、長門。ハルヒはああ言っているが、カッパっているのか?」
「今はまだいない」
「「今は」って何だよ」
 聞いても、
「・・・」
 三点リーダーしか返ってこなかった。
「釣りって夏休みやったアレですよねぇ・・・。エサはまたあの虫を使うんですかぁ?」
 と逃げ腰ながら朝比奈さんが聞いてきた。と言われても、普通の釣りはともかく、鮎釣りはしたこともない俺なので、古泉に視線をやると、
「大丈夫ですよ。練り餌やシラスといったものもエサに出来ますし、毛バリで行う手法もあります」
 朝比奈さんはホッとした表情を見せ安堵していた。それにしても詳しいな古泉。
「えぇ、釣りは好きな分類に入りますからね。涼宮さん、鮎釣りならイイ場所を知っているので、まかせてもらえないでしょうか?」
「いいわよ、古泉君。釣り道具はそろってるの?」
「エサやハリなどは用意できますがサオは確か四本ぐらいかと」
 SOS団は五人。一本足りんが、
「確か家に一つはあったはずだ」
 中学時代に二、三回行った記憶があるので、まだ家にあるだろ。
「では、それをお願いします」
「じゃあ、それで決まりね!今週末に行きましょう。集合場所はいつもの所。遅れたらわかってるわね、キョン?」
「わかってるよ、死刑だろ」
「甘いわね、スマキにして川流しよ!」
 ふぅ、どっちみち死ぬな・・・。

 

 釣りに行く日が明日となり、押し入れやら屋根裏を探すことで釣ザオを発掘し部屋に戻ると、例のごとくカバンに入ろうとしていた妹を現行犯で捕まえる事に成功する。これまた、例のごとく、
「私も行く〜!」
 だいぶもめたのだが、妹とシャミセンにミヤゲとして釣った魚を持ち帰る事で何とか事なきを得た。ホッと一息つこうかと思った瞬間、携帯がなった。
 ハルヒだ。いったい何だろうね、決して良い予感はしないが、取らないわけもいかんしな。
「もしも・・・」
 言いかけたが、ハルヒの声でかき消された。
「明日は泊りよ。夜、花火したいからよろしく」
「は?何だそれ」
 と言ってる間に切られた。泊り?花火?全く何考えてんだ、あいつは。
 まぁ、長門や朝比奈さんと夜を一緒に遊ぶのだ。悪い気はしない。それにしても、花火か・・・。初夏に入ったことだ、時期的にはギリギリ合ってるし、近くの店でも売ってるだろ。
 時間を見ると九時半か。店は十時には閉まる。ふぅ、急がなくてはならんな、まったく。

 
 

 自転車で近くのスーパーに行ってみたところ、まだ置いてないそうだ。こうなってしまうと、ここからもう十五分程離れた大きめの店に行かなくてはならない。あそこも確か閉店は十時。今は九時四十七分。ちなみに十五分というのは、普通に行ってだ。全力で行けば十分ちょいで着く。はぁ、頑張るか。ため息ばっかだな俺。
 とまぁ、死力をつくしたお陰で、何とか閉店ギリギリに着いた。この店で売ってなければアウトだが、幸い置いてあった。結構、数はあったが吟味する時間はない適当にデカイ詰め合わせを一つと、線香花火やらネズミ花火など細かいのをいくつかカゴに入れ、レジで精算した。金は明日、ワリカンしてもらおう。
 どうやら俺が最後の客らしく、俺以外の客はすでにいないようだ。それにしても、暑いな。全力を出したおかげで汗だくだ。そもそも、今日は蒸し暑い。これも影響してると思うが、ホント暑い、冷たい飲み物でも買って帰るか。と、店に戻ろうとしたら、レジが閉められている。現在十時十分。当然か・・・。仕方がない、自販機で買うとするか。
 500mlのスポーツドリンクを買い、休憩もかねてどこかで座って飲もうかと、イイ場所を思索していると、あの公園が思い付いた。ここからなら、ゆっくり行っても二分とかからない。スポーツドリンクを一口、口に含んで自転車を走らせた。
 あの公園とは、長門のマンションの近く、また三年前にタイムスリップした時に朝比奈さんにヒザマクラしてもらった、さらにハルヒが消失した時未来の朝比奈さんと思い出話をしたとか、とにかく色々あったあの公園だ。

 
 

 公園に入り、くつろげそうなイスを探していると、長門がイスに座り空を見上げていた。珍しく、本は持っていない。長門もコチラに気付いたらしく、目線が俺と合った。
「よう、長門」
 額の汗を少し拭い、軽く手を挙げた。長門は相変わらずのミリ単位でうなずいた。
「ハルヒから、明日は泊りだと聞いたか?」
「聞いた」
 またミリ単位でうなずいた。
「どうしたんだ、こんな時間に?空を見ていたみたいだが、何か探していたのか?」
 まぁ、ハルヒなら、
「UFOよ!」
 といいそうだが、なんせ長門だ、それはないだろうと思った矢先、
「宇宙兼大気圏内飛行船。あなたの世界でUFOと呼ばれるもの」
 長門からこう言われ、アッケにとられた。
 五秒程だろうか・・・、口をポカンと開けていたと思われると、
「ジョーク」
 長門から発せられ、またしてもアッケにとられた。
「この前、読んだ本に書いてあった。どう?」
 いやいや、「どう?」と言われても、長門がジョークを言うなんて俺が死ぬまで聞くことはないと思っていたし、長門が言うならマジでUFOを探しているのかと思った程だ。とにもかくにも、意表をつかれたのは確かだ。このジョークは成功したといっても言い過ぎではない。
「あぁ、驚いたよ。まさかこのタイミングで言われるとは思わなかった。大成功だ、長門」
「そう」
 そっけなく答えただけだったが、俺には何だか満足そうな表情しているように見えた。
「それで、ホントはこんな時間に何してたんだ?夜もふけるとこの辺りでも物騒だぞ」
 長門にかかれば一般人は手も足も出ないと思うが、少女が夜一人でいれば心配なのは確かだ。
「タダの散歩。さっきは空を見ていた」
 また空を見上げ、話していた。その表情はどこか寂しげな感じを受けた。片手にスポーツドリンクを持ち、
「隣、いいか?」
 尋ねた所、目線をこちらに向け、
「いい」
 一言話しイスの真ん中から少し端へと移動した。隣に座らせてもらい、俺も長門と同じ様に空を見上げた。
 しかし、いくらこの公園に緑が多いといっても町中だ。少しいけば、駅もあるし国道も走ってる。俺の田舎ならまだしも、決して大気が澄んでいるワケではない。実際、空を見えた星は五個程だ。長門の視力は知らんが星を見ていたとは思えん。

 
 

 座り始めて二十分だと経過しただろうか・・・。そのころには、スポーツドリンクは飲み終え、汗も引いてきた。この間、長門はずっと空に集中していたようで、俺がふと横を見ても変わらず上を向いていた。やはりどこか寂しげな表情をしているように感じた。
「長門、俺はそろそろ帰るよ」
 立ち上がると、長門の視線が俺に向けられ
「そう」
 同じく長門も立ち上がった。
「長門も帰るのか?マンションの入口まで送るぞ」
「かまわない」
「そう言うな長門、いくら近くでも女性を夜、一人で帰るのをほっとくようなマネはできん」
「なら・・・」
 一区切りあり、
「お願いする」
 飲み終わったスポーツドリンクのペットボトルを近くのゴミ箱に捨て、自転車を押し長門の歩数に合わせるよう隣を歩く。五分もかからず、会話なくマンションの入口に着いた。
 長門はコチラを向き、
「ありがとう」
 一言つぶやき、
「気にするな、どうという事もない。じゃあ、また 明日、集合場所で会おう」
 自転車にまたがり手を挙げた。
「また・・・、明日」
 長門もいつもの無表情・・・、イヤ違うな・・・少し嬉しそうな表情をして、手を挙げていた。

