作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと洋館と朝倉さん
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-11-25 (土) 21:30:15

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

※SS集/397の『長門さんと吊り橋』の続きです

 
 
 

ハルヒの『山の上の洋館に行きたい』という、
突発的かつ無茶苦茶な思い付きから約20時間。
山道や危険な吊り橋などの難所を経て、
ついに我らがSOS団御一行+αは目的地に到着しようとしていた。

 

ちなみに+αというのはおなじみの怪しい執事とメイドさんのことであり、
彼らがいるということは、
必然的に今回の目的地であるこの『館』とやらも『機関』の所有物となる。
一応例の多丸兄弟の所有ってことになっているらしいが……
毎度のことながらハルヒのためによくやるよ……

 

そんなことを考えながら俺は目前に控えた洋館に向った。
鬱蒼と生い茂った森の木のおかげで、全体の外観が見えないが、
木々の合間から見える玄関の造りだけを見ても相当な大きさだろう。
まぁもう少し近づけば全体が見えるだろう。
ほら、もう見えて……見え……見……

 
 

「なんだこりゃ……」

 
 

我ながらもう少し気の利いた事は言えんのかと思うが、
その時はこれ以外の言葉が思い浮かばなかった。
別に俺の語彙力がないわけじゃないぞ。

 

「これはこれは……」

 

「ふぇ〜」

 

「……」

 

どうやら俺の他にも言葉が浮かばない奴がいるようだ。
最後の一人は微妙な表情の変化を見れば分かる。
これは微妙に呆れている顔だ。間違いない。

 

そんな感じで丸々1分間静寂が訪れた後、
いきなりと言うかやはりと言うか、
その沈黙をハルヒが10トンハンマーでぶち壊した。

 

「すごいわ!こんな山奥にここまで大きな館を建てるなんて、
もしかして多丸さんって石油王か何かなの!?」

 

石油王って……
いつの時代の人間だお前は。
そもそも石油王の日本人なんているのか?

 

「いえ……あの人たちはたまたま買った株が大当たりしたというだけの、
普通の人ですよ」

 

古泉……お前本当にごまかす気あるのか?
どんだけ当てればこんな屋敷が作れるんだよ。
あと、普通の人は山奥に家なんか建てないぞ?

 

「ふーん……」

 

古泉の適当な話にも一応納得したのか、
ハルヒは今度は新川さん達にも話を聞きに行っていた。
……まぁ、うまくごまかせたと思うしかないだろ……

 
 

多丸さん達の職業はおろか、
生年月日まで根掘り葉掘り聞いたハルヒは、
ようやく当初の目的を思い出したのか、
いかにも怪しげな館の方に向かって歩いていった。

 

「ごめんくださーい!!」

 

そんなでかい声を出さずとも呼び鈴の一つもあるだろう。
こら、ドアをどんどん叩くんじゃない!
お前は押しかけ強盗か何かか!?

 

「おっかしいわね〜留守かしら?」

 

ここまで歩いてきて留守だったら、
もはや悪質な罰ゲームだぞ。
まさか、機関はそこまで陰湿な組織だったのか?
可能性がないとは言い切れないところが怖い。

 

「おい、長門……」

 

俺はたまらず側でドアの方を見つめていた宇宙人に声を掛けた。
これでお前が『ドッキリ』って書いた看板を取り出したら怒るぞ……
お前じゃなくて古泉に。

 

「大丈夫……鍵はかかっていない……ただ……」

 

「?鍵開いてるじゃない……」

 

長門の言葉とほぼ同時にハルヒがドアノブに手をかける。
お前はもう少し用心する心を身に付けてくれ。
そもそも施錠してないからって勝手に開けるなよ。
言っても無駄だと思うけどな……

 

『ごめんくださーい』と言いながら、
そーっとドアを開けるハルヒをよそに、
俺は長門に続きを促した。

 

「ところで、『ただ……』なんだ?」

 

すると目の前の無口少女は、
もう一度ドアの方を向きこう言った。

 
 

「想定外の人物がいる……」

 
 

長門の視線の先、つまりハルヒが開けたドアの向こうには、
見覚えのある、そして二度と見たくない人影が立っていた……

 
 
 

「ふふふ……いらっしゃい♪」

 
 
 

さて、人間には誰しも苦手なものが存在する。

 

「あら、あんた……」

 

カマドウマが嫌いな人もいるだろうし、
ピーマンが嫌いな人もいるだろう。

 

「お久しぶり、涼宮さん」

 

そして、俺にもどうしても克服できそうにない、
トラウマな様なものが存在する。

 

「それに……」

 

