作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと吊り橋
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-11-19 (日) 14:38:56

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

晴れやかな空の下、
おなじみ我らがSOS団の面々は登山をしていた。
もちろんSOS団が突然ワンダーフォーゲル部になったという事実はなく、
ではなぜこんな修験道じみたことをしているかというと……

 

多分言わなくてもわかると思うが……そう、ハルヒのせいだ。

 

既に2時間近く歩き続けているというのに、
ただ一人元気100%のこの団長様のおかげで、
俺たちは折角の連休を潰される羽目になったのだ。

 

俺はこの辛さを少しでも紛らわせよう思い、
昨日の出来事を振り返ることにした……

 
 
 
 

「今度は山の上の洋館に行きたいわね……」

 

古泉の駒を一つ残らず略奪することに夢中だった俺の耳に、
また訳のわからぬ文字列が飛び込んできた。

 

「……何だって?」

 

「洋館よ、洋館」

 

あぁ、羊羹ね。
ちょうど朝比奈さんが煎れてくれた緑茶もあるし、
食べればいいんじゃないか?

 

「その『ようかん』じゃないわよ!建物の方!!」

 

そんな怒鳴らずともちゃんと分かる。
ただ、ちょっとボケただけだ。

 

「あんたはいつもボケてるでしょ!」

 

余計なお世話だ。
むしろ俺はツッコミ役だぞ。
そう言おうとすると、
横から朝比奈さんが口を挟んできた。

 

「山の上……ですか?」

 

「そうよ!山の上の洋館よ!」

 

何でそんな自信満々なんだ。
第一、山の上の洋館なんぞに行ってどうするつもりだ?
隣町に行けば洋館くらいいっぱいあるだろうよ。

 

「わかってないわね〜山の上にあってこその洋館なのよ」

 

いつから洋館の定義に場所の指定が組み込まれたのだろうか。
いくらこの国が山林地帯の多い地形をしているからといって、
そんな所にわざわざ住もうなんていう奇特な人がそういるだろうか?
いや、ハルヒが望めば出てくるんだろうけど……

 

「そもそも、そんな所に行ってどうするんだ?
舞踏会でもやろうってのか?」

 

「違うわよ!不思議探しに決まってるでしょ!!」

 

あぁ、いつもの探索じゃ見つからないから、
探索範囲を広げたいのか……って、無茶を言うな。
俺の反抗を無視して、ハルヒはどんどん演説を続ける。

 

「きっとどこかに怪しい建築家が建てた怪しげな館があるはずよ!
中が迷路になってたり、人形や時計だらけの部屋があったり、
怪しげな不死の一族が住んでいたり……」

 

「人狼がいたり、人魚がいたりするんですね」

 

おい、何を賛同してんだこのニヤケ面。
ここはなるべく変な刺激をせずにやり過ごすべきだろ。

 

「そっち路線でもいいわね……さすが古泉君だわ!」

 

何が『さすが』なのか分からないが、
このまま放置していくと、せっかくの明日からの連休を、
その『洋館探索』とやらに潰されそうだ。
休日くらいは休ませてくれ。

 

そう思った俺は、本日まだ声を聞いていない、
我らが万能宇宙人に助けを求めた。

 

「なぁ、長門……」

 

「なに?」

 

「このままだと訳のわからん洋館とやらに行かされそうだ……
何とか二人の目を覚ましてやってくれないか?」

 

もちろん精神的な意味で。
俺の依頼に、長門は力強く頷いた。
おぉ、何と頼もしいことか……

 

長門はすくっと立ち上がると、
盛り上がる二人の方を向き、
そよ風のような声で話し出した。

 

「山の上にある洋館ではダメ……」

 

珍しい無口少女の否定に少々驚いた様子の二人。
さすが長門だ。このまま行けば計画を頓挫させれそうだ……
だが、その次の言葉で、今度は俺が少々……いや、かなり驚くことになった。

 
 

「山の上の吊り橋の先にある洋館の方がいい……」

 
 

……へ?