 
 

 長門と別れ、自転車をコギはじめ帰路へと着いた。それにしても、長門がジョークを言うとは、初めて会った時には考えられなかったな。古泉が、
「長門さんから受ける宇宙人的な感覚が減り、人間に近づいている」
 みたいな事を言っていたがその通りかもな。っと、そんなこんな事よりも、空を見上げていた長門から感じた寂しげな表情は一体何だったんだろうな?
長門も憂鬱な気分になったりするのだろうかと、機会があればそれとなく聞いてみるかな・・・、と思いを巡らせている間に家に着いた。遅刻したらスマキで川流しだしな、今日の所はさっさと風呂に入って、布団に入るとするか・・・。

 
 
 

 ガサゴソ・・・。
 何だ・・・、ドアが開く音もさっき聞いたような気がする・・・、目覚まし時計を見る、六時半だ・・・。昨日、目覚ましをセットしたのは八時だ。何で音がする・・・、その前にアラームはガサゴソという音はしない。ここで意識がはっきりし睡眠を邪魔されると、またしても妹がカバンに入ろうとしていた。現行犯で捕まえたが、まだあきらめて無かったのか。
 妹よ、次は執行猶予なしでお仕置きだぞ。
 まぁ、このおかげで寝坊せずにすんだ。ちょいと早すぎるがな。ミヤゲの魚はフンパツしてやろう。
 ずいぶん早いが、もう出発するか、早いことに越したことはない。アクビをしつつ、昨日の自転車速度に比べ半分のスピードでペダルをこいだ。

 
 

 それでも、約束の四十分前に着いた。さすがに誰もいないだろと思ったら長門はすでに待機していた。
「早いな、長門」
 集合場所に近付き声をかけると、
「・・・」
 無言だがうなずきを返してくれた。
「長門、昨日の・・・」
 昨夜のあの寂しそうな表情をしていた事を聞こうとしたが、朝っぱらから聞くのも何だしなぁと思い
「いや、何でもない」
「そう」
 目線を変えず答える長門。
 十分ほど経過したころ、ハルヒが駅から現れた。俺の姿を見て少し驚いた様子だった。
「めずらしいわね、アンタが一番最後じゃないなんて。何かが起こる前兆かしら」
 俺が早いと、ココまで言われるのか・・・、
「俺もたまには早く来るさ。そんなことより、泊まりってどうするんだ。テントでも持って来てるのか?」
「テントなんて持ってきてないわ」
テントはない、だが泊まりという話だ。ならこの答えはただ一つ、
「なら野宿か」
「まさか!アンタみたいな男がいるなかで、そんな危険な事しないわよ」
 違ったか。しかしなぜ、俺限定なんだよ、じゃあ女だけならいいのかよ、というツッコミは声を出さずにいよう。
「古泉君がまかせておいて下さい、と言ってたからどこに行くかも聞いていないのよ。古泉君の事だから、野宿はないと思うけど、どうなるかは来てからのお楽しみにしてなさい」
 そうだな、そうするか、待っていればそのうち答えからやって来るだろ。
 さらに五分ほど経ったころ、朝比奈さんがやって来た。
「ごめんなさぁい・・・。お弁当を作っていたら、思ったより時間がかかっちゃってぇ・・・」
 イヤイヤ、まだ集合時間まで二十分以上ありますし、手料理まで持って来てくれてるんです。コチラが謝るぐらいですよ。
 さて、あとは古泉か。あいつに限って遅刻することはないと思うが、オゴリは奴で決定だな。まぁ、遅刻するのは俺ぐらいで専売特許と言ってもイイ。何の自慢にもならんがな。
 ここで三人の待ち方を説明すると、長門は分厚い本を読み、朝比奈さんはホンワカ立っており、ハルヒはサオを振る素振りをして騒がしくしていた。俺はというと三人の観察だ、コレが中々飽きないものでね。
 にしても遅いな、後三分で集合時間になっちまうぞ。
 その時、バカデカい車が一台、目の前に止まった。
「やぁ皆さん、そろっていますか」
 古泉が車から降りてきた。
「いやぁ、駅前に長いこと駐車するとマズイので、時間ギリギリに来させて頂きましたが、その点ご理解を。・・・どうやら、今日は時間通り来ているようですね」
 最後の一言は俺に向けられた。うるさい、余計なお世話だ。ハルヒも古泉も俺が早いとおかしいのかよ。いつも俺が一番最後と決まっているワケじゃないぞ、・・・九割はそうだが。
 それにしても、キャンピングカーか・・・。コレなら寝泊まりできるし、納得だ。しかし、こんなのを持ってこられてしまうと、オゴレとは言いづらいな。ちっ、今日のトコは言わずしとくか。ハルヒも目を輝かせてるし、今はオゴリ設定なんて忘れてるだろ。
「で、誰が運転してるんだ?」
「新川さんですよ、持ち主は多丸さんですがね。事情を話すと快く貸してもらえ、運転は時間が空いていた新川さんにお願いしました」
 なるほどな。
「そんな事はどうでもいいわ!さぁ、皆乗りなさい、早く出発しましょう!」
 笑顔で乗り込んでいくのはいいだが…ハルヒ、もうちょっと遠慮というものを…、
「いいですよ、涼宮さんに喜んでいただけ幸いです。皆さんもどうぞ」
 次に長門が入り、朝比奈さんが、
「へぇー、わぁー」と言いながら入っていった。じゃっ、俺も失礼するか。
 まず第一印象として、広い、それしか言いようがない。ソファー付きリビング、キッチンや冷蔵庫、トイレまで付いているじゃないか。古泉が言うにはソファーを倒し、ベッドになり四人、ロフトで四人、楽に寝れるらしい。なんとシャワーまで付いているときたもんだ。ホテルのようだな、このフル装備は。まったく、タダの自動車と言えない、この移動する家は一体いくらするんだろうね。機関とやらが羨ましく思えるよ。

 
 

 新川さんに挨拶と礼をし、出発することになった。新川さんが言うには、二時間前後で着きますので車の中は自由に使って楽しんでください、だそうだ。
「まずはトランプをしましょう!」
 すると、大のゲーム好きである古泉がどこからともなく取り出し、五人に配り出した。
「まずは、オーソドックスにババヌキでもしましょうか」
そ の後、ポーカーや新たに古泉が取り出したウノを数戦したが結果、常にポーカーフェイスの長門が圧勝に時々ハルヒが勝つといった感じだ。最下位は圧倒的に古泉が多かったワケだが。

 
 