目の前に立つその『トラウマ』は、俺の方を向くと、
にっこり笑ってこう言った。

 
 

「キョン君も……元気そうで何よりね……」

 
 

……そう言って史上最悪の天敵……朝倉涼子は歩み寄ってきた……

 
 
 
 

「何でお前がここにいる!?」

 

何とか声を荒げたつもりだが、
内心恐怖とか恐怖とか恐怖で一杯だ。
正直足ががくがく震えていないことが奇跡だぜ。

 

「そうよ、あんた今カナダにいるんじゃないの?」

 

カナダに行ったというのは長門の捏造だが、
ハルヒが言うようにこいつがここにいるはずがない。
俺達の当然の疑問に朝倉はにこやかに答えた。

 

「実はここ、私の親戚の別荘なの。
ちょうど学校が長めの休みになったから久しぶりに来てみたってわけ」

 

朝倉は笑顔で答えているが、
聞いている俺はいつ飛び掛ってくるかと気が気でない。
とりあえず両手には何も持ってないようだが……

 

「……多丸さんてあんたの親戚だったの?」

 

「そ。二人とも私のお母さんのお兄さんの奥さんの従弟の異母兄弟なの」

 

一体それはどんな関係なんだ……
というかお前から信じさせる気が全然感じられない。
バレバレにも程があるぞ元高性能バックアップ。

 

「ふーん、そう……」

 

「そうなの。さぁ、中でおじ様たちも待ってるし、
こんな所で立ち話もなんだから上がらない?」

 

「そうね……お邪魔するわ」

 

そう言って普通に玄関から館に入っていくハルヒ。
おい、これは相当やばい展開じゃないのか?
何であんな嘘を普通に信じられるんだよ。
とりあえず何とかしてこの場を……

 

「大丈夫……」

 

ひたすら焦る俺に、
長門が上目遣いに小さく声を掛けた。

 
 

「彼女から敵意は感じられない……」

 
 
 
 

長門の言葉を信じた俺は、
意を決して洋館の中に入った。
本当は今すぐにでもはるかかなたに逃亡したい気持ちもないわけではないが、
長門の判断が間違ってると思わないし、
そもそも朝倉から逃げ切れる自信もない。
ついでに何の躊躇いもなく前を歩くハルヒと朝比奈さんを置いて、
俺だけ逃げるわけにもいかない。

 

「それにしても広いわね〜」

 

「ふふ、おじ様ったら株が当たったからって、
こんな辺鄙な所に別荘を作るって言って……
おかげで土地が安くてこんな広い家が建てられたんだけどね」

 

「いいえ、こんな所だから建てるのよ!
やっぱり多丸さんはよ〜くわかってるわ!!」

 

何がわかっているのか知らないが、
とにかくお前は能天気でいいな。
こっちは朝倉の一挙一動に神経を使っているというのに……

 

「キョン君もそんな緊張しないでもっとゆっくりしたら?」

 

心を読まれた!?
まさか情報統合何とか体の作ったアンドロイドは、
そこまで高性能なのか!?
驚愕する俺に向って、朝倉はさらに驚きの一言を言った。

 
 

「吊り橋も落ちちゃったから、ここでゆっくりしないといけないみたいだし……」

 
 
 

朝倉の案内で応接間に通された俺達は、
久しぶりに多丸さんたちと再会した。
まぁ、やたらと挙動不審だったり、
朝倉のことをぎこちなく『涼子ちゃん』と呼んでいたり、
不審な所が盛りだくさんであったわけだが……

 

しばらくすると、
古泉たち機関の連中が『少し話が……』とか言って部屋を出て行った。
ハルヒも『館内を探検してくるわ!』と言って、
朝比奈さんと森さんをつれて飛び出していったので、
今この部屋には俺と2人の美少女宇宙人しかいない。
メイドを二人もお供につける団長様が羨ましいこと火の如しだが、
今はそれどころではない。
そう思った俺は、テーブルの反対側で優雅にレモンティーを飲む少女に、
もう一度尋ねてみた。

 
 

「何でお前がここにいるんだ?」

 
 

「……さっき言った理由じゃダメだったかしら?」

 

あれで、すんなり納得できるのはうちの妹と朝比奈さんくらいだ。
残念ながら俺はそこまで純粋な心を持ち合わせていない。

 

「まさかまた何か企んでるんじゃ……」

 

「『企む』だなんて……ひどいわキョン君。
あたしはいつも突発的かつ衝動的に行動を起こすタイプよ?」

 

それ余計にタチが悪いぞ。
そんな交通事故感覚で刺される俺の身にもなってくれ。
げんなりする俺と対照的に、ひたすら和やかな朝倉は話を続けた。

 

