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作者 | 753k |
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作品名 | 長門有希に感謝せよ |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2006-11-25 (土) 23:52:31 |
キョン | 不登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 不登場 |
みくる | 不登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
「長門、いつもありがとうよ。」
長門と俺は駅前近くの公園内、川沿いにあるベンチに並んで座っている。
春分と秋分の読み仮名を間違えた小学生のように狂い咲きした桜の並木も、今では俺の頭の上で朱入れされた答案のごとく色付いている。
俺たちはもちろん、現在SOS団市内探索の真っ最中である。
そうでなければ俺と長門が休日に、二人してこうしてくつろいでいる事などないだろう。
ハルヒには不機嫌そうに図書館と逆の方角の探索を命じられたわけだが、用意周到な宇宙人は幸運にも持参の本があるということであったので、こうして俺は流れる水の音を聴き、長門は文字の奔流に浸っていたというわけである。
長門はゆっくりと俺の顔を見ると、ほんの僅かばかり首をかしげた。
「今日は勤労感謝の日と言ってな、日頃がんばってる人に感謝の気持ちを表す日なんだよ。」
「そう。」
「だからそれを口にしてみたんだが。」
「そう。」
長門は少しの間俺の顔を見ていたが、やがてゆっくりとその視線を手元の本に戻してしまった。
ま、こんな反応だよな。
別に何かを期待していたわけではないが、予想通りにいつも通りの長門にちょっとがっくりな気持ちも否めず、しかして何となくではあるがそんな自分を簡単に認める気にもなれずに、俺は座ったベンチの前を流れる川をぼんやりと眺めることにした。
川を眺めるのに飽き、今度は空でも眺めるかとベンチに持たれかけようと体重を後ろにかけた瞬間、ぱたん、と隣から本を閉じる音が聞こえた。
もう全部読んじまったのか?
長門は正面を見たまま首を数ミリ縦に動かす。
今日持ってきた本はそれだけか。これからどうすっかな。
土曜恒例俺奢りの昼飯を食べながらハルヒが指定した集合時刻までは、まだずいぶんとある。
これから図書館に行くか、それとも長門とぶらぶら歩き回るのもいいかとか考えつつ、長門に意見を求めると、今し方まで読んでいた分厚い本を差出し、
「これ、読んで。」
俺が、これをか?目眩を起こしそうな分厚さと眉間にしわが寄って来そうなタイトルである。
だが長門が薦めるのだ。以前のSFハードカバーがそうだったようにきっと面白いのだろうよ。
「わかった、帰ったら読んでみるよ。」
長門は俺の言葉に首を横に振った。
「今、読んで。」
ここでか?俺は別にいいが、その間お前は何もすることがないだろう。
「いい。」
しかしだな。
「いいから。読んで。」
まあ、お前がそこまで言うのなら、秋空の下での読書を楽しませてもらうことにするよ。
さぞ気持ちがいいに違いない。
そうして俺は長門から受け取った本を開いた。
……
集中できん。
別に本の内容が理解できないからではない。まして秋風のせいでもない。
隣の万能宇宙人がその唯一にして最大の原因である。
「長門よ、ずっと見られてると読みづらいんだが。」
「……そう。」
そう言うと文学宇宙人少女はゆっくりと、もう何もない手元に視線を向けた。
何故そうなるか。
そんな目の前の文学宇宙人少女に俺は仕方なく、集中し始めたら周りのことは気にならなくなるから、と一声かけ、再び文字の海に浸ることにした。
しばらくして、長門はまた首をこちらに向けていたようだ。
ようだ、というのは本当に集中して長門も周りも気にならなくなっていたからである。
自分で言っておいて何だが、この現象は驚きである。長門のチョイスが素晴らしいのか、何なのか。
おかげで読書の秋と言うにふさわしい、実に気分のいい時間を過ごすことができた。
ここでも長門に感謝だな。
気分が良すぎて、尻ポケットから発信されたハルヒの怒りバイブレーションに飛び跳ねることになってしまったが。
我が人生において二度目の「アホンダラゲ!!」だった。
帰り道での長門は妙に満足気な顔をしていた。
俺の顔の何を見ていたのか、何が楽しかったのかは全く分からんが、長門がそんな顔をしているのだ。余計な詮索などするまい。
まあ、勤労感謝の日の礼ということにでもしておこう。
長門、ありがとうよ。
(おわり)