 一時間半程経った頃、すでに窓からの景色はきれいな緑一色になっており、時々家が建っている程度だった。・・・だいぶ、山手の方まで来たな。おっと、動物飛び出し注意の看板まであるな。ふと、気付いたら、ハルヒが冷蔵庫をあさっていた。本当に遠慮というのを知らんなぁ、お前は。
「ずいぶんいろんな種類があるわね〜、お酒まで入っているじゃない」
 嫌な思い出が蘇った。孤島の出来事だ。
「飲むなよ、ハルヒ」
 勧告すると、
「わかってるわよ、私はあの一件以来飲まないと誓ったもの」
 それは殊勝だ、酒にめっぽう強いのは長門ぐらいだしな。
 ハルヒは適当に五本取り自分のテーブル前に並べた。おっ、人数分持って来るなんて、珍しく気がきくじゃないか、さっきの遠慮を知らんというのは取り消すか。
「さぁ、好きなのを取りなさい!」
 まず、長門が一番自分の近くにあったのを取り、次に古泉と朝比奈さんが一礼をしつつ、取っていった。さて、俺はどっちにするかな、と考えていると、
「時間切れよ!キョン、あんたは無しね」
 若き頃の織田信長のごとくの横暴だ、ひでぇ、こんな理不尽な仕打ちは初めてだな・・・。
 仕方がない自分で冷蔵庫から取るか、と立ち上がろうとしたら、長門が服のスソを軽く引っ張っていた。俺を見上げ、
「飲む?」
 もう片方の手に持たれている飲み物はすでに四分の一程減っていた。いやいや長門、俺に気を使ってくれるのはありがたい、その優しさは心から感謝するが、流石に皆の前で間接キスはヤバイだろ。もちろん二人の時でもヤバイが、って何考えてんだ俺は。
 なんと受け取るか、イヤそうすると皆の視線が痛い、特にハルヒ。それとも断ろうか、ダメだ、長門の優しさを踏むことになる。チクショー、何でジュースごときでここまで悩まなくちゃいけないんだ・・・。
 しばらく、回答に躊躇していると、横から、
「やっぱりあげるわよ!有希、キョンにあげる必要はないわ」
 何故か不機嫌ながら、ジュースが俺の前に置かれた。
「そう」
 長門は俺に差し出していたジュースを自分の口に運んだ。ったく、人の好意を消すようなマネをしやがって。まぁ、あのまま飲むワケにもいかんし、断るのはもっとダメだろう、どちらに転ぶワケにもいかなかったのだ。そういう意味では助け船になったな。
 ちなみに、古泉が終始ニヤニヤしていたのは無視しておいた。

 
 

 しばらくすると、ジャリジャリジャリという音がして、車が止まった。どうやら着いたみたいだな。
 運転席から、
「皆さん、着きましたよ」
 新川さんの声が聞こえ、
「いっちば〜ん!」
 ハルヒが飛び出していった。ゲームに熱中していたせいか、それとも窮地に立たされた二択のせいか、二時間も早く感じたな。
 車から降りると、心地よい風を受けた。さすがに山のなか、しかも清流がすぐそばで流れているので、町中に比べてずいぶん涼しい。日があたるとちょうどイイ感じだな。さっきまでの殺伐とした空気がウソみたいだ。
「この辺りは、結構穴場で人も少ないのですよ」
 古泉が車の荷台から釣りザオを取り出してきた。後からは、新川さんがエサやハリなどの小道具が入ったカゴを持ち、ついてきた。
「では始めに、鮎釣りの簡単なレクチャーをします。練習もかねて、十二時までには終わるので、お昼を食べて午後から本格的に始めましょう」
 お昼は朝比奈さんの手作り弁当だ、この上ない楽しみだな。

 
 

 古泉はハリ エサの付け方、鮎が川のどのポイントにいるかを得意気で説明した。この時ばかりは、俺も含めて長門や朝比奈さん、あのハルヒでさえ熱心に耳を傾けていた。やはり、釣りに来た限りは釣って帰らんとな。収穫無しで帰るとシャミ・妹の両方に怒られそうだし、たまには兄の威厳を見せるため、たくさん釣って持って帰ってやりたいものだ。
 説明が終わった頃には、昼飯を食べるのにちょうど良い時間になっていた。見れば、新川さんが折りたたみ式の机とイスを準備していた。そんなものまで搭載してたのかよ。どこまで、フル装備なんだ。
朝比奈さんが、手作り弁当が入ったバスケットを机に置き、中身を取り出した。どれどれ・・・、オニギリ・サンドウィッチ・卵焼き・タコさんウインナー・コロッケ・マカロニサラダなどなどバリエーション豊かだ。
 朝比奈さん、お疲れ様です、そしていただきます。うん、ウマイ。
 朝比奈さんは、「どうですかぁ?」「おいしいですかぁ?」と不安そうに聞いているが、「マズイ」とか、ぬかす奴がいればソイツの舌がおかしいといえよう。そして、この俺が許さん、夜襲をかけてでも倒す。
 ハルヒも長門もいつもの食いっぷりを見せている。いつもの事だが、長門のあの小さな体のドコに入っているのだろうか、ブラックホールなみだな。
「ふぅー、満腹満腹」
「相変わらずおいしいですね」
「朝比奈さん、とても美味でしたよ」
「・・・」
「朝比奈さん、ごちそうさまでした」
「いえ、そんな・・・、こちらこそ」
 順にハルヒ、古泉、新川さん、長門、俺、で最後に朝比奈さんである。
「さぁ、釣りをはじめるわよ!」
 ハルヒはサオを持ち、暴走車のごとく川へ向かっていった。
「では、僕たちもいきましょうか」
「お片付けはお任せください。それと私は車の中で待機していますので、御用があればなんなりとお申し付け下さい」
 新川さんはすでに片付けを始めていた。新川さん、ありがとうございます。皆で礼を言った、先に行ったハルヒを除いてだが・・・。

 
 

 さてさて、ようやく釣りの開始だ。
 古泉のレクチャー通りエサ付けて・・・と、記念すべき一投目を、いざ。力を込め、いきこんで投げたら、付けていたエサがあらぬ方向へ飛んでいってしまった。どうやら、ハリにちゃんと付いていなかったようだ。これは恥ずかしい。
 どうやら皆、俺を見ていたらしく、ハルヒは大笑い、古泉はそっぽを向いて苦笑、朝比奈さんでさえ、笑うのを隠そうとして口を手で押さえている。肩がヒクヒクしているからバレバレなんだが・・・。
 ・・・逃げたい。穴があったら入りたいという心境は正にこのことか。
 あまつさえ長門には、
「ギャグ?」
 顔を軽く横に倒し、尋ねるように聞かれた。国外に逃げたいと思った。
 気を取り直して再スタート。ちなみに長門、朝比奈さんと俺がエサ釣り、ハルヒと古泉が毛バリによるフライフィッシングで行っている。
 ちなみに今回は勝敗がある。ゲーム好きの古泉が勝負を仕掛けてきたが、勝負と名がつけば古泉には負ける気がしない。初心者の朝比奈さんを除き、四人の個人戦となっている。最下位には罰ゲームだが、内容が後決めなのでプレッシャーがかかるバトルだ。
 しかし、古泉はともかくハルヒは、初めてだぞ。フライフィッシングなんてできるのかよ・・・、そうだ、あいつは完璧超人だったな。いきなり釣り上げやがった。
「ふむ、中々の大きさですね、20cmといった所でしょうか。流石ですね、涼宮さん」
「あったり前じゃない!さぁ、ドンドンいくわよ、キョン、見てなさい」
 なぁに、まだまだこれからさ。ハルヒなど見返してやるさ。

 
 

 ハルヒを見返してやると決めてから、一時間経過。世の中、そんなにアイスみたく甘くないもんだな。天才超人・ハルヒ、さわやか超能力者・古泉はこの一時間で10匹ほど釣ってやがる。本好き宇宙人・長門はエサをつけるなど、サオを投げるまでの行動は遅いものの、投げてエサが水に落ちると5秒もたたず、引き上げているのに釣れている。まるで、魚をピンポイントで見えているみたいだ。いや、見えているのだろうな、きっと。
 そして、愛くるしい未来人・朝比奈さんとドコから見ても平凡・俺はというと、今だ一匹も釣れていない。ボーズだ。朝比奈さんは釣ザオを振っても、二メートルほどしか飛ばないので、仕方ない。しかし、俺はなぜ釣れん。釣れない釣りとはつまらないものだな・・・。すっかり、やる気が失せてしまった。
しかし、ここでようやく釣り女神が俺に降臨し手応えが帰ってきた。
「よし、逃がすか!」
 ふぅ、ようやく一匹釣れた。しかし、サオを上げるとアユではなかった。