「それに今回は別にキョン君たちをどうこうするつもりはないわ」

 

「まぁ……その点は信じてやらんこともないな」

 

「あら、どうしてかしら?」

 

どうしてもこうしても、長門が『大丈夫』って言ったからな。
さっきからクッキーを胃に流し込んでるこの小柄な少女がそう言ったんだから、
俺が心配する必要はどこにもない……ハズだ。

 

「ふーん……」

 

何だその顔は。

 

「別にィ……よかったわね、長門さん♪」

 

何が『よかった』のかは知らないが、
にこりと微笑む朝倉に、こくりと頷く長門。
こうして見るとまるで姉妹のようだな……
とその時俺はそう思った。

 
 
 
 

それからしばらく話を聞いた所によると、
朝倉は長門の監視役としてここに来たらしい。
本来は別の個体がその任に当たっていたが、
急遽代役が必要になったらしい。

 

「本当はコードネームWAKAMEっていう個体が長門さんの監視をしてたんだけど、
涼宮さんが昨日いきなりこの遠足を決めたでしょ?
だから都合が合わなかったらしいの」

 

都合って……えらくしょぼい理由だなおい。
いや、それよりコードネームって……

 

「パーソナルネームとは別にコードネームって言うのがあって、
WAKAMEっていうのは確かWatch And Kil……」

 

「とりあえずお前が代役でここにいるのは分かった」

 

何となく先を言わせるといやな予感がするので、
無理やり話題を変えることにした。

 

「だが、何でここ……」

 

「あら、キョン君は私にこの寒い中、外で監視しろって言うの?」

 

いや、そこまでのことは言ってない。
ただどうやってこの屋敷に潜り込んだのかが聞きたいんだが……

 

「それならあの二人に、こうやって『おねがい♪』って頼んだら快諾してくれたの」

 

その後ろ手に何かを隠し持つ仕草を見る限り、『快諾』ではないな。
日本語ではそれを『脅迫』って言うんだぞ……

 
 
 
 

「それにしても長門さんの報告を見ていろいろ心配してたんだけど、
あまり問題なさそうね」

 

「心配?」

 

チュロスを3本ずつ口にしていた長門が、
少し怪訝な顔で尋ねる。
俺としてもこの万能少女に心配するようなトコは今の所ないのだが……

 

「涼宮ハルヒの観測は滞りなく行っている……
何か問題?」

 

「観測データは問題ないんだけど、メンテナンス用の個体データがね……」

 

なんだ?またバグが溜まってるのか?
それなら大問題だぞ?
そもそも個体データって何だ?

 

「う〜ん、そんな大した物じゃないの……
人間で言う……『日記』とか『日誌』みたいな物ね」

 

他人に見られるなら『日誌』か『報告書』だろ。
いや、毎日日記を書く長門も想像するだけで和むが……
多分『今日はこんな本を読みました』だけになりそうだが。

 

「その『日誌』の何が問題なんだ?」

 

長門表情鑑定士1級の俺が見ても、
特に変わった様子はないんだが……

 

「それがね……長門さんの報告って自分の体調についての記述が5%、
今日読んだ本についての記述が9%、学校やSOS団の活動の活動が16%で、
残り70%がキョもが……」

 

「お、おい!?何やってんだ?」

 

気付くと一瞬でテーブルの向こう側に移動した長門が、
朝倉の口にストロベリータルトを詰め込んでいた。

 

「それ以上は言ってはダメ……」

 

「ふぁ、ふぁふぁっはふぁ……」

 

多分『分かったから』的なことを言ってるんだろう。
プライベートなことを言われたり聞かれるのは、
この無表情娘でもやっぱり恥ずかしいんだろうな。
というかそれ詰め込みすぎだぞ長門。

 

「ほら、もう朝倉も『言わない』って言ってるから解放してやれ。
それに食べ物を粗末にするんじゃありません」

 

「粗末にしていない……これは餌付け」

 

「もが!?」

 

これだとフォアグラになっちまうぞ?
とにかく本当に止めなさい。
見てるこっちが胸焼けするから。

 

「わかった……」

 

何となくしぶしぶと長門は朝倉にフォークを渡した。
口に含んでる状態からフォークで食えというのだろうか?
こんな拷問を受ける朝倉には同情せざるをえないな……

 
 
 
 

「んぐんぐ……はぁ……やっと食べれたわ……」

 

リスの頬袋のように口に詰め込まれたお菓子を、
フォークを使って器用に食べていた朝倉は、
紅茶で一気に押し流すと、やっと喋れるようになった。

 

「もう!こんなに食べたら太っちゃうじゃない!!」

 