 
 

その後、この摩訶不思議な発言を受けたハルヒが、
『そうよ!そうだわ!吊り橋って大事よね!!』と叫び、
さらにその叫びに同調した古泉が、
『もちろん燃えやすい丸太などの木材で出来た物ですね?』とほざき、
そのセリフを受けて小さく頷いた長門が、
『高くて危険な方が望ましい……』と言った辺りで俺は我に帰った。

 

「いや、そうじゃなくt……」

 

「じゃあ、早速どこにあるか探さないと!」

 

「それなら僕の知人に丁度そういう洋館を持つ人が……」

 

人の話を聞いてくれ……
結局俺の嘆きもむなしく、その日のうちに
『SOS団謎の洋館ツアー』は決定されてしまった。

 
 
 
 

そして、今日に至るわけだ。
それにしてもまさか県内に山中の洋館が見つかるとは……
しかもご丁寧に途中には吊り橋もあるらしい……
などと、正直に感動することが出来ない俺は、
目の前を歩くエスパーに聞いてみた。

 

「おい。やっぱり今回も……」

 

「奇特な富豪が建てた別荘……ではダメですか?」

 

「そうだな。ダメに決まってるだろう」

 

第一、この状況で『機関』の関与を否定する要素は皆無だぞ?
何たって例の執事とメイドが麓から一緒にいるんだからな。

 

「皆様、もうしばらく歩かれますと、吊り橋がご覧になれますよ」

 

あぁ、そうですか新川さん。
ところでよく執事姿で登山できますね。

 

「この服装の方が慣れておりますので」

 

森さん……それはありえないでしょう。
いくら笑顔でもこの山道にその格好は不気味ですよ。
というかあなたの笑顔自体が……

 

「何か?」

 

いえ、何もないです。
黙って歩きます。ごめんなさい。

 
 
 
 

正体不明の執事さんの言うとおり、
ほどなくして、目の前に吊り橋が現れた……
現れたが……

 

「……」

 

これは俺の三点リーダだ。
たまには長門から拝借したって構わないだろう。

 

「これは……予想以上ですね」

 

笑顔が引き攣ってるぞ古泉。
まぁ、この状況でも笑えるだけすごいとは思うが。

 

「ふ、ふえぇ〜」

 

朝比奈さん……まだつり橋を見ただけですよ。
たしかに長さはかなりあるようですが、
もしかしたら意外と高くなかったり……

 

「こちらのつり橋から下を流れる川まで120m程ございます」

 

そうですか森さん。
余計な情報をどうもありがとうございます。
おかげで渡る気がまったく起きませんよ。

 

「120mってことは落ちたらひとたまりもないわね……
それに縄と丸太で出来てるから雷が落ちたら一発ね!」

 

縁起でもない事を笑顔で言うな。
特にお前が言うとその通りになりかねん。
ほら、古泉なんかさらに笑顔を痙攣してるし、
朝比奈さんにいたっては完全に戦意喪失だ。

 

「大丈夫……」

 

ビクつく俺に、長門が優しく語り掛けてきた。
お前が『大丈夫』って言うんなら大丈夫だよな。
さすがに長門は頼りになるぜ……
そう安堵する俺に向って、目の前のスーパー文学少女はさらに言葉を続けた。

 
 

「この橋が落ちる可能性は0.0000000028%……無視できる範囲」

 
 

長門よ……そこは嘘でも『0%』って言って欲しかったぜ……

 
 
 

その場に留まっても仕方ないし、
新川さん曰く、目的の館はもうすぐらしいので、
俺たちはつり橋を渡ることにした。

 

「では、僭越ながら私めが先に……」

 

「ダメよ!こういうのは団長のあたしが先陣切らないと!!」

 

お前は何様のつもりだ?
せっかく新川さんが突撃兵を申し出てくれたのに。

 

「さようでございますか……」

 

ほら、執事さんちょっとガッカリしてるじゃないか。
そんな俺の心の声を尻目に、
ハルヒはすたすたと渡って行ってしまった。

 

ついでに森さんが小型マイクで何やら指示を出していたようだが……
多分下に『機関』の人がいるんだろう。
いつもお疲れ様です。

 
 
 
 

普通の道と変わらぬ勢いで渡りきったハルヒに続き、
古泉が割と平気な様子でつり橋を渡っていった。
下で『機関』の人がスタンバってるとはいえ、
普通はあんなに悠々と歩けないだろ……
ちょっとだけ見直したぞエスパー。

 

ところで、あの爆走娘やニヤケ面はいいとして、
こちらには1名大変問題なお方がいらっしゃる。

 

「あの……これ、渡らないといけないんですかぁ?」

 

つり橋の姿を見て以来、
ずっと後方10mの地点にいた朝比奈さんがおずおずと言った。
つり橋の姿だけでコレじゃ、下をのぞいたら卒倒してしまうんじゃないだろうか?