 

カメだった。

 

 声がでかかったのか、またしても注目を浴びていた。皆の反応は、言わずとも分かると思うが一時間前と同じだ。三者三様の笑い声が聞こえる。
そしてまた、
「ギャグ?」
 トコトコやってきた長門に尋ねられた。宇宙に逃げたくなった。

 
 

 まぁ、こんな恥じさらしを団員にさらしたが、ともかく「釣った」ということが良かったのか、流れが変わったようだ。俺にも、朝比奈さんもほぼ同時に初めのカメでないアユを釣り上げ、その後すぐ二匹目と釣れだした。このまま、ハルヒを追い抜くぜ。罰ゲームはイヤだし、勝負に出た以上、俺のプライドが勝てと言っている。
 ところが、パッタリと釣れなくなってしまった、ハルヒや古泉、長門でさえだ。
「アユの群れが離れてしまったかもしれませんね」
 かもな、魚がいないトコでいくら仕掛けても無駄だ。それにしても、まずいな・・・、ハルヒがイライラしている、古泉何とかしろよ。
「少しポイントを変えましょうか、上流と下流に分かれましょう」
「じゃあ、私は上流へ行くわ。皆はどうする?」
「では僕も上流へ」
 ここで朝比奈さんが、オズオズと手を少し挙げ、
「あのぉ〜、私は少し車で休憩してもいいですか?朝が早かったので」
 確かにあの量の弁当を一人で作ったのだ、一時間やそこらで作れるもんじゃない。その点ハルヒも理解しているのか、
「仕方ないわね。後でまた参加しなさいよ」
「はぁい」と車へ入っていった。
「長門、お前はどうする?」
「ここに残る」
「そうね、ここで待っていればそのうち魚も戻ってくるかもしれないし、それも手ねぇ。キョンはどうする?」
 ハルヒ、古泉は上流、長門はそのまま、なら、
「下流へ行ってみるよ」
「そう、じゃあ分かれましょう。たくさん釣れるようなら、電話いれなさいよ。勝負とはいえ、抜け駆けは禁止よ!」
 ハイハイわかったよ、ハルヒさんよ・・・。

 
 

 サオにエサと一通りの道具を持って五分ほど歩き、良さげな場所を確保した。周りを見渡すと少し離れたトコに、何人か釣り人がいるな、ココは釣れるポイントかもな。できれば、この別れたスキに差を縮めたいものだ。すでに、十匹以上はなれているからな、我ながら情けないコトだ。
 そういや、今日初めて一人になったな。別に一人好きってワケじゃあないが、あのハルヒを中心とした集団にいると疲れるのは当たり前だ。俺もSOS団で楽しんでいないワケでもないが、一人でゆっくり過ごしたい時もあるさ。
 ところで、ハルヒがいないとホントに静かだな、少しは長門を見習ってもらいたいものだ。長門と二人きりになって、会話が全く出ないというのも困りものだが。まぁ、今は一人の時間を大事にするか、のんびり釣りにでもいそしむか。
 釣りを再開して五分、さっそく一匹釣れた。これは幸先がいいな、前半のハルヒとの差を縮めていけそうだ。その後も、十分に一匹以上のペースで順調に釣り上げていった。やはり、釣りは釣れないと面白くない、それにこのぶんだと、妹とシャミのミヤゲもフンパ出来るな。

 
 

 四十五分ほどだろうか・・・、俺が気分良く釣りを続けていると、カルピスに水をさしたように電話がなった。・・・やっぱ、ハルヒか、
「どう、そっちの調子は?」
「中々だ、すでに、えー、七匹釣れた」
「なんだ、それだけ?私と古泉君はもう十五匹は釣ってるわよ、あんたはまだまだね」
 何だと、また差がつけられてしまったのか。これは相当気合を入れないと負けだな、
「で何の用だ?」
「こっちでたくさん釣れるから、あんたも上流まで来なさいよ!」
 ココで切られた。返事もしてないのだが、まぁいい、いつもの事だ。それに上流ではよく釣れるみたいだし、損はあるまい。では、急いで上流へ行くとするか。

 
 

 早歩きで上流へ向かう途中、初め釣りをしていたトコでは、長門はサオを置き、分厚い本を読んでいた。
「どうした、長門?」
 長門は開いたページを見つめ、
「待っている」
「何を?」
「アユ。後、一時間三分でこの周辺に集まってくる」
 おいおい、気が長い話だな、一時間もあれば、昼寝ができるぞ。
「上流でたくさん釣れるようだが、長門も来るか?」
「いい、ここで待つ」
「そうか、ならしばらくしたらココに戻ってくるよ」
 ここで、視線が本から俺に向けられた、
「了解した、待ってる」
 わずかばかり頷いた。
 俺が上流へ足を運び三歩進んだところで、ふと昨夜の事を思い出し、長門の方へ振り向いた。
「長門、昨夜の事なんだが・・・」
「何?」
 視線はまだこちらである。
「空を見ていた時、何か寂しそうな顔をしていなかったか?」
 長門はピクッと・・・反応した気がした。
「していない、おそらく気のせい」
 首を振る否定のしぐさ。気のせいか・・・、そうかもな。いくら俺が長門の表情から感情を読み取るプロとはいえ、勘違いもあるかもしれん。あの時は夜もふけていたし、灯りも公園の電灯だけで辺りも暗かった。
「そうか、それならいいんだが」
 再び、足を上流へと向けた。何か、長門に上手くはぐらかされた気がするが・・・、長門の寂しげな表情なんてこれまでほとんど見たこともないしな。まぁ俺の思い過ごし・考えすぎだとイイんだがな。

 
 

 上流に向けて五分も経たない内にハルヒ達と合流した。ハルヒは俺を、王が平民を見るような表情をし、指を川に指した。そこには、釣り上げたアユがアミにところ狭しと泳いでいた。
 だめだ、これは負けた、ハルヒの表情も理解できる。こうなったら仕方がない、最後・最終・俺の切り札だ。・・・勝負は忘れ純粋に釣りを楽しむか。そこ、負け犬とか言うなよ!
 それにしても、ココはよく釣れるな、終盤にペースは落ちたが一時間弱で十五匹釣れた、上出来だろ。ハルヒと古泉はそれ以上釣っていたのは、気にしない事にする。
「ん〜、ちょっとペースが落ちてきたわね」
「これだけ釣ってしまいましたら、釣れにくくなっても仕方がないですね」
 ハルヒと古泉も同様に釣り上げるペースが落ちてきた。
「さっき、初めの場所を通った時に長門が、一時間後ぐらいに魚が戻ってきそうみたいなことを言ってたぞ」
 俺が古泉に意見すると、ハルヒが横から、
「そう?有希の言うことは良く当たるし、一回、戻りましょう」
「では、一旦戻りましょうか、釣ったアユのうち小さいのは逃がしてしまいましょう」
 この提案に俺とハルヒは賛成し、小振りのアユは全て逃がした。アユ達よ、今度は釣られるなよ。

 
 