「大丈夫、もう手遅むぐ……」

 

長門よ、そういうことは思っても言うもんじゃないぞ。
というわけで急いで長門の口を手で塞ぐ俺。
今の言葉朝倉には……うん絶対聞こえてるな。
ばっちり青筋浮かんでるもんな。
無理やり笑顔にしても隠せてない殺気がよくわかる。

 

「確かに、あなたはいくら食べても全然大きくならないものね……
どこがとは言わないけど♪」

 

おっと、今度は俺の隣から針のように突き刺さるオーラが出てきたぞ。

 

「そう……あなたのように不必要に肉付きがいい身体にはなれそうにない」

 

「肉付ッ……ま、まぁ二日に一度の割合で豊胸を申請してる長門さんには、
この健康的な体つきは夢のまた夢ですものね」

 

「ふ、二日に一度ではない。三日に一度。
それにあなたは放って置けばすぐ不健康な体つきになる」

 

「言ったわね、この無乳!!」

 

「無ではない。この眉毛」

 

やれやれ……高性能のインターフェイスとやらが、
一体何の話をしてるんだか……
横で傍聴していた俺は、この高レベルの二人による、
低レベルな争いを呆れながら眺めていた……

 
 
 
 

「ところで、お前はいつまでここにいるんだ?」

 

壮絶な睨み合いを終え、
だいぶ落ち着いた朝倉に尋ねてみた。

 

「そうね……あなた達が帰る頃には、
元の監視役に交代かしら。」

 

まぁ、臨時要員なんだからそういう事になるだろうな。
っと、そうだ。

 

「帰る頃って……吊り橋が落ちてるんだろ?
いつ帰れるんだ?」

 

確か、にこやかにそう言ってただろ?
正直もう少し渡るのが遅れていたらと思うとぞっとする。

 

「う〜ん、今機関の人たちが復旧してるから……
この連休中には帰れるんじゃないかしら?」

 

それはご苦労なことだ。
だが、そんな数日で復旧できるもんなのか?

 

「とりあえずしばらくここで寝泊りね」

 

まぁ、機関の連中が何かするわけでもないし、
目の前の元暗殺者も危険はなさそうだから、
別にここにいるのもいいだろう。

 
 

何より、久しぶりに懐かしい仲間に会えて長門も嬉しそうだし……

 
 

先ほどのケンカもどこ吹く風で、
仲良く姉妹のように談笑する二人を見て、
俺は一人そんなことを考えていた……

 
 
 
 

それから数日、
帰れないことを逆にチャンスと捉えた我らが暴れん坊将軍は、
ここぞとばかりに張り切っていた。
もちろん巻き込まれたのは我がSOS団と、朝倉だ。
洋館探検に、森の探索……
こんな所に来てまで不思議を探す必要があるのかと思わないこともないが、
まぁ、楽しかったのでよしとしよう。

 
 
 

そして吊り橋が直り、
俺達が帰る日がやってきた……

 
 
 

「あんたはこれからどうするの?」

 

ハルヒが朝倉に話しかける。
北高入学当初なら考えられなかっただろうな。

 

「私はもうちょっとここに滞在するつもり」

 

「北高にも行けばいいのに……」

 

「そのつもりだったけど……涼宮さんたちに会えたし、
またの機会にするわ。皆によろしくね。」

 

「そう、わかったわ。じゃ、またね」

 

そう別れの言葉を告げると、
ハルヒはさっさと歩いていった。
名残惜しんだりするのが好きじゃないだろうからな。

 
 

「お前はこれからどうするんだ?」

 
 

ハルヒと同じような質問だが、
少しだけ意味が違う。

 

「……せっかくこのインターフェイスが再構成されたんだから、
しばらくは待機状態になると思うわ」

 

リザーバー扱いか……
まぁカナダにいるはずのお前が堂々と何度も現れると無理が出てくるしな。

 

「そうなるとまた寂しくなるな……」

 

何となく長門の生まれてからの3年間が頭に浮かび、
無性に寂寥感にさいなまれた。
だが、そんなアンニュイな俺に対し、
朝倉がとんでもないことを言い出した。

 
 

「それは問題ないわ。だって私またあのマンションに住むことにしたから♪」

 
 

……は?

 
 

「いや、お前はカナダに住んでることになってるんだろ!?
またあの部屋に戻るなんて……」

 
 

当然のように慌てる俺に対して、
二人の美少女宇宙人が仲良くこう言った。

 
 

「大丈夫♪」

 
 

「情報操作は得意……」

 
 
 
 

P.S.

 

それから3日後、教室には元気に話す朝倉の姿があったという……

 

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:46 (2732d)