 

「不安なら私たちがついていきましょうか?」

 

と、新川さんが申し出る。
誰がついても危険性は変わらない気がするが……

 

「え、あ、でも……」

 

この可愛らしい先輩もそれを分かっているのか、
真剣に困った顔をしている。
多分今すぐ帰りたい気持ちで一杯だろう。

 

「……」

 

「長門?」

 

気付くと、いつの間にか長門が朝比奈さんの所に歩み寄っていた。
相変わらず足音を立てないなんて忍者かお前は。

 

「大丈夫……」

 

「で、でも……」

 

そう言って恐々と長門の顔を見る朝比奈さん。
もうどっちが年上か分からなくなってきた。

 

「大丈夫……アレを見て……」

 

そういって朝比奈さんの後方を指差す長門。

 

「アレ……?」

 

長門の言うとおりに後ろを振り向く朝比奈さん。
釣られて俺もそちらを向く。
一体何があるっていうんd……

 
 

トン……

 
 

「ふにゃ……」

 

赤子のような声を出して、
倒れこむ朝比奈さん。って、おい!?

 

「な、長門!?」

 

「心配ない……眠らせただけ」

 

眠らせたって……
首に手刀かまして気絶させるところなんて始めて見たぞ。

 

「これを……」

 

そういって朝比奈さんを森さんに渡す長門。
その前に『これ』って何だ、『これ』って。

 

「かしこまりました……
こちらのお嬢さんは私がおぶって連れて行きます」

 

そう言ってSOS団専属メイドをおんぶして、
スタスタ渡り始める機関専属メイドさん。
本当にあの人は何者なんだ……
一度聞いてみたいが、『禁則事項です』とか言われそうなので止めておこう。

 
 
 
 

「じゃあ、俺も渡るか……」

 

残るは俺と長門と新川さんだけだしな。
ちなみにこの穏やかな執事さんが殿軍を務めてくれるらしい。
一体何が後方から襲ってくるのかは知らないが。

 

「待って……」

 

どうしたんだ長門?
なるべく挫けない内に早く渡りたいんだが……
こういうのは一気に渡ってしまうに限るからな。
そんなことを考えていると、目の前の宇宙人製アンドロイドが意外な事を言った。

 
 

「私も一緒に行く」

 
 

え〜と、それはありがたい申し出なんだが……
まさかとは思うが、もしかして……

 

「吊り橋が怖い、とか?」

 

「違う。あなたの身の安全を考えての提案」

 

そりゃ、お前が一緒にいてくれるなら、
これほど安全なことはない……が、
やっぱりお前こわ……

 

「違う」

 

頑なに否定する長門。
やれやれ強情な……
とはいえ、本当に俺の身の安全を考えているのかもしれないから、
この提案はありがたく受諾すべきだろう。
長門の機嫌を損ねたっていいことはないからな。

 
 

「わかった……一緒に行くか」

 
 

そう言う俺に、長門は俺に分かる程度に小さく頷いた。

 
 
 

事前の情報どおり、
つり橋はかなりの高さだった。
どうやって作ったのか気になるほどであったが、
今の俺はそこまで恐怖心を抱いていない。
なぜなら側に頼れる奴がいるからだ。

 

つり橋ももうすぐ真ん中だな……って時に、
側にいたスーパーガールが唐突に口を開いた。

 
 

「昨日読んだ本に『吊り橋理論』というものがあった」

 
 

「つりばしりろん?」

 

どっかで聞いたような聞いてないような。
あぁ、吊り橋の上で異性と話したら、
不安定な足場へのドキドキを恋と勘違いしちまうって言う……

 

「そう」

 

なるほど……そんな本を読んでたから、
昨日急に『吊り橋』なんて言い出したんだな。
やっぱり読書中はその内容で頭が一杯なのか。
そんな風に一人合点をする俺に向って、
目の前の文学少女はさらに話を続ける。

