作品

概要

作者
作品名とある〜文芸部室 9話 閉鎖空間
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-11-19 (日) 11:59:11

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

とある放課後の文芸部室。俺は古泉と二人でオセロをしている。
男が二人きりでゲームに興じると言うのは全くもって微笑ましくない光景だ。
ハルヒは掃除当番で朝比奈さんは進路指導。この二人が居ないのは解るが
しかし長門が居ないってのはそうないはずだ。
 
「そうですね。長門さんが居ないというのは少々気がかりです。」
「なんだ、そんなに気になるなら長門にくっついていればいいじゃないか。お前と長門なら
 お似合いだ。いっそ付き合ったらどうだ?」
 
「おや、そんな事を言ってもいいんですか?本当に付き合ってしまうかもしれませんよ」
「かまわんね。俺はお前や長門が誰と付き合おうが口出しできる立場じゃない。」
俺は古泉の●を自分の○に返しながらそんな事を口にした。
ん?古泉がぴくりとも動かずに入り口を見ている。朝比奈さんか?
 
「 長門…」
長門がドアを開けたまま突っ立っている。ノブにはまだ右手が乗せられている。
 
「……………そう 」
 
それだけ言うと、いつもの場所にいつもの様に座ると、やはりいつもと変わる事無く
本に顔を埋める。
いや、いつもとは違うな。長門の背後からは不可視のオーラが出ている気がする。
その時の俺は、あの奇妙な空間に三度目の訪問をしなきゃならないとは思っても見なかった。
 
「…起きて」
 
いやだ。俺は寝ていたい。胡乱な夢を見ているヒマもない。
 
「…起きてと言っている」
 
……固い地面?
上半身を跳ね上げる。俺を覗き込んでいた長門の顔がひょいと俺の頭を避けた。
「…やっと起きた?」
いつもの制服姿の長門が膝立ちで横にいた。
「…ここ、どこだか解る? 」
解るさ、部室だ。文芸部室。暗いのは夜だからか?
外を見るとただ一面に広がる灰色の空、月も星もなく雲さえない。塗り潰されたような空。
 
閉鎖空間
 
ゆっくりと立ち上がると俺は窓の外をもう一度見直す。間違いない、閉鎖空間だ。
振り返ると長門はすでに自分の定位置で本を読んでいる。まったくこいつは落ち着いている。
「長門、古泉を見なかったか? 」
「…見ていない。」
 
俺の頭は少々混乱気味だ。数ヶ月前に同じような体験をしていたからだ。しかしあの時は
一緒に居たのはハルヒで、閉鎖空間もハルヒが作ったものだった。だが今回は違う 
今ここに居るのは長門だ、じゃあこの空間は誰が作った? ハルヒか?長門か?
必死に状況を把握しようと俺の頭はフル回転していた。さっぱりわけが解らん。
うしろで長門がお茶を入れようとしているのだろう。お湯を沸かす音が聞こえてくる。
窓の向こうに小さな赤い玉が現れる。やっと奴が現れた。
 
「古泉か?」
「やあ、どうも」
「どうした?なんで●<マッガーレ のままなんだ?人の形にすらなってないぞ」
「それも込みでお話します。これは異常事態です」
 
赤い光が揺らめいた。
 
「普通の閉鎖空間なら僕は難なく侵入できます。しかしそれは涼宮さんが作った閉鎖空間という
 前提があっての事です。この空間はそれと近いですが、創造主が違います。」
 
「どうなってるんだ?ここにいるのは長門と俺だけなのか?」
その通りです、と古泉は言い、
「つまりですね、長門さんは現実世界に愛想を尽かし、涼宮さんの力をトリガーにして新しい世界を
 創造する事に決めたようです。」
「なっ ばかな…… 」
「おかげで我々は恐慌状態ですよ、あなたを失った涼宮さんがどうなるのか、誰にもわかりません。
 この世界が存続するのかどうなのかさえ我々には解らないのです。」
「何だって長門は…… 」
「さあて」
ちらりと後ろを見ると長門は急須にお湯を注いでいる。 
 