 元の場所へ戻ると、長門が釣りを再開しており、アユを釣り上げていた。やっぱ、長門の言う事は当たるな。朝比奈さんもちょうど車から出てきて、また初めのように五人で釣り始めた。変わったのは、俺もアユが順調に釣れているということだ。ホントは、始めは釣れなかったのだが、長門が釣れるポイントを教えてくれたのは皆には内緒にしといてくれ。
 一時間程、談話をはさみながら釣りも盛り上がっていた。しかし、ハルヒの顔が少々不機嫌になっていた。
「どうしたハルヒ?アユならたくさん釣れているじゃないか」
「アユはね。そろそろ変わったものが釣りたいと思って」
 釣りを行くと決めた日、ハルヒのカッパ発言を思い出した。(カッパもいるかもしれないし!)このセリフが脳のどこかから、再生された。
「言っとくが、カッパは釣れんぞ」
 釣られたら、どうしようもないので先に、警告しておく。
「わかってるわよ。ここに着いた時思ったけど、こんな目立つ所に居たらすぐ見付かっちゃうもんね。だから、さらに山奥のうっそうとした密林に居るのよ。」
 どうやら、カッパを釣る危険性はなさそうだ、・・・カッパはいると思っているようだが。念のためもう一度、長門に聞いてみると、今度は答えてくれた。
「・・・」
 何だって、うん、イヤイヤ俺の聞き間違いだな、そうに違いない。始めの一文字目が、あ行の上から二つ目、二文字目が、ら行の上から三つ目が鼓膜に振動したなんて気のせいに決まっている。長門も、もうそれ以上聞きたくないから言い直さなくてイイぞ。いるはずないさ、カッパなんて未確認生物は。

 
 

 そんなやりとりの十分後、
「あら、岩に引っ掛かったかしら?やけに重いわ」
 古泉の口調が少しマジメになり、
「涼宮さん、もしやアユ以外の大物ではないのですか?」
「魚にしては、その割には引きがないよのよねぇ。アユでももっと手応えあるし。よいしょっと、あっ、頑張れば何とか巻き戻せる」
 未確認生物(特にカッパ)以外なら大歓迎だぞ、ハルヒ。しかし、未確認生物はイヤだがやはり気になる。俺は釣りを中断し、ハルヒに近付き様子を見てみることにした。
「あっ、影が見えてきたわ、かなり大きいわね。みくるちゃん、アミ持って来て!」
「はい、わっ、本当ですね、すごく大き・・・」
 そこで朝比奈さんは、
「ひやぁ〜」と可愛い悲鳴をあげ逃げていった。
「あっ!みくるちゃん、どこ行くのよ」
 何事だ?
 ほり出されたアミを拾い、影を見た、だいぶ鮮明になっている。なんだあれは、手足がある、トカゲか・・・、イヤイヤ、サイズが違いすぎる。五十センチは軽く超えている。俺の手前一メートルに近付いた時、正体がわかり、アミでソイツをすくった。
「これはこれは、オオサンショウウオですか」
 古泉も驚いているようだ、わざとらしいが。しかしこれは、知っての通り日本の天然記念物だ。
「古泉、この川にはオオサンショウウオは住んでるのか?」
 両手を挙げ首を横に振った、
「いえ、これは僕の知るところにはありませんね」
そのなら長門が頼りだ。
「この有機生命体は三週間前に、雨で増水した川に約60km上流から流されてきた。これほどの距離を流されまだ息があり、無傷なのは極めて希」
 だそうだ。ハルヒは変わった物が釣れて、満足そうだしココはつっこまないで置くか。未確認生物でないならオオサンショウウオなんて安いもんだしな。

 
 

 古泉が水を入れたクーラーボックスにオオサンショウウオを移した。
「それで、オオサンショウウオって食べれるの?」
 誰が食べるか! とんでもない事を言うハルヒだが顔はマジメだ。
「いえ、流石に無理でしょう。それよりも、確かこういう時は警察に連絡しましょう、もと居た生息地に帰してくれるでしょう」
 あぁ、それがいい、オオサンショウウオは故郷に帰れるし、ハルヒによって夕飯に並べれられるかもしれない俺たちにとってもそれが一番だ。見ろ、朝比奈さんはすっかり岩場の影で怖がっている。長門は普段見かけない生き物に興味があるのかずっと見ているが。
「しょうがないわね、いつか恩返しに来なさいよ」
 そりゃ、両生類にはコクな話だ、勘弁してやれ。
古泉が形態で警察に事情を話すと、すぐに迎えに来るそうだ。さすが天然記念物、扱いが違う。
 しばらくすると、パトカーに乗って警官が二人来て、ハルヒと古泉が事情を説明した。警官が礼を言うと、釣ったハルヒに名前を聴いてきた。何でも、名前ぐらいなら新聞に載るかもしれない、ということ。これを聞いたハルヒはこれまでない上機嫌で警官に対応していた。まったく、天然記念物なんて釣るもんでは無いな。
 でも、カッパに比べれば許容範囲内だろう。未確認生物を捕まえたとなれば、新聞1面は当たり前、テレビも殺到するだろう。宇宙人、未来人、超能力者がいる集まりが言うのも何だがな。もし世間に知られれば、三人共通する人物として、俺も怪しげなトコに連れて行かれそうだ。
 警官が持ってきた水槽に、オオサンショウウオを移し入れ一礼をして、帰っていった。新聞に載らないことを祈ってるぞ。

 
 

 さて、釣りにも一区切りがつき、日もだいぶ傾いてきたな、腹が減ってきている。
「どうだ、ここらで夕飯にしないか」
「そうですね。ところで勝負の結果を確認しますか?」
 覚えていやがったか・・・、
「しなくても分かるだろ、俺の負けだ。それで、何をやらされるんだ」
 負けは負けだ、何でも受け入れてやるさ。
「じゃあ、次回の遊びはキョンのおごりで!」
 ハルヒによって、単純にして最大のダメージを俺に与える、また金が減るのか・・・。
「どこに行くかは、楽しみにしてなさい」
 安上がりなものにしてくれよ、ハルヒ、ただでさえ金欠なんだから。
 アユは五人分合わせると相当の数になっていたので小さいものは、全て逃がした。それでもまだ、六十匹以上いるな。ココで俺は、ミヤゲとして五匹もらい、皆も二、三匹家に持って帰ることになった。車を貸してくれた多丸さん兄弟のミヤゲ分もよけたが、それでも残り四十匹か、食いごたえがありそうだ。
 まず、ハルヒが当初から所望していた塩焼きからすることになり、残りは新川さんが料理してくれることになった。孤島の別荘ではうまい料理を出してくれたし、これは実に楽しみだ。ここで、塩焼きの手順を公開しよう。
1.アユの水気をとる
2.塩をまぶす(尾とヒレにたっぷりこすりつけるのがポイントらしい)
3.串をさし、強火の遠火で焼く
 これで終わりだ。この手順で、古泉の慣れた手つきで、甘美な香りがする焼き魚となった。
 新川さんの料理はもう少しかかるらしい。新川さんには悪いが、先に塩焼きをいただくことにした。ハルヒがまだか、まだかと待ち構えているし、俺も正直匂いをかいで、ヨダレが口の中にたまってるぐらいだしな。
 アユの塩焼きは、テレビでは何度も見ているが、実際食べたことはない、お味はどんなもんかな。まず一口、うん、これは、うまい。
「美味しいわね〜、やっぱり自分で釣った魚は格別ね」
 とハルヒ、
「そうですね、新鮮ですし皆と食べると味も上がりますね」
 と古泉。朝比奈さんは少しずつかじっていたが、
「私、こういうのは初めてですけど、おいしいですねぇ」
 長門とは・・・、あぁ、もう二匹目に入っている。気に入ったようだな。それにしても、外で食べる飯はうまいものだな。
 新川さんの料理がぞくぞくと出来上がっているらしく、テーブルに次々と並べられていく。天ぷら・フライ・刺身・マリネ・あれは味噌をつけて焼いたものだな、田楽というやつだ。すごいレパートリーだな、テーブルにところ狭しと並んでいる。塩焼きも一緒に並べると、アユのフルコースが完成だ。食いきれるかどうか、心配だ。