 
 

「あなたは今緊張している?」

 
 

緊張か……
いや、自分でも意外なほど落ち着いてるな。

 

「そんなことはないな……
側に頼れる奴がいるからドキドキすることなんかないな」

 

俺は笑ってそう応えた。
長門がいれば爆発1秒前の時限爆弾の目の前にいても平気だ。
だが、そんな俺の気持ちとは裏腹に、
長門の顔は何か浮かないものだった。
そしてその口から予想外の言葉が発せられた。

 
 

「それは……困る」

 
 

そう言って長門は下を向いてしまった。
何だ?俺なんか長門が困るようなことを言ったか?
下を向いたまま目の前の小柄な少女は小声で早口に何事かを言っていたが、
俺には聞き取ることが出来なかった。

 

「どうしたんだながt……」

 
 

その時俺の耳に嫌な音が聞こえてきた……

 
 

ブチッ……ブチブチッ……

 
 

驚いて音のする方を向く俺。
何やら俺たちが入ってきたほうの吊り橋のロープが、
じわじわと千切れている。
縄を構成する糸がほつれている様だが、
このままでは非常に危険だ。

 

「おいっ、長門!ヤバイ!」

 

俺は長門に緊急事態だということを伝えようとした。
しかし、当の本人からまったく見当違いな返事が返ってきた。

 
 

「ドキドキする?」

 
 

いや、これはドキドキとか言うレベルじゃないだろう。
というかむしろ完全に違うベクトルの感情だ。

 

「そう……じゃあ……」

 

長門はまたも下を向くと、
早口で小さく何事かを呟いた。

 

「おい、長門!はやk……」

 
 

ビシィ!!

 
 

何だ?
真下から何か嫌な音が……

 

「おいおい……」

 

あまりの出来事に俺は呆然とするしかなかった。
なんてったって足元の丸太にひびが入ってるんだからな……

 

呆気にとられる俺に、
長門がさらに問いかけてくる。

 

「ドキドキする?」

 

あぁ、もうドキドキを通り越して冷静になれたよ。
とりあえず長門は俺を落ち着かせたかったんだろうな。
大丈夫だ。もうドキドキなんてしていない。
とりあえず冷静に状況を判断してみよう……

 
 
 

うん、それ無理。

 
 
 

「長門!ちょっと手荒になるが我慢してくれ!」

 

そう叫んだ俺は、
長門を抱きかかえた。

 

「!?」

 

何やら珍しくこの無口少女は驚いているようだが、
今はそんなことに構ってられない。
俺はそう思い、長門を抱っこしたまま向こう岸に走り出した……

 
 
 
 

向こう岸に着いたとたん、
ハルヒが駆け寄ってきた。

 

「有希に何やってんのよ!このバカキョン!!」

 

痛ぇ!
いきなり殴るな!!
こっちは全力疾走やった後だぞ!!!
そんな俺の様子を見て、古泉がハルヒに話しかける。

 

「どうやら橋が老朽化していたようですね……」

 

それを先に言っておいてくれれば、
俺は殴られなかった気がするぞ?

 

「ふーん……まぁ、有希を守ろうとしたんだから許してあげるわ」

 

既に刑罰執行した後で許されても……
まぁ、結局橋は概ね無事だったし、
長門も怪我がないようだからよしとするか。
吊り橋の壊れた部分は後で長門の作り直してもらおう。

 

「ところで長門よ……」

 

「……なに?」

 

俺の言葉にいつもより遅めに反応する長門。
何やらぼんやりしているが……

 

「あの『ドキドキ』がどうのってのは……何だったんだ?」

 

やたらとこだわっていたようだが……
そんな俺の質問に長門はいつものように小さくこう応えた。

 
 

「あれは……なんでもない」

 
 

なんでもないことはないと思うが……
大事なことじゃないのか?

 

「じゃない……それに……」

 

そう言うと長門は少し嬉しそうにこう付け加えた。

 
 

「もう満足した……」

 
 
 
 

P.S.

 

ロープがほつれ、丸太にもひびが入っていたはずだが、
新川さんは普通に歩いてきたそうな……

 

ほんとに何者なんですか?あなたたち……

 

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:44 (3084d)