「ともかく長門さんとあなたはこちらの世界から完全に消えています。」
「それはいいとして、俺がここにいるのはどういうわけだ。」
「本当にお解かりでないんですか?あなたは長門さんに選ばれたのですよ。こちらの世界から唯一
 共にいたいと思ったのがあなたです。」
古泉の光は弱々しく、形すらも定まらなくなってきている。
 
「こんな灰色世界で、俺は長門と二人で暮らさないといかんのか?」
「アダムとイヴですよ、産めや増やせばいいじゃないですか」
「古泉っ ………って 長門は… 産めるのか?」
「それは僕にもわかりませんが……」
 
その時、俺の腕にふわりとした柔らかい力を感じて振り返る。
長門が、俺の袖をそっと指でつまんでいる。
 
「…大丈夫 …心配ない …ちゃんと、来てるから 」
 
そう言って長門はうつむいてしまう。いったい何が来てるんだ?
 
「 産めるから… わたし… 」
 
 
 え、えーとだな。意味が解って言っているのか? 産むっていうのは
まず、おしべとめしべがだな… 俺は何を言っているんだ。違うだろ。 
 
「と言うかだな、古泉。冗談はやめろ。冗談にも程がある」
「おや?長門さんは真剣みたいですよ?」
馬鹿言うな。長門だって冗談だと………長門?
その口に咥えているのは何だ?婦人用体温計って奴じゃないのか。
基礎体温とか測らなくていい。気が早い、ていうか必要ない。
 
「……そう」
 
長門は口に咥えていた体温計をポケットにしまう。お前いつも持ち歩いてるのか?
「授業中に湯浅が、当てるも外すも女しだい… と言っていた。」
「………」
俺の脳裏に、酸いも甘いも噛み分けた、お色気過積載気味な女教師の顔が浮かぶ。
まったく、授業中に何てこと言ってくれるんだ。あの女教師は。
自分のノウハウを喋るのはやめて欲しい、長門は素直だから影響されるだろ。
 
今にも消える寸前の古泉が最後の言葉を残す。
「私もそろそろ限界のようです。涼宮さんはまだこの事態を知りません。朝比奈みくるからは
 伝言で『キョン君、湯飲みを割っちゃってごめんなさい。新しい湯飲みを持ってきますから』
 との事です 」
「…古泉。朝比奈さんの声色を遣うな、気色悪い。」
「ひゃ〜い」
殴るぞ、お前。
「………すみません」
 
最後はあっさりとしたものだった。蝋燭の火を吹き消したような。
 
朝比奈さんはこの事態を理解しているのだろうか。いや… していない気がする。
俺はその伝言を、私はあなたに帰ってきて欲しいの。と解釈することにした。
 
それよりも思い出せ。俺はあの時、次に何をした? 
 
俺は確信を持ってパソコンのスイッチを押した。ハードディスクがシーク音を立てながら
ディスプレイにOSのロゴを浮かび上がらせ……なかった。
 
 
―――みえてる? 
 
しばしほうけた後、俺は後ろを振り返る。
「ああ」
そりゃそうだ、長門はここに居るんだからな。
長門は静かに話し始める。
「あっちの時空間とはまだ完全には連結を絶たれていない。でも時間の問題。すぐに
 閉じられる。」
 
「どうすりゃいい」
「……………」 
 長門は答えない。
 
「なぁ、俺はどうすれば」
「一緒に… いて」
 
「そうじゃない、あっちの世界に帰るには…」
「わたしじゃ… だめ? 」
 
長門はそう言うとカーディガンの裾をきゅっと握る。
何を言ってるんだ?別に俺はお前と居るのが嫌な訳じゃない。元の世界に帰りたいんだ。
「あなたは… いつも、私を選んではくれない。涼宮ハルヒを… 」
「そんな事は 」
「彼女とこの空間に来た時、あなたは彼女を選んだ。元の世界と共に。わたしがエラーを
 起こした時、あなたはやはり彼女を選んだ。わたしは…選ばれなかった。」
 