 
 

 心配は気苦労に終わったようだな、ハルヒと長門によって、皿の上は綺麗に片付けられた。ココで改めて聞こうと思う、長門のあの小さな体のドコに食材が入ったのだろうか?
 まったく・・・、敬意に値するね。

 
 

 すでに日は沈んでおり、空気もヒンヤリしている。
「花火をしましょう!」
 ここで俺が持ってきた花火の出番だ。すでに、花火代の金は回収した、ただでさえ今度、俺のオゴリになっているからな。
 ハルヒが早速、袋に入っていたデカイ打ち上げ花火をぶっぱなした。すぐに打ち上げか、こういうもんは始めに手持ちの小さなものをして、打ち上げ、最後に線香花火だろ。これが花火の王道というものだろう。いきなりメインとは、絶対アイツは、好きな物は先に食べる派だな。
 ・・・まぁいいか、楽しんでいるみたいだしな。古泉はハルヒによって次々に打ち上げられている花火を見上げている。長門も朝比奈さんも手持ちの花火で遊んでいる。
 それにしても・・・、やはりこの二人は可愛いな。百人いれば百人そう言うだろう、確信持って言える。そんな二人にみとれていると、
「ヒュン!」
 頭を何かがかすめ、振り向いた目先にはハルヒが立っていた、そして
「パァッン!」
 空から音がした。・・・なるほど、これらのコトを推理すると、
「ハルヒが俺に向けて、ロケット花火を発射した」
 で合ってるだろう。ハルヒが子供のイタズラを見ていた母親のような表情でコチラを見ている。
「ハルヒ・・・、俺を殺す気か?」
「アンタ、みくるちゃんと有希を見てニヤケてたでしょ!」
 うっ、否定できん、自分の表情は確認できんが、その可能性は十分にある。しかしココは、
「イヤイヤ、見てはいたがニヤケてはいないハズだ」
 一応否定しておこう。
「ウソよ、まだアンタの顔が半分ニヤケているもの。まぁいいわ、見ているだけじゃなく、キョンもやりなさいよ」
 ふぅ、何とか収まったな。ココはハルヒの言うコトに従っておこう、次にいらんコトをすれば、打ち上げ花火が飛んできそうだ。小さいロケット花火ならともかく、打ち上げなら冗談抜きで命が危ない。
 その打ち上げ花火も無事、俺ではなく空の闇へといくつも上がり、小一時間もすれば買ってきたデカイ花火セットも残すのは、線香花火のみ。やはりシメといったらコレだな、なぜかは知らんがこれが全国共通でお決まりだろう。そして、同時に点火し誰が、最後まで残るかを勝負するのもお決まりだ。
 その勝負の結果は、先に落ちた順から、古泉、朝比奈さん、俺、長門とハルヒが最後までデットヒートを繰り広げたが僅差で長門の勝ち。
「あぁーもぉー、くやしいぃー!」
 ハルヒ、そんなコトでそこまでくやしがるなよ、大人気ない。残す線香花火はあと少し、全部女性陣に譲るとしよう。ハルヒは長門に、リベンジしようとすでに、線香花火を持って、
「再勝負よ!」
 とか言ってるし。

 
 

 そんなわけで、線香花火を楽しむ三人娘をめでているワケだが、その中で長門が一番線香花火が合うな。朝比奈さんも充分可愛いのだが、長門とどちらが合うかと言われれば、長門のほうが合っている。 雨の日に咲き乱れるアジサイ、というぐらい合っていると思う。まぁ、ハルヒは特大の打ち上げ花火で決まりだが。ともかく、その長門から目が離せない状態であった。
「キョン、あなたまたニヤケてなかった?」
 いきなり視界にハルヒが現れた。本日、二度目の追求、ヤバイな・・・、何と答えるか。
「あー、えーっとだな、うん三人全員にだ。実に花火をしているのが絵になってだな」
 さすがに二度目の否定は答えを吐くまで許されない、と思ったので、一応背定。
「ふ〜ん、じゃあ誰が一番良かったのかしら?」
 くっ、この質問がくるとは。古泉、手を貸してくれ、と近くを見渡しても、いない。ドコに行きやがった・・・、いた。夕飯を食べたイスに座りながらコチラを見学している。いつの間に、逃げやがった、後で覚えてやがれ。俺が無事ならな。
 さて、俺の回答が命運を分けるワケだがどうしたものか。長門、と正直に答えるか、ハルヒ、とオセジで答えるか。
 ・・・よし決まった、正直に答えよう、
「長門だな、これ以上無いというぐらい似合っていた」
 ハルヒの顔がひきつる。がここでもう一言加え、フォローを忘れない。
「といっても線香花火の場合だ。もし線香花火が七色の打ち上げ花火なら、ハルヒが一番だ」
 顔が緩んだ、どうやら助かったようだ。
「そうよね、私には線香花火なんて似合わないわ。派手な花火こそ私にピッタリだもの。わかってるじゃない、キョン!」
 ハルヒは意気揚々として、長門と朝比奈さんの輪に戻った。これからは、あまりニヤケないよう努力するか、命がいくらあっても足りん。
 俺が買った花火も全て遊びつくし、後片付けをしていると、ハラリと未使用の線香花火が落ちてきた。一つ残っていたらしいな、火も消してしまったし片付けも終盤だ。捨ててしまうかと考えていると長門がジッと花火を物欲しそうに見ていた。
「欲しいのか、長門?」
「・・・(コクッ)」
 うなずく、
「一本だけだがいいのか?」
「・・・あなたが私に似合うと言った。だから、持っておく」
 さっきのやりとりを聞いていたのか、改めて言われると恥ずかしいな。
「わかったよ、ほらっ」
「・・・大事にする」
 線香花火、しかも一本だけでここまで言われるのは、何か変な気分だな。

 
 

 片付けも終了し、車の中に戻ったのだが、
「花火したら、汗かいちゃったわ。シャワー浴びるから外で待ってなさい!」
 すぐに男性陣は車外へと強制送還された。しかし、いい機会なので、
「古泉、この前言っていた長門が人間に近づいているっていうのは最近どうなんだ?」
「長門さんですか?時が進むにつれ宇宙人的な感覚が薄れているのは確かです。でも、何故です?」
言うかどうか迷ったが、
「昨日、長門がジョークを言ったんだ」
 古泉は、ハルヒがオオサンショウウオを釣った時より驚いたようだ、実際、俺も聞いてアッケにとられたぐらいだからな。
「本当ですか、あの長門さんが?」
「あぁ、そうだ」
「ふむ・・・、そうなると僕が受けている感覚の裏付けがとれますね。長門さんは人間らしい感情・感覚・性格を獲得し学んでいると言えます」
「やはりハルヒを観察することによる影響か?」
「いえ、むしろ貴方でしょう」
「はぁ?何で俺なんだ?」
 古泉はヤレヤレという顔をしている、
「長門さんは、貴方にずいぶん興味を抱いています。普通の人間である貴方にです、この意味がわかりますか?」
 こいつの言うコトは遠回しすぎてわからん。
「つまり、男性 女性の関係ですよ、恋愛感情まであるかわかりませんが」
 ここで俺はしばらく考えにふけった。
 確かに長門は、出会った当初に比べ、感情が豊かになったと思う、しかし、あの長門に恋愛感情なんてあるのだろうか? 俺は長門が[好き]か[嫌い]かと問われれば、間違いなく[好き]を選ぶだろう。しかし、この[好き]に恋愛感情が含まれるかどうかは、自分のコトだが俺にもわからん。また、長門が俺に対してどう思っているかもわからん、さすがに嫌われていないとは思うが。以上、俺の頭の中だ。
「まぁ、そんなに深く考えなくても、いずれわかりますよ」
 古泉の発言が俺の思考を止めた。・・・そうだな、時が経てばはっきりするかもな。
「あんた達ー、シャワー終わったわよー!」
 車の扉が開いた。中では三人とも、ラフな格好でタオルで髪をふいている。
 そんな姿に俺はまたニヤケていたようだ、ハルヒに目潰しを喰らった。
「あんた、ホントこりないわね」
 半分あきれ声だった。ついさっき、ニヤケ顔にならないよう努力しようと決めたばかりだが、無駄だったようだ。しかし、言い訳させてもらう。三人のあんな姿を見せられれば、この世の男性のすべてが心を奪われ、ニヤケてしまうさ。
 男性陣の三人も軽くシャワーを浴び、夜寝る時間になるまでお菓子を広げ、遊ぶコトになった、遊ぶといっても例のごとくカードゲームだがな。

 
 

 ゲームを始め一時間ほど経った頃、
「あっ、ジュースがなくなったわ。キョン、取って!」
 これですでに三本目だ、
「お前はどれだけ飲めばすむんだよ」
「いいから取りなさい、どうせなら皆の分もね!」
 言っても無駄だとわかったので、渋々従う、
「わかった・・・」
 絶対、俺は尻をしかれるタイプだな。
 冷蔵庫の手前から適当に六本取り出した。後の話になるが、この[適当]がまずかったらしい。
今だゲームとお菓子で盛り上がっていたら、
「あらっ、有希のジュース、美味しそうな色してるわね。一口ちょうだい」
 ハルヒがその[ジュース]を一口飲む。
「これ、うまいわねー!私のと交換してね」
 ハルヒは一気に飲んだ。ハルヒが気にいるなんて、何てジュースだ?空になった缶を見た、・・・この世の終わりだ。ハルヒが飲んだのは[ジュース]ではない[酒]だ。長門がシラフで飲んでいたので、まさか俺が取ったのが酒とは、全く気が付かなかった。何であの時の俺は確認をしなかったんだ、・・・もう後の祭りだが。
 この後は、皆の予想通りだ。ハルヒは冷蔵庫から全ての酒を取り出し、カラミ酒を始めた。それは、俺・長門・古泉・朝比奈さんは当然として、さらには新川さんにまでおよんだ。
 その後、俺の記憶に残っているのは、朝比奈さんがソファーに倒れ、古泉と新川さんはロフトに上がり、ハルヒが俺にわけのわからないコトを話していたのが、最後だ。

 
 

 ・・・、・・・、ココはドコだ? あぁそうだ、キャンピングカーの中だ・・・。でも何故、床が見える? という事は、俺は横になっているのか・・・。だが床にしては、頭の下が柔らかい上に少し温かい・・・のか。ん、頭を触られている様な気がする、誰だ・・・?
 顔の向きを上に変えてみる、髪に触れられたいた感触が消える、そして・・・長門の顔が見える。ちょっと待て、なぜ長門が見える?俺の頭は一体ドコに置かれている?
「・・・起きた?」
 長門の声が聞こえた、目がパッチリと開いた、が、頭が真っ白になりそのまま考える事、五秒、俺は全てを理解した、長門に膝枕してもらってるという事に・・・。
 俺は飛び起きたが、頭が痛い・・・、ハルヒの奴がかなり酒を勧めていたようだ。頭を手で抑え、
「え〜、まず長門、先に謝っとく、すまん」
「・・・いい、気にしていない」
 いつもの表情だ。
「俺は一体どうなったんだ?」
「あなたが、アルコールを過剰に摂取し泥酔状態になった。そして意識が無くなった瞬間、私にもたれかかってきた。そのまま崩れ落ちるよう私の膝に頭が乗り、あなたは睡眠に入った」
 つまり、俺は酔って長門の膝で寝た、という事だ。
「お前はずっと起きてたのか?邪魔なら、どかして寝てもよかったのに」
「別に問題無い、それに邪魔でも無い」
 邪魔でないといっても、長い時間、・・・その長門の膝を借りていたんだ。
「まぁ、ともかく迷惑をかけたの確かだ、今度何か礼をするよ。おっと、遠慮しなくてイイぞ、それぐらいのコトはさせてくれ」
「・・・わかった」
 俺の心もだいぶ落ち着いた所で辺りを見渡した。ソファーでは、毛布に可愛らしくくるまる朝比奈さんと、だらしなく大口を開けて眠るハルヒの姿があった。古泉と新川さんはかすかにロフトに上がっていった記憶があるのでココにはいない。
 つまり、俺は女性三人がいる中で寝ていたコトになる。冷静にならなくても、とてもヤバイ状態であることに今気付いた。せっかく落ち着いてきた心がまた、焦りだした。さらに、気を沈めようとした会話が、
「今、何時だ?」
「二時十三分」
 もうそんな時間か。酒を飲み始めたのが確か十時過ぎ、それから、一時間以上はハルヒに付き合わされたハズだから、少なくとも、二時間は長門の膝の上にいたことになる。俺はそんな長い間、長門の膝の上に頭を置いていたのか。これはもう、落ち着く所でなくなってしまった。
 いかん、一度ちゃんと頭を冷やそう、心も落ち着けよう。少し残っている酔いも冷まさなくては。
「俺は少し外で夜風に当たってくるよ」
「そう」
 俺が車の扉を開け、閉めようとすると後ろには長門が立っていた。
「どうした、長門?」
「・・・私も」
「そうか、別にかまわないが・・・」
 俺と長門は二人して車外に出た。

 
 