俺は立ち上がるとゆっくりと長門に近付いていく。その瞳をそらさない長門の顔が
ゆっくりと、持ち上がっていく。
 
「違う、違うんだ長門。俺が選んだのは元の世界なんだ。そこには当然ハルヒだっている。でもな
 お前だって当然そこに含まれているんだ。別にハルヒだけを選んだわけじゃない。ポニテの似合う
 朝倉をそこに含めてもいい。元の世界のあいつらに、俺は会いたいんだよ」
 
 しばしの沈黙の後、長門はようやく口を開いた。
 
「あなたはすでに… 帰るための方法を知っている。」
 
―――やはり、そうなのか。
  
薄々は感づいていたつもりだが、それを言葉にすることは出来なかった。それじゃただの
自惚れ屋だと自分でも思っていたからだ。
しかし、長門はなぜ帰るための方法をハルヒの時と同じにしたんだ?お前は元の世界に帰ることは
ハルヒを選ぶ事と同じだと考えていたはずだ。 それとも… お前は…
 
長門は見上げるようにして俺を見つめている。その瞳の水面が微かに揺れている。
俺は長門の両肩に手を添えると、すっと引き寄せる。重さを感じさせない身体が胸の前に立っている。
 
「俺はやっぱり、元の世界に戻りたいんだ。」
「……そう」
俺はその瞳に微かに悲しみとも取れる何かを感じていた。
 
「長門、俺が帰りたい理由のひとつにお前の事があるんだ 」
「…わたし? 」
 
「あぁ、お前は憶えていないかもしれないがあの冬の三日間のお前は、そりゃもう反則なまでに
 可愛かった。本当だ。 じゃあなぜ俺は元の世界に帰ってきたと思う?」
「…なぜ 」
  
「俺は信じているんだ。作られたお前じゃない、今のお前が、あの時の様に薄く微笑んだり
 頬を朱に染めたりする。 いつかそんな日が来る事を信じているから、俺は帰りたいんだ
 お前と一緒に。 」
「わたしと… 一緒に 」
 
 
 
「 長門、俺はお前を 信じてるぜ」
「わたしも、 ずっとあなたを…… 」   
 
長門は静かに瞳を閉じていく。長門の肩を微かに抱き寄せると
少女の想いを感じた白い上履きが、少女の踵を少しだけ、持ち上げた。
  
 
 
 
                        
 
 エピローグ
 
 そんな事があった数日後。恒例の市内探索パトロールはどういう偶然だろう、
ハルヒに急な用事が出来たとやらでキャンセルになった。
別に残りの四人で行っても構わないのだが、古泉はハルヒが動かなければ動かないし
朝比奈さんは、お洗濯物が溜まっちゃって。と妄想爆発を起こしそうな一言で欠席を告げられた。
そんな訳で今回は俺と長門の二人だけで行う事になる。
 俺は一時間前に駅の改札口にやってきた。いくら長門でもそんなに早くには…
俺の考えは甘かった。 そこにはすべてを白で統一した、清楚な少女が佇んでいた。
まるで雪の精が降り立った様なその姿に、俺は暫し見惚れていた。
我に帰った俺は長門の手を取りゆっくりと歩き出す。
 
 俺はこの先、長門を色々な所に連れて行ってやりたいと思う。
桜の花びらが舞う、優しい色に包まれた散歩道。魚たちが遊び、せせらぎが心地良い水辺。
自然の風景もそうだし、映画館や水族館、ちょっと気恥ずかしいがお前の服を一緒に買いに
行くのもいい。
 しかしまあ、結局のところ。
 まず始めに長門と行きたい所なんて決まっているんだ。
 
 そう、まず――。
 また図書館に 一緒に行こうと、俺は思っている。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:44 (1984d)