 視界にある灯りは、駐車場の電灯、そして闇夜にポツンと浮かぶ月だけだ。耳に奏でられる音は、川のせせらぎ、風によって擦れる木々、虫の鳴き声のみ。闇夜を見上げると、月以外にも、幾千もの星が光輝いていた。昨夜、長門と公園で見上げた時とは比べ物にならない数だ。山の中ならではの空気も澄んでいるお陰だろう、コレは良いものが見れた。
 横を見ると、長門も昨夜のように空を見上げていた。そして、その表情はやはり寂しげだ。酒がいくら回っていてもやはり、間違いでは無い、ましては、気のせいでも無い。
「長門、やっぱり寂しいそうな顔をしているぞ」
顔がこちらに向けられた、すでにいつもの無表情だ。
「していない」
 この回答はウソだと感じた、なぜならそう何度も俺が長門の表情を間違えるものか。
「お願いだ、長門。ちゃんと本当の事を言ってくれ」
 いつの間にか俺は長門の白く小さな手を握っていた。
「・・・わかった。ならまず貴方に謝らなくてはならない」
 長門が俺に?
「そう、私は貴方に心配させぬよう配慮し嘘をついた」
 そういう事か、
「結果的に貴方を騙した事になる、よって謝る」
 俺は頭を下げている長門の手を少し強く握った。
「いいさ、嘘をついたのも、俺に心配かけまいとした結果だろ。謝る事なんてないさ、それより、何で寂しげな表情をしていたんだ?」
「・・・」
 言うのを渋っているのか、長門は答えようとしない。
「いいか、長門。お前は俺に心配かけまいと嘘までついたんだ。だが、ここで言ってくれなかったら、俺はお前を心配するぞ」
 我ながら、この問い詰めはちょっと卑怯な手だったかもしれまかったが、長門はようやく口を開いた。
「・・・私の観察対象である涼宮ハルヒの監視任務が終わった時の事を考えていた」
 任務? そういやそんな話だったな。
「涼宮ハルヒの能力消失、もしくは情報統合思念体による能力が解析 十分なデータの蓄積が行われれば、私の役目は終わる。そうなれば、私は涼宮ハルヒと接触する事も無くなり文芸部室に行く必要も無くなる」
 長門はこれまでたまっていたものを、放出するように話しを続けた。
「また、任務が終わった後、私という個体が情報統合思念体の手から離れる事も有りうる。そうなれば、私は何に存在価値を見い出せば良いかわからない。・・・私は、この現状を好ましく思っている、しかし、いずれは現状が打破されるだろう。その時の事を考えると、私は寂蓼の感に襲われた。この事が表情に出ていたと思われる」
 ・・・つまり任務とやらが終わった後、ハルヒや俺達と付き合う必要も無く、何をすれば良いかわからないってコトか。そして、それについて寂しく感じる・・・か。やはり、俺が感じた長門の寂しげな表情というのは、当たっていたのか。
「いいじゃないか、長門」
 長門の「何故?」という目がこちらに向けられた、
「任務が終わったら自由って事だろ」
「・・・自由?」
 長門はそんな言葉を耳に入れたコトが無いような顔をしている。
「そう、自由だ。だから、任務が終わっても、俺達と一緒に居ればいいじゃないか。何をすれば良いかわからないっていうなら、俺が一緒に考えてやるさ」
 俺は長門の肩に手を置いた、長門は黙って俺を見上げている。
「二人で考えれば答えは出るさ、もし詰まってもハルヒや朝比奈さん、それに古泉もいるんだ。必ず答えが見つかるさ」
 俺は長門に言い放った。
 酒が残っているのか、我ながら恥ずかしいセリフが口から出たな。シラフならまず言えないそんなセリフだが、俺の思いが伝えられたコトには悔いは無い。むしろ言えて良かったと思う。
 俺のクサイセリフに長門はしばらく考えていたみたいだが、
「・・・、・・・了解した。もしそうなれば、貴方を頼る」
 長門に頼られるのは、もちろん悪い気はしない。
「任せておけ。ただでさえお前には世話になっているんだ。何でも相談に乗ってやるさ」
 そうとも、俺にとって長門はかけがえの無いもので、好きとか愛しているとか、そういう[感情]では言い表せない存在なんだ。この存在をほっとくワケにはいかない。
 俺達二人はしばらく夜空を見上げていた。隣にいる長門の表情からは、もう寂しげな印象を受けるコトはなくなっていた。

 
 

 車に戻り、ロフトに上がろうとした時、
「ありがとう」
 こう昨夜に続いて礼を言われた。
「気にするな、どうという事もない。じゃあ、また明日ここで会おう」
 俺も昨夜と同じ様なコトを言った。布団に入り、眠りにつこうとすると、
「どうでした?長門さんの様子は」
 起きていたのか、古泉。
「どこまで知ってるか知らんが、もう大丈夫だろう」
「そうですか、安心しましたよ。ですが、流石あなたですね。きっと僕が同じ様に聞いても答えてもらえないでしょう」
 お前は胡散臭いからな。
「これからもお願いします。長門さんの影響は少なからず、涼宮さんの影響にも与えますから。僕からは以上です」
 お前に言われんでもわかってるよ、長門をほっておけるか、協力は惜しまないさ。

 
 

 翌朝、俺はガンガンする頭を起こし、下に降りた。どうやら、あの孤島三日目の朝のような症状はハルヒと朝比奈さんにも表れているようだ。
「昨日、有希から貰ったジュースを飲んだ後の記憶がないわ・・・」
 酒を飲んだという認識がハルヒにはないらしい。
「あれは、ジュースじゃなく、酒だ」
 俺が教えてやると、
「そうだったの、通りで・・・、イタタ」
 ハルヒは頭を抱え、朝比奈さんも、
「う〜ん、う〜ん、頭がガンガンしますぅ〜」
 俺とハルヒと同じようにしている。
 お陰で帰りの車内はとても静かだった、なんせ俺、朝比奈さん、一番の騒がしい原因であるハルヒがずっと横になっていたからな。
 集合場所に着いたら、ハルヒの案によってすぐ解散となった、俺も賛成だ。そうして、ハルヒと朝比奈さんは頭を押さえつつ帰っていった。古泉はこの車に乗って帰るそうだ、多丸さんに礼を言っといてくれ。
 で、ここに二人残っているワケだが、二日酔いのため俺も帰路につくことにした。
「長門、夜も言ったが何かあったら相談にのるから、自分一人で考え込むなよ」
 自分の言葉が頭に響くが、何とか言いきれた。
「了解した」
「じゃあ明日、いつもの部室で会おう」
「・・・また、明日」
 長門はいつもよりどこか明るい無表情で手を挙げていた。その表情は二日酔いが一気に覚めるほどのものだった。実際は、自転車にまたがり長門が見えなくなる頃には、痛みが再発したワケだが・・・。
 俺は家に着くなり、妹にミヤゲを要求され、アユを手渡した。どうやら満足したようで、屈託のない笑顔で家の中に入っていった。シャミセンも一匹貰い、満足しているようだった。ふぅ、出発する前にやっとけばよかった宿題を仕上げて、今夜は早く寝るか。

 
 
 

 翌日、登校時にはあの川原の心地好い風を思い出しながら歩き、授業も楽しかった釣りや長門とのやりとりを頭に浮かべていると、アッというまに、放課後になった。すでに俺はいつもの部室にいる。
 そこには、長門が本を読み、朝比奈さんがお茶を入れ、俺と古泉はゲーム(今日はポーカー)をやっている放課後。いつもと違うのは長門がいつもの場所でなく、俺の近くで本を読んでいるという所だ。理由を長門に尋ねると、
「・・・」
 しか返ってこなかった。ともかくハルヒだけのいない静かな部室で過ごしていると、
「釣りは楽しかったわねー!」
 扉を開く音とともに現れ、叫んだ。誰かとは、もう言わんで分かるだろ。
「あら、有希?いつもと座る場所が違うわね」
 俺はイヤーな汗が出た。
「特に理由はない」と長門の釈明。俺はなぜか、安心したやら、残念な気持ちが入り混じる。
「ふ〜ん、まぁいいわ。所でそのテーブルに置いている細いの何?」
 どれのコトだ?
 辺りを見渡すと、長門の近くのテーブルに花火がポツンと置かれている。あれは・・・昨日、俺があげた線香花火だ。何でこんなトコに?
 長門に小声で聞くと、
「栞の替わり」
 何でまた、それをチョイスしたんだ?
「あなたが私に似合うと言ったから」
 ・・・、この言葉に俺は感慨にふけ、なんとも言えない気持ちになっていたが、
「あっ!そんな事気にしている場合じゃないわ。時間は限られているのよ、会議を始めましょう!」
 このハルヒの大声で台無しにされた。
 でもまぁ、いいか。ハルヒは時間に限りがあると言ってるが、悠久とはいえないものの時間はまだまだある。この時間を使って、俺達といろんなコトを長門自身の目で確かめて、いろんな生き物や人とふれあい、本からでは学べないものを得て、知って、感動していけばいい、任務と平行してな。
 そうすれば、自由になった時、おのずと自分の目的・やりたいことが見つかるだろう。もし途中で詰まっても、俺やハルヒ、朝比奈さんに古泉がいるんだ、必ず導いていけるさ。
 いつもより距離が近くなった長門を見る。
「・・・」
 お互いの視線が重なり長門から無言が返ってくる、
「・・・」
 俺も無言を帰してやった。長門は信頼を確かめたような表情をした。しばらくして視線が本に戻る。おっと、そろそろハルヒによる会議が始まるな。
 突飛なコトを言わないよう、願いながら・・・。

 
 
 

・・・終わり。

 

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:47 (